【連載】『最高の舞台』 第2回 保坂健主将×多胡島伸佳

レスリング

 天皇杯全日本選手権(天皇杯)直前特集の第2回目。今回取り上げるのは、男子フリースタイル対談だ。主将としてチームをけん引し、世界選手権にも出場した保坂健(スポ4=埼玉栄)、2年生ながら学生二冠王となった多胡島伸佳(スポ2=秋田・明桜)。学生界でトップクラスの実力を持つ2選手の、天皇杯にかける思いとは。ワセダの中量級を代表する2選手に、目標や意気込みを伺った。

※この取材は12月11日に行われたものです。

海外での経験を生かして

ワセダの中量級のエース保坂

――保坂選手は海外遠征の多いシーズンとなりましたが、振り返っていただいていかがですか

保坂 海外の試合ではあまり結果は残せませんでした。まあ、日本は島国なので海外の選手と試合をやるといったら、時間もお金もかかるので、それに6回くらい行けたので、良い経験にはなったかなと思います。

――多胡島選手は東日本学生春季新人選手権(春季新人戦)から負けなしということですが、振り返っていただいていかがですか

多胡島 シーズンの一番最初の試合で年下の選手に負けてしまって、出だしとしては良くなかったと思います。それでもずるずる引きずることなく、直後の東日本学生リーグ戦(リーグ戦)である程度修正できて、春季新人戦からかたちになっていき、いまに続いていると思いますね。出だしが悪かったわりには、かたちになっているかなと思います。

――保坂選手は階級変更で昨年までの66キロ級から階級を上げる方向になったのは何故ですか

保坂 減量をしてもよかったのですが、無理して体を小さくするよりウエイトトレーニングなどで体重を増やしていって、それで階級に合わせればいいなと思ったので、上げることにしました。無理に大きくしているわけではないので、普段通りぐらいでできますし。そっちのほうが向いているかなと思いました。

――多胡島選手は現在の70キロ級は非オリンピック階級ですが、これからの階級変更のプランはありますか

多胡島 僕の場合はまだ2年生ということもあっていま焦ってオリンピック階級で戦うよりも、まずはいまの自分が適している階級で海外遠征などの実戦を多く積んでいけたらと思っています。そのなかでオリンピック階級に合わせていけたらと考えたので、いまは70キロ級という非オリンピック階級ですが、まずはその階級でやっていこうと考えています。

――具体的にプランはまだ決まっていないのでしょうか

多胡島 具体的に決められたらいいんでしょうけど、体の問題でまったく予想できないのですね。自分の体重が増えるのが早かったらその分早いでしょうし、遅かったらその分遅くなるでしょうし。あんまり体重を増やす減らすことに意識がいってしまうと、練習に気が向かなくなってしまうので、そこはあまり追い込んで考えないようにしてやっています。

――保坂選手は先月末にブラジル遠征に参加されましたが、オリンピック開催国に行ってみて感じたことはありますか

保坂 ブラジルはそんなにレスリングが発展している国ではないんですけど、いま強化をしている段階でアメリカなどにも遠征に行って選手を育てているみたいで。試合前にブラジル選手と対戦する機会があったのですが、向かってくる気持ちが熱かったですね。レスリングをやり慣れていると「ここまでいったら無理だ」と分かって諦めてしまうこともあるのですが、逆に分からないからどこまででも諦めず、向かってくる気持ちがブラジル選手にはあって、そういった点では初心を思い出せて良かったかなと思います。

――国全体では、オリンピックムードは感じられましたか

保坂 すごく大きな工事とかはやっていましたが、そんなに感じませんでした。

――海外遠征においてコンディショニング面などで苦労されたことはありますか

保坂 特にないですね。好き嫌いもほぼないので。海外に行ったら、向こうのものを食べますね。水とかでお腹を壊す人とかもいますけど、僕は大丈夫なので日本と同じような感じでいけます。

