今年73年目を迎えた早大ワンダーフォーゲル部。中心となって部員を率いる大佐古直輝主将(政経4=埼玉・開智)と小林葵主務(文構4=埼玉・早稲田本庄)にワンダーフォーゲルの魅力や最終年である今年度の抱負を伺った。野球やラグビーと比べたらマイナーかもしれないが、死と隣り合わせという過酷な環境の中で「非日常」を味わいながら、常に自分自身と向き合う唯一無二の趣深い競技である。
※この取材は3月30日に行われたものです。
「非日常を味わえる」
目標を掲げる小林(左)と大佐古
――まず他己紹介をお願いします。大佐古さんからお願いします
大佐古 小林葵です。高校は早稲田本庄出身でずっとラグビーをやっていて、そこからワンゲルに入ってくれたという感じです。自分より先に入っていて…1、2ヶ月早いという感じですね。専門は、夏はボートを1年生のときからずっとやっていて、冬は山スキーなどを一緒にやっています。そうですね、73年間の中で一番優秀な主務です、本当に。事務的な面で、一緒の代で本当によかったなと思います。
小林 大佐古直輝です。もともと大学入ったときは準硬式野球部にいたんですけど、いろいろあってワンゲルに来てくれたという感じです。
大佐古 速攻やめました(笑)
小林 一言で言うと、誰よりもワンゲル、アウトドアスポーツが大好きな人間ですね。技術も(部内で)一番ですし、やる気も知識も一番持っていて、いわゆる背中で引っ張るスタイルの主将だなと感じています。
――大佐古さんは、なぜ準硬式野球部からワンダーフォーゲル部に転部なさったのですか
大佐古 (準硬を)悪く言うわけじゃないんですけど(笑)準硬式野球部はちょっと4年間モチベーションを保つのは難しいのかなと思って、他の色々な部活動を見始めたときに、一番リスクと向き合いながらスポーツできる競技って他にないなと思ったので。山岳部ともちょっと迷ったのですが、色々活動の種類があるのと、自分が本当に登山が好きなのかわからなかったので、自転車とかボートとか色々やっているワンダーフォーゲルを選んだという感じですね。
――小林さんも、もともとラグビーをやられていたようですが、大学でワンダーフォーゲルを選んだ理由を教えてください
小林 そうですね、ネガティブな理由から言うとラグビーで色々けがしてしまって、肩も外れやすいみたいなところがあったので。ラグビーは続けるのは難しい、でもスポーツは続けたいししっかりやりたいからということで、球技以外の体育学部はないか探していました。ワンゲルに入った理由としては大佐古と似ていて、色々な競技があって飽きずに4年間捧げられるかなと思って入ったという感じですね。
――仰っていただいたようにワンゲルは色々な競技がありますが、主に何を中心に活動なさっていますか
大佐古 自分は沢登と山スキーをやっています。
小林 ボートで、冬はみんなと同じで山スキーですね。
――普段はどのようなトレーニングをなさっているのですか
小林 普段は、毎週火金でトレーニングをやっているんですけど、火曜日と木曜日は隣の戸山公園で朝7時くらいに集まってランニングとか筋トレとかを1時間ちょっとかな、1限の前にやっています。水曜日と金曜日は空きコマですね、それぞれの空きコマに学館のジムでトレーニングを1時間半やっています。
―― (取材前に)zoomでトレーニングと仰っていたのは…
小林 それはコロナ禍でジムが使えなくなったときに、その水曜日と金曜日の代わりにzoomを使ってそれぞれの家からトレーニングをしようとなったんですけど、結構便利だったので。春休みとか授業のない日はzoomで代用したりしていますね。
――自然は常に危険と隣り合わせだと思うのですが、普段実用的なトレーニングなどはしていますか
大佐古 リスクへの対策としてはまず知識面と技術面の両方を色々やっているという形で。知識面に関しては、後ろにも本がありますけど、ああいう本だったりを使って、要するにお勉強、座学をやっています。その講習会、私たちはスクーリングって呼んでるんですけど、スクーリングを頻度高く一年中やっています。技術面に関しては実際に山に行くだけではなくて、ロープの結び方とか高いところからロープを使って降りたりするスキルを、山以外にも適当な岩があるところで練習してみたりだとか。あとはボートだと、これは技術面のくくりになってくるんですけど平日の朝とかに集まって、多摩川とかでボートを漕いで練習したり、溺れたときの対策訓練みたいなものもやったりしています。
―― ワンゲルの競技者として気をつけていることがあれば教えてください
大佐古 これは自分だけだと思うのですが、自分はクライミングが好きなのでワンゲルからは少し離れるかもしれないですけど、食事にはかなり気を遣っていて。1日に摂取するカロリーとかは一応記録したり、毎食栄養バランスを考えながら食事は取るようにしています。あとは単純にけがをしないように、というのは一番大事かなと思っています。
