【連載】箱根事後特集『息吹』 第5回 5区 伊藤大志

駅伝

 東京箱根間往復大学駅伝(箱根)で、昨年に続き山の5区を担った伊藤大志(スポ2=長野・佐久長聖)。4区までの好走の勢いをつなぐ走りを見せ、区間順位も昨年より5つ上げた6位。2度目の箱根時への振り返り、そして、上級生として迎える今シーズンに向けた思いを語ってもらった。

※この取材は1月28日に行われたものです。

自分の走力に自信がついた

都道府県(全国都道府県対抗男子駅伝)では3区担当。長野の優勝に貢献した

――箱根を終えて、収穫やその後の練習で感じていることはありますか

 一番は走力です。自分の走力に自信がついたというか、結果も、走っている感覚としても昨年以上に成長を感じることができたと思います。練習においても、箱根であれくらい走れたんだとか、箱根前からあれぐらいの練習ができていたと自信がつきました。その分都道府県(全国都道府県対抗男子駅伝)や練習でも、いつもより自信が増して、できていると思います。

――箱根後に富津での合宿を経験されました。疲労感や練習の感触はいかがですか

 富津は1月4日から行き、実家には帰らずにそのまま練習を継続していていました。疲労度的には去年よりはない感じがしていて、箱根後だけど結構走れていたので、昨年よりも体も強くなったと感じていて。練習自体は箱根後だったので、「のんびりしなさい」と言ってもらっていました。なので、暖かいところで軽くジョグしたりしながら、(富津合宿の)最終日からポイントを再開して、そこから都道府県に向けて調整していました。

――箱根以降では、強度の高い練習はまだ行っていない形でしょうか

 箱根から3週間空けて試合でその2週間後に丸亀(香川丸亀国際ハーフマラソン)なので、強化というよりは維持する方が強いです。箱根に向け、上りの練習をしていて、その練習となるとあまりスピードではないものでした。そこから、(都道府県3区の)8キロのレースや丸亀のハーフといった高速レースに向けて、かなりスピードを戻さないといけなかったので、練習メニューを若干スピード寄りにしていったかたちではあります。

――都道府県での率直な感想や収穫などを教えてください

 率直に優勝できてうれしいです。毎年優勝を狙うのが長野県チームなので、そのチームに社会人として呼んでもらったからにはそれに見合うような走りをしないといけません。僕は中学生のころから、上野さん(裕一郎、立大監督/セントポールクラブ)や關さん(颯人、SGホールディングス)のような社会人の先輩と走り、合宿でも頼りがいがあったので、それを僕もできるようにと、長野県チームで走る中で改めて思いました。一方で、個人の走りとしては箱根の後にしては走れたかなと思います。8キロという短いレースの中でも自分のスピードを戻すことができたと感じていますし、レースプランとしてもある程度自分の考えていたことは上手く貫けたと思っています。その中でも篠原(倖太朗、駒沢大)にラスト競り負けたり、区間順位は8位で見た目の順位も1つ落としてしまったので、やはり詰めの甘さが出てしまった感じがします。身近に篠原と一緒に走っていると余裕度や、ラストスパートでは格差を感じたので、そこはまだまだという気持ちがあります。

――都道府県の出走区間を10キロ換算にしたときに、28分ちょうどでした

 それも自信につながります。やはり1万メートル27分台は大学陸上界では指標となるタイムです。そこを目指したいと思う中で、(今回は、自分とって)かなり勢いづけるレースだったかなと思います。

――上野選手からは何かアドバイスをいただきましたか

 上野さんからアドバイスをもらったり、話している中でも自分が中学生の頃から変わらず、安心するという気持ちがあります。やってやるぞっていう気持ちというか、長野県チームで出る時は「上野を漢にしてやろう」という雰囲気があって。そういう気持ちになれるような人だと感じる時があります。

『1=1』を確実にできた

2度目の箱根。淡々と前を追った

――改めて、箱根での個人の結果やレースの展開を振り返ってください

 レースの組み立て的には昨年とあまり変わらずという感じです。前半は抑えていき、後半宮ノ下から芦之湯の最高地点までの中で(スピードを)上げられるようにというものです。みんな下りでは(スピードが)落ちるところなので、そこで巻き上げていくイメージで走りました。昨年は、前半落として、後半宮ノ下から一気に切り替えることをしていましたが、ラスト2、3キロでペースダウンしてしまって。そこが昨年タイムが伸びなかった原因と考えています。今年は宮ノ下あたりから、(スピードを)上げることや、残り2、3キロの上りもある程度頭に入れて、ペース配分を8割9割くらいで押してくことを考えていました。上りの練習でもある程度の力で押していくことをコツコツやっていたので、そこが本番でうまく出せればなという感じでした。

