【連載】『令和3年度卒業記念特集』第19回 仲濱陽介/男子バレー

男子バレーボール

 

誰かのために

 難しい、プレッシャーだと多くの選手が口にする途中交代でチームを救ってきたのがセッター仲濱陽介(スポ4=愛知・星城)だ。「大学時代が1番苦しかった」。そう振り返る仲濱とって、早大での4年間は彼の人生にどんな物語として刻まれたのだろうか。バレーボール人生を紐解いていく。

 母と姉のバレーボールについて行ったのが、バレーボールとの出会いだった。小学4年生の頃に地元のクラブチームに入り、中学ではバレー部に入部した。高校は強豪校である星城高校に進学。中学とは違い、ずっとバレーボールを続けてきた仲間たちが集まる環境に身を置いた。そこで自分の実力がまだまだ足りないことを初めて痛感し、「自分がもっと成長しなければ」。そんな思いを仲濱に抱かせてくれた環境だった。高校3年生の頃にはU19の日本代表にも選出され、世界を舞台に戦った。この経験が「まだまだ越えなければいけない壁がある」と、一つ上のステージを目指すきっかけとなったという。

 そして高みを目指すべく、全国トップクラスの選手が集まる早大への進学を決める。早稲田でプレーがしたい、松井監督(泰二、平3人卒=千葉・八千代)の下でバレーボールがしたい、そんな憧れを抱き早大バレー部へ入部した。しかし1年目はバレーボールの技術を鍛えること以上に、1年生の仕事や役割を果たすことに精一杯の日々。組織の一員として、チームのために、チームメイトのためにと仕事をこなした。1年生としての役割を終え、2年生になるとようやくバレーボールの技術を向上させることに取り組めるようになる。バレーボールに集中しながら、1つ下の後輩の教育も行った。3年生になるとコロナウイルスがチームを苦しめる。チームでの全体練習は行えず、そもそも試合自体がなくなった。先が見えない不安な状況でも、仲濱がモチベーションをなくさずにいられたのは、当時の4年生の存在が大きかったという。コートに立つ4年生は頼もしく、いつもプレーでチームを牽引してくれた。全日本学生選手権(全カレ)で優勝して引退を迎えてほしい、大好きな『4年生のために』。その一心で頑張り、全カレ優勝という形でその思いを遂げた。

 そして迎えたラストイヤー。今まで先輩たちのために頑張ってきた仲濱が意識していたのは、自分の代でということではなかった。「自分たちのためにではなく、日本一を取って後輩たちに良い思いをしてもらいたい」。『後輩のために』日本一を取る、それが新たな目標となった。しかし順調に進んだ1年ではなかった。4年生として、チームを引っ張る存在として苦しい時期が続いたのだ。今年の早大は、2・3年生が中心のレギュラーメンバーで戦っていた。そのため、コート内に4年生がいない場面も多く、コート上で引っ張ることができない。今までプレーで引っ張ってくれた先輩たちの背中を見てきた仲濱は、どうやって最高学年としてチームをまとめていくか、引っ張っていくか悩み続けた。苦悩はそれだけではなかった。全員がレギュラーを狙って取り組んできた中で、他の選手が出場した方が今の早稲田は強い。そうわかっていながらも、本心ではやはり「自分も試合に出たい」という強い気持ちがあった。しかしその気持ちに反して、頑張っても頑張っても実力が伴ってこない。悩むことが多い1年だった。「苦しかった」。仲濱の口から何度もこの言葉が発せられた。

 セッターとしてチームを支えた

 

 それでも4年間バレーボールを頑張り続けられたのはなぜだろうか。『チームの勝利のために』。その思いが仲濱のモチベーションとなっていたのだ。自分が試合に出たいということ以上に、チームが勝つために自分ができることは何か。そう自分自身に問いかけた時、頭の中が整理され、自然とチームのためにと行動していた。コートに立っていなくても、4年生として試合に出る選手への声かけや、悩んでいる選手の相談に乗ることでチームを陰から支えた。思い返せば、大学1年目からずっと仲濱は『チームの勝利のために』、そして自分だけでなく先輩や後輩に良い思いをしてもらいたい、そのために行動してきていた。

 2021年12月5日、あと一点で早稲田の優勝が決まる。そこには決勝のコートに立つ仲濱の姿があった。仲濱が最後にボールを託したのはエースの大塚達宣(スポ3=京都・洛南)。その大塚が決め、試合終了。早稲田が全カレ5連覇を成し遂げた瞬間だった。これが4年間を通して仲濱に最も強く刻まれているシーンだ。優勝を決める1点で、コートに立っていられたのが嬉しかったのだという。そしてこの瞬間、仲濱の頭に浮かんでいたのは「感謝」だった。チームメイトへ、監督へ、そしてこれまでバレーボールを続けさせてくれた両親へ。感謝の思いが自然と湧き出てきた。

 小学生の頃に出会ったバレーボールとの付き合いももう10年以上となる。大学卒業後はバレーボールの第一線からは退き、趣味として楽しみたいと話す。苦しさの中でも『チームのために』『誰かのために』その精神のもとで行動し、頑張り続けてきた経験は仲濱にとっての財産となるだろう。この4年間で得たものを礎として、仲濱は新たな人生の1ページを刻んでいく。

 

(記事 山田彩愛、写真 鈴木萌)