――多胡島選手も遠征を経験されていますが、印象に残っていることはありますか

多胡島 僕が行ったのは韓国だったのですが、距離的には近いのにプレースタイルに差があるなと思いました。それをすごく感じました。この距離でこれだけ違えば、それがロシアであったり、イランであったりと考えるとプレースタイルはその国によっていろいろあるんだなと思いました。そう考えたら自分の見ているレスリングはほんの一部なんだなと思いましたね。だからやっぱり日本でぐずぐずしている場合ではないと改めて感じました。

――日本と韓国の違いはどういった部分にあると感じましたか

多胡島 韓国に限って言えば徴兵制のある国なので、練習自体が兵隊チックでした。国の文化も反映しているなと思いましたし、すごく勉強になりました。日本は草食系男子などと言われるように、ジムに行って体を鍛えたりするなどをあまりしない印象があって。アメリカなどと比較すると格闘技にそこまで興味がないと思うんですよ。だからなのか、日本人は競り際になると少し受け身になってしまっている印象がありますね。そういう面で文化とかも影響しているのかなと考えたことはあります。

――海外遠征になったときに、必ず持って行く日本食などはありますか

保坂 いや、何もないですね。

多胡島 僕もないですね。

保坂 僕は米が嫌いなんですよ。それで、根本的に日本食が好きではないんですね。だからあんまり日本食を食べたいと思いませんね。

――遠征で行った国でおいしかった食べ物はありますか

保坂 わりと何でもおいしいですけどね。ロシアの南の方とかで食べた羊の肉とかですかね。結構おいしかったですね。現地人並みに食べていました。

「学生レベルで勝って喜んでいるようじゃ駄目」(多胡島)

対談中は笑顔も見られた多胡島

――保坂選手はプレーオフで代表をつかんだアジア選手権で銅メダルでしたが、海外で戦ってみて手応えは感じましたか

保坂 アジア圏の選手だとやりやすいんですけど、ヨーロッパのロシア、トルコの選手などスタイルが各国にあって、そっちの選手とやった時にまだ対処しきれてないなというのはすごく感じました。

――70キロ級のディフェンディングチャンピオンとして挑んだ明治杯全日本選抜選手権では4位で小島豪臣選手(中原養護学校教員)に2度敗れる結果となりました。あの時足りなかったことは何だと考えますか

保坂 実力ですかね、単純に。レスリングで負けたという感じだったので。

――多胡島選手は全日本学生選手権(インカレ)で大学初タイトルを獲得しましたが、大会前は優勝できる自信はありましたか

多胡島 僕は全ての大会においてそうなんですけど、あまり結果を考えないというか、練習でやっていることができる限り出せれば結果が後から付いてくると考えています。優勝、優勝と考えると力んでしまう部分も出てくるので、優勝できるかということよりは普段通りできるかどうかということに対する意識が強かったのであまり優勝とかは考えなかったです。

――普段通りの実力が出せれば優勝できると考えていましたか

多胡島 そういうふうには考えていました。

――優勝を決めた後にはバク宙をされていましたが、それは試合前から優勝したらやろうと決めていたのですか

多胡島 その前の大きなタイトルが入学した直後のJOC杯ジュニアオリンピックカップ(JOC杯)で、その時にやったのでまたやろうかなみたいな。そんな感じです。

保坂 調子乗ってたよな(笑)。僕はその時全日本合宿だったので直接は見ていなかったんですけど、ずっとVTRが流れていたので見ていて優勝が決まってバク宙した瞬間、速攻LINEで「調子乗んなよ」って(笑)。

――周りの方からそういった反応はありましたか

多胡島 まあ…、いまのLINEもしかり、終わったら何件かLINEが入っていて…。それだけみんな見ていてくれて良かったなという感じですね。

――保坂選手は世界選手権で2回戦敗退でしたが、世界の舞台で戦ってみていかがでしたか

保坂 世界選手権は各国の1位が出るので楽な試合は全くなかったですね。その中で誰が競り勝っていくかということで、ネームバリューに負けてしまっているところがあって、ヨーロッパの選手のトルコ、ロシア、アゼルバイジャン、アルベニアとか、アジアだったらイランの選手とやるとなったら、同じ国の代表なのにあっちの方が格上に見えたりして。そこの時点で自分のレスリングができなくなって、後手に回ってやられてしまうというのがすごくありました。実力を出し切れていないというのも負けた原因ですし、日本にいると海外の選手とやる機会もないので名前にビビってしまうというのもあるので。でもことしはいろんなところ行ってみてやって、最初は慣れないところもあるんですけど、やっているうちにこういうレスリングなんだというのが分かってくるので、やっぱりそういうところは経験で補っていくしかないなと思いました。

