ワセダから優勝者は現れず、インカレは幕を閉じた

レスリング

 ことしの全日本学生選手権(インカレ)もついにフィナーレを迎えた。3日目に引き続き、男子フリースタイル(フリー)決勝までのすべてが実施される。ワセダからは前日に残った11人が出場し、各階級にて数々のドラマが繰り広げられた。57キロ級の黒澤翔(スポ4=茨城・鹿島学園)は自身最後のインカレとなることし、ついに決勝まで漕ぎ着く。最高学年としての意地を見せるものの栄冠を手にすることはかなわなかった。70キロ級の多胡島伸佳(スポ3=秋田・明桜)もスムーズに勝ち進めるが、決勝では予想外の展開を強いられてしまう。優勝候補の多胡島がまさかの敗北となり、ワセダからの優勝者はゼロ。不甲斐ない結果に終わった。

 昨年のインカレでは4回戦敗退を喫している黒澤。ことしは後輩の伊藤奨(スポ2=長崎・島原)と対戦した準決勝も難なくクリアし、比較的トントンと決勝まで駒を進めた。まずは開始20秒で相手の足をとらえ、場外に押し出す。数秒後には反撃を食らってバックポイントを奪われるも、黒澤はひるむ様子を見せない。部員たちからの「強気で!」という声援に応え、果敢に攻める姿勢を貫いた。すぐさまバックポイントを奪い返し、1点リードで試合を折り返す。そして第2ピリオドがはじまると、背後を取られること2回。4分57秒の時点で5点差が開いてしまい、後がない状況となってしまった。力を振り絞り、なんとか2ポイントを取り返して点差を詰める。しかし試合終盤には再び動きを封じられ、最終的なスコアは5-10。幕切れとなってしまったものの、「自分がやるべきことはやった」と振り返るように、黒澤は自身のパフォーマンスに胸を張った。

黒澤は必死のディフェンスも、無念の負けを喫した

 波乱の展開となったのは多胡島の決勝戦。昨年のインカレにてテクニカルフォールで下した相手・木下貴輪(山梨学院大)と再び顔を合わせることになる。今回も勝つことだけを考えて臨んだ多胡島。しかし思惑通りにはいかなかった。なかなかゲームを動かせず、開始から2分が経過したところでとうとう先制点を奪われてしまう。焦りの表情を見せるも冷静に、その後は二度に渡り相手を場外へ。細かくポイントを刻み、なんとか2-2の同点へとつないだ。相手のタックルにも必死の抵抗を見せ、決してこれ以上隙を与えようとしない。さらに残り時間数秒に差し掛かったところで多胡島はついに猛攻を仕掛けた。しかし間も無く試合終了の合図。と同時に、ここで展開はクライマックスへ差し掛かる。多胡島のタックルによって相手側の膝、肘、頭3点のいずれかがマットに着いていればポイントとなる状況のもと、ワセダは一抹の可能性を懸けてチャレンジに出る。運命はビデオ判定に託された。しかし、際どい判定のもと、惜しくもチャレンジは失敗。ノーポイントを告げられ、2-3で悔しすぎる敗戦を喫した。「試合を決められなかったのが悔しいです」(多胡島)。試合直後、多胡島はマットに仰向けになり、打ちひしがれた様子を見せた。

試合終了の瞬間、点数板に目をやりつつ必死の多胡島

 黒澤、多胡島は銀メダルを獲得。他にも57キロ級の伊藤奨、65キロ級の米澤圭(スポ1=秋田商)、74キロ級の今村聖(スポ4=群馬・太田商)が3位につけ、計5名が表彰台に登った。フリー優勝者は出なかったものの、昨年の表彰台登壇者1名に比べるとステップアップがうかがえる。ワセダが目標に掲げる『団体戦優勝』のためには、一人でも多く好成績を収めることが必要不可欠である。その意味では光が差してきた、と言えるのかもしれない。まずは10月に全日本大学グレコローマン選手権と女子オープン選手権がひかえている。そこでも最大限に力を発揮し、11月以降の団体戦へとつなげてほしい。いま、ワセダの躍進が待たれる。