――チームの結果を見て、どのように思っていますか

 ある程度有言実行というか、花田さん(勝彦駅伝監督、平6人卒=滋賀・彦根東)からもらった想定タイムや順位を個人、チームともにこなせたと思っています。しっかりと花田さんが日ごろ言っている『1=1』を確実にできた結果なのではと考えています。

――5区の出走はいつ頃決まりましたか

 ぼかしてはいたのですが、結構早めに決まっていました(笑)。リザーブがいないので、「お前5区で行くから」という雰囲気でしたし、(12月)28、29日の、最初のエントリーの時にはもう「大志は入れるから」と言われていました。

――他に5区出走予定の選手はいましたか

 諸冨さん(湧、文3=京都・洛南)ですかね。経験者ですし、上りのセンスは僕よりもあるんじゃないですか(笑)。僕よりもあの人の方が上だと思います。

――いつ頃から5区に特化した練習を開始しましたか

 5区に特化した練習というか、飯能の山に上りに行ったりとかは、秋口にちょくちょくやってはいました。上りの感覚をつかむ練習はありましたが、それ以外はあまり特化した練習はないです。皆と調整して、自分の走力を上げていくというのを考えていていました。

――給水担当はどなたでしたか

 大平台が宮岡(凜太、商1=神奈川・鎌倉学園)で、上が日野(斗馬、商2=愛媛・松山東)ですね。

――どのように給水担当は選ばれたのでしょうか、また何か声を掛けられましたか

 特には、僕は指示はしなかったのかな。なんせ人がいないので、給水も上手く組まないと間に合わないので、マネージャーさんの方で決めてもらいました。大平台の宮岡は前と後ろの差を伝えてもらいました。スタートしてから創価大と並走していて、ちょうど離したあたりだったので、そこはありがたかったです。日野はなんて言ってたかな、あそこ毎回きつくて(笑)。前と詰まっているとは話されたかな。ちょうど芦之湯のあたりの直線を走っていて、前が見えて、かなりそこで元気がでました。

――地点ごとに目標タイムなどはありましたか

 トータルの設定タイムが72分フラットだったのですが、あまり地点ごとのタイムは気にしていなかったです。上りも傾斜によってペースが変わってしまうので、同じ力で走っていても(1キロ2分)45(秒)で行けるところも、(1キロ2分)50(秒)になるところもあるので、地点ごとにタイムを決めるのではなく、感覚で行っていました

――ゴールした瞬間、どのようなことを感じましたか

 いや、もうきつかったです(笑)。倒れこんでマネージャーに引きずられながら待機所まで帰っていくのは箱根くらいじゃないですかね。本当にきつくて。去年も今年も上り切りから下りまで結構ダッシュして、(今回は)そのおかげで東国大を捕まえることができました。下り切った芦ノ湖からゴールまでの2キロは一番きつかったです。そこはかなりもがいていて、花田さんからも「ラスト絞れ」と言われたので。ラスト本当に脚が止まるまで動かしていたので、そこが一番きつかったと感じました。

――他大の選手とはお話されましたか

 ゴール直後に平林(清澄、国学大)と話しました。あいつは前田さん(康弘、国学大監督)のところに行く前に、僕のところに来て(笑)。監督のところに先に行けよって。伊地知さん(賢造、国学院大)が、下りきったところあたりでちょうど数十メートル前にいて、いけるかなって思ったんですけど、やはりきつくて伊地知さんのラストを捕まえられなかった、とは話しました。

下のラインの底上げが必要

――総合順位は6位でした。順位と上位チームとの差や違いはどのように感じていますか

 一番は選手層の薄さが出ている感じがしています。往路5位、復路でも一時3位まで上がれる実力自体はあるかもしれませんが、平均すると6位かなと。そこが上位に組み込んでいくチームとの差であり、10区間全てで区間1桁台上位で、安定できる人数を10人揃えられるチームが上位に組み込んでいくので、それができなかったところはチームとして反省すべきところです。ある程度ベストメンバーを組めた中で上位に入れなかったのは根本的なチーム全体としての走力というか、下のラインの底上げが必要かなと考えています。