――多胡島選手は内閣総理大臣杯全日本大学選手権(内閣杯)で学生二冠を達成しましたが、インカレよりもするすると優勝したように感じましたが、ご自身としてはいかがでしたか

多胡島 内閣の時は逆に全く勝てる気がしなかったです。それは気持ちの面で勝って当たり前だと思われると、あまりやりがいがないというか、勝ったところで最低限やりました、と。気持ちの上ではまだそんなに余裕はないんだけど、周りは勝って当たり前だと思っているし、しかもインカレと違って団体戦ということで、周りの僕に対する見方も変わっていたので。1個下の階級(65キロ級)の準優勝の選手が階級を変えていたりという意味で、個人戦ではなかったのでナーバスになっている部分はありました。

――注目されているよりも、注目されていないほうが力を発揮しやすいのですか

多胡島 周りが勝つと思っていない選手に勝った時の方が自分も周りもうれしいと思うので。勝っていて同じ大会でもう1回勝つと試合に向けて消極的な迎え方になってしまうので、そういった意味でやりづらかったという感じですね。

――プレッシャーはありましたか

多胡島 あったと思います。自分の中ではたった1回優勝しただけなので。1回優勝しただけだったら本当に実力で勝ったのかは分からないし、インカレの時に対戦していない選手でたまたま組み合わせの関係で自分と当たる前に負けたからやらなかったとか、戦っていない選手もいるので、そういう意味で本当に優勝したと思っていなかったので、その状況で周りからそういうふうに思われていたというのはちょっとつらいところがありました。

――では内閣杯で優勝して、自分は学生王者だという自覚は確固たるものにできましたか

多胡島 そうですね。やっぱり海外でも心身充実して戦えるはなかなかないと思うので、いま練習通りにやりたいと言いましたけど、実際にそれは100パーセント出せることは絶対にないし、その出せない中で勝ちきるというのが本当の実力だと思うので、内閣に関しては精神的に充実していない中でもああいう試合運びで勝てたというのは、そういった意味で本当の実力が付いたのかなというふうには後から思いました。

――内閣杯では優勝を決めた後は、喜び方も控えめでしたね

多胡島 あんまりうれしくなかったというか…。

保坂 (笑)

多胡島 あんまりうれしくなかったですね。勝ったところで最低限役目を果たしたみたいな感じなので。やっぱり学生レベルで勝って喜んでいるようじゃ駄目だというのも自分の中でありましたし、うれしくなかったし、喜んでいる場合じゃないなという気持ちが強かったです。

――オリンピックなどで優勝した時にやってみたいパフォーマンスはありますか

保坂 逆にあんまり喜ばないで平然としていたいです。なんかない?

多胡島 あー分かります。

保坂 あいつ優勝したのにあんまりうれしくなさそうじゃん!みたいな。そんな感じです(笑)。

――多胡島選手も同じですか

多胡島 どうなんだろうなー(笑)。

保坂 バク宙って言っとけよ!

