東京から箱根へーー。 ついに明日、長距離学生ランナーの大舞台・東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根)が号砲とともに幕を開ける。「総合3位以内」を掲げ、打倒3強(国学院大、駒大、青学大)に挑んだ前回大会。早大は山口竣平(スポ2=長野・佐久長聖)や工藤慎作(スポ3=千葉・八千代松陰)らが区間上位の好走を見せ、往路を7年ぶりとなる3位で折り返した。復路では、初出走ながら山下りで奮闘した山﨑一吹(スポ3=福島・学法石川)の後を4年生4人がつなぎ、総合4位でフィニッシュした。「箱根総合優勝」という目標を掲げて迎えた今季の駅伝シーズン。初戦の出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)では、山口智規駅伝主将(スポ4=福島・学法石川)が区間賞を獲得し、即戦力ルーキー3人も出走。チームは14年ぶりの表彰台に立った。続く全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では、主力を複数欠き、5位に終わったものの、工藤が区間賞を獲得したほか、チームとして早大新記録を樹立するなど、箱根へ向けて確かな手応えをつかんだ。今大会で目指すのは、2011年以来15年ぶりとなる総合優勝だ。本記事では、12月29日に発表された暫定区間オーダーをもとに、箱根路に臨む早大の布陣を紹介する。
「美しくも過酷な217・1キロ」。そのスタートを切る1区に登録されたのは吉倉ナヤブ直希(社2=東京・早実)だ。2年連続のエントリーとなるが、このまま出走すれば箱根は初出走となる。今季は春先にアキレス腱(けん)を故障し、長期的な痛みに悩まされたが、6月の日本学生対校選手権(日本インカレ)では1500メートルで8位入賞。夏以降も着実に練習を積み重ね、出雲で3大駅伝初出走をつかんだ。出雲では1区区間10位と悔しさをにじませたが、全日本では4区区間6位と好走。ロングへの対応と主力への成長を印象づけた。他大からは荒巻朋熙(青学大)、松井海斗(東洋大)や兵藤ジュダ(東海大)らがエントリーされ、ラストは激しいスピード勝負が予想される。ポイントは、平坦で直線的なコースが続いたあとの17キロ過ぎ、六郷橋だ。自慢のスピードを磨き、距離を踏んできた成果を結果で示してきた吉倉に怖いものはない。レースの流れを大きく左右する重要な1区で、吉倉はどのような走りを見せるのか。駅伝主将の待つ鶴見中継所へ、先頭で飛び込みたい。

出雲1区を走る吉倉
各校のエースがしのぎを削る「花の2区」には、3年連続山口智がエントリーされた。駅伝主将に就任した山口智は、さらなる強さを求めてオーストラリア・メルボルンへ単身で約2カ月間の遠征を敢行。6月の日本インカレでは日本人初となる1500メートルと5000メートルの2冠を達成し、7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ千歳大会では5000メートルで日本学生歴代3位、早大新記録となる13分16秒56をマークした。その驚異的な強さは駅伝シーズンに入っても健在だ。出雲では2区を任され、大学入学後初となる区間賞を獲得した。今大会2区には、上原琉翔(国学院大)や溜池一太(中大)らが名を連ね、当日変更で黒田朝日(青学大)が投入される可能性も高い。2年時は区間4位、3年時は区間12位。酸いも甘いもかみ分けてきた舞台が、再び巡ってきた。大学ラストイヤー、駅伝主将として、常に「1」を追い求めてきた山口智の視界に、もう「1位」以外は映らない。

全日本7区を走る山口智
各校のエースからタスキを託されたランナーが街を抜け、湘南の海へと向かう3区。早大からは2年連続で山口竣がエントリーされた。前回大会は、スタート直後1分以上の差があった谷中晴(駒大)や山本歩夢(国学院大卒)に迫り、区間3位と上々のデビューを飾った山口竣。4月の織田幹雄記念国際陸上競技大会で高校時代以来となる5000メートルの自己記録を更新し、関東学生対校選手権(関東インカレ)では同種目で8位入賞を果たした。しかし、出雲直前に大腿骨疲労骨折を発症し、以降レース出走は回避。競技から離れた時間は、「走る理由」を見つめ直す時間になった。3区には、1万メートル27分台の自己記録を持つ宇田川瞬矢(青学大)や本間颯(中大)ら実力者がエントリーしている。正面に富士山、左に相模湾を臨む箱根駅伝屈指の景勝地・3区。その舞台で、山口竣は早大にとっての「最高の景色」を描く。

