狙うは7年ぶりの総合3位以内 笑顔でタスキを大手町へ/箱根駅伝展望

駅伝

 1月2日。ついに明日、学生ランナーたちが「美しくも過酷な217・1キロ」を駆け抜ける、東京箱根間往復大学駅伝(箱根)が幕を開ける。前回大会は佐藤航希(令6スポ卒=現旭化成)や北村光(令6スポ卒=現ロジスティード)、伊藤大志駅伝主将(スポ4=長野・佐久長聖)ら主力を欠きながらも、チーム一丸となり総合7位でまとめた早大。3大駅伝総合3位以内という目標を引っ提げて迎えた駅伝シーズンの初戦・出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)では序盤の出遅れが響き6位という結果に。続く全日本大学駅伝対校選手権(全日本)でも序盤は同様の格好となったが、下級生の好走が目立ち、5位と、定位置から抜け出す、収穫の多い駅伝となった。今大会では2018年以来7年ぶりとなる総合3位以内を目指す。本記事では、12月29日に発表された暫定区間オーダーをもとに、さまざまな思いを胸に箱根路に挑む早大の布陣を紹介する。

 1区にエントリーされたのは間瀬田純平(スポ3=佐賀・鳥栖工)。出走となれば、3年連続でスターターを務めることになる。前回大会はスティーブン・レマイヤン(駿河台大)や篠原倖太朗(駒大)が序盤からハイペースでレースを展開する中、後方の大集団で粘りの走りを見せ、トップと51秒差の12位でタスキをつないだ。上級生となった今年は、出雲は未出走、全日本は区間18位と、不振にあえぐ駅伝シーズンとなったが、箱根に向けてレースへの準備を見つめ直し、練習を積んできた。総合3位以内を狙うには、「間瀬ダッシュ」が欠かせない。注目すべきは、苦い経験を味わった間瀬田の、「負けん気の強さ」が表れたラストの競り合いだ。3強の宇田川瞬矢(青学大)、帰山侑大(駒大)に引けを取らず、いい位置でタスキを渡したい。

全日本で1区を走る間瀬田

  各校のエースが名を連ねる「花の2区」には、昨年に引き続き山口智規(スポ3=福島・学法石川)がエントリーされた。昨年は4位へと順位を8つ押し上げ、早稲田記録を29年ぶりに更新。エースとしてのさらなる躍進が期待された今季は、日本選手権5000メートル、1万メートルでの入賞と学生記録の樹立を目標に掲げたが、うまくかみ合わず、理想と現実とのギャップに苦しんだ。駅伝シーズン初戦の出雲でも区間12位と不本意な結果となったものの、11月に行われたNCG(NITTAIDAI Challenge Games)では学生トップランナーの証である1万メートル27分台に突入し、ようやくノってきた。2区には篠原や平林清澄(国学院大)、吉田礼志(中央学院大)、ヴィクター・キムタイ(城西大)など、名だたるメンバーが登録されている。目標は65分台。さあ、改めてエースとしての覚悟を決め、「圧倒」しようか。次期駅伝主将が強豪のライバル相手に真っ向勝負を挑む。

前回の箱根で2区を走る山口智

 街を抜け湘南の海へと出る3区には瀬間元輔(スポ1=群馬・東農大二)がエントリー。高校1年生時の全国高等学校駅伝競走大会(都大路)では5区で区間賞を獲得し、ロードに自信を持つ期待のルーキーだ。春先は苦手意識のあるトラックで思うような結果を残せなかったが、夏合宿を100パーセント消化し、出雲・全日本では1年目からメンバー入り。調子はよかったものの、出走はかなわず、悔しさを募らせた。3区には、今季の学生駅伝個人3冠がかかる鶴川正也(青学大)、全日本MVPの山本歩夢がエントリーされ、激しい区間賞争いが予想される。果たして、箱根で3大駅伝初出走なるだろうか。ロードの瀬間が、「早稲田の駅伝漢」へ、その第1歩を進める。

上尾シティハーフマラソン(上尾ハーフ)を走る瀬間

 海から山へつなぐ、往路終盤の重要区間4区には長屋匡起(スポ2=長野・佐久長聖)が登録された。他大からは、前回大会10区区間賞の岸本遼太郎(東洋大)やスーパールーキー・桑田駿介(駒大)、ハーフマラソンでの実績を持つ白川陽大(中大)がエントリーしている。長屋はルーキーイヤーの昨年も4区にエントリーはされたものの、ケガと体調不良が重なり出走はできず、箱根を走るのは今回が初となる。オーバートレーニング症候群を乗り越え迎えた駅伝シーズンでは、出雲は区間3位、全日本はエース区間の7区で区間5位と、いずれも区間上位の好走。長い距離と単独走を得意とする長屋であれば、単独走が予想され、気候条件に関してもタフな状況でも、冷静な走りを見せてくれることだろう。ひたむきに走り込んできた自分を信じ、小田原中継所へと「真っ先に走れ」。