小林 自分は大佐古と比べたら食事面で気を遣っているということはないんですけど、強いて言うなら体重は登山をやる上では重い分、長期間だとその分負担になってくるので管理するようにはしていますね。ラグビー部では増やせ増やせって言われていたので、こっちではそれが逆で新鮮だなと思っていますね。あとはすごい単純な差ですけど、ラグビー部では筋肉を大きくするプロテインを使っていたんですけど、ワンゲルに入ってからは大佐古の勧めもあって大豆のプロテイン、持久力系の筋肉にするプロテインに変えたりだとか、そういった基本的なことはやっていますね。
――おふたりはもともと違う競技をやられていましたが、それがワンゲルに活きたりすることはありますか
小林 ワンゲルをやっていて、ボートとかだと登山と違って背筋など瞬発的な力を使うので、そういったところで言うとラグビーで培ってきた筋力が活きているのかなと思います。
大佐古 そうですね、2点くらいあって、1点目は基礎体力という面ではもちろん活きていると思います。あとは自分はずっと野球をやっていて、自主練習とかもどういう目的でどれくらいの時間、量をやればいいのかというのは自分でつかめていたと思うので。そういう点ではワンゲルはトレーニングに自主性が求められる部分が多いんですけど、自分の中である程度調整してやり方とかはある程度わかっている状態で続けられているかなという感じです。
――ワンゲルという競技自体、私は大学に入ってから知りました。初めて知る人にもわかるような魅力を教えてください
大佐古 日常を普通に生きている状態では感じられないような感覚だったりを味わえるところが大きいかなと思います。単純に自分の好みだけで言うと「死」を感じられるというか。落ちたらやばいな、とかこのままだと体温が低くなってまずいな、っていう状態ももちろん体験することができますし…雲海は結構観光スポットになってたりすると思うんですけど、毎週見ることができます。自分はそんなに景色が好きなタイプではないんですけど(笑)普通にきれいだなとは思いますし、非日常が毎週のように味わえるところだと思います。
小林 非日常というところは言ってもらったので…自分の感覚になってしまうんですけど、登山をやる上で自分と向き合うところが少しあるのかなと思いました。登山をやっていてきついときは、ひたすら頭の中で悶々と考える時間があったりするんですけど、そういった経験というのは高校まではなかったので。結局非日常にはつながってしまうんですけど、それまで浮かんでこなかった感情としっかり向き合う中で、自分探しって言うんですかね、それにつながるんじゃないかと思いました。そういった面で結構いい活動なんじゃないかなと思います。
――ワンゲル部は他大にもありますが、早稲田ならではのポイントはありますか
小林 1つ、活動の多様さというのは他のワンゲル部に比べて多いのかなと思います。(他大は)登山=山岳部というところが多いと思うんですけど、早稲田は山スキー、ボート、自転車、沢登、トレラン等何でもOKなスタイルなので。本当にこう自然を多様な形で追求するワンゲルらしさというのは早稲田ワンゲルの特徴なのかなと思います。
大佐古 特に感じるのは、コロナで活動を縮小してしまったりスタイルを変えたりしているワンゲルが他大には多い気がするんですが、逆に早稲田のワンゲルはコロナ禍を経ても逆にパワーアップしているというか…それぞれの活動のレベルも上がっていると実感していますし、その活躍の幅も少しずつ拡大していると思うので、そこまでコロナの影響を受けないというか、そこに対して努力して部の発展につなげられたというところでは、早稲田ワンゲルはよかったのかなと実感しています。
――具体的にはコロナ前後で何が変わったのですか
大佐古 できるようになったことで言うと、コロナ中に技術不足とか知識不足だというのは実感して、そこに向かってみんなでアプローチできた部分はあったので。結構コロナを経たことでみんなで問題意識を共有できたのかなというふうには感じています。その結果、私たちの代になってからはかなり挑戦的な、私たちが1年生、2年生のときよりはレベルの高い活動を目指そうという雰囲気にはなっていますし、実際にそれを実現できているのかなと、今までの半年間ではそう思っています。
――普段の生活の中で、ワンゲルをやっていてよかったと思う瞬間はありますか