日本選手権で走る山口竣
海から山へとつなぐ往路終盤の要所・4区には、3大駅伝初選出となる武田知典(法3=東京・早実)が登録された。他大には、ハーフマラソン1時間1分46秒の記録を持つ村上響(駒大)や、出雲4区で区間新記録を樹立し2連覇に貢献した辻原輝(国学院大)ら強力な顔ぶれがそろう。3月のACN EXPO EKIDENで大学入学後初の駅伝を経験したが、夏以降は故障や体調不良に苦しみ、思うような練習を積めない時期が続いた武田知。それでも箱根直前の20キロタイムトライアルで結果を残し、箱根の切符をつかみ取った。高校から陸上競技を始めたにも関わらず層の厚さを増す早大の箱根メンバーに滑り込んだ武田知の最大の武器は、正真正銘の「粘り強さ」だ。集団から離されても一人で淡々とペースを刻み、厳しい気象条件の中でも歩みを止めない我慢が求められる4区は、まさに適役と言える。同期の工藤へ良い位置でタスキをつなぐため、迷いなく前を向き、初の箱根路を走り切る。

早大競技会で走る武田
往路の最難関、5区・山登りには3年連続で工藤が挑む。前回大会は6位でタスキを受け取ると、国学院大、駒大、創価大を次々と抜き去り、区間2位の快走でチームを往路3位へと押し上げた。今季の充実ぶりも際立つ。2月の日本学生ハーフマラソン(学生ハーフ)では、日本学生歴代最高記録を更新する1時間0分06秒で優勝。7月のワールドユニバーシティゲームズも大会新記録で制し、世界の舞台で力を証明した。駅伝シーズンに入っても快進撃は続き、全日本では8区日本人最高記録を30年ぶりに更新し、区間賞を獲得している。今大会の5区で区間賞を争う最大のライバルは、斎藤将也(城西大)と見られる。日本、そして世界を相手に結果を残してきた工藤の走りは別格だ。狙うは区間記録更新。1月2日、早大の誇る「山の名探偵」は、箱根の頂で「山の神」へと名を刻むか。

全日本8区を走る工藤
今年も復路の口火を切るのは山﨑だ。3大駅伝初出走となった昨年は区間5位。山下りへの高い適性を、その走りで鮮烈に印象づけた。一方で、レース直後に大きな外傷はなかったものの、感覚と実際の走りのズレに悩まされ、トラックシーズンは思うような結果を残せず。転機となったのは、Bチームで過ごした夏合宿だ。競技に真摯に向き合う仲間たちの姿を前に、自分への甘さを捨て、「箱根を走った選手として、チームを引っ張らなければならない」と覚悟を固めた。その意識の変化とともに状態は着実に上向き、夏以降は復調。本来の走りを取り戻し、全日本ではエントリメンバーに山﨑の名が戻ってきた。練習も昨年以上に積めており、心身ともに準備は万全だ。6区には区間賞最有力候補と目される伊藤蒼唯(駒大)が登録されている。昨年、箱根山中でその背中を追うことになった山﨑にとって、伊藤は明確なライバルだ。最高目標に掲げるタイムは57分台。タイムを稼ぐ必要のある序盤の登りとラスト3キロの平地をポイントに据える。下りのスピードを武器にしつつ前との差を見極めて攻められる、慎重さと大胆さを併せ持つ点が、山﨑の強みだ。念願の区間賞、チームの総合優勝、そして高校時代に果たせなかった山口智先輩の胴上げ。すべてをかなえるため、山﨑は躍動感あふれる走りで、生き生きと山を駆け下りる。

「The Road of WASEDA」を走る山﨑
小刻みなアップダウンが続き、気温の変化も激しい7区。指揮官が登録したのはルーキーの多田真(人1=京都・洛北)だ。大学入学後の5月に病気やケガに見舞われたが、主力に交じって練習を積んだ夏合宿を経て、メキメキと力をつけてきた。全日本ではエントリーメンバーに選出され、11月の上尾ハーフマラソン(上尾ハーフ)では初ハーフながら63分台を記録。着実に結果を積み上げている。暫定エントリーでは5強(国学院大、駒大、青学大、中大、早大)の中で主力を登録している大学は見当たらず、当日変更の動向が勝負を左右しそうだ。「箱根駅伝で出走し、早稲田の総合優勝に貢献する」。早大進学を決めた日から胸に刻んできたその目標へ。多田はただ真っ直ぐに、その一歩を箱根路へ踏み出す。