多胡島 ひねりを入れたいです。バク宙ひねりをしたいです。

――多胡島選手の今季の飛躍の要因は何だと考えますか

多胡島 やっぱり後輩が入ってきてくれたというのは大きいかなというふうに思います。見られているという意識が昨シーズンより強いので、見られている以上みっともない姿はできないし、普段の練習にしてもいままでだったらサボったのは全部自分に返ってきたんですけど、そのサボっている姿を見せたら後輩にも影響するのでそう考えたら中途半端なことはしていられないし、そういう意味で見られているということから常に緊張感を持って練習に取り組めていたというのが大きいかなというふうに思います。

――保坂選手に多胡島選手の活躍ぶりはどのように映りますか

保坂 スパーリングとかもやっていて、インカレ前ぐらいからたぶん学生では負けないだろうなというのは思っていましたね。多胡島には申し訳ないけど当然の結果かなと思います。練習を見ていても先輩とかからも点を取りますし、ワセダの中量級はレベルがすごく高いので、その中でも取っているので学生レベルでは負けないだろうなと思っていました。

互いの存在が刺激になる

内閣杯でローリングを決める保坂

――お2人とも秋田県出身ということですが、秋田県ではレスリング競技がさかんなのですか

保坂 いや。どうだろう?

多胡島 そんなに強くないんじゃないですか。ちびっこですかね。

保坂 道場とか、学校とかで競技をできる場所は多いかもしれないですけど、ちょっと分からないですね。

――保坂選手は秋田からどのような理由で埼玉栄高に進学されたのですか

保坂 県外の監督さんからいろいろ声を掛けてもらっていたんです。それで一番最初に家に電話が掛かってきたのが埼玉栄で、最初は行く気持ちはなかったんですけどパンフレットも見て、修学旅行でアメリカに行けると分かって、ここにしようと思いました。

――実際に修学旅行でアメリカには行けましたか

保坂 はい。一週間くらいロサンゼルスに行きました。

――アメリカでもレスリングをやられたのですか

保坂 いや。やってないです。でも、レスリング部だけ普通の生徒より1時間くらい早起きさせられて、ホテルの周りをランニングしていました。

――多胡島選手は高校時代、どこに修学旅行に行かれましたか

多胡島 韓国です。

――そこでもレスリングはやられましたか

多胡島 いや。高校の時は不真面目で練習時間以外は全くレスリングに関わりたくなかったので、やりませんでした。

――保坂選手は正式には部からは離れて少し時間にゆとりがあると思いますが、最近はどのように過ごしていますか

保坂 朝起きて、お風呂に入って、ご飯食べてダラダラして、練習して、寮に帰って、ご飯食べて、寝るという生活です(笑)。たまに散歩とかします。本当にやることがないので。

――卒論などはいかがですか

保坂 いま書いています。テーマはレスリングに関することなんですが、レスリングのタックルの成功率と初期動作についてとの関係性についてですね。

――多胡島選手の試合中は静かな印象を受けますが、何故なのでしょうか

多胡島 昨年の質問でも同じような質問をされて、そこで応援しないでくれと言ったことを部員が見たから応援が静かというわけではないと思うんですが…何ですかね?

保坂 うーん。知らない。

多胡島 大体、試合って1日目、2日目と続いていくじゃないですか。1日目の自分の時にはなかったのに、2日目とかすごく周りがハッスルして応援していくので、自分の時にはなかったのに…と思いますね。いいなと思うこともありますが、たぶんまた応援されたらうるさいなと感じると思います。勝手にしてくれとなるんじゃないですかね。

――保坂選手にとっては、試合中の応援はどういった存在ですか

保坂 まあ形式上、力になっていると言わなきゃいけないんでしょうが、あまり耳に入ってこないです。

――セコンドの声も聞こえていないということですか

保坂 太田コーチに言われることよりも、自分でやらなきゃいけないことがあるので。たぶんコーチが求めているレスリングと僕が求めているレスリングが違うので。あんまり周りの声は気にしないです。余裕があったら聞こえることもありますが、競っている試合だと耳に入ってきませんね。

――試合前の気持ちのつくり方などはありますか

保坂 試合後のことを考えたりしますね。試合終わったら食事行こうとか、早く終わらせようとか、そんな感じですね。

――緊張されたりしますか

保坂 自分のなかではしているんですけど、周りからはお前は本当にふざけているなと言われます。緊張しているはずなんですけどね。

――多胡島選手はいかがですか

多胡島 緊張はするんですけど、自分の中で勝たなきゃいけない理由をどんどん重ねていきます。こうやって応援してくれる人がいるから勝とう、こういう理由があるから勝とうってなります。試合前とかは負けてもいいかなと思う時もあります。だけど、逆に何で負けちゃ駄目なのかを考えたりします。試合前はそういうことを考える時間が多いですね。

