★Today’s Feature 第1回 佐藤玲

男子バレーボール

 第1回目の『Today’s Feature 』はセッターの佐藤玲(社3=東京・早実)。1、2年次はメンバー外となりユニホームすらもらえなかったが、今月から開催された春季関東大学オープン戦(春季オープン戦)から正セッターとなった。そんな佐藤がたどってきた道のりに迫る。

 中学校でバレー部の顧問を務める父の影響で、4歳から競技を始める。小、中学校では全国大会に出場するほどの強豪でプレーした。早稲田実業高校では3年次に東京都の第三代表として全国高等学校選手権(春高バレー)に出場した。大学では第一線で活躍できなくても競技を続けたいと思っていた。だが早大バレー部に入部してから、これまで経験したことのないような苦渋を味わう。周りは世代を代表する選手ばかり。190センチは当たり前の世界で、力も強く動きも速い。対して佐藤の身長は175センチ。全国大会の経験があるとはいえ、周りよりも優れた武器はなかった。ある程度想像はしていたが、やはりつらい現実を突きつけられた。ベンチにすら入れず、チームにいる意味を問い続けた。「自分一人がいなくなったとしても、プレーヤーにとっては何の弊害もない。自分っている意味あるのかな」。辞めたいと思うことは何度もあった。だが、そう思うたび頭をよぎるのは、小、中、高校の部活で引退したときに感じたことだ。「現役のときはつらくて辞めたいと思っていたけど、引退すると身に染みて感じる。バレーボールってすごく楽しかったんだなって」。なかなかプレーする機会はなくても、この先チャンスが巡ってくるかもしれない。そう信じて諦めず練習に通い続けた。

 

ベンチ外となり客席から応援する佐藤(中央)

 全日本大学選手権(全日本インカレ)を終え代替わりしてからは、練習試合で途中出場する機会が増えた。努力すれば少しでも試合に出られるという希望が持てた。だが、2年生に進級するタイミングで新型コロナウイルスが猛威を振い、試合はおろか、活動すらできなくなった。頑張りたい気持ちをどこにも向けられずにいた。活動が再開してからは折れかけていた気持ちを何とか持ち直し、ベンチ入りのチャンスを信じて努力を重ねてきた。しかし大会でユニホームを着ることはなかった。応援や雑務に回り、フィールドに立つことすらできない。そんな自分を惨めに感じ、試合が続くにつれてプライドを傷つけられた。

 周りのレベルの高さに圧倒されて強い劣等感を感じながらも、必死に食らいついてきた。3年生になり、ようやく今までの努力が花開いた。春季オープン戦から正セッターに。コートに立つ喜びをかみしめた。「自分は世代を代表する選手でも、体格に恵まれている選手でもない。そんな自分でも強いチームで戦える」。

 

正セッターとしてトスを上げる佐藤

 だが同時に、全日本インカレで4連覇した早大でレギュラーメンバーになることは大きなプレッシャーも伴う。勝てばスパイカーのおかげで、負けたらセッターの責任。そう思ってプレーしてきたからだ。それでもこのポジションは誰にも譲りたくないと話す。「スポットが当たるのはいつもスパイカーで、セッターは目立つわけではない。でも気持ちよく得点を決めたスパイカーが輝くことが自分にとっては一番うれしい」。

 下級生の頃は応援や雑務に回り、自身に光が当たることはなかった。苦しみもがいてやっとスタメンの座をつかみ取ったが、脚光を浴びることを望んでいるわけではない。スパイカーを輝かせるセッターになるべく、今日もトスを上げ続ける。

(記事 西山綾乃 写真 平林幹太、西山綾乃)