【連載】競走部 日本学生対校選手権(全カレ)前特集『NOW OR NEVER』第1回 大前祐介監督

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 日本学生対校選手権(全カレ)前対談の第1回は、大前祐介監督(平17人卒=東京・本郷)にお話を伺った。就任3年目の今季は、関東学生対校選手権(関東インカレ)で男子4×100メートルリレー(4継)を12年ぶりの優勝に導くと、U20世界選手権に二人のルーキーを送り込んだ。そんな指揮官は、前半シーズンをどのように振り返るのか。そして全カレで思い描く戦略とはーー。

※この取材は8月24日に行われたものです。

前半シーズンの振り返り

対談中の大前監督

――昨年のシーズンが終わった時、今年のチームはどのようなチームになると考えていましたか

昨年の4年生は男女共にすごく強いメンバーが揃っていて、戦力ダウンが著しいかなと思っていました。長距離種目では菖蒲敦司(令6スポ卒=現花王)、短距離種目では、西裕大(令6教卒=現MINT TOKYO)、稲毛碧(令6スポ卒=現京西テクノス)といった学生の代表クラスが抜けました。いわゆる狭間の世代に突入するかなというところを覚悟していました。

――男子200メートルや男子400メートル、男女400メートル障害は特に卒業生の穴が大きい種目でした

実際のところは今このように話をしたものの、(卒業生が抜けたことは)穴ではないと思っていました。なぜかと言うと、その年に入ってくる1年生を戦力とみなさないというのがいい意味で我々のスタイルだからです。1年生が入部してそのまま活躍することはあってはならないと思うので。1年目より2年目、2年目より3年目、4年目というように年次を重ねるごとに競技力が伴っていくのが我々のやり方ですので、上級生が活躍することがあって然るべきです。その分1年生は1年間蓄えて満を持して、戦力として2年生になって出てくることが頭にあったので、彼らに期待していました。

――まさに関口裕太(スポ2=新潟・東京学館新潟)、髙須楓翔(スポ2=千葉・成田)といった選手が2年生になって頭角を現しました

想定内でした。もっと早くてもいいかなと思っていました。今季自己記録を更新していますが、まだまだ(いける)かなと。

――先ほど1年生から活躍することはあってはならないと仰っていましたが、今年は1年生が大活躍しています。どのような要因が考えられますか

逆に言えば、そこが想定外でした。1年生のうちから上級生を突き上げる力があったのが要因だと思います。あとは強かった4年生が抜けたタイミングだったので、上に重いふたが閉まっていたところが軽くなったというのも正直あると思います。とはいえ、渕上(翔太、スポ1=東福岡)は一番(競争が)きつい(男子400メートル障害という)種目にいるはずなのに、結果を残しています。彼の高校からの取り組みもそうですし、人間性を含めて非常にいいものを持っていたことに加えて、結果に満足せずひたむきにやってきたことが今につながっていると感じています。

――少し話は変わりますが、池田海主将(スポ4=愛媛・松山北)はどのような主将でしょうか

今年に関して言えば、非常に苦しいシーズンを過ごしていると思っています。故障が続いて競技面ではリードできる状況ではなかったですが、オフフィールドのところでリーダーシップを発揮してくれています。関東インカレ(関東学生対校選手権)では、最前列で応援して鼓舞している姿を我々もよく見ていますし、主将に足る人物であると思います。あとは彼自身も思っている部分、我々も期待している部分としては、日本インカレで結果を残して主将の務めを終えることが理想だと思います。

――これからは、前半シーズンの振り返りをしていただければと思います。関東インカレでは男女共に総合5位でした

リザルトを全ての年代を見ていないので分からないのですが、トラックの連覇をしたのはおそらく史上初めてだと思います。ですので、一定の評価ができますが、もう少し頑張れば総合優勝だったので、2年連続詰めの甘さが出てしまいました。監督としてもう少しチームをコントロールできればよかったと思いますが、チームとしては学生の頑張りが良かったと感じています。女子は部員数がこれだけ増えてきたので、総合5位はいくだろうなという想定の中でやってきました。欲を言えば3位までいってほしかったですが、エントリーの段階で万全な状態ではなかったのが男女共にありましたので、そこが取りこぼしにつながっていると思います。ただある程度は男女共に、想定内の結果に近いと感じています。