大佐古 ワンゲルとは少し離れてしまうのですが、私たちの部活はOB会とか年配の方と話す機会が多くて。毎週監督、コーチと呼ばれている一番上がだいたい50歳くらい、一番下が20歳後半くらいの方に、計画書を見せたり部の運営について話し合ったりするミーティングみたいなものがあるので、そこで社会人の方と話す機会が多いですね。それに加えて、今はコロナであまり会う機会がないのですが、73年目の部活なので本当におじいちゃんのようなOBの方と交流できる機会というのは、なかなか普通の学生生活を送っていたらできないことだと思うので…ちょっといやらしい話ですけど、就職活動のときに社会人と話すのは特に緊張せず、という感じだったので(笑)そういうところは人生経験として積めているのかなと思います。
小林 自分は不快耐性がついたのかなと思います。不快な環境への耐性ですね。ワンゲルは想像以上に不快なことがあって、雨でびしょびしょになったところでテントで寝るといったことを経験したので、そういったある種今まで経験したことのない極限よりの不快を感じてしまうと、日常のちょっと不快だと感じていたところがそう感じなくなったり、あれに比べたらましだなという点で少し心持ちが変わったことが、1ついいことかなと思いました。
――逆に部活をしていて好きな瞬間はありますか
一同 うーん(笑)
小林 俺から行く?(笑)自分は部活というか競技自体になってしまうんですけど、登っている時間そのものが好きだなっていうのはありますね。結構景色も好きなんですけど、登って息も荒れて苦しいなと思う時こそ、やっていてよかったなと。あとになって思うのは当然なんですけど、上級生になるにつれてそのとき自体も楽しいなって。登っているとき自体が一番楽しいって思いますね。
大佐古 そうですね、自分としては特殊かもしれないんですけど、もう本当に厳しい状況というか、特に冬山は風がすごい強くて結構吹雪で前が見えなくなったり声が聞こえない状況のときが一番「やってるなあ」という感じがしていいですね。実際そういうときには早く家に帰りたいとしか思わないんですけど、家に帰ってみるといい時間だったなあと思ってしまうという感じですね(笑)山にいると家に帰りたくなるし、家にいると山に帰りたくなる(笑)
――食材はどのように運ばれているのですか
小林 冬山では基本的にお米はアルファ米というものを使っています。極端に言うと水だけで戻るお米です。
大佐古 (実物を見せながら)このようにひびが入っているんですけど、これをお湯につけると普通のお米になります。
小林 アルファ米や乾燥野菜などの乾燥した食材を使って軽量化かつ時短調理をできるようにしています。
――部員の中で基礎体力に差があると思いますが、どうやってカバーされていますか
小林 登山の基本としていちばん体力がない人にベースを合わせるのですが、基本のトレーニングで体力をあげるのはもちろんです。その上でいちばん下の人に合わせた強度で行っています。
大佐古 荷物は個人の物だけでなく、テントなどみんなで持つものもあります。そういった荷物を体力のある部員がもつようにして、ある程度の差は平均的になってくるのかなという感じです。
「限界突破」
部室に掲げられた73代早稲田ワンダーフォーゲル部の抱負
――昨シーズンを振り返ってどのようなシーズンでしたか
小林 いろいろ挑戦したシーズンだったと思います。昨シーズンは自分が最上級生になったシーズンでした。山などで初めてリーダーを務めるなかで、このメンバーでこの活動なら年間方針である「限界突破」できるんじゃないかといろいろ考え、対策し本番に臨み、実際に成功したと言う経験を2、3回積むことができました。そういった意味では挑戦して成功させることができたシーズンだったと思います。
大佐古 あっという間だったと言うのが正直な感想です。極力毎週登山に行くようにしていて、登山に行くだけでなく、その前の情報収集や計画書を作成してOB会に提出して承認をいただき登山に行き、帰ってきて振り返りをするというサイクルを常に繰り返し続けました。その登山の難易度自体も個人的な少人数で行うものから、大人数で大掛かりで何日間も必要なものまでいろいろありましたが、毎週登山をした上さらに勉強や個人的には就職活動も並行して、それなりに大変ではありました。やることが常に降ってきて、それをこなしていくというシーズンでした。
――いちばん印象的だった活動は何でしたか
小林 秋合宿という代の始めの合宿があるのですが、そこで私は藪漕ぎ、要するに登山道が轢かれていない草が生い茂っているところを登っていく形態の登山を取り入れた4日間程の長い登山をしました。もともとのメンバーの実力からするとステップアップが激しいものだったんですが、例年にない練習登山を3回くらい積んで、挑戦して成功しました。その過程もあり最後に成功して下山した時は結構感慨深いものがありました。
――春合宿では3隊に別れたとお伺いしましたが、お2人はどの隊に所属されましたか
小林 春合宿では山スキーの合宿が2つと、九州での自転車の合宿を行いました。山スキーの2隊はそれぞれがリーダーを務めたという形です。
――行程と感想を教えてください
