『限界』突破できるか リーダーの練習に密着!

応援

  苦しい練習を乗り越えたときにリーダーが歌う『新人哀歌』。歌詞では、練習の辛さが切々と描写される。リーダー下級生らは、その日も歌詞通り「先輩にしぼられ」ながら、幹部への厳しい道のりを手探りでたどっていた。楽曲のラスト、「華の幹部になってやる」という一行。下級生時代には、数えきれないほどの試練が上級生から課される。そのうちの一つが練習だ。精神力を鍛え、「限界」を突破することを目指すのが練習の目的だ、と加藤雄基リーダー練習責任者(政経4=東京・早実)は語った。4年生は、精神面で限界を突破しきれないのが下級生の課題だと指摘する。東京六大学秋季リーグ戦(秋季リーグ戦)対明大戦に向けた練習に密着した。

 午前9時半。応援部リーダーパートのほぼ全員が、早稲田大学戸山キャンパスの教室にいた。練習は週3回で、新人を含む4学年全てが出揃う。練習はすべて、リーダー練習責任者である加藤の進行で行われる。4年生が教室の中に入っていくと、教室の空気が途端に張り詰めた。挨拶の後に加藤が短く「声出し」と指示すると、下級生20人が10秒弱の間息継ぎなしで大声を張り上げる。連続8分間の「声出し」の後は、4年生の合図で「場内拍手」。1秒に1回以上の速度で、身体の前で手を打ち鳴らし腕を広げる。4年生9名は下級生の間や教室の四方から練習を睨みつけるようにして見守った。5分経過後「一、二、三」に移る。下級生全員が手を繋ぎ、屈伸運動とともに「一、二、三」「二、二、三」「三、二、三」…と順番に声を張り上げ、輪の中心の加藤に気合をぶつける。加藤はそれぞれの顔をじっと覗き込んで、下級生のやる気を確かめた。そしてまた「場内拍手」の練習へ。1、2年生は歯を食いしばり、毎打ごとに真っ赤な手のひらを力いっぱい打ち合わせる。続いては「腕立て」。屈伸と同様に下級生が加藤を囲み、気合いを叫びながら腕立て伏せをした。ようやく与えられた給水の時間には、3年生は加藤らに呼び出され、改善点を厳しい口調で伝えられる。4年生は練習のメニューについて真剣に話し合っていた。「(次の練習は)拍手次第だな」と清水がつぶやいた瞬間に扉が開き、3年生以下のリーダーが「失礼します!」と室内に飛び込んでくる。

腕立てでは下級生が加藤に気合いをぶつける

  給水後も、先ほどと同じ「場内拍手」の練習である。4年生は、下級生が自分の限界を突破しようとしていないと見抜いた。4年生から直接指導を受けた3年生が中心となり、迫力のある拍手を見せる。しかし4年生は納得のいかない様子であった。練習責任者である加藤は額に手を当て、少しうつむく。およそ13分間の拍手ののち、「基本形」の練習へ。谷下豪(政経3=東京・早大学院)が「基本形で明治を倒せ」と叫ぶと、轟音のような「はい」の返事が続く。疲弊した筋肉を気力で整え、基本形の体制を取り続ける。1、2年生は互いに名前を呼び合って励まし合う。加藤の「下ろせ」の一言で下級生は二回目の給水へ。のちはまた「場内拍手」である。下級生は、給水からは自主的に練習に戻ってこなくてはならない。どれほど己を追い詰められるのかという鍛錬は、休憩時間にまで及ぶのだ。

納得のいかない表情を見せた加藤

  ほんの数分で、下級生は再び笑顔を浮かべて大きな足音とともに教室に入ってきた。神宮球場で得点されたときに見せるような、満面の笑顔。最後の追い込みは、それまでの練習よりも長く、強度が高かった。宮川隼(人科3=千葉・稲毛)の「ここは神宮(明治神宮球場)だ」のひとこえで、コールや応援曲に合わせた拍手の練習が始まる。『紺碧の空』1、2番のテクを30回以上振り続けるなど、下級生リーダーは体力的に追い詰められていく。室内を歩き回りげきを飛ばす4年生の中で、小宮は下級生の背中に立った。実は給水中には熱を測っていた小宮だが、練習中は疲労した様子を一切見せない。30回を超える『紺碧の空』と、『コンバットマーチ』のテクを振り抜いた。佐川太一(スポ3=栃木・大田原)、浅野太郎(社学3=東京・早実)、明石慶希(文2=都立白鴎)が叩き続けた太鼓には、血豆が潰れたのだろうか、鮮血が散っていた。練習なので太鼓に毛布をかけて叩いたが、それでもしばらく鼓膜に余韻を残すほどの音量である。応援曲の練習を45分以上続け、練習は一旦幕を閉じた。上級生の前では疲弊した表情を見せてはならないのか、下級生は最後まで背筋を伸ばして上級生の叱咤激励を受ける。4年生はそれぞれ「きょうの練習で出せなかった本気の応援を神宮で見せてほしい」と厳しい口調で下級生に伝えた。