「The Road of WASEDA」を走る多田
上り坂で体力を削られるタフな8区には、宮岡凜太(商4=神奈川・鎌倉学園)が満を持してエントリーされた。昨年は、念願だった箱根初出走へ万全の準備を整えていたものの、当日変更はかなわず、絶望感と無力感を味わった。その思いを晴らすかのように、2月の学生ハーフでは61分台を記録。その後はアキレス腱(けん)の痛みに苦しんだが、全日本で自他ともに待望の大学駅伝デビューを果たした。8区には、3年連続の区間賞を狙う塩出翔太(青学大)という強敵が潜んでいる。宮岡にとって箱根は「恩返しの場」。8区終盤、ラスト数キロ地点には宮岡の実家がある。泣いても笑っても、最初で最後の箱根路。地元の声援を背に、憧れの舞台で凜々しい走りを見せたいところだ。

全日本6区を走る宮岡
優勝争い、シード権争いが幾度となく繰り広げられてきた最長区間の9区には、宮本優希(人3=智辯学園和歌山)がエントリーされた。今大会が箱根初選出となる。今季は春先にケガに悩まされ、大学入学後初の長期離脱を経験。トラックで次々と記録を更新していく同期の姿を横目に、走ることができない自分へのもどかしさを抱える日々が続いたが、仲間の存在に支えられ這い上がってきた。夏合宿明けの「The Road of WASEDA」では5キロ14分20秒の好走を披露し、全日本で初の3大駅伝エントリーメンバー入りを果たした。9区には、全日本5区で区間4位と力走した佐藤有一(青学大)や、ハーフマラソン62分台の記録を持つ白川陽大(中大)らが居並ぶ。地道な積み重ねを続けてきた努力家の宮本。持ち前の粘り強さで、大手町へ向かう最終ランナーを勇気づける走りを。

「The Road of WASEDA」を走る宮本
大歓声を受けながら、仲間が待つゴールへと向かう最終10区には、瀬間元輔(スポ2=群馬・東農大二)がエントリーされた。昨年は同期の山口竣へ3区当日変更となり、悔しさを胸に刻んだ。3月のACN EXPO EKIDENで臙脂(えんじ)のタスキデビューを果たすと、勢いそのままに5月の関東インカレではハーフマラソンに出場。苦手意識のあったトラックにも真正面から向き合い、5000メートル、1万メートルで自己記録を更新した。11月の上尾ハーフマラソンでも63分台の自己ベストをマークし、己の殻を破り続けてきた。何が起こるか最後まで分からない今年の10区。他大からは折田壮太(青学大)や濵口大和(中大)ら主力が名をそろえる。1年時から3大駅伝すべてにエントリーされながら、いまだ本番出走はない瀬間。届きそうで届かなかった舞台。そのもどかしさに終止符を打ち、笑顔で大手町にタスキを届けたい。

関東インカレで走る瀬間
箱根では、1日につき最大4人まで、往復で最大6人の当日変更が可能である。補欠には、まず出雲で全員が出走を果たした3人のルーキーが控える。鈴木琉胤(スポ1=千葉・八千代松陰)は1年目のトラックシーズンから結果を残してきた存在だ。しかし駅伝では、出雲区間5位、全日本区間4位と、本人にとって納得のいく内容ではなかったはず。先頭が似合う男が、初の箱根路でどのような走りを見せるのか。鈴木琉の本領発揮が待たれる。アップダウンを強みとする堀野正太(スポ1=兵庫・須磨学園)も、1年目から虎視眈々と出走の機会をうかがう。出雲、全日本で味わった悔しさを、箱根路で晴らしたいところだ。また、出雲以降レースから遠ざかっている佐々木哲(スポ1=長野・佐久長聖)の復帰にも目が向く。数々の佐久長聖高の先輩たちが活躍してきた舞台に足を踏み入れ、大学駅伝での栄冠をつかみ取りたい。

直前公開取材で撮影に応じる1年生3人
全日本で3大駅伝デビューを果たした小平敦之(政経3=東京・早実)の動向も見逃せない。春先には宮古島大学駅伝やACN EXPO EKIDENで駅伝経験を積み、上尾ハーフではペース走ながら62分台前半をマーク。記録も経験値も着実に伸ばしてきた。語り口は長いが、走れる距離も長いのが小平の魅力。臙脂(えんじ)のユニホームに身を包み、初の箱根路へと踏み出したい。