大佐古 自分達の隊は、3月上旬に3日間の予定で山スキーを行いました。場所は部の山小屋がある妙高に起点として、3日間かけて日本百名山にも選ばれている標高2500メートルくらいの火打山を登り、そこからスキーで一気に山麓の町まで下り降りるという計画でした。このルートは日本でも山スキーの有名なルートです。部としては標高差2000メートル以上を一気に滑り降りるという活動形態は今まであまりなかったので、そのルート自体も73年間で初めて成功したルートとなりました。やったことはそこまで大したことだとは思ってないのですが、振り返ってみると早稲田ワンゲルとしては今後の活動の選択肢を拡げられるような成功だったと思います。
小林 王道ルートで滑りを追求した大佐古の隊とは対照的に、私達の隊は外部の記録もないマイナーなルートで歩きに焦点を当ててひたすら歩きました。当初の予定では4、5日間で行くところを実際には2、3日で帰ってきました。景色も大佐古の隊と比べよくないですし、スキーでいちばん楽しい滑降の楽しさもありませんでしたが、私のエゴで歩くことそのものに焦点を当ててひたすら歩いて、体力的にきつい中でも頑張って踏破しました。
――今の部の雰囲気はお2人から見てどのような感じですか
大佐古 そうですね(笑)難しいな。
――学年を超えて仲良くわいわいという感じですか
大佐古 仲はそんなに良くないですね(笑)。いや良いんですけど、高校の部活みたいに休みの日もみんなで遊ぶということはあまりないですね。ドライな感じです。やることはみんなで行くし、気を使うことは全くなく気の置けない関係ではありつつも、わざわざどこかにみんなで遊びに行くことはないですね。下山して帰るときも、現地解散で各々電車に乗ってスマホいじって帰るという感じです(笑)。ベタベタはしないですね。ただ、例年に比べるとみんなストイックというか、各自で目標を持って山以外にも頑張っていたり、クライミングを頑張っていたりする人が多いような印象があります。
小林 自分も同期を見ていてストイックな人が多いと感じます。例年に比べて1つの活動に特化している人が多くて、大佐古もかなりクライミングと山スキー特化という感じで、かなり高いレベルに行ってますし、同期の江森(大希、法4=埼玉・開智)は今度世界大会に出場するレベルなので、ぜひ取材してください(笑)。ラフティングのプロチームに弟子入りして、そのチームの1人としてボスニア・ヘルツェゴビナの世界大会に出てくるらしいので。部内では「へー、頑張って」くらいなんですけど(笑)しっかり評価してあげられたら彼も喜ぶと思います
――今シーズンのお2人の目標を教えてください
大佐古 部全体では夏合宿に向けて自分は沢活動のリーダーなので、沢活動で外から見ても中から見ても良くやったなと思ってもらえるような難易度の高いものを実現したいというところがあります。個人的な目標としてはそうですね、日本オートルートと呼ばれている、日本の山スキーヤーなら誰でも知っているような学生からしたら少し背伸びしたレベルのルートに下級生の1人と挑戦しようとしています。OB会からはかなり安全面の観点から渋られているんですけど(笑)そこはなんとか説得しつつして自分達のレベルを上げて頑張りたいなと思っています。
小林 個人の目標としては6月、10月あたりの正式には卒部した後になってしまうのですが、南アルプスを全山縦走したいと考えています。概算ですけど7、8日間かかるので、そこに向けてしっかり計画を組んで自分の今までのワンゲルの経験を活かして成功して終わりたいなと思っています。夏合宿ではボート隊として長良川という激流の川を通過成功できるように頑張りたいなと思っています。部としては主務なので、73代、最上級生も力あってかなり伸びてきているところなので、この勢いを今後部として繋いでいってほしいなと思っているので、下の代は人数が少なくなるので、できるだけ技術を継承してこのまま成長の勢いを止めずに頑張ってほしい、またそうできるように主務としても努力していきたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 堀内まさみ、槌田花)
小林作のアレンジワセベアとこけし
◆大佐古直輝(おおさこ・なおき)
2000(平12)年6月29日生まれ。173センチ。埼玉・開智高出身。政治経済学部4年。好きなワセメシは田乃休のからあげ。趣味はクライミングと芸人のラジオを聴くこと!ワンゲルへの愛は誰よりも強い、頼もしい主将です!
◆小林葵(こばやし・あおい)
2000(平12)年9月30日生まれ。170センチ。埼玉・早稲田本庄高出身。文化構想学部4年。好きなワセメシは麺爺とKhanaというカレー屋さん。趣味は工作で、ワセベアのぬいぐるみをワンダーフォーゲル風にアレンジ。自身でデザインしたこけしも見せていただきました!