1勝1敗で迎えた東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)慶大3回戦。順位に直結し、絶対に落とせない戦いであった。しかし、相手投手の好投になかなか安打が出ない。スタンドには、そんな野球部を最後まで諦めずに応援を続けた応援部と観客の姿があった。
1回表、学注を行ったのは小宮佑一朗・応援企画責任者(法4=東京・早大学院)である。バケツの水を2杯被り、始まりから気合い十分であることが観客にも伝わる。そのまま小宮がセンターリーダーを務め『紺碧の空』の指揮をした後、早大ナインの攻撃が始まった。最初に流れたのは『大進撃』。リーダーがチアリーダーズの真似をして一緒に踊る姿に、観客からは自然と笑みがこぼれる。得点には至らなったが、初回から2死二塁の好機もあり、良い雰囲気での始まりであった。2回裏には『スピンコール』が行われた。ハリセンをぐるぐる回して、守備につく選手を応援するものだ。この日は早慶戦仕様で指揮台が通常よりも広いこともあり、リーダー新人が指揮台の上から盛り上げてくれることに。『スピンコール』の間、側転をする、腕立て伏せを始める、取っ組み合うなど、はちゃめちゃな行動で観客を楽しませた。すると、これに応えるように左翼手・瀧澤虎太朗(スポ3=山梨学院)が好走球。相手走者を本塁死させ、応援席は沸き立った。
3日目の活躍が評価された新人たち
再び好機が訪れたのは3回表。早川隆久(スポ3=千葉・木更津総合)が敵失で出塁すると、瀧澤の一ゴロ間に二塁へ。ここで早大のチャンステーマ・『コンバットマーチ』が流れ始める。曲の最初、リーダー16人が指揮台の上でジャンプすると、ドンッと地響きのような音がした。16人が並んで突きをする『コンバットマーチ』は通常の東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)では見られない大迫力のもの。しかし、惜しくも得点にはつながらなかった。5回裏には今季のバンド演奏曲『サクラ咲ケ』を披露。点が入らず苦しい展開であったが、チアリーダーズの笑顔と可愛らしい演技に応援席の空気が和らいだ。すると、またもや瀧澤の好走球で走者が本塁死。下田隆博・代表委員主将(政経4=東京・早大学院)の話す「応援の力」が伝わったのかもしれない。
リーダーによるコンバットマーチ
その後も点を奪うことはできず、残念ながら令和最初の早慶戦は黒星となった。しかし、応援席に来た観客の顔に後悔の色は見えない。「僕らがお客さんを乗せて、全員で選手を信じる」(比田井啓、スポ4=長野・野沢北)。観客の目の前まで行き、一人一人に目を合わせ話しかけるリーダーやチアリーダーズ。そんな応援部と共に、野球部へとエールを精一杯届けたからだろう。「(秋に向けて)優勝パレードに臨めるよう努力してまいります」(黒澤真紀子・教4=埼玉・早大本庄)。応援部はこの春季リーグ戦を通じて、時には課題にぶつかりながら、成長を遂げていった。夏季合宿を乗り越え、秋にはさらにパワーアップした姿を見せてくれるはずだ。
(記事 今山和々子、写真 馬塲貴子)
コメント
下田隆博代表委員主将(政経4=東京・早大学院)
――1回戦では好プレーが続きました。どのような心境でしたか
早慶戦の独特の雰囲気があって、選手も難しいところではあったと思うんですが、選手が勝たせてくれて自分たちがそれに乗っかることができたので、良かったと思います。
――2回戦での結果に関してはどのような感想をお持ちですか
やはりあと1本がなかなか打てなかったのが敗因だと思っています。それを打たせることが出来なかったというのは、応援部の応援の力が足りなかったからかなと思いますね。なのでそこを反省して3回戦に活かそうと決めていました。
――「応援の力」という言葉が出ましたが、それは具体的にはどのようなものだと思われますか
そうですね、例えば、ピンチの時であれば応援席が盛り上がることによってピッチャーや選手全体に(応援を)伝えて、それでアウトを取るですとか、逆にチャンスの時であれば自分たちが応援で一押ししてあげることによって一本がでるということですね。このような時の応援の力を信じています。