全日本5区を走る小平
そして補欠には、4年生が2人控えている。3年連続でスターターを務めてきた間瀬田純平(スポ4=佐賀・鳥栖工)は、伊勢路で区間賞とタイム差なしの2位。結果は惜しくも、存在感は際立った。4年連続で1区を担うのか、それとも別の区間なのか。「間瀬田純平物語〜最終章〜」は、いったいどの区間で紡がれるのだろう。現役最後となる魂の走りを、目に焼きつけたい。

全日本1区を走る間瀬田
また、一般入試で早大に進学した伊藤幸太郎(スポ4=埼玉・春日部)は最初で最後の箱根路の切符をつかんだ。ラストイヤーは東京六大学対校陸上5000メートルで臙脂(えんじ)デビューを果たすと、関東インカレではハーフマラソンで臙脂(えんじ)を背負い、急成長を遂げた。上尾ハーフでは早大歴代10位となる1時間2分14秒を叩き出し、調子は常に上向いている。記録が伸びず、危機感を抱いた日もあった。選手としての夢が断たれ、サポートに回る自分の姿が頭をよぎったこともある。それでもすべてを乗り越えてきた伊藤幸。幼いころからの夢に向かってその道のりを一歩一歩自分の足でつないできた。夢の終着点はもう目の前にある。

関東インカレで走る伊藤幸
また、総合優勝を狙ううえで、国学院大、駒大、青学大、中大といった早大を除く5強のオーダーにも注目だ。3大駅伝初戦の出雲を制した国学院大は主将の上原琉翔を2区、辻原輝を4区に配置。野中恒亨、青木瑠都、高山豪起、尾熊迅斗といった主力は補欠に回っており、当日変更の動向が鍵を握る。大学史上初の箱根総合優勝を成し遂げられるか。全日本を制した駒大は、伊藤蒼唯を除く4年生4本柱の帰山侑大、佐藤圭汰、山川拓馬が補欠登録。昨年往路を走った桑田駿介、谷中晴も補欠となり、指揮官の大胆な采配が結果を左右しそうだ。3連覇を狙う青学大は、荒巻朋熙を1区、宇田川瞬矢を3区、塩出翔太を8区に配置するなど、経験豊富な4年生を軸に据えた布陣。エース・黒田朝日が3年連続で2区を託されるのか。山登り・山下り経験者が卒業した今年、誰がその大役を担うのかも大きな見どころとなる。1万メートル27分台のランナーを6人擁する中大も侮れない。2区に溜池一太、3区に本間颯を据え、序盤から主導権を握る構えだ。復路には白川陽大、濵口大和を配置し、補欠には吉居駿恭、岡田開成が控える。隙のないオーダーで、30年ぶりの頂点をつかめるか。
優勝候補が5校並び立つ今大会は、わずかな綻びが命取りとなりかねない。優勝候補が一転して5位以下に沈む可能性すら孕(はら)む。1ミリの油断も許されない、緊張感に満ちた2日間となるだろう。出雲を制し、国学院の名を『ばばちかす』ことを成し遂げてきた国学院大。藤色を輝かせるべく、『原点』に立ち返り、『夢』へと歩みを進めてきた駒大。『王者の挑戦』を掲げ、『俺が青学を勝たせる』という強い覚悟を胸に連覇を見据える青学大。『真紅の歴史に新たな1を』加えるため、選手一人一人が意志をもって努力を重ねてきた中大。そして『ONE早稲田』。強敵ひしめく箱根路へ、早大は一丸となり、真正面から頂点を奪いにいく。

直前公開取材で撮影に応じるエントリーメンバーと花田駅伝監督
「来年は総合優勝を目指す」。昨年の箱根後、花田勝彦駅伝監督(平6人卒=滋賀・彦根東)はそう言い切った。優勝を目指すためには、往路でいかにライバルをねじ伏せ、山でどこまで貯金を築けるか。その積み重ねが、結果へとつながる。「箱根総合優勝」ーー。それは「1」が並ぶ111代目が追い求める、最後のピースだ。1月3日、臙脂(えんじ)は箱根路の頂点に立ち、111代目早稲田の物語は完成を見る。
(記事 佐藤結)
区間オーダー