(記事、写真 寺脇知佳)

結果

男子フリースタイル

▽57キロ

青木祐総(スポ3=岐阜・岐南工)  4回戦敗退

伊藤奨(スポ2=長崎・島原)    3位

黒澤                2位

藤川聖士(スポ3=埼玉栄)   3回戦敗退

橋本星良(人1=茨城・土浦日本)  3回戦敗退

矢野富三家(スポ2=島根・隠岐島前)1回戦敗退

▽65キロ

丸山大三郎(教3=埼玉・早大本庄) 2回戦敗退

米澤                3位

▽70キロ

伊藤駿(スポ1=京都・網野)    準々決勝敗退

斎藤隼佑(スポ1=群馬・館林)   棄権

多胡島               2位

▽74キロ

今村聖               3位

▽86キロ

堀江一馬(社3=富山・高岡商)   3回戦敗退

▽97キロ

土赤耕陽(スポ3=山形商)     3回戦敗退

コメント

山方隆之監督(平4人卒=福岡・築上西)

――4日間の総括をお願いします

グレコローマンスタイルではいま一度の結果だったんですけど、2日目の女子は盛り返してくれて、全体的にはみんなよく頑張ってくれたなと思います。

――多胡島(伸佳、スポ3=秋田・明桜)選手の試合を振り返って

本人もそうですけど監督・コーチとしても多胡島は優勝してもらわなきゃいけない選手と思ってはいたのですが、試合前もケガのため注射を打ちながらということで本人的には不安な部分もあったんだろうなとは思います。そんな中でも、本人も優勝するつもりで試合をしたんですけどやはりちょっとコンディションの面などで足りなかった部分があったのかなと。残念ですがよく頑張ったと思いますね。

――多胡島選手は昨年のインカレ(全日本学生選手権)で勝った相手(木下貴輪、山梨学院大)に負けてしまいましたがその点についてはいかがですか

当然、相手も多胡島を研究するでしょうし、多胡島としても何度も戦って勝っていかるからといって気を抜いたりとかは決してなかったとは思うんですけど、総合的なコンディションの面で多胡島らしさが欠けちゃったかなと思います。多胡島としても反省するべきところのあった試合だったと思います。次にやったら絶対にリベンジしてくれると思いますね。

――黒澤(翔、スポ4=茨城・鹿島学園)選手の試合を振り返って

黒澤にとって最後のインカレ(全日本学生選手権)で厳しい減量もした中で、なんとか決勝までいったので優勝してほしいとは思っていたのですが、相手も当然弱い選手ではないので接戦になるかなと思ってはいたのですけれども、もうちょっと最後に自分から仕掛けて欲しかったなというところはありますね。

――今後の大会に向けて一言お願いします

次は全日本大学グレコローマン選手権があるんですけれども、初日と2日目のグレコの結果を見てもわかるようにまずはグレコを仕上げていかないといけないので、ただ出るだけの試合だとは決して思っていないので勝負できるようにしていきたいと思います。

太田拓弥コーチ

――4日間の総括をお願いします

グレコローマンスタイル(グレコ)はちょっと不甲斐ない成績でしたけれど、女子が優勝一人と2位二人という結果と、フリースタイルはきのうは13人中11人残ってきょうも3位以上が5人ということで、チームが目指している底上げという面に関しては少しは光が見えたかなと思いますね。ただやっぱり男子の優勝者ゼロっていうのはなんとかひとりでも優勝させてやりたかったなというのが本音ですね。決勝にあがった黒澤(翔、スポ4=茨城・鹿島学園)と多胡島(伸佳、スポ3=秋田・明桜)はどうしてもタックル取られちゃってたんで、脚をさらわれるとポイントにつながっちゃうので、どうしても相手の組み手のほうがちょっとウワテになってタックルを取られてしまうのが敗因となったのかなと思いますね。