出雲の5区を走る長屋

 5区・箱根の山上りに臨むのは工藤慎作(スポ2=千葉・八千代松陰)だ。前回大会では、雨が降りしきる山中を臆(おく)することなく駆け上がり、区間6位の快走で総合5位へと浮上。「山の名探偵」として一躍その名を広め、悩めるワセダの山問題を解決した。箱根から2カ月後の日本学生ハーフマラソン選手権(学生ハーフ)では3位を獲得。出雲ではエースが集う最長区間6区で篠原や太田蒼生(青学大)を凌ぐ区間2位の走りをみせ、エース格への成長を感じさせた。全日本でもアンカー・8区で区間3位と好走し、工藤の快進撃が続いている。今大会の5区には若林宏樹(青学大)、山川拓馬(駒大)ら、強力なクライマーが名をそろえている。昨年よりも一回り以上、たくましく強くなった「早稲田の名探偵」。「アグレッシブに」山を駆け上がり、3強崩しという次なる問題を解決してほしい。

全日本の8区を走る工藤

 復路の先陣を切る山下りの6区にエントリーされたのは山﨑一吹(スポ2=福島・学法石川)。出走となれば、箱根初出走にして3大駅伝デビューとなる。ルーキーイヤーの昨年は、関東学生対校選手権(関カレ)で初エンジとなると、U20日本選手権で5000メートルで6位入賞。今季はグランプリシリーズに2度出場し、外国人選手や実業団選手に食らいつく走りを見せ、ハイレベルなレースを経験した。トラックでの活躍が光るスピードランナーだが、高校2年時の都大路ではアンカーを務め、区間3位を獲得するなど、ロードでの実績も申し分ない。1年時では3大駅伝全てのメンバー入りをつかみ、今年の全日本関東選考会でも1組で予選通過に貢献したが、いまだ本選は走れていない。この1年、貧血や発熱に悩みながらも、「克己心」を持ち、前を向いてきた山﨑。持ち前のスピードにこれまでの思いを乗せて、夢舞台を「今一心」に駆け下りよう。99回大会区間賞の伊藤蒼唯(駒大)や前回区間2位の野村昭夢(青学大)と互角に渡り合い、復路で「一番に芽吹く」のはこの男だ。

全日本選考会1組を走る山﨑

 小さなアップダウンが続き、気温が大きく変化する7区には藤本進次郎(教3=大阪・清風)が登録された。今シーズンは、春先に5000メートルで自己新を更新すると、夏合宿を経て頭角を現し、出雲で3大駅伝デビューをつかんだ。駅伝初出走ながら区間7位の堂々の走りを見せたが、続く全日本では順位を5つ落とし、悔しい結果に。チームを代表してエンジを背負う重圧や責任を感じた。下級生や故障明けの選手が配置される傾向のある7区だが、近年は主力級を投入する大学も増えている。青学からは学内1万メートル5位のタイムを持つ白石光星が登録されており、3強撃破に向けて油断はできない。これまでの地道な努力が実を結び始め、今年度大きな飛躍を遂げた藤本。「憧れの舞台」から「しっかり結果を出すべき舞台」へと変わった箱根でも、「大きなストライド」を生かし、チームを前へと推し進めたい。

出雲4区を走る藤本

 上り坂に体力を奪われるタフなコースの8区には3年連続で伊福陽太(政経4=京都・洛南)がエントリーされた。前回の箱根では、区間上位のペースで集団を引っ張り、順位を1つあげ、悪い流れを断ち切った。1力月後には延岡西日本マラソンで日本人史上最年少で2時間10分切りを達成。しかし、リカバリーに苦しみ、苦しいシーズン序盤となったが、徐々に本来の調子を取り戻してきた。8区には前回大会区間賞の塩出翔太(青学大)、全日本で伊福と同じ6区を走り区間3位の安原海晴ら実力者が登録されている。2年時は区間10位、3年時は区間5位だった伊福。「最後は笑って」、早大記録を更新し、区間賞を目指す。ワセダに福を呼び寄せる走りに期待したい。

関東インカレハーフマラソンを走る伊福

 優勝争い、シード権争いが幾多も繰り広げられてきた最長区間の9区には石塚陽士(教4=東京・早実)がエントリー。他大の有力選手としては、吉田響と合わせてダブル吉田と呼ばれる、創価大の主将・吉田凌が登録されている。順位変動が目まぐるしく起こる最長区間なだけに、当日変更で主力を投入してくる大学も多く予想される。石塚は、前回大会は4区で、冷たい雨が強まる中、単独走で懸命に安定したペースを刻み、5区へとつないだ。ラストイヤーとなった今年は、最後の出雲、全日本でもエントリーメンバーには入るも、昨年から長引く不調で、そこに石塚の走る姿はなかった。1年時から主力としてチームに貢献し、陸上と学業の両面でトップレベルを追い求めてきた石塚。目標の総合3位以内に向けて、彼の復活は必要不可欠だ。1年間走れなかった思いをぶつけ、記録と記憶に残る、魂のこもった走りを。晴れ晴れとした表情で最後の箱根路を駆け抜けたい。