――3回戦ではどのような思いで応援されていましたか
やはり打倒慶応ということを部員全員に伝えて、全員がそれを実践しようと努力しました。
――最終的な結果への感想はいかがですか
まあちょっと残念なところもあって、実際にまだ春できなかったこともあるので、それを秋に実践できたらいいなと思いますね。
――慶応の応援はいかがでしたか
そうですね、ヒットが出た時の一発目の音っていうのがすごいこっち側に聞こえてきて、それを早稲田もできなきゃだめだなというのを感じますね。太鼓だけではなく、トランペットであったりだとか全てが(慶応は)出ているので、そこが早稲田はまだ出来るんじゃないかと思っています。
――最後に、試合を終えた野球部にひとことお願いいたします
春は3位という結果になってしまいましたが、まだまだ秋まで時間があるので、一生懸命練習して、秋には優勝してほしいと思います。
春山尚輝副将・吹奏楽団責任者(創理4=茨城・江戸川)
――3回戦を通して目標としていた応援について教えてください
そうですね、きょうは内野と外野に分かれないので、人数が増えて音は大きくなると思っていました。だから、吹奏楽団が主導で観客を盛り上げられるようにというのは意識していました。
――慶応の演奏はいかがでしたか
チャンスの時に音を出したりとか、決まった時に音が大きいというのは見習わなきゃいけないというか、自分たちも取り入れなきゃなと思ってますね。
――2回戦で太鼓の音が遅い印象がありますが、何か意図があったのでしょうか
内野と外野に分かれていたんですが、両方の指揮をする「中継指揮」が少し遅くなってしまいました。それが修正しきれずに、観客の方にとっては乗りずらいペースになってしまいました。そこは秋以降に修正したいと考えている点です。
――早慶戦を終えた応援部にひとことお願いいたします
そうですね、自分たちはやはり早稲田の応援部なので、早稲田の野球部の勝利をどのような時であっても疑わずにやってきました。そこは、きょうの応援部を見ていて良かった点です。それで、もうちょっと言うとしたら、信じていた思いを形にすることが出来なかったというのが今後の課題ですね。
――早慶戦を終えた野球部にもひとことお願いいたします
野球部は春リーグで選手の活躍とか、周りの観客の応援に応援部が助けられていた部分が結構ありました。そこは本当にこちらも応援していて楽しかったのでありがたいなと思っています。秋以降にも応援部はより良い応援を目指していくつもりですので、野球部も優勝を目指して頑張ってほしいです。
黒澤真紀子副将・チアリーダーズ責任者(教4=埼玉・早大本庄)
――早慶戦で目標としていた応援について教えてください
チアリーダーズの年間目標が「かける」なんですけれども、その一瞬一瞬にかけて戦う選手の方に対して、全てを出し切って私たちも一瞬一瞬にかけるというのを目標にしてきました。「勝たせる」応援ができるように、というのは常に考えていました。
――目標の応援に対して、どのくらいの達成度がありましたか
試合前に演技などを行うんですけれども、それを最後まで詰めたりだとか、自分たちができることを最後まで詰めるというのは意識して行えたと思います。
――3回戦の応援でいちばん心がけたことは何ですか
やっぱり、応援で勝たせるということは意識しましたし、またひとりひとりが楽しんで応援をするというのも意識いたしました。自分たちも観客の方を巻き込んでどのくらい応援できるかというのも気を付けていました。
――早慶戦ではチアリーダーズもマイクを使っての応援がありました
はい、早慶戦では、放送研究会さんがマイクを入れてくださるので、それで(観客にも)声を出していただけるように、チアリーダーズもマイクを使用して応援を行わさせて頂いています。
――最後に、早慶戦を終えた野球部にひとことお願いいたします
秋に向けて、優勝できるように自分達ももっと頑張って臨ませて頂きたいです。優勝パレードに臨めるよう努力してまいります。
今瀬憲・新人監督、広報責任者(政経4=県立岐阜)
――早慶戦を通しての新人の成長はいかがでしたか
