全日本学生選手権 8月23日〜26日 東京・駒沢屋内球技場
学生日本一が決定する全日本学生選手権(インカレ)が8月23日から4日間にわたって行われた。早大からは7名が出場し、男子グレコローマンスタイル82㌔級・掛川零恩(社2=山口・豊浦)と男子フリースタイル79㌔級・ガレダギ敬一(スポ1=東京・帝京)が優勝。また、男子グレコローマンスタイル55㌔級の尾西大河(スポ3=佐賀・鳥栖工)と87㌔級の北脇香(スポ3=山梨・韮崎工)は3位で終え、各々に収穫と課題が残る結果となった。なお、伊藤海(社4=京都・網野)は大会を棄権した。
早大勢の中で最初に試合を行ったのは、男子グレコローマンスタイル55㌔級の尾西。社会人や高校生も参加する、ことし5月の明治杯全日本選抜選手権(明治杯、東京体育館)では準優勝、昨年12月の天皇杯全日本選手権(天皇杯、代々木競技場第2体育館)では3位と表彰台に上がるイメージが強い尾西だが、インカレは今大会が初出場となった。初戦を8ー0で突破すると、3回戦は終始自らのペースで攻め続け、第1ピリオドの点差を守り抜き勝利を収めた。尾西の勢いは止まらず、準々決勝では伊藤慶大(育英大)相手に開始1分で4点差をつけると、寝技の体勢からローリングで得点を重ね、テクニカルスペリオリティ勝ち(相手に規定の点差をつけた選手は、試合途中でも勝利が決定する。GRは8点、FSは10点。テクニカルフォール)となった。
3回戦で稲岡心空(近大)と戦う尾西
迎えた準決勝の相手は、増田壮兼(育英大)。準々決勝までの全試合で、2分以内にテク二カルスペリオリティを成立させ非常に勢いがある増田に対し、尾西は「普段指導していただいてるコーチと練習パートナーを含めて、3人で作戦を立てて臨みました」と明かした。試合序盤は、お互いがマット中央でせめぎ合う白熱した展開に。しかし1分20秒を過ぎたところで尾西にパッシブ(消極性選手の摘発)が出され、増田が1点先取。尾西が不利な状態である「パーテレ」ポジションから再開するも、相手の猛攻を食い止め追加点を許さなかった。0ー1から始まった第2ピリオドでは増田にパッシブが出され、今度は尾西が有利な体勢から試合再開。相手の腰をつかんで試合を有利に進めたかったが、増田に背後に回られ1ー3とリードを広げられた。その後も膠着(こうちゃく)状態が続き、スコアは変わらず尾西は準決勝敗退。試合後この試合を振り返り「本当に相手に負けたというよりも、自分自身に何かやられてる」とコメントした上で、「そもそも勝ち方自体が自分の中で分からなくなってきた」と不安を口にした。昨年の明治杯を境に、優勝から遠ざかっている尾西。この葛藤がさらなる飛躍につながると信じたい。
尾西に続いて、掛川も今大会がインカレ初出場。ケガ明けということもあり状態が心配されたが、初戦から2分弱でテクニカルスペリオリティを成立させ、好調な滑り出しを見せる。流れに乗った掛川は準々決勝の開始4秒で服部創太(神奈川大)を仰向けに倒すと、怒涛のローリングを繰り出し19秒で試合を終わらせた。また、準決勝では開始1分で寝技の体勢を整えると、これまでの試合同様にローリングを決め、相手と8点差をつけて勝利をものにした。
準決勝でローリングを繰り出す掛川
決勝の相手は山口蓮汰(神奈川大)。ことしの明治杯3位決定戦や、昨年の天皇杯3位決定戦と同じカードになった。試合序盤は膠着した状態が続き、掛川はなかなか寝技に持ち込むことができない。相手の動きが止まり出したところで山口にパッシブが出され、掛川は1点先取すると、相手が腹ばいの状態である「パーテレ」ポジションから試合再開。すると掛川はすぐさま2度ローリングを決め、5ー0とする。その後掛川にもパッシブが出され自身が不利な状態になるものの、相手の状態が崩れた瞬間、すぐに背後へ周り再び自らの流れに持ち込んだ。最後には相手の頭を押さえて再び背後につくと、じっくりと、かつ豪快にローリングを決め、テクニカルスペリオリティ勝ちで優勝を果たした。
