冬の気配を感じさせる風が吹き抜けたこの日、昨年に引き続き慶大日吉記念館で第85回早慶バレーボール定期戦女子戦(早慶戦)が行われた。昨年と異なるのは有観客での開催という点で、関係者を招いての活気ある伝統の一戦となった。秋季関東大学リーグ戦(秋季リーグ)から大きくスターティングメンバーを入れ替え、下級生のみで挑んだ早大はミスが響き2セットを先取される。しかし、第3セットから秋季リーグを戦った上級生らが出場して形勢を逆転。セットカウント3−2(23−25、20−25、25−18、25−11、15−3)で勝利し、早慶戦の連勝記録を35に伸ばした。
日吉まで駆けつけた応援部の声援の中、早大は1・2年生のみで構成された6人がコートに入り第1セットに臨んだ。秋季リーグで出場機会のなかった選手らにとっては今季初の大舞台。動きや表情には緊張がにじみ、4連続失点で試合は幕を開ける。しかし秋季リーグで実戦経験を積んだ秋重若菜(スポ1=大阪・金蘭会)が難しいトスを打ち切り、徳山奈々美(商1=兵庫・加古川西)がクイックを決めると5−4。その後もレフトで途中出場した柴田羽乃香(商1=東京・お茶の水女大付)らが得点し先行するが、18−14としたところでコンビミスから慶大に付け入る隙を与えた。攻撃がかみ合わないまま状況を打開できず、18−19と逆転を許す。20−20と追いついてから秋重と神戸彩有(文構2=長野・松本県ケ丘)が好レシーブを見せるが及ばず、23−25で1989年以来32年ぶりに慶大に得セットを許した。
慶大にとってはこの早慶戦が4年生の引退試合。この試合にかけるという思いの強さ、第1セットからの勢いに経験の浅い早大はのまれた。ブロックを利用して得点され、コートの隙を突くツーアタックも決められて、またも序盤に2−6とリードを許す。そこから秋重にトスを集め、藤井陽奈子(政経1=香川・高松一)もブロックを決めて11−13と迫り、ピンチサーバーとして笹川舞(文1=千葉・渋谷幕張)を投入。しかし粘り強い守備から両翼にボールをつなぐ慶大の前に不利な状況を変えられず、20−25でセットを連取された。
1・2セット目にセッターを務めた南
繋いできた連勝記録を守る意味でも後がない第3セットは、セッターの橋本美久主将(社4=福島・郡山女大付)をはじめ秋季リーグを戦ったメンバーがコートに入った。いきなりエースの中澤恵(スポ3=大阪・金蘭会)がクロスに叩き込み先制するが、慶大も食らいつき序盤はもつれた展開となる。しかし8−8の場面から秋重の連続サービスエースでたたみかかけ、早大が一気に流れを掌握した。ブロックに的を絞らせない橋本主将のトスワークが光り、センターの橋本彩里(教3=東京・早実)の得点で20−15とする。最後は中澤がコースを巧みに打ち分け、25−18でセットカウントを1−2とした。
第4セットは秋季リーグの6戦で培ってきた粘り強さ、決定力を体現するバレーで慶大を圧倒した。第3セットから出場したリベロの橋本菜央(スポ3=神奈川・鎌倉女学院)が正確な二段トスで得点を演出し、山下日和(社3=千葉・市船橋)はクイックに加えて平行に近いトスもライトから打ち切って10−4と先行。13−6からピンチサーバーで出場した神庭有花(先理3=埼玉・市浦和)のエースで勢いに拍車のかかった早大はセット後半も中澤、山下を中心に攻撃を展開した。セットポイントを奪うと慶大のサイド攻撃をシャットアウトし、25−11でフルセットに持ち込んだ。
勝敗の決する第5セットでも、早大のプレーは揺るがなかった。藤井の苦しい体勢からの得点などで5−1とし、長いラリーは粘り強い守備から秋重のバックアタックにつなぎ制した。コートチェンジ後も中澤が冷静に緩急を使い分けて11−2と引き離す。慶大も気迫のこもった守備を見せるが、マッチポイントから山下がクイックを決めて15−3。早大がセットカウント3−2で逆転勝利を収め、日吉記念館に「紺碧の空」が響き渡った。
橋本菜央は丁寧なプレーでボールをつないだ
今年で38回目を数える早慶戦の女子戦は、2セット目までに出場した1・2年生と3セット目以降に出場した上級生中心のチーム、「二つの早大」が明暗を分ける結果となった。2セット目までセッターを務めた南は「焦りが募ってしまった」と振り返り、中澤はそんな下級生らを「失敗を責めるのではなく次に生かしてほしい」という思いで見つめた。この「二つの早大」が技術面、精神面において近い水準のパフォーマンスを発揮することが可能となれば、早大は一つのチームとしてより高みを目指していけるだろう。12月1日からはこのチームで戦う最後の大会、全日本大学選手権(全日本インカレ)がついに幕を開ける。スターティングメンバー、リザーブメンバー、そしてコートに立たない面々がそれぞれに今回の経験を生かして役割を全うし、このチームで喜びを共有できる機会を一戦ずつ、一点ずつ増やしていく。
(記事 平林幹太、写真 橋口遼太郎・西山綾乃)
セットカウント | ||||
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早大 | 3 | 23-25 20-25 25-18 25-11 15-3 |
2 | 慶大 |
スタメン | ||||