そうですね、土日っていつもより観客がすごく多くて、今までは一対一で盛り上げればよかったのが、50人相手とかで盛り上げなくちゃいけなくなるんですね。それが土日あまり出来ていなかったんですが、きょうは元々来る予定のなかった子たち(新人)も来ていて、その子たちは覚悟を決めたみたいで一番いい応援をしていました。
――2日目の試合の後に何かお話はされましたか
「頑張ってやれるやつだけ来い」と話しました。もちろん授業とか事情はあると思うので全員が来られるわけではないですが、(そこまでの覚悟を持って)来たやつは褒めてあげたいなと思います。
――2年生の応援についてはいかがでしたか
2年生はなんというか、いい見本になっていたと思いますね。2年生が新人に背中で見せたことで、新人が成長して良い応援を作れたのだと思います。
――3年生は学注や司会で活躍していました
そうですね、3年生の当番だった佐川太一(スポ3=栃木・大田原)と谷下豪(政経3=東京・早大学院)は大変だったと思います。その二人は、多分一番睡眠時間が短い中で、土日だけでも大変なのに3日間やり切ったのは、相当頑張ったと思います。
――大観衆の中での応援にプレッシャーや緊張はありましたか
いや、プレッシャーはないですね。やっぱり、指揮台の上に立って何が一番大事かっていうと落ち着いて全体を見渡すことなんですよね。だから、プレッシャーとかは感じなかったです。楽しかったです、すごく。
――試合を終えた野球部にひとことお願いいたします
自分たちは全力で応援するので、秋は一緒に優勝したいです。
小宮 佑一朗・応援企画責任者(法4=東京・早大学院)
――早慶戦で目標としていた応援について教えてください
早慶戦で、というか、この代になってから一番大きい目標は「日本一の応援をする」だったんです。ですが、実際に現場に行ってみると、それぞれの企画であったり、当番(応援の担当者)の回し方であったりとか細かい部分で色々改善することがたくさんあって、応援部はそれを少しずつ修正して6か月間やってきたんですよね。なんですけど、結局私たちがやっているのは応援なので、やっている人が全力で本気でやっているというベースがないと、あくまで表面上のことをいくらやっても意味がないなというのを半年間やって気づきました。だから、毎回毎回の応援を全力でやっているか、というところを最重要課題に置いています。土日は内野と外野に分かれていて、お客さんもたくさんいるのでなんとなく浮ついちゃうんですよね。というので、本質的な応援にはたどり着けていませんでした。ですが、3回戦のきょうに関しては、ひとりひとりが本当に120パーセント出し切って春のシーズンを終えられたら、良い状態で秋のシーズンにつながるということを部員全員に周知しました。きょう、下級生一人一人の頑張りというのはとても見て取れた応援でした。
――下級生の頑張りが見られたのは具体的にはどのような場面ですか
例えば劣勢であるとか、均衡している守備回で、自発的な動きや声、表情やお客さんへの働きかけが見られました。メドレーが入っているときに合わせて盛り上がるというのは、(応援としては)なんてことないんですね。(やっていることが)お客さんと一緒なので。音楽が鳴っているからそれに合わせたらできるんです。でも、何もないところで自分の言葉とか働きかけでお客さんを「おーっ」という風にできたら、応援部員としてやってる意味があるよね、と思っています。それが応援部員の頑張りというか、そういうのを目指したかったので。で、そういう状況を3回戦ではたくさん見ることが出来たのが、1、2回戦に比べて成長したんだなと思いますね。
――応援企画責任者として、他大学との試合に比べて変えた点や違った点などあれば教えてください
そうですね・・・まあもう圧倒的に早慶の対抗試合なので、リーグ戦の一つの試合ではなくて、早慶レガッタや早慶アメフトのように、一戦一戦が負けられない試合です。リーグ戦でトータルで見て何位、とかではなくて、この1試合を取られてはいけないという思いになるのが早慶戦ですね。それはなかなか他の試合では得られないことですね。他には、お客さんが特に早稲田を感じられる試合である春季の早慶戦に関して、早稲田で慶応に向かっていくぞという、学校のイベントのようなイメージがあります。それも他の学校を相手としていたら絶対に得られない感覚ですね。