――今回のレースは、花田駅伝監督が就任後、初の箱根でした。昨年との違いは感じていますか

 やはり流石だなと、よく見ているなと感じました。ただ相楽さん(豊前駅伝監督、平15人卒=福島・安積)も去年かなりクレバーというか、自分の経験とそれまでのベストタイムから妥当なタイムを導き出していました。そのスタンスは一緒ですし、それは僕にはかなり合うスタイルかなと考えていて。それをチームに浸透できるかできないかでやはり去年のチームとの差だったかなと思います。今年は花田さん1年目ですし、全日本での成功体験があったので、花田さんの設定タイムを守れば、というのはありました。それで練習できたからこそ、花田さんの出してもらった設定が生きたかなと思っています。今は花田さんの指導とチームの雰囲気がマッチしたと思っています。

――シードを落とした昨年と今年のチームとの違いはありますか

 故障者が少なかったことは確実に見て取れる点だと思います。集中練習の期間を今年はある程度長くとり、じっくりとした練習を積むことができたのは大きかったです。去年は箱根残り1カ月切ったあたりで、故障から復帰して何とか付け焼刃で練習することがありました。今年はそれはなくて、全員が主力として練習を積めている中で、誰を使おうかというメンバー争いのレベルが上がったのが大きいと思います。

――今大会では、2年生が4人出走しました

 やはり頼もしいです。僕らの学年の中でスポーツ推薦は僕だけなので、入学した当初はかなり頑張ったんですけど、蓋を開けてみると4人出走できました。僕以外の3人とも、前半抑えて後半上げていくスタイルで、走りでも見て取れたので、安心して見れましたし、心強いとかなり感じました。

――入学当初は層が薄いと言われていた同学年、どのような学年ですか

 良くも悪くも僕の学年はパンチがなくて(笑)。ですが、かなり安定して走れたり、練習を継続できる学年です。1番冷静にチームや自分の現状を見れるのが僕の学年の特徴なのかなと思います。

チームの柱として走らなければならない

質問に答える伊藤大志

――3、4年生の先輩の走りを見て、何か感じましたか

 やはり3、4年生も最後にはやってくれるんだなと感じました。特に井川さん(龍人、スポ4=熊本・九州学院)は最後の最後でやってくれましたし、1年間2年間一緒にやってきている先輩だったので、信頼して見ていられました。

――来年はどんな箱根駅伝にしたいですか

 山(5区と6区)が2人揃っているのは来年が最後になると思うので、そこのアドバンテージを最大限に生かしたいです。具体的な目標がどのようになるのかは分かりませんが、来年は3位くらいを目指しに行くと思うので、そこをチームで全員で目標達成できるようなところまで行きたいです。おそらく僕や石塚(陽士、教2=東京・早実)は来年はキーマンになってくるので、それを全うできるようにしたいと思っています。

――上級生としてどんな存在になりたいですか

 上級生は下級生に良くも悪くも大きな影響を与えるものだと思っていて、そこを克服した競技生活や日常生活を送っていきたいです。上級生になり、(大学生活が)折り返しとなっている中で、チームを2年間見てきて、箱根駅伝に向けた生活をしてきたアドバンテージを後輩に還元していくのが先輩の仕事だと思っています。

――今年の目標をお願いします

 5000(メートル)でユニバーシアード(世界ユニバーシティ大会)を狙いに行くと思います。都道府県で同学年の篠原にも負けていますし、下級生だと佐藤圭汰(駒大)だったりかなり強い選手が5000に集まってくるので、トラックでは勝ち切れる走りをしたいです。ロードでも3年生でチームのキーマン、柱として走らなければならないので、それに見合った走りをしていきたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 湯口賢人)

◆伊藤大志

2003(平15)年2月2日生まれ。171センチ。長野・佐久長聖高出身。スポーツ科学部2年。第99回箱根5区1時間11分49秒(区間6位)。箱根後に都道府県駅伝では優勝、丸亀ハーフでは早大記録に3秒と迫る走りで自己ベストを更新した伊藤選手。ハードスケジュールの中でも安定した実力を発揮しています。この勢いのまま来年度は真のエースとしての活躍に期待がかかります!