レフト 秋重若菜(スポ1=大阪・金蘭会) レフト 笹川舞(文1=千葉・渋谷幕張) センター 桑野祐衣(教2=埼玉・早大本庄) センター 徳山奈々美(商1=兵庫・加古川西) ライト 藤井陽奈子(政経1=香川・高松一) セッター 南里和(商1=東京・女子学院) リベロ 神戸彩有(文構2=長野・松本県ケ丘) |
早慶揃っての集合写真
コメント
中澤恵副将(スポ3=大阪・金蘭会)
――今日の試合を振り返っていかがですか
フルセットになってしまいましたが、全員が出場できました。1・2セット目は取られてしまいましたが、秋リーグで試合に出られなかった選手たちが出る機会ができて、彼女たちにとってすごくいい経験ができたと思います。下級生の選手たちは試合に出られない中でしたが、練習を頑張っていて、しんどいこともあったと思います。早慶戦ではうまくできたこともそうじゃないこともあったと思いますが、私は後輩たちがコートでプレーする姿を見てすごく嬉しかったです。2セットを取られた時点で自分が試合に出ることになったときも、雰囲気を作り直して勝ちにいく気持ちで入ることができました。結果、勝利につながったので良かったです。
――1・2セット目をベンチからご覧になっていかがでしたか
もっと楽しんでプレーしても良かったのかなと思います。この緊張感のある体育館で自分のパフォーマンスを出すことの難しさや楽しさを学べるいい機会だったので、失敗を責めるのではなく次に生かしてほしいという思いで見ていました。久しぶりにコートの外にいて、とても楽しかったです。
――ベンチはとても盛り上がっていましたね
掛け声を決めていて、替え歌も歌ったりしていました(笑)。いつも自分はコートの中にいて、そうしたことはできないので。
――3セット目からの出場という部分で、やりづらさはありませんでしたか
自分たちは2部で戦っているという自信やプライドがあるので、そこは弱気にならずしっかり攻め切ろうと思って入りました。1・2セット目から入り続けている1年生が硬かったので、切り替えるように声を掛けました。出だしこそ良くありませんでしたが3セット目を取ったから4、5セット目を取れたのかなと思います。
――ご自身のプレーを振り返っていかがですか
今日は自分の得意なコースに思いきり振り切れて、自信をもって楽しくプレーできました。
――セットを重ねるごとに調子を上げてきたように見えましたが、いかがでしたか
バレーは流れが試合の展開を大きく左右する競技なのですが、ちゃんとリズムをつかめたので硬さもなく、楽しめました。それが調子をあげられた要因だと思います。
――プレーに加えて姿勢でもチームを引っ張る姿が印象的でした。来年を見据えてプレーされていた部分はありますか
1年生のときはプレーだけに一生懸命になれたのですが、上級生になっていく中で、チームが調子の良いときに決めるのは当たり前ですが、チームのリズムが悪いときに決めるのは難しくて。そこでしっかり打ち勝てる選手ではないといけませんし、それについてはまだまだ足りないなと思っています。全日本インカレでは4年生が最後の試合になるので、エースとして1部のチームと対戦しても結果にこだわらず、1点1点を大切に打っていきたいと思います。来年はキャプテンでエースになりますし、こんなこと生まれて初めてなので、責任感を持ちながらみんなを頼って、団結力のあるチームにしたいです。
――全日本インカレに向けて意気込みをお願いします
全日本インカレではベスト8を目標にしています。ただ強い攻撃をするのではなく、ブロックアウトやフェイントを織り交ぜながら「この相手嫌だな」と思われるようなプレーで得点を重ね、泥臭く粘り強いバレーをしたいと思います。
南里和(商1=東京・女子学院)
――大学に入って初めての早慶戦はフルセットの戦いになりました。振り返ってどんな試合でしたか
2セット目までは1・2年生だけでやるというのはもともと決まっていて、そこに向けて短い時間でしたが練習してきました。2セットを取ってから先輩たちに出てもらってストレートで勝つというのが目標でした。ですが私たちで勝ち切れなくて悔しいです。
――リーグ戦ではピンチサーバーとしての出場がありました。今日はセッターとして出られましたが、自分のプレーの良かったと思う点はどこですか
昨日練習試合があり、そこでもこのメンバーで戦いました。ですが自分の調子が悪くて、そのせいでセットを何度も落としてしまいました。今日は気持ちを切り替えて、落ち着いてやろうという意識で、反省を生かして昨日よりは平常心でできたかなと思います。
――逆にうまくいかなかったと感じる点はありますか
コンビが合わない場面が多かったり、しっかりカットが上がっても私がミスをしてしまうことがありました。そこは敗因の一つになってしまったなと感じています。
――3セット目以降出場した上級生と比べて、コートの雰囲気はいかがでしたか
最初から勝つつもりでいたのですが、だんだん押されてきて、あまり楽しめていませんでした。焦りが募ってしまったという感じです。
――正セッターの橋本主将とプレーできるのも残り少しとなりますが、どんなことを学んでいきたいですか
美久さんは2部リーグでセッター賞をとるようなすごい方なので、技術もそうですし、チームの引っ張り方やトスの組み立て、声掛けの仕方など色々と見て学びたいと思っています。
――最後に、全日本インカレに向けて意気込みをお願いします
チームでベスト8という目標があるので、そこに向けて自分が貢献できるところをもっと伸ばしていけるように、頑張りたいと思います。