その男、史上最強
地面に置かれたバーベルを勢いよく引き上げ、その挙上重量を競い合う競技、ウエイトリフティング。一見単調に見えるこの競技だが、フォームやテクニック、そして裏での駆け引きに至るまで、その実は奥深い。そのウエイトリフティングに、大学生活のすべてをかけてきた男がいる。その名は森川芳樹(スポ=兵庫・明石南)。この一年間、主将として早大ウエイトリフティング部をけん引してきた。
2017年12月に開催された第63回全日本大学対抗選手権。ワセダの4年生にとって、この選手権が最後の試合である。この選手権に森川は56㎏級で出場した。だが、彼は入学以降、62㎏級で活躍してきた。なぜ異なる階級で出場することを決めたのか。その所以は、彼が2年生だったころにさかのぼる。
応援を力に変え、バーベルを挙上する森川
森川芳樹と千葉健介(社=岩手・水沢)。入学当初から2年生の時の第61回全日本大学対抗選手権まで、同じ階級で互いに争ってきた2人。第43回東日本大学対抗選手権のころまでは実力は両者ともに互角と言える状態だったが、先述の全日本大学対抗選手権で森川は千葉に大きく差をつけられてしまった。当初は悔しい思いでいっぱいだったという森川。しかし、「自分と千葉で争っていても、ワセダの点数は伸びない」。ライバル意識ではなく、負けても自分は自分なりに頑張って持ち味を伸ばしていくことが重要であると心に刻んだ。
そして迎えたラストイヤー。主将に抜擢された森川にとって、この最後の全日本大学対抗選手権はこれまでとは違う重みを持っていた。この選手権には男女それぞれ8人しか出場することが出来ない。木村勇喜(スポ1=兵庫・明石南)と千葉が62㎏級に出場するか、どちらかが69㎏級に上がり、自分が62㎏級で出るか。ワセダの点数を考えたとき、選択肢は一つだった。森川は前者を選択。高校では56㎏級の選手であったこともあり、減量に努めることになる。結果は56㎏級2位と、階級が下がっても変わらぬ実力を見せつけた。ワセダとしては男子団体4位を達成。引退試合としてしっかりと成績を収められた選手権となった。
主将として、部の勝利を選択した森川。しかし、主将らしい主将になることが出来たのは9月ごろだったと彼は語る。
主将になって最初のころは言いたいことを言うことが出来ず、溜めてしまうことが多かった。しかし、春夏と教育実習を経験した森川、だんだん人前で話すことに緊張しなくなったという。言わなければならないことを言うといった、教師と主将という立場の関連性。それらを意識した森川は、ワセダを率いる主将として覚醒していった。
「先輩とじゃれていた」「主将をやる気はなかったし、ワイワイしている方が好きだった」と語る入学当初から、「史上最強の男子主将」と鵜飼信一部長(昭46商卒)に評されるまでに成長した森川。この4年間で得たかけがえのない経験を胸に、未来へと歩みを進める。
(記事 伊東穂高、写真 大久保美佳)