【特集】『コロナ禍で問う 今の大学バレーの在り方は?』第3回 松井泰二監督

男子バレーボール

 3回目の今回は松井泰二監督(平3人卒=千葉・八千代)。コロナ禍で大会の中止が続いた期間の練習や、松井監督の指導論について伺った。

※この取材は6月20日に行われたものです。

仲間にいいボールをつなぐ練習を徹底

試合で指揮を執る松井監督

――春季関東大学オープン戦が中断され、チームの雰囲気はいかがでしたか

正直、がっかりしていると思います。春のリーグも東日本(東日本大学選手権)もなくなってしまったので、非常にモチベーションを保つのが難しいと感じましたね。このような状況になって2年目になっているわけですから。去年の今頃とは違った意味でうんざりしていると言いますか、目標が見えなくなっているのは事実だと思います。その中で自分たちの目標とする学生日本一を達成するためにはどうすべきかを、ミーティングで話し合ってもらうようにしています。

――実際、落ち込んだ雰囲気はあったのですね

ありましたね。女子バスケも野球などの屋外のスポーツも大会はやっていましたから。その点はあったと思います。4年生が立派だなと思うのは、それを顔に出すことはなかったことですね。動揺はありましたが、言葉や態度に表さなかったのは立派だったと思います。

――大会の中止以外で、コロナ禍による打撃はありましたか

特に下級生に見られたのですが、分かっているはずのことが分かっていないということがありました。私の教育が十分に行き届いていないこともあると思いますが。なので、今できることは何なのかをもう一度考えさせました。あまり周りを見られていないと言いますか、人に目を向けるほど個人の余裕がないんですよね。どうしてもコロナ禍でコミュニケーションが不足したり一緒にいる時間が少なくなったりと制限されているので、まずは全体として今何をすべきかを明確にして一日一日を過ごしていこうという話はしました。

――大会がなくなりモチベーションを保つのが難くなっていたとおっしゃっていましたが、それは見て分かるほどだったのでしょうか

そうですね。プレーの精度もそうですし。バレーは1本目も2本目も仲間に渡すんですよね。仲間にいいボールを送るという基本的な考え方、人のために自分も頑張ることがいい加減になっているのがすごく目立っていました。それは技術の問題ではないんです。仲間のために頑張るんだということができていないのが、一番問題だったと思います。

――先生が指導する上で、周りへの気遣いを大切にしているのですね

そうですね。どんなスポーツでも、人がやるわけですよ。人がボールをコントロールするわけで。特にバレーは、仲間にボールをつないで相手のコートに運ぶ。やはり人間を大きくするというのが、勝つためには一番近いはずなんですよ。それができていれば自然と練習するし、今の雰囲気を感じ取れます。そこを一番練習では見ています。周りへの気遣いができているかとか。

――周りへの気遣いができる人にはどういった特徴がありますか

彼らは生きる価値観がしっかりしていて。見ただけでも分かります。勝つためにバレーボールをやっているわけでなく、自分を鍛えるため、自分の能力をどこまで伸ばせるだろうということに焦点を当てていると思います。なので、自分のプレーもしっかりできているんですよね。自分のこともしっかりできているから、他の人ができていないことも指摘できるんですよね。

――周りを見ることはとても難しいことのように感じてしまいます

難しいです。何かにフォーカスしてみるのと、一歩引いてみて全体を見る。それをやるのがリーダーだと思います。1年生は全体を見なくてもいいし、与えられたことだけをやればいいです。達宣(大塚、スポ3=京都・洛南)が1年生のときは「思いきり打てばいいよ」とだけ言っていましたから。でも学年が上がっていくほど、チームの今の雰囲気とか、「これができていない」というチームの一つの尺度があって、そこへの気づきだとか。難しいですが、リーダーとして当たり前にすべきことです。だから、できていないことに気づいて、それを指摘して改善していくという、方向性をリーダーは示すべきなんです。

――大会のない期間、どのようなところに力を入れて練習してきましたか

基礎やゲーム形式の練習をしっかりやっていました。それは、仲間にいいボールを渡すという目的でやっていました。

――逆にチームの成長を感じられたことはありましたか

3年生が主体となって練習に取り組む期間がありましたが、そのときの3年生は工夫したり励まし合ったり、建設的で主体的な行動がとてもできていました。あと何と言っても仲が良いですね。

――先生が思う、チームが成長できる場面というのはどのようなときだとお考えですか

今まで先輩たちが守ってきたものを受け継ぎたいというのがあって、次の学年も同じように思っていて。やっぱり苦しいと。ディフェンディングってすごく難しいから。だけどそういうプレッシャーがかかる場面は苦しいけど、そういう場面にいることで人は成長できるんだろうなと思います。負けて最初からチャレンジするのもありだと思いますが。その結果、5連覇になることは良いことだと思います。でも、結果を追い求めすぎてしまうと一番大事なことを教育できないですよね。勝ち負けが一番じゃないんです。僕たちプロではありませんし。一人一人が成長した1年であってほしいです。

――このご時世ということもあり、現在スポーツが存在する意味を考えさせられることがあります。スポーツ、特に大学スポーツが存在し続ける意味というのは何だと考えられますか

やっぱり大学スポーツは教育なんですよね。自分の立場からすると、若い人はあまり経験がない。それもコロナで自分がここまでやってきたということを披露する場がない。その披露する場を与えてあげたいですね。それが大学スポーツにおいて、感染や若者の重症化を考えれば大会をさせることができませんでした。だけど最大限に大人たちが感染対策をさせてあげられれば、やらせるべきだと思います。スポーツを通しての人づくりであって、それを見た人にも感動を与えたり、自分の立ち位置を見られたりとか、目には見えないものを与えてくれると思うんですよね。

――オープン戦が始まりますが、チームに期待したいことは何ですか

自分がどのくらいの位置にいるのか、自分たちがやってきたことは通用するのか、何が課題なのかを明確にしてほしいです。そして夏の合宿、秋のリーグ(秋季関東大学リーグ戦)に向けての課題をしっかりだせるような大会にしてほしいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 西山綾乃)

◆松井泰二(まつい・たいじ)監督

千葉・八千代出身。1991(平3)年人間科学部卒業。2012年にコーチとして早大に赴任し、2014年から監督に就任。人間性を高めることを大切にし、優しくも厳しい指導をされている松井監督。「指導者である前に教育者」であるということを常に意識されているそうです。バレーボールだけでなく、人として、組織の一員としての成長も支援しています!