――本当に上がってきてしまった時はどのようにメンタルをコントロールしていますか

保坂 僕は独特で小さい頃、本当に緊張していると動けなかったんです。それで父親に天井見てみろと言われて、天井見て深呼吸したらなんか落ち着いたんですよ。ここはヤマ場だなと思った時はやりますね。

――多胡島選手は試合前ヘッドホンをしていますが、音楽を聴いているのですか。それとも付けているだけですか

多胡島 気分ですね。聴きたい時は聴いていますし、聴いてない時もあります。

保坂 羽生結弦の真似をしているんですよ。

――そうなのですか

多胡島 違いますよ!

一同 (笑)

多胡島 気分屋なので聴きたい時は聴いて、聴きたくない時は聴きません。

――お二人にとって、お互いの存在とはどのようなものですか

保坂 スパーリングとかをやっていても強いですし、良い刺激になりますね。内閣杯の時も多胡島が初日に優勝して僕が2日目だったんですけど、こいつだけが優勝したら調子に乗ると思って絶対俺も優勝してやろうと思っていました。いまのは冗談ですけど、いままで年下で強い子ってあまりいなかったので。年上に石田智嗣さん(平24スポ卒=現警視庁第六機動隊)、幸太郎さん(田中幸太郎、平25社卒=現阪神酒販)、公平さん(北村公平、平26教卒=現阪神酒販)とか、上の存在にどう追いつくかを考えてやっていたので。下からこうプレッシャーをかけられることはいままでなかったので、そういうのは刺激になって僕自身、レスリングでどうするべきか考える機会にもなりました。

――多胡島選手にとって、保坂選手はどういった存在ですか

多胡島 僕が考えるにたぶん真逆の人間なんですよ。僕は結構理屈先行派なんですけど。

保坂 俺はなんとかなるから大丈夫だよってなりますね。俺は本当に何も考えていないから。感覚派?

多胡島 真逆だったからよかったと思います。自分と逆だからこそ、足りないものがすごく見えるので。僕が屁理屈で逃げてしまうようなところも、健先輩は「理屈は関係ない。気持ちでやる」という練習への姿勢を見ていたので、 そういう姿は僕にとって刺激になりました。

――保坂選手から見て、多胡島選手の強みとはどのようなところだと思いますか

保坂 考えてやっていることですかね。自分の中で決まりみたいなものができていて、一個一個積み重ねているんだなと、ここを決めればいけるということを考えながらやっているので、いまはアンクル(ホールド)がすごく得意なんですけど、実際に試合でもかかっているので、そういうところはすごいなと思います。

――逆に多胡島選手から見て、保坂選手の強みとはどういった部分ですか

多胡島 みんなそれぞれ目標を持ってやっているんですけど、たまにぶれてしまうこともあります。そんななかで健先輩はこうすると決めたら、やるしそれが周りにとやかく言われても貫き通せるので。こうすると決めたらぶれない芯の強さがすごいなと思います。

収穫を求めて

多胡島は飛躍のシーズンとなった

――保坂選手は主将としての1年間というのはこれまでとは違いましたか

保坂 そうですね。いままでの3年間は上に甘えて自分はやりたいことだけやって。自分が一番上になると同期のことも見なきゃいけないし、下のことも見なきゃいけないし、同期がちゃんとしていないと下にも言えないし。同期とも言い合ってやった点もありますし、難しい1年でしたね。

――多胡島選手に保坂選手の主将としての姿はどのように映りましたか

保坂 あんまり主将として俺仕事してないよね?(笑)

