多くの経験を得て、天皇杯は閉幕

レスリング

 日本一のレスラーを決する天皇杯全日本選手権(天皇杯)は最終日を迎えた。この日早大から出場したのは今村聖(スポ4=群馬・太田商)と伊藤奨(スポ2=長崎・島原)。今大会に初めて挑んだ2選手だったが、共に初戦敗退となった。これで2015年の戦いは終幕。次年度に向け、鍛錬の時期に入る。

 伊藤奨が対したのは、2つ年上の兄・伊藤優(群馬大)。「内閣杯(内閣総理大臣杯全日本大学選手権)の時も戦ったので『またかよ』という感じで、二人で笑いました」と内閣杯に続いて今季2度目の兄弟対決となった。前回は0-4で敗戦。国内最高峰の舞台で、リベンジのチャンスは訪れた。試合は第1ピリオド(P)中盤、伊藤奨がタックルから相手の片足をつかみ、絶好の得点機を迎える。しかし点に結び付けられず、逆にバックポイントなどを奪われ0-3で前半を折り返した。第2P序盤に押し出しで1点を奪うも、組み手で上回る相手に点を重ねられ1-7で試合終了。雪辱はならなかったが、大舞台で戦った経験は今後の糧となるだろう。「らいねんは天皇杯で1勝できるように頑張りたい」と意欲は十分だ。

足を狙いにかかった伊藤奨

 今村にとっては早大の一員として戦う最後の舞台。集大成としていつも通りのプレーをすることを心掛けていた。対戦相手はOB保坂健(平26スポ卒=現・自衛隊体育学校)。学生時代から華々しい成績を残している強豪だ。学生最初で最後の天皇杯で爪痕を残したいところだったが、相手は強かった。攻撃を仕掛けたところをかわされ背後を取られるなど、自分の動きをさせてもらえない。バックポイントを重ねられ、第2P中盤で0-10のテクニカルフォール負けを喫した。それでも、大勢の観客に埋め尽くされた会場の中心でプレーし、「楽しかった」と語った今村。「いまさらになってまた面白いなと思えるようになってきました」とレスリングの魅力を改めて実感したようだ。

今村は気持ち十分に早大OBと対した

 3日間を通して早大から計10選手が出場した今大会。「経験値としては間違いなくプラスになっている」(山方隆之監督、平4人卒=福岡・築上西)、「先が見えた大会だった」(太田拓弥コーチ)と首脳陣も納得の舞台となった。これから吉川航平主将(社3=秋田商)の下、新たなスタートを切る。今回日本トップレベルの選手と戦った中で得たものを自身やチームの力へと変え、たくさんの『優勝』を積み上げていきたい。大学レスリング界の先駆者・早大として、覇権は譲れない。

(記事 谷田部友香、写真 杉野利恵、太田萌枝)

★OB選手も優勝!

 2日目に出場したフリー97キロ級・山口剛(平24スポ卒=現・ブシロード)が優勝を果たし、天皇杯4連覇を達成。また、らいねんら3月18~20日にカザフスタン・アスタナで行われるリオデジャネイロ・オリンピックのアジア大陸予選に参加する権利を獲得した。「ワセダの現役、OB含め全員で総力を挙げ、彼をオリンピック代表にしてメダルを獲ってもらいたい」と意気込む太田コーチ。9月の世界選手権では思うような結果を残せなかった山口だが、フリー97キロ級日本一のレスラーとしての誇りを胸に再び牙を剥けるか。是が非でもオリンピックへの切符をつかんでほしい。

ガッツポーズを決める山口

結果

男子フリースタイル

▽57キロ級

 伊藤奨  1回戦敗退

▽74キロ級

 今村   1回戦敗退

コメント

山方監督(平4年卒=福岡・築上西)

――3日間を総括していかがですか

まずは学生10人出場というのは、ことし一年の『チームの底上げ』という点でレベルアップができたのかな、と。オリンピック予選がかかった大事な試合だったんですけど、山口剛(現ブシロード)の決勝戦も熱い気持ちになりながら見ていましたね。オリンピック階級じゃないですけど多胡島(伸佳、スポ3=秋田・明桜)もことし最後の大会で優勝して、本人も嬉しいと思いますがわたし自身もホッとしたというか、本当に嬉しく思っています。全体的には、オリンピック前年の全日本はみんな目の色変えてくるところがあって、まずはそういう試合に出れたっていう経験が今後につながったのかな、と。やはり1点の大事さを身をしみて感じてくれたのかな、と思います。あとは気持ちですね。勝つ選手っていうのは気持ちがこもっている試合をしているな、と思います。

――多胡島選手は不戦勝という結果でしたが

本人も勝って優勝というのがしたかったんだと思うんですけど、不完全燃焼なのかもしれないんですけど、それは自分の中でしっかりと整理をして、今後につなげていってほしいな、と思います。試合はしていませんが優勝は優勝なので、そこは自信を持ってほしいな、と思いますね。

――今回1回戦負けを喫した選手についての課題は

今回の試合で新たな課題っていうのはなくて、いつもの試合でやっている課題ってのを出し切れてないだけですね。1回戦負けだとしても相手も本当にトップレベルの選手なので、経験値としては間違いなくプラスになっているのかな、と思います。

