11月3日、熱田神宮から伊勢神宮を結ぶ106・8キロのコースで、全日本大学駅伝対校選手権(全日本)が開催される。昨年は上位進出を期待された中で、まさかのシード落ちに終わった早大。6月に行われる選考会に回ることになったが、危なげない走りを見せ、本大会の出場権を獲得した。そして鍛錬の夏を越え、迎えた駅伝シーズン。三大駅伝総合3位以内という目標を引っ提げたものの、昨月に行われた、駅伝シーズンの初戦・出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)は序盤の出遅れが響き6位。それでも、全日本ではシーズン前に掲げた目標をぶらすことなく、実に2016年以来の3位以内を目指す。本記事では、11月1日に発表された暫定区間オーダーをもとに、大学日本一をかけた一戦の展望を、早大を中心にお届けする。
早大のスターターを任されたのは、間瀬田純平(スポ3=佐賀・鳥栖工)。これでルーキーイヤーから3年連続の1区出走となる。昨年は、中継所直前まで、熾烈(しれつ)な区間賞争いを繰り広げ、区間2位の好走を見せた。今年は、自慢のラストスパートを武器に先頭でのタスキ渡しなるか。2区も昨年に引き続き、エースの山口智規(スポ3=福島・学法石川)が登録された。昨年はすべての駅伝で2区を出走。特に東京箱根間往復大学駅伝(箱根)では2区の早稲田記録を更新、各校のエースが集う中で区間4位と飛躍のシーズンとなった。しかし、今年の出雲は、区間賞を期待されたものの1区で区間12位。入学以降、初の区間2桁に終わり、まさかの駅伝シーズン初戦となった。全日本こそは、後続を突き放すもしくは、タスキを先頭に押し上げるエースの走りに期待したい。例年、早大の主力が出走している3区には、藤本進次郎(教3=大阪・清風)がエントリーされた。今夏、練習を順調に積み、急成長した藤本。大学駅伝デビュー戦となった出雲では、11位で受けたタスキを9位まで押し上げる快走を見せた。本大会では、好位置でタスキを受け取ることが予想される。長いストライドを生かしたのびのびとした走りで、初の伊勢路を駆け抜ける。
出雲の4区を走る藤本
中盤区間となる4~6区には4年生が名を連ねた。4区には、伊藤大志駅伝主将(スポ4=長野・佐久長聖)が登録。駅伝主将として迎えた今季は、5000メートルで早大歴代4位の13分28秒67をたたき出すと、日本学生対校選手権(日本インカレ)では準優勝し、チームに貢献した。しかし、出雲では区間10位に終わり、レース後は「自分の走りと足元を見直していかなければならない」と反省を口にした。駅伝主将がリベンジを果たせることができれば、チームは大いに勢いづくだろう。5区には石塚陽士(教4=東京・早実)がエントリーされた。1万メートル27分台の学生トップクラスのタイムを持つが、昨年の駅伝シーズンから苦戦が続いている。3年時まではすべての駅伝に出走していたが、今年の出雲ではメンバー外に終わった。それでも2週間前に行われた早大記録会では、5000メートルを14分10秒84で走り復調をアピール。1年時に区間4位で走った相性の良い5区で、完全復活なるか。3年連続で区間2桁と、近年早大が大苦戦している6区には、昨年アンカーを務めた伊福陽太(政経4=京都・洛南)が選ばれた。延岡西日本マラソンで優勝、関東学生対校選手権(関東インカレ)のハーフマラソンで5位に入るなど、長い距離に強い伊福だが1万メートルでも28分台の記録を持っている。そんな伊福だが、昨年のシード落ちを「自分のせい」と話し、本大会にかける思いは強い。昨年のリベンジを果たし、チームを3位以内に導けるか。
出雲の2区を走る伊藤大
合計距離の35パーセント近くを占め、各校のエース級が集結する7区と8区には、長屋匡起(スポ2=長野・佐久長聖)と工藤慎作(スポ2=千葉・八千代松陰)がエントリーされた。長屋は、昨年の出雲6区を区間5位で走り、鮮烈な駅伝デビューを飾ったが、それ以降はケガに苦しみ駅伝出走はならず。今年のトラックシーズンもほとんど姿を見せなかったが、夏合宿を経て復活した。出雲では下位でタスキをもらったものの、5区を区間3位で走りロード巧者ぶりを披露した。各大学のエースを相手に、どこまで戦うことができるか。出雲に続き、アンカーを任されたのは工藤。出雲では太田蒼生(青学大)、篠原倖太朗(駒大)といった学生トップクラスの選手を上回る区間2位で走り、覚醒の兆しが見えた。8区は終盤にだらだらとした上りが続く難コースだが、箱根の山登りを攻略した工藤にはうってつけの区間だろう。
出雲の5区を走る長屋
本大会は、補員5名の中から3名まで当日変更が可能だ。補員には、2年連続で箱根のアンカーを走っている菅野雄太(教4=埼玉・西武学園文理)もエントリー。昨年は6区を走っており、当日変更で出走となる可能性は十分だ。 駅伝メンバーにはルーキーイヤーから何度も選ばれているものの、未だ出走がない宮岡凜太(商3=神奈川・鎌倉学園)も、虎視眈々(こしたんたん)と出走を狙う。残りの3名は、瀬間元輔(スポ1=群馬・東農大二)、山口竣平(スポ1=長野・佐久長聖)、吉倉ナヤブ直希(社1=東京・早実)のルーキートリオが名を連ねた。山口竣は、出雲の3区で大学駅伝デビュー。エース区間だったこともあり区間11位と悔しい走りになったが、5000メートルで高校歴代5位のタイムを持つ期待のルーキーだ。また瀬間はロード、吉倉はスピードと各々が強みを持っており、誰が当日変更になっても納得の補員をそろえてきた。
出雲の3区を走る山口竣
続いて、早大が3位以内に入るうえで、障壁となりうる大学を紹介する。まずは、大会5連覇を目指す駒大、昨年の箱根を大会新記録で優勝した青学大、そして昨月の出雲を制した国学大のいわゆる『3強』だ。3校は篠原倖太朗(駒大)、黒田朝日(青学大)、平林清澄(国学大)といった大エースを、補員に登録。当日変更に投入される区間によっては、レースの展開が大きく変わることが予想される。また選手層も厚く、各区間抜け目のない選手でそろえてきており、3強の牙城(がじょう)は高い。また創価大は、吉田響と留学生の2枚看板が非常に強力。出雲では、留学生を直前のアクシデントで欠きながら、4位に入り地力の強さをアピールした。2週間前の箱根予選会を戦った中大も、予選会の疲労次第では侮れない相手になる。早大がこれらの大学を上回るには、1区間瀬田、2区山口智で抜け出すことが必要不可欠。さらに例年順位を落としている中盤区間で、どこまで粘り切ることができるかがカギになるだろう。長距離区間は自信を持っているだけに、7区終了時点で3位が見える位置なら、目標の3位以内達成に大きく近づく。
ここ数年の三大駅伝は、主力の調子がかみ合わず上位進出には至っていない。最後に3位以内になったのは、2018年の箱根までさかのぼる。それでも今年は中間層の底上げに成功し、近年まれにみる戦力の充実度合いだ。さらに山口智、工藤といった学生トップクラスの選手に引けを取らないエースを擁し、まさに勝負の年を迎えている。まずは、この全日本で3位以内に入り、「エンジのWここにあり」と他大学に知らしめることはできるか。運命の号砲は11月3日8時10分、熱田神宮にて鳴り響く。
(記事 飯田諒)