――多胡島選手の最後の判定について

最後にタックルが入って、膝か肘か頭かの3点のどれかが床に着かないと点にならないんですけど試合終了の合図のほうが早かったんですね。僕の角度で見たら膝がちょっとついたように見えたんですよ。でもそのシーンが映ってなかったのと試合終了の合図が同じくらいだったので、ノーポイントという結果になってしまいましたね。

――決勝に進んだお二人にはなにか言葉をかけられましたか

自分のやってきたことをやるだけということと、翔に関してはリーグ戦(東日本学生リーグ戦)で勝っている相手(大城一晟、国士館大)ではありましたが、腕を取られて投げられていたのでそのパターンにだけは絶対にならないように、という話をしましたね。多胡島は怪我のこともあったりして正直練習もやりきれてなかったというところが不安要素でしたね。優勝者ゼロというのは寂しい結果ですけど全体的に底上げという点に関してはできたんじゃないかなと思いますね。

――今後の大会に向けて

10月に女子オープンと全日本大学グレコローマン選手権があるの、できょねん同様9月に入ったらグレコの練習を中心にやっていてそのかたちで女子も良い成績残せたので、今年度も同じようなかたちで練習して、グレコでも女子でも良い成績を残せるように頑張っていきたいと思います。

黒澤翔(スポ4=茨城・鹿島学園)

――いまの心境は

悔しいです、それだけです。

――決勝はどのような気持ちで臨まれましたか

その前に準決勝で同じワセダの後輩(伊藤奨、スポ2=長崎・島原)と戦って、また70キロ級決勝では多胡島も負けちゃっていたので4年生として建て直そうという気持ちで臨んだのですが、うまくはいきませんでした。残念です。

――試合内容を振り返っていかがでしたか

1ピリオド(P)は正直落ち着いていて、いけるなと思ったのですが、2Pに点数を取られてしまい取り返さなきゃいけないなと思ったところにもう1本取られてしまって、もう大技でしか逆転が厳しい状況になったときに大技に失敗してしまったので負けたのは仕方ないと思います。

――コーチから何か言葉はありましたか

少し脚を触られすぎとは言われましたが、特にはありませんでした。

――改善点はなにかありますか

前からずっと右脚を触られないようにというのは改善してきました。リーグ戦(東日本学生リーグ戦)のときも同じ相手(大城一晟、国士館大)と戦っていたのですが右脚を触られながらも自分が相手より多く触っていくことができてとったというところでディフェンスが課題だったんですけど、まだ完璧には改善できていないですね。触られた本数は減ったんですけど、触られてしまうのが原因で負けてしまったので更に触らせないようにするということが引き続き同じ課題だと思います。

――収穫は得られましたか

決勝までにも、高校のときのインターハイチャンピオンだとか、初めて戦う相手が何人かいたのでもっと苦戦するかと思ったんですが、意外に自分の実力を出し切ったらスムーズにいけたので、そこは自分の力がついているんだなという実感はできました。

――4年生として最後のインカレ(全日本学生選手権)となりましたが、終えられてみていかがですか

自分がやるべきことはやったので、決勝で負けてしまい悔しいですけど満足はしています。

――今後の目標を教えてください

今回は減量がキツかったんです。団体戦(内閣総理大臣杯全日本大学選手権)ではまた57キロに落とすと思います。みんなで上位進出を目指して団体優勝に近づければと思います。

多胡島伸佳(スポ3=秋田・明桜)

――いまのお気持ちは

いまは何も考えたくないです。

――決勝はどのような気持ちで臨まれましたか

優勝することしか考えていなかったです。気持ちもしっかり入っていたし技術も負けているつもりはなかったので、何が足りなかったのかなと思います。

――最後の展開の際の心境はいかがでしたか

最後ああいう風にもつれたことに関しては特に何も思っていないですけど、その前にまず試合を決められなかったです。悔しいです。

――コーチから何かお言葉はありましたか

特に会話はしてないです。自分の好きなようにやりました。

――見つかった改善点はありますか

いますぐには出てこないので、時間をかけて見つけていこうかなと思います。

――今後の目標を教えてください

まずはまた気持ちを立て直して普段通りの練習ができるように、試合どうこうよりもそこをなんとかしていきたいですね。