多胡島 いえいえいえ。率直に健先輩の体制がスタートした時に、ことし1年間どうなるかって昨年のインタビューでも話したんですけど、やっぱり結果主義というか、実力主義になるのかなと正直なところ思っていて。実際始まったらそうじゃなくて。結果主義、実力主義ということに関しては僕も同じような考えを持っていたので、健先輩もそうしていたからそれでいいんだろうと思っている自分がいて。でもそれをキャプテンという立場の下そういうやり方じゃなくて、でも結果を残していたわけなので。でも実力主義に偏りすぎない体制の中でやってきた中で僕自身勉強になったこともあるし、そういった意味ですごく勉強になりました。

――部員の人数が少ない中で主将として気を使っていたことはありますか

保坂 俺あんまり人に気を使えない人なので(笑)、あんまり…。でもまあ楽しいことが好きなので、みんなとふざけ合ったりというので全体的にコミュニケーション取ってない人はいないので…。あんまりないですね、気を使っていたこと(笑)。

――昨年の特集の時に、主将としての意気込みを「ワセダらしく僕らしく、2014ニューワセダ」とおっしゃっていましたが、それは実践できましたか

保坂 どうなんですかね…まあ、できたのかな。できたかな?

多胡島 ちゃんと色はありました。

保坂 じゃあたぶんできたと思います。

――早稲田大学レスリング部を保坂選手の色に染められたということでしょうか

保坂 ですね、はい!

――洞口幸雄新主将(スポ3=岐阜・岐南工)の下、チームはまた違った感じになっていくのではないかと思いますが、その点についてはいかがですか

保坂 僕と幸は人間的に全然違うよね?

多胡島 違います、本当に違います。

保坂 もう(洞口選手は)マスコット的な感じなので。それをどう生かしてやってくのかなと思いますね。

――多胡島選手は洞口主将の下、チームはどのようになっていくと思いますか

多胡島 いま話したように、実力主義でガーッといくかなと思っていた健先輩が実際はそうでなくて、ことしこういうふうに送ってきて。ということは僕がいま幸さんに抱いている印象というのもきっと1年で変わると思うので、ことし1年間健先輩の主将としての取り組み方を見ていて勉強になったことがあるんですけど、そういう意味でどういうふうに変わっていって、じゃあことしはどんなことが勉強になるのかなーと。そういうことに対する楽しみが大きいです。

――昨年、保坂選手が大坂昂選手(平26スポ卒=現三菱電機)から主将を引き継いで、部の雰囲気は変わるだろうとおっしゃっていましたが変わりましたか

保坂 そうですね、変わったと思います。

――新体制となってチームの雰囲気はいかがですか

多胡島 健先輩の時は1人ポンとキャプテンがいて、それを周りが支えるというかたちだったんですけど、ことしはどちらかというと基本的にキャプテンという役職はありますけど、いまの3年生が横並びというか。あなたがキャプテンだからあなたがやって、じゃなくて3年生が自分たちの代の部活なんだと。そういった意味でキャプテンにチームの負担が集中しないというか、4人でうまくやるようにしているなと思います。

――保坂選手は外から見ていてどのように感じますか

保坂 練習はすごく一生懸命やっているなと思います。あともうちょっと明るくやってよという感じ(笑)。なんか暗くね?スパーリングの時とかピーという電子音しか鳴んないじゃん。誰もあんま声出してない。俺と諒(桑原、スポ4=静岡・飛龍)がいないから?

多胡島 やっぱりそうじゃないですか。

保坂 なんか幸は普段明るいんですけど、練習の時すごく静かなのでもうちょっと…

多胡島 自分のことでいっぱいいっぱいなんですよね、みんな。

保坂 たぶんな。それをもうちょい余裕持てるようになったら底上げができると思います。

――4年生の存在は大きかったと感じますか

多胡島 もちろんそれはそうなんですけど、ただもういなくなってしまったものはいなくなってしまったものなので、次どうしていくかということをすごく考えています。

保坂 俺らのときはふざけてたもんな、練習中もちょっと。「やったれやったれ!」みたいな感じで(笑)。それがいますごくいま落ち着いているというか…

多胡島 おとなしいですよね、練習が。

保坂 なんかコーチに遠慮してない?