今大会、全試合でテクニカルスペリオリティを成立させた掛川は「自分の中でローリングが核としてあって、全体的にそこへつなげられたことが勝因」と振り返る。82㌔級はことし3月に卒業した玉岡颯斗(令6スポ卒=群馬・館林)が昨年のインカレ王者であるがゆえに「82㌔級は僕が守るじゃないですけど、負けちゃいけないっていう気持ちのほうが正直強かった」「勝って当たり前」と強い思いを口にした。
男子グレコローマンスタイル87㌔級に出場したのは、北脇と金澤空大(スポ1=千葉・日体大柏)の2人。不戦勝で初戦をものにした北脇は、2回戦で権田龍(周南公立大学)と対戦した。開始1分過ぎ、北脇は相手に後ろへ回られピンチを招くも、左腕を使って冷静に対応。その後権田を仰向けに回転させ一気に4点を獲得すると、相手と適切な距離を保ちながら優位に試合を進め、無失点で白星をつかんだ。大会2日目に行われた準々決勝では、2回戦同様序盤に一挙4点を獲得すると、相手の両肩をマットにつけ、1分28秒でフォール勝ち。勢いに乗って決勝進出を決めたかった北脇だが、準決勝では昨年準優勝の磯江大成(日体大)相手に自らの良さを発揮できず、テクニカルスペリオリティで黒星を喫した。
一方、1年生の金澤は初戦で三井正信(日大)と対戦。序盤、金澤が時間をかけながら圧力をかけ続けると、三井の消極性が摘発される。そこから一気に相手の体を3度回転させ、三井と8点差がついた時点でテクニカルスペリオリティが成立。2分ほどの圧倒的な展開で勝利をつかんだ。それとは裏腹に、準々決勝では日体大の鬼塚一心相手に開始1分でフォール負け。7月の東日本学生選手権(東京・駒沢屋内球技場)でフォール勝ちした相手だからこそ、より悔しさが残る大会となった。
大会3・4日目に行われた男子フリースタイルでは、79㌔級にガレダギが出場。終始相手を圧倒し、テクニカルスペリオリティで初戦を突破すると、3回戦ではローリングを中心に相手を封じ込み、ベスト8進出を決める。
1回戦で今野駿輔(専大)と戦うガレダギ
準々決勝の相手は森崎悠太郎(東洋大)。ここまでの試合と異なり、ローリングや対戦相手を持ち上げることで得点できなかったものの、相手を場外に出して着実にポイントを重ね、自らの試合運びで勝利を収めた。この試合とはがらりと変わって、準決勝では12ー0でテクニカルスペリオリティ勝ち。決勝では昨年天皇杯3位の高原崇陽(専大)を相手に迎えると、序盤は互いに攻め合う激しい展開になった。しかし試合開始30秒後、ガレダギは相手の体をひっくり返し、さっそく2点を獲得する。その後再び膠着状態が続くも、ガレダギは力強く相手を倒し、寝技に持ち込んで4点差に。第2ピリオドでは高原の流れになり2点を失うも、相手との距離を保ちながら点差を守り抜き、ガレダギは大会王者に輝いた。なお1年生でのインカレ優勝は、大会史上男子で38人目の快挙である。
昨年のインカレと異なり、1・2年生の活躍が目立った早大レスリング部。上級生にとっては刺激的な大会となっただろう。今大会の収穫と課題を踏まえ、全日本大学選手権(11月、大阪・堺市金岡公園体育館)や天皇杯に向けて部員それぞれが走り出したばかりだ。
優勝決定後、カメラに向かってポーズを決める掛川
(記事 中村環為、写真 指出華歩、中村環為)
試合結果
男子グレコローマンスタイル
▽55㌔級
尾西 3位
▽82㌔級
掛川 優勝
▽87㌔級
北脇 3位
金澤 準々決勝敗退
男子フリースタイル
▽61㌔級
山口太一主将(スポ4=東京・自由ヶ丘学園) 2回戦敗退
▽70㌔級
ズート麟(政経4=東京・アメリカンスクール・イン・ジャパン) 2回戦敗退
▽79㌔級
ガレダギ 優勝
▽92㌔級
金澤 2回戦敗退
▽97㌔級
北脇 5位
試合後インタビュー
尾西大河(スポ3=佐賀・鳥栖工)
ーーまず、今大会を振り返っていかがでしたか
誰か相手に勝つというよりは、レスリングの勝ち方自体がそもそも分からなくなってきていて。誰かに勝つとか、相手に勝つとかそういうことではなくて、そもそも勝ち方自体が自分の中で分からなくなってきた。昨年6月の全日本選抜(明治杯全日本選抜選手権、東京体育館)で優勝してから、国際大会も含めて一つのトーナメントを勝ち抜いて優勝するまで1年以上経ってるので、レスリング自体の勝ち方が分からなくなってきている感じがありますね。成長はしているのですが、やっぱりそれが可視化されてないというか。そもそも優勝以外意味がない、駄目というか、1位以外は初戦負けと同じなので。今大会も3位に終わっていますし、そこら辺を含めて優勝しないと意味がないと思っています。優勝に遠ざかっている、この点が本当に足りていない。自分の中で納得できてない部分が多いです。