――男子4継(4×100メートルリレー)では12年ぶりの優勝でした

素直に嬉しいです。実は監督になってから(男子のトラック種目で)タイトルを一つ一つ取ってきていました。100メートル、200メートル、400メートル、800メートル、110メートル障害、400メートル障害、4×400メートルリレーを取り、4継は最後の種目でした。ですので、(関東インカレでは)12年も取れていなかったことと合わせて、感慨深いものがありました。彼らには今回の優勝がリスタートだねということを言ってきたので、今回の結果に満足することなく頑張ってほしいです。

――女子では矢野夏希(スポ2=愛知・時習館)選手、内藤香乃(スポ2=兵庫・北摂三田)選手といった跳躍種目の活躍も目立ちました

女子の方は、(いろいな種目の選手が)バランスよく入学してきてくれています。それもあって、幅広い(得点の)かたちがとれています。彼女たちも先ほど話したように1年目苦労して2年目に花開いた典型例です。跳躍2人が結果を残すことが、女子のチームの底上げにつながっています。トラックの早稲田というイメージが少しずつなくなっていると思います。

――U20日本選手権の活躍で、男子400メートル障害で権田浬(スポ1=千葉・佐倉)選手、女子100メートル障害で林美希(スポ1=愛知・中京大中京)選手が、U20世界選手権の日本代表に選ばれました

どのカテゴリーであれ、世界を目指してほしいというのが我々コーチ陣の思いです。『早稲田から世界へ』というスローガンの元、最終的に世界陸上やオリンピックの代表になるために、どんなかたちでもいいから日の丸をつけることを1つのステップにしていかなければならないというところで。その中で2人が選ばれているのは非常に評価できると思います。

――一方、日本選手権ではシニアのレベルの高さを痛感するかたちとなりました

もう一つなのかなと思っています。もう一段階レベルが上がらないとシニアでは戦えないと今回も思った次第です。大体日本でトップ10にいる選手たちなので、そこからトップ3に上がるためには経験値を積ませないといけないと思います。そのためには国際経験が必要なので、海外のレースに出場するために色々と作戦を練っているところです。

――関東学連主催の選抜以外で考えているのでしょうか

関東学連の選抜で行ければなおいいのですが、自分たちでセットしていくかたちも考えなくてはいけません。奨学金や補助が出るようなところに自分たちで応募して、それを獲得していくみたいなかたちです。

――FISUワールドユニバーシティゲームズ(ユニバ)の出場権を勝ち取れれば大きいですね

そうですね。来年のユニバは外せない大会の1つだと思っています。男子の短距離は可能性が高いので、可能性が高いで終わるのではなくて、確実に出場権を獲得するために動き出していくのが必要かなと思います。

――早慶対抗陸上では男子8継(4×200メートルリレー)で日本新記録を達成しました

普通にやれば出るだろうなと思っていました。中国がアジア記録を持っているのでそこを次の目標にしたいです。1年に1回のお祭り的な要素もありますが、メンバーが揃ってきているので、チャレンジしたいと思います。

――少し話題が前後しますが六大学対校陸上の運営が法人化しました。どのような意図があったのでしょうか

今、ガバナンスが話題に上がるような時代になってきました。協賛をお願いするときに、(相手側から)これは法人ですか個人ですかみたいなかたちで中途半端になってしまいます。法人化をすることで、パートナーシップを結ぶところに関してしっかりした体制でいけるようになりました。田村くん(田村優短距離コーチ、平31スポ卒=埼玉・早大本庄)が事務局に入ってほそぼそとしたところをやってくれています。

――広告の営業は学生スタッフが担当するのでしょうか

大人がやりとりする部分もありますが、基本的には学生の主務やマネジャーがやってくれています。具体的にはそれぞれの部に関係する企業さんに、協賛のご提案をお願いしています。

――学生のうちから社会人のような業務をしているのですね

競技の面に限らず、社会に出て活躍する人材を育てることを念頭に我々は指導しています。

――少し話はそれますが、来年は日本インカレは6月開催になり、過密日程ではないかと感じました

過密ですよ。秋シーズンが国際大会だけになってしまうので難しい年になると思います。あとは標準記録を突破する機会が少ないので、今年のうちから記録を出せていない選手は出しに行くように言っています。

――調子を合わせるのも難しそうです

そうですね。頂点をどこに持っていくかということだと思います。3週間に一回重たい試合が出てくるので、それをどうコントロールするのかが指導者冥利(みょうり)に尽きるなと思います。