全日本選考会で2組を走る石塚

 大歓声を受けながら、仲間が待つフィニッシュへと向かう最終10区には過去2大会でアンカーを務めた菅野雄太(教4=埼玉・西武学園文理)がエントリー。関カレハーフマラソン4位入賞の薄根大河(東洋大)や前回9区で区間7位でデビューを飾った吉田蔵之介(国学院大)も10区に登録された。昨年は序盤から積極的にレースを進め、区間5位の走りで総合7位のフィニッシュテープを切った菅野。前半シーズンは貧血などに苦しんだが、夏合宿でしっかり練習を積み、調子を上げてきた。あと少しのところで全日本の出走メンバーから漏れた悔しさと、チームへの思いを胸に、区間賞の「圧巻の走り」で大手町に飛び込みたい。さあ、笑顔で最終楽章を奏でよう。

関東インカレハーフマラソンを走る菅野

 箱根では、1日につき最大4人まで、往復で最大6人の当日変更が可能である。補欠にはまず、駅伝主将の伊藤大が控える。昨年は体調不良で出場ができなかったが、伝統校のリーダーに就任し、その重責と戦いながらも走りで結果を残してきた伊藤大。チームのために「競り克つ」キャプテンの姿はどの区間で見られるのだろうか。5000メートルで高校歴代5位のタイムを持ち、全日本で本領を発揮した山口竣平(スポ1=長野・佐久長聖)はルーキーイヤーからの箱根路出走を狙う。昨年、都大路で駅伝の名門・佐久長聖を優勝に導いた立役者が、今年は早大を上昇気流に乗せる。また、ラストイヤーにして満を持して初エントリーとなった草野洸正(商4=埼玉・浦和)は安定感と粘り強さを武器に、初出走を目指す。同じく初エントリーの理系ランナー・和田悠都(先理4=東京・早実)は最初で最後のエンジのユニホームを着て、最初で最後の箱根路へ。幼少期から憧れ続けた大舞台を「主役」として迎えたい。そして、上尾ハーフにて1時間2分台の好走で自己ベストを更新した宮岡凜太(商3=神奈川・鎌倉学園)や出雲、全日本に引き続きメンバー入りを果たした吉倉ナヤブ直希(社1=東京・早実)も控えている。彼らがどのように区間変更に絡んでくるのか。当日の区間変更にも注目が高まる。

出雲の2区を走る伊藤大

 また、総合3位以内を狙ううえで、国学院大、駒大、青学大の3強のオーダーにも注目だ。今季駅伝2冠の国学院大は平林を2区、山本を3区に置き、過去に同区間を走った経験のある主力で序盤から先頭に浮上する作戦か。出雲・全日本で区間賞を獲った野中恒亨や、全日本で優勝のテープを切った上原琉翔、学生ハーフ優勝、出雲1区区間3位の青木瑠都も補欠に控え、3冠に向け実力者がそろっている。5年前、当時の主将であった土方英和(旭化成)の出雲6区大逆転優勝に憧れてきた世代の学生ラストランにも目を向けたいところだ。王座奪還を狙う駒大は、初の2区となる主将の篠原を中心に、4区に桑田、6区に伊藤が登録され、戦力の充実ぶりがうかがえる。上りも平地も走れる山川や故障明けの佐藤圭汰、上尾ハーフ3位の村上響や同ハーフで初ハーフにしてU20日本歴代10位の4位となった谷中晴をどのように起用するのかが、命運を握るだろう。連覇を狙う青学大は、3区にエース鶴川、8区に前回区間賞の塩出、難関の山にさえも、区間上位の走力を持つ若林と野村を置き、堅い布陣となっている。毎年箱根路を沸かせてきた太田や前回大会2区区間賞の黒田朝日が当日どの区間に起用されるかにも、注目が集まる。飯田貴之(富士通)が主将として総合優勝に導いた98回大会のときには1年生だった現4年生。2度の箱根優勝の喜びと、3位の悔しさを味わった世代の最終章はどちらに傾くのだろうか。『歴史を変える挑戦』を見事に成し遂げてきた国学院大、『勝利への執念』を胸に、先輩から受け継いだ『原点』を見つめ、後輩へと『紡』いできた駒大、『大手町で笑おう』と箱根優勝を見つめてきた青学大。そんな3強を今年崩す大学が出るならば、それはきっと『早稲田人たる覚悟』を貫いてきた早大であろう。

 花田勝彦駅伝監督(平6人卒=滋賀・彦根東)がエントリーメンバー16人の選出に悩むことができるようになったほど、チーム全体のレベルが上がり、近年まれにみる充実の布陣がそろっている今年の早大。そんな指揮官が掲げる箱根のテーマは『自分たちの力を出すこと』。他大学との勝負をするうえで、それぞれが自分に負けない走りができれば、おのずと総合3位以内が見えてくるだろう。超高速化する箱根で今年はどのようなドラマが展開されるのか。国学院大、駒大、青学大の3強を早大は撃破することができるのか。110代目から111代目につなぐ、101回目の継走。エンジのタスキをかけた最終ランナーが1秒でも早く大手町に姿を見せることを信じている。明日、8時号砲。

(記事 佐藤結)

暫定区間エントリー