多胡島 はい、みんな小さくなってますね。

保坂 「はい…」みたいな。僕もうコーチがなんか言っても「俺はこうやるんでいいっす」みたいな。「こっちは俺がやるんで」みたいな感じだったんですけど、同期の桑原諒も、そいつもすごくはっちゃけてるやつなんで、練習中も「オィー」みたいな感じだったので。祭りみたいな感じだったもんな。

多胡島 ちょっといま思い出して切なくなってました(笑)。そんな練習あったなーと思って。

保坂グレコ(グレコローマンスタイル)の練習とかも、四つ組みになって「オラァー」みたいなそんな感じでやっていたので(笑)、いまはちょっと静かだなーと思いますね。 

――前主将からアドバイスはありますか

保坂 コーチに従うんじゃなくて、自分らしくやった方がいいかなと思いますね。つまんないんで、誰かに言われたことしかやらないと。自分で思ったことどんどんやってほしいなと思います。

――早稲田大学レスリング部を洞口選手の色に染めたほうがいいということですね

保坂 はい(笑)。

――天皇杯、74キロ級はOBの北村公平選手や高谷惣亮選手(ALSOK)など強豪ぞろいですが、その中でどのように戦っていきたいですか

保坂 それ以外の下の子たちも強いので、階級を上げて初めての全日本なので思いっ切りやりたいですね。何もしないで負けるというのは一番もったいないので、負けるとしても何かしらの収穫を得てやりたいと思います。

――ワセダを背負って戦う最後の大会ですが、いまから感慨はありますか

保坂 まあ最後なので一生懸命やろうかなーと思います。

――70キロ級も小島選手など年上の強豪選手相手に、学生王者としてどのように挑んでいきたいですか

多胡島 学生王者とかってなっていますけど、まだ僕は先もあるので、僕の位置付けとしては結果じゃなくて将来結果を残すための経験としての大会なので。だから勝って良しじゃないし、でも勝たなきゃいけないんですけど。そういう意味でさっきも言ったんですけど、練習通りいかにやるかと。練習の自分をできるだけ試合に反映させて、その上で負けたら練習に問題があるから練習を改善して頑張ろうと。それが実りある経験の試合だと思うので、いかに先につなげるかと。そのためにまずは練習でしたことをできるだけ出す、ということを考えています。

――天皇杯はオリンピック選考にも関わってきますが、そのことを意識しますか

保坂 まあ、意識は少しはしていますね。そんなすごく意識はしないですね、これが最後じゃないので。

――天皇杯での目標をお願いします

保坂 それは優勝で。

多胡島 目標を聞かれるのが一番嫌なんですよ(笑)。

保坂 知らねーよそんなの!(笑)

多胡島 優勝とか特にないんで…。

保坂 自分のレスリングをやるでいいじゃん。

多胡島 自分のレスリングをやる!(笑)

――最後に天皇杯に向けての意気込みをお願いします

多胡島 今回70キロ級が、下馬評で強い選手が小島さんも31歳だし、横山さん(太、おかやま山陽高教員)も29歳だし、僕は若い方なので、学生で優勝しているので学生の代表というのは事実なので若い世代の代表としてできるだけ上の世代に脅威を与えられるような、そういうふうな試合にしたいなと思っています。

保坂 会場を沸かせたいと思います!

――ありがとうございました!

(取材・編集 高畑幸、谷田部友香)

大舞台への意気込みを書いていただきました!

◆多胡島伸佳(たこじま・のぶよし)(※写真左)

フリースタイル70キロ級。秋田・明桜高出身。スポーツ科学部2年。春季新人戦から14連勝中と、学生界で圧倒的な強さを見せている多胡島選手。その強さの裏には未来を見据えた『無欲』があるのかもしれませんね。多胡島選手の連勝記録にも注目です!

◆保坂健(ほさか・けん)(※写真右)

フリースタイル74キロ級。埼玉栄高出身。スポーツ科学部4年。色紙に書く自分らしい意気込みをなかなか思いつかなかった保坂選手。偶然居合わせたOBにアドバイスをもらいながら『始まる。』と執筆していただきました。