「男子は総合優勝、女子は総合3位が目標」


早慶対抗陸上の大会後に話をする大前監督

――それでは、夏合宿での取り組みについて聞かせて下さい

短距離も人数が増えてきたので、日本インカレに向けてというかたちで選抜形式にしました。選ばれなかった選手は所沢で合宿をして、2カ所展開で合宿を行いました。

――どのくらいの人数が選抜されたのでしょうか

男女で合わせて40数名かなと思います。こっちに残っているのが30名くらいでした。

――夏合宿の手応えはいかがでしょうか

個々でレベルの高い練習ができたので、チーム力が上がったと感じています。合宿明け早々だったのですが、森田(陽樹、創理2=埼玉・早大本庄)が400メートルで46秒5を出しました。そういった点も含めて、合宿の方向性としては非常に良かったと思います。400メートルに関して言えば、森田の前に眞々田(洸大、スポ4=千葉・成田)がいて、森田にくっつくように権田がいて、非常にレベルの高い練習ができていたと思います。群を抜いている選手で言うと、(100メートルの)関口です。どの練習においても頭1つ、2つ抜け出している感じがありました。コーチ陣から見ても10秒1台は固く、タイミングが合えば0台を出せるというところです。そこでより気合が入ったのが井上(直紀、スポ3=群馬・高崎)で、この間の富士北麓(富士北麓ワールドトライアル)でも関口よりいい結果を出しました。井上も復調気味なので、日本インカレではこの二人のどちらかが(100メートルで)優勝すると思います。

――井上選手、関口選手の状態がいいと男子4継の優勝も見えてきます

優勝というよりは学生記録を狙えと言っています。元々早稲田が学生記録を持っていましたが、四半世紀奪われているので奪い返したいです。最終的には38秒前半の記録を2、3年かけても出すということが中長期的な目標です。

――走順は関東インカレのオーダーが基本線でしょうか

基本はそうですね。メンバーが固まり切らない部分もあるので、当日まで関東インカレのメンバーをベースにしながら、他のメンバーも含めてシャッフルすることも考えています。

――男子マイルについてはいかがでしょうか

眞々田以外は1・2年生の若いメンバーなので、関東インカレは正直3番くらいでもいいやとは思っていました。ただ権田と森田が記録を出してきて、眞々田も45秒台に入ってきたのでこちらも学生記録を狙っています。髙須も計算できるようになってきましたし、渕上もいるし、盛岡(優喜、スポ3=千葉・八千代松陰)もいて満遍なくメンバーは揃っているので、記録を出すチャンスはあると思っています。

――関東インカレよりも日程が厳しく、髙須選手がマイルに出場するのは難しいと思っていました

そうですね。まずは髙須には4継と個人に集中してもらって、状況を見ながらやっていきます。自分で言うのも変ですが策士なので(笑)。期待していてください。このメンバーだったらこう勝てるだろうなと、相手が思っているところに一泡吹かせるので(笑)。

――ここまで男子の話を重点的に伺いましたが、女子についてはいかがでしょうか

女子は鷺(麻耶子、スポ4=東京・八王子東)と中村(真由、政経4=東京・早実)の4年生2人が軸になってきます。鷺は1年生の時から活躍して、今年は女子主将としてしっかりとチームを引っ張ってきました。中村は4年目にして記録がどんどん伸びてきています。この2人がどれだけ頑張れるかがこのチームの鍵かなと思います。

――下級生のエントリーも多いです

女子はメンバーを埋めきれなかったので、1年生をエントリーする余地がありました。ただ林や千葉(史織、スポ1=宮城・仙台一)は関東インカレから自分の立ち位置を確立して試合に出れています。彼女たちが次の世代の核になると思いますので、今年は怖いもの知らずでいってほしいです。

――最後に全カレの目標をお願いします。

男子に関してはメンバーが揃ってきたので総合優勝に向けてチャレンジします。長距離も出ますので、力を合わせてトラックで大きく点数を取りたいです。90点が総合優勝のラインだと思います。それを超えたら厳しいですが、そこまでなら計算ができると思います。ですので男子は総合優勝、トラック優勝、多種目優勝を目指します。女子に関して言えば、総合とトラックで3位を狙えればいいと思います。70、80点を目指せば目標に届くと思うので、一人一人が得点を持ち帰ってくるのがポイントだと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 飯田諒)

◆大前祐介(おおまえ・ゆうすけ)監督

1982(昭57)年4月6日生まれ。平17人間科学部卒。200メートル20秒29(U20日本記録)。令4年2月より現職。