【競走】「強い早稲田」復活へ 新戦力を加えた充実の布陣で日本一奪還なるか/全日本大学駅伝展望

駅伝

  11月2日に号砲を控える全日本大学駅伝対校選手権(全日本)。大学駅伝日本一を懸け、名古屋・熱田神宮から三重・伊勢神宮の計8区間、106・8キロを27チームが駆け抜ける。優勝候補の一角を担う早大の目標はもちろん優勝。全日本制覇となれば2010年以来の快挙だ。10月の出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)では1位と38秒差の2位でゴールした早大。経験豊富な主力に期待の新戦力が加わり、「強い早稲田」は復活の狼煙を上げている。チーム一丸となり、悲願の日本一なるか。本記事では、10月31日に発表された暫定区間オーダーをもとに、レースの展望を早大を中心に紹介する。

  勝負の流れを左右する9・5キロの1区。早大のスターターを務めるのは間瀬田純平(スポ4=佐賀・鳥栖工)だ。抜群のスパート力を誇る「1区職人」間瀬田は4年連続で全日本の1区に出走。2年前は区間2位の快走を見せたが、昨年は状態が上がらずに区間18位と悔しい走りとなった。それでも今年の箱根では1区区間4位と好走するなど、万全な状態の間瀬田に対する信頼は厚い。先頭でタスキを渡し、昨年の雪辱へ。早稲田の駅伝は間瀬田から始まる。

 順位が大きく入れ替わる2区には世代トップのゴールデンルーキー・鈴木琉胤(スポ1=千葉・八千代松陰)がエントリーした。先月の出雲が大学駅伝デビュー戦となった鈴木琉。各校のエースが集う3区を走り、区間5位の力走を見せた。その一方で日本人トップを逃し、首位を明け渡すなど本人としては悔しさも残る駅伝に。出雲は暑さに苦しんだが、全日本では気温の上がり切らない2区での出走となる。出雲以上のさらなる好走に期待だ。

  前半の重要区間である3区には、こちらも1年生の堀野正太(スポ1=兵庫・須磨学園)が起用された。ロード巧者の堀野は夏合宿から調子を上げ、9月の「The Road of WASEDA」で5キロ13分49秒をマーク。猛アピールで出雲は5区に選出された。結果は区間7位と本人としては振るわなかったが、花田勝彦駅伝監督(平6人卒=滋賀・彦根東)は「攻めの走りは良かった」と称賛。強敵が集うであろう3区でも攻めの走りでチームの順位を押し上げる。

 4区を走るのはスピードランナーの吉倉ナヤブ直希(社2=東京・早実)。出雲では持ち前のスプリント力を買われ、1区での出走を果たした。しかしレースは残り1キロ付近から順位を落とし、区間10位。周りとの駆け引きに苦しみ、悔しい結果となった。リベンジに燃える自身2度目の大学駅伝。爆発的なポテンシャルを見せつけ、本領発揮といきたいところだ。

 比較的平坦な5区12・4キロには小平敦之(政経3=東京・早実)が選ばれた。大学入学後は不調が続いていた小平。それでも今年3月に3年半以上ぶりの自己ベストをマークすると、9月の「The Road of WASEDA」では5キロ13分58秒と、自身初の13分台を叩き出した。ここまでの苦境を乗り越え、笑顔の三大駅伝初出走へ。自身の走りを貫き、後半区間のスタートダッシュを切りたい。

 各校の選手層が試される6区には伊藤幸太郎(スポ4=埼玉・春日部)が名を連ねた。今年1月の東京ニューイヤーハーフマラソンでは1時間3分18秒を記録するなど、安定感のある走りで着実にアピールを続けてきた。当日変更がなければ最終学年にして初の三大駅伝出走。持ち前のスタミナを生かし、エース区間につなぎたい。

 エース区間の7区、17・6キロには山口竣平(スポ2=長野・佐久長聖)がエントリー。昨年は全日本5区3位、東京箱根間往復大学駅伝(箱根)3区3位と1年生ながらチームの主力として活躍した。今年の出雲はエントリー外となったが、本来の実力は世代屈指。未来のエースは全日本で復活なるか。

 今まで数多くの逆転劇が生まれてきた、最終区間にして最長区間の8区。早大は2年連続で工藤慎作(スポ3=千葉・八千代松陰)をアンカーに起用した。昨年の全日本では8区で区間3位の快走を見せた「早稲田の名探偵」。先月の出雲では区間3位の走りで首位を猛追したが、目の前で国学大の優勝を見届ける悔しさも味わった。「2位で悔しいと思える早稲田が帰ってきた。次こそは頂点を狙う」と工藤。トップでゴールテープを切り、代名詞の「名探偵コナンポーズ」をさく裂させたい。

 また、全日本は当日に補員から3名までのエントリー変更が可能。昨年の早大は1名の当日変更を行っている。補員の中で一際目立つのはエース・山口智規駅伝主将(スポ4=福島・学法石川)だ。トラックシーズンでは日本インカレ(日本学生対校選手権)で二冠を獲得し、7月には5000メートルで日本学生歴代3位の記録を叩き出した今季絶好調の山口智。先月の出雲駅伝では2区区間賞を獲得し、圧巻の9人抜きでチームを首位に押し上げた。日本一奪還には山口智によるエースの走りが欠かせない。加えて、ハーフマラソン61分台の自己ベストを持つ宮岡凜太(商4=神奈川・鎌倉学園)も補員に登録。今までエントリーメンバーには選ばれながらも出走を逃してきた宮岡だが、悲願の大学駅伝デビューはあるだろうか。他には今年の箱根6区を走った山﨑一吹(スポ3=福島・学法石川)、ロードに強い瀬間元輔(スポ2=群馬・東農大二)、スピードランナーの1年生、山田晃央(商1=東京・早実)が補員に名を連ねる。各校が知略を巡らせる当日変更の駆け引きにも注目だ。

 優勝を争うライバル校も紹介したい。前回の全日本、そして今年の出雲の王者である国学院大は、青木瑠郁(4年)や野中恒亨(3年)といった主力選手を補員に配置。優勝候補筆頭と呼ばれる布陣だが、その全容は大会当日まで分からない。また、伊勢路に無類の強さを誇る駒大は終盤区間重視のラインナップ。7区に5000メートルの屋内日本記録を持つエースの佐藤圭汰(4年)、8区に同区間の日本人歴代2番目のタイムを持つ山川拓馬(4年)を起用した。駒大の持つ史上最多を更新する通算17度目の優勝へ、勝負の行方は最後まで分からなそうだ。出雲ではまさかの7位に終わった箱根王者・青学大は2区から5区を4年生がつなぐ経験豊富なオーダー。エースの黒田朝日(4年)は補員に選ばれたが、重要区間での出走が予想される。

 区間エントリー時点の全日本初出走選手は5人とフレッシュなメンバーをそろえ、爆発的なスピードで日本一を目指す早大。一方で山口智が「若いチームなので、少し距離に対して不安」と語るように、下級生たちには長い距離への適応が求められる。強い臙脂(えんじ)を取り戻し、名門復活へ。伊勢路から「早稲田黄金期」の始まりを告げる。

(記事 石澤直幸)

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