太鼓を全力で叩き続けたリーダー2、3年生(左から明石、浅野、佐川)

 応援席で全力を出し切ることのできる体力や、どのような環境下でさえ勝利を信じることのできる精神力。リーダーならではの胆力は、普段の練習で培われたものなのだろう。「誰にでもできることを 誰よりも全力で」。応援部のモットーでもあるこの言葉は、日々の練習にもあてはまる。 応援練習の基礎には、飛び抜けた身体能力は求められない。その代わりに求められるのは「全力さ」。下級生リーダーは、4年生に限界を突き付けられ、それでもなお全力を出そうともがいていた。応援席ではステージ上の「華の幹部」はもちろんだが、通路やバックセンター(バクセン)(※1)での応援や、下級生リーダーの活躍も大いに注目してほしい。そこには、もう一つのきらめきがある。

(記事 馬塲貴子、写真 市原健)

※掲載が遅くなり、申し訳ありません

コメント

加藤雄基・代表委員主務、リーダー練習責任者(政経4=東京・早実)

――練習責任者の具体的な仕事内容を教えてください

仕事内容としては、もう練習の運営がメインで、目的は下級生の育成です。練習をみるというのが具体的な内容になりますね。ポジション的には一番厳しいといわれています。

――反対に最も下級生に対して親身になるのはどういった役職ですか

新人監督ですね。新人監督が新人の面倒を見るという感じです。

――具体的に筋力トレーニングはされますか

筋力トレーニングについては個人に任せられているんですよね。もちろんある程度の筋肉は必要なんですけど、そこからは精神力の方が大事だなと僕は思っていて。…必要ないというわけではないんですけど。

――練習で最も使う身体のパーツは

走る練習もあるんですけど、やはり脚や腕まわり、肩ですね。

――4年生の練習はどのようなメニューで行われていますか

個人に任せられています。『コンバットマーチ』などで振る時は合わせたりしますが、特別な練習というのは全体ではしていないですね。

――3年生を通じて指導する時と、直接新人や2年生に指導をしている時がありました。その区別はどのように付けていますか

3年生に伝えるときというのは僕らが引退した後に、その下を指導させるためにまとまりを持たせるためにやっていますね。1回ちゃんと限界を基本的には3年生を通じて指導するというのが大事な決まりなので。

――『紺碧の空』はどのような意図で練習に取り入れましたか

あれは話し合って決めたんですけど、(下級生が)練習に慣れてきていて。どうやったら練習が決まるかというのを分かってきていたので、がむしゃらさが出てくるまでやろうというのを決めました。終わりを定めずにいつ終わるかわからないという状況で、彼ら自身に気づいてもらために『紺碧の空』を振り続けました。これまで僕らがさんざん言っていたのに変わらなかったので、自分たちで気づかせるために。ここ最近ではかなり強度が高いほうですね。

――見ていて限界というのはわかりますか

わかりますね。やっていないな、というのは。身体的にはかなりきついと思うんですが、そこからもう一個気力で上げているというのを出来るようにしないといけないなと思います。

――給水の回数は決めていますか

決めてはいないですね。以前は頻繁に入れるようにしていたんですが、そうすると神宮で持たなくなってきているというのがあって。あまり取らせすぎるのも良くないなというのは心がけていました。

――練習の頻度を教えてください

週3回ですね。火、水、木に練習をしていて、機材の準備が金曜になります。

――普段の練習内容についてはどのように決めていますか

だいたいの流れはありますが、その時で判断することが多いですね。

――練習責任者として、練習の時に特に心がけていることはありますか

軸がぶれないようにするというのは気を付けていますね。最初にどのような下級生に育てようというのを決めて、そこから練習をしないといけないと思っています。ただ単にやってほしいことをいっても下級生には伝わらないので。きちんとどのような下級生になってほしいかを4年生で決めて、そこから練習をするという感じです。

――今年はどのような下級生の育成を目指していますか

応援席を俯瞰して見て、何が足りないかに気づいて変えられるような人間にしようというのはこの一年間やっていることですね。

――勝敗や得点がない応援で理想とされているのはどのようなことですか

チアリーダーズは華やかであったり、吹奏楽団は音が出るじゃないですか。その中でリーダーの存在意義について、何ができるかを考えたときに、客席の雰囲気を変えられるところがあるなと思っていまして。お客さんに近いポジションではあるので、落ち込んでいたりとか負けそうな雰囲気の時にもう一つ勝利に近づけていくということは心がけています。きょうの練習でも言っていたんですけど、一人が出来ているだけでは応援というのは弱くて、一人が何か(応援でのアクションを)おこしたらすぐ次の誰かが起こせるかというのは特に言っています。

※1 球場応援で、応援席の後方から応援の指示出しをする役。