――来季に向けて一言お願いします

ことしは団体戦ではいまひとつ結果が出なかった中、課題としてきた『チームの底上げ』っていうのがあらわれているので、ことし底上げをした上でらいねんどのように団体戦につなげていくのか、といったところですね。レスリングは個人競技なんですけども、チームとしてももっともっとまとめてチーム一丸となって団体戦に挑む、っていうところに一番に期待したいですね。

太田拓弥コーチ

――きょう出場した2選手の試合を振り返って

聖(今村、スポ4=群馬・太田商)については、やはり相手との実力差があったかなと思いますね。やろうとしたことはわかるんですけど、まあ一つ年上の先輩ということもあってやりづらかった部分もあったかもしれないんですけど、この大会に出場するっていうとこを目指してきたと思うので、その件に関してはよくやったなと思いますが、最後に一つなにかやってほしかったというのはありますね。見せ場をつくってほしかったですね。伊藤奨(スポ2=長崎・島原)については、最初にタックルをとってればまた流れは変わったと思うんですけども、すべての条件において単調になりすぎてしまって組み立てっていうものがなかったので、組み立てるレスリングを覚えていかないといけないな、と思います。

――3日間を総括していかがですか

結果として多胡島(伸佳、スポ3=秋田・明桜)とOBの山口剛(現ブシロード)が優勝したんですけども、きょねんと比べて出場者も多いですし、現役とOB含めて僕がコーチになってから過去最多なんですけど、そんな中で出場した人数が多いだけに限らず、内容も良かったと思いますし、山口だけがオリンピック階級の代表権を獲りにいくんですけども、ワセダ・現役・OB含め全員で総力を挙げて彼をなんとかオリンピック代表にして、オリンピックではメダルを獲ってもらいたいですね。東京オリンピックは4年後といってもすぐにあるので、それまでに積み上げていくものが見えてきたかな、と思います。らいねん度に入ってくる埼玉栄の選手も決勝に挙がった嶋田大育選手(青森市レスリング協会)といい勝負してたんで、本当に将来が楽しみだなと思いましたね。3年生以下もよく頑張ってますし、先が見えた大会だったな、と思います。

――最後に、3年生以下に期待することや来季に向けて一言お願いします

課題が明確に見えましたし、こういったことやればこういった結果につながるだろうっていうのが見えた試合だったので、それをしっかりと修正して来季の試合に向けて頑張っていきたいと思います。

今村聖(スポ4=群馬・太田商)

――きょうの試合を振り返って

楽しかったですね。

――OBの保坂健選手(平26スポ卒=現・自衛隊体育学校)との対戦でしたが、組み合せが決まったときにどう思われましたか

誰に当たってもチャンピオンクラスの人とだとしても、だから何だというような気持ちで臨みました。(対戦相手は)誰でも良かったので。

――気持ちの面ではどうでしたか

きょうは気持ちが入りぎみだったのですが、始めにハイクラッチが入って足に触れられたのですが、外れた瞬間まではいい感じで気持ちが入ってましたね。

――攻撃を思うように仕掛けることはできませんでしたが

相手とはひとつ世界が違うように感じました。

――今後については

ベスト8かららいねんの天皇杯に出場できる権利がもらえました。くじで唯一のベスト8まで上がれるところを引いたのでらいねんの権利がある、という感じです。

――学生最後の試合となりましたが、振り返っていかがでしたか

楽しかったです。面白かったです。いまさらになってまた面白いなと思えるようになってきました。

伊藤奨(スポ2=長崎・島原)

――お兄さん(伊藤優、群馬大)との対戦となりましたが、組み合わせが決まった時はどのような気持ちでしたか

今回は抽選なのですが、内閣杯(内閣総理大臣杯全日本大学選手権)の時も戦ったので「またかよ」という感じで二人で笑いましたね。

――やりづらさはありましたか

小さい頃からずっとやっていてお互い手の内を知っているので、やりづらかったですね。

――試合内容を振り返って

最初に自分がタックルに入ったのですが取れそうなところで取れなくて、逆に相手は取りに来たところでしっかりと取っていて。その最後の詰めの差が、あの点差になったのかな、と思います。

――以前の取材では「自分のやってきたことを出したい」とおっしゃっていましたが、その点についてはできましたか

もうちょっと組み手を使った攻撃の組み立て方をしたかったのですが、相手の方が組み手がうまくてなかなか思うようにいかなかったですね。ですが今回の試合はタックルで足を取るところまではいったので、その点は成長したと思います。

――初めての天皇杯(天皇杯全日本選手権)の雰囲気はいかがでしたか

マットに上がる前は緊張していたのですが、マットに上がってからはそんなには緊張しなかったです。

――らいねんは上級生になりますが、どのような役割を果たしていきたいですか

新入生が入ってきて彼らも強いですし、ワセダはいま軽量級が強いので、ワセダ同士でもっと切磋琢磨(せっさたくま)して天皇杯に出る人数を増やしていきたいです。僕自身も出場の権利はもうないので、インカレ(全日本学生選手権)や内閣杯の結果で引っ張っていければいいなと思います。

――らいねんはどんな一年にしたいですか

ことしは天皇杯に出場できたので、次も出られるように、天皇杯で1勝できるように頑張りたいと思います。