ーー準決勝ではここまで全試合テクニカルスペリオリティ勝ちを収めてきた、非常に好調な相手と対戦しました。どのような戦略で臨みましたか
普段指導していただいてるコーチと練習パートナーを含めて、3人で作戦を立てて臨みました。あらかじめ対策は練って、それを遂行できたのですが、どちらかというと今回は自分のミスでポイントを取られ、それが決勝点になったので。甘さというか、無駄なことをしてしまいました。今回レスリング自体が分からなくなった感想としては、本当に相手に負けたというよりも、自分自身に何かやられてる、負けている感覚があって。そういう点があるので、やっぱりレスリングの勝ち方自体が分からなくなる。悔しさよりも、もう今後勝てないんじゃないかという不安の方が大きいですね。圧倒的に不安の方が大きい。
ーーことしも本格的に下半期に突入しました。これからの目標や、今後力を入れていきたいことを教えてください
あくまで個人として、一緒にやっているチームとして考えてるのは、4カ月ぐらいかけて全日本(天皇杯全日本選手権、東京・代々木競技場第2体育館)に向けて作り直し、世界で勝つという自分たちの目標に向かいたい。フィジカル面もそうですけど、体力とか練習量は全然問題ないと思うので、あと技術をいかにつけていくかという作業になると思います。その辺をしっかりやるっていうことをいま考えています。もうそうするしかないなという感じがしていて。自分も大学生になって体も大きくなって、55㌔級で戦うときに減量がきつくなっています。その体重調整やコンディション作りに結構苦労していたのですが、だいぶことしの全日本選抜(明治杯全日本選抜選手権、東京体育館)からはまってきていました。ただ、ここにきてちょっと停滞というか。コンディションづくりはできているので、あとはもう技術を高めていく作業になると思っています。
掛川零恩(社2=山口・豊浦)
ーーまず、今大会を振り返っていかがでしたか
大会初日が1試合だけ、2日目が3試合だったので、きょう(2日目)に向けてモチベーションを作ってきました。きょうが大事だったかなと思います。
ーー大会初戦から4試合すべて、テクニカルスペリオリティ勝ちという圧倒的な結果でした。好調の理由はどのようなところにあるとお考えですか
自分が流れをつかんでいたっていうのがあると思います。自分の中でローリングが核としてあって、全体的にそこへつなげられたことが勝因かなと思っています。
ーーことし6月の東日本学生リーグ戦(東京・駒沢屋内球技場)の際に「膝やあばらを負傷しながら試合に出場した」とおっしゃっていました。ケガの具合はいかがでしょうか
ケガをした部分をだましだましでインカレに向けてやってきました。その中でもできることを考えて、1日のスパーリングの本数を減らしつつも練習の質を高めてきました。
ーーグレコローマン82㌔級は、ことし早大を卒業された玉岡颯斗さんが出場していた階級でした
去年自分が優勝した全グレ(全日本大学グレコローマン選手権、東京・駒沢屋内球技場)で玉岡さんから階級を譲ってもらったので、そこからもう82㌔級は僕が守るじゃないですけど、負けちゃいけないっていう気持ちの方が正直強かったです。単純に前回優勝した全グレから、当時の4年生が抜けた大会になるので、その中では勝って当たり前という気持ちを持っていました。
ーーことしも本格的に下半期に突入しました。これからの目標や、今後力を入れていきたいことを教えてください
9月前半に世界選手権(U20世界選手権、スペイン・ポンテベドラ)があって。今度は87㌔級なんですけど、そこで戦わないといけないので、とりあえずそこかなって思っています。今回のインカレは、そこにつなげるためにも負けられない戦いだったので。世界選手権が本番というわけではないですが、まだ気持ちは切らさずにやっていこうと思います。