――早慶戦の結果についてはどう思われますか
結果について・・・うーん結果についてですか。結果は、まあ言ってしまえば野球部のものです、僕の中では。2こ上の先輩で当時副将だった舟橋さんという人がいたんですが、彼が「野球部がどういう試合をしたとしても、俺たち(応援部)は常に100パーセントの応援をしよう」と言ったんです。僕ら応援部のメンタルとか望みってまさにそれだなと思っています。もちろん勝利を祈って応援するんですけど、そこは最終的には野球部に任せる部分で、僕たちは少しでも大きい声を出したり、目の前のお客さんを盛り上げたりということで、少しでも選手に届くだろうと信じることに僕は重きを置いています。
――慶応の応援の印象はいかがですか
そうですね、気持ちの上では僕らが勝っているなと思います。なんですけど、具体的な点では、吹奏楽の音は男女比の関係もあって慶應の方が大きいですね。特に早慶戦に関しては内外分かれるので差が顕著になります。というのと、マイクの音が1塁側と3塁側の事情もあって、慶応側の方が音が大きいです。それも応援の総合的なパワーには響いているなと思います。直近の早慶戦などでは早稲田が勝っているので、それは言い訳には出来ないと感じると同時に、そういう差は感じています。あと応援曲に関しても、慶応の応援曲は基本的にテンポが速い曲が多くて曲調が華やかなので、聞いていて(早稲田側が)ちょっと嫌だなと思うメドレーが、彼らは出来るんです。特に『朱雀』とかかかった時、僕は嫌ですね。後半のいいところで使っているので点が入ってしまうんです。
――1,2回戦は大観衆の中での応援でしたがプレッシャーや緊張はありましたか
そうですね、うーん・・・。いや、プレッシャーは僕自身は感じていないですね。いつも通り、今までのリーグ戦から試合パターンがイメージ出来ていたので、それをぶつけたらお客さんは盛り上がってくれるという自信がありました。
――最後に、早慶戦を終えた野球部にひとことお願いします
そうですね、応援部員は野球部の皆さんが勝ってくれることを一心に信じてやっているので、僕らは常に全力で応援します。秋も頑張ってください。
比田井啓リーダー庶務(スポ4=長野・野沢北)
――3回戦はどのような意気込みで応援に臨まれましたか
意気込みですか、個人としては、僕が一番気合のあるテクでお客さんの心を動かすことですね。あとテクを振らない守備中にもずっと指揮台の上にいて、お客さんの声が出てないなと思ったら自分から盛り上げるというのを意識しました。絶対に声が途切れないようにというのが意気込みでした。
――他の応援では、守備中に指揮台から降りることもあったのですか
降りてもいいんですが、今年は基本的にずっと乗って、お客さんの反応を見たりだとか選手を見て、という感じでやっていますね。
――早慶戦を通して応援席が一番盛り上がったシーンを教えてください
そうですね、やはり1回戦の逆転したシーン・・・これは選手が頑張って、それに付随してお客さんが盛り上がったんですが、どちらかというと、負けてしまいましたが、2回戦の8回裏で早稲田が1点入れた時は僕らの応援で一番盛り上げられたかなと思います。
――お話に上がった2回戦の8回裏、比田井さんの学注で「応援の力」について話されていました。応援の力とはどのようなものだと思われますか
応援の力ですか・・・僕はとにかく信じることだと思います。信じていれば絶対声も出ますし、気持ちも下を向かないと思うので、どれだけお客さんが応援する僕らを信じてくれるかというのを考えて学生注目をしました。僕らがお客さんを乗せて、全員で選手を信じるという方向にどれだけ持って行けるかというのをいつも考えています。
――最後に、早慶戦を終えた野球部にひとことお願いいたします
悔しい思いをされていると思うんですけど、本当に僕らがもっと出来たら、応援がもっと出来たら・・・という思いがあります。応援が後押しできただろうところが少なくないので、夏場の期間で僕らが諦めないでお客さんを盛り上げられる応援を作り上げます、だから秋は絶対に優勝してくださいとお伝えしたいです。