4度目の箱根で流れ引き寄せる力走 エースが示した強い新生早稲田/井川龍人

駅伝

 今回の東京箱根間往復大学駅伝(箱根)での早大の戦いは3区・井川龍人(スポ4=熊本・九州学院)の力走無しには語れない。早大の2区終了時の順位は14位。1、2区の選手ともに大崩れすることなく健闘するも、いまいち流れが掴めない。そんな中で井川はタスキを受け取り、湘南の海沿いへと駆け出していった。

 3区は3年前、初めての箱根で走った区間だ。その1年時は最初の下りをハイペースで入ってしまい、後半に失速。区間14位と箱根の洗礼を受けた。その時の失敗を生かし、今回は前半抑えて入り、遊行寺の坂を下り切った後から前を行くチームを次々にとらえていく。

3区を走る井川

 日差しの強い海沿いのコースに、太陽を浴びて一層色が際立つエンジのユニフォームと、ストライドの大きい井川の走りが映える。途中の監督車からの声かけにはガッツポーズで応える余裕も見せ、スピードを一切緩めることなく、順位を上げていった。平塚中継所手前の直線道路に入ってきた井川の後方には、終盤に抜き去ったチームが複数見える。井川はこの中継所を5番目にタスキリレー。「どんな流れで来てもいい流れに持っていく」というエースの役割を見事に果たす、区間2位、9人抜きの快走だった。


「強い」ラストイヤー

 箱根での快走は、本人の言葉が予感させていた。大会前の取材で調子を聞くと、11月に入ってからのケガで例年と比べて練習の消化率は低いと明かす。だが、「ポイント練習以外でジョグなどをしっかりできていたので不安はない」と語った。

 昨年までは、記録会でこそ学生トップクラスの記録を出していたものの、大きな大会前に焦って練習を詰め込んでしまい、大一番に本調子で臨めないこともあった。しかし今年は、「距離走はトラックシーズンの頃から継続してやってきたので、練習を詰め込みすぎなくても、『やってきた』と言う安心材料がある」と言い切る。その声からは、今までにない自信が感じられた。

監督からの声かけにガッツポーズで応える井川

 「速いだけで弱い早稲田を変える」 。昨年の箱根後に、主将に就任した鈴木創士(スポ4=静岡・浜松日体)が言った言葉だが、その言葉に昨年の井川が含まれていたならば、間違いなく井川は変わった。花田勝彦駅伝監督(平6人卒=滋賀・彦根東)新体制のもと、質の高い練習が継続して積めるようになっただけでなく、結果を出さなければいけないというプレッシャーを常に自分にかけてきたことも、今季安定して結果が出ている要因だろう。関東学生対校選手権1万メートル2位、ホクレン・ディスタンスチャレンジ20周年記念大会日本人2位、東京箱根間往復大学駅伝予選会日本人2位、そして箱根3区2位。「2位の呪いにかかっていた」と本人は苦笑したが、今年の井川は何より「強かった」。


強い早稲田の先駆

 箱根前、12月上旬の取材で箱根への意気込みを聞くと、いつも通りの少し気怠い口調で「個人では区間賞を取って、チームの目標を達成したいです。」という端的な答えが返ってくる。飾った発言はせず、質問への回答はいつもシンプル。昨年の箱根事前取材も所要時間はエントリーメンバー16人中一番短かった。だが、「あ、あと」。今年はその後にこう続けた。

 「あと、花田さんが就任してから、僕はこれからの早稲田が強くなるんじゃないかなとすごく思っていて。」

 「今年は優勝は叶わないかもしれないですけど、何年後かに優勝する可能性もあると思うので、その土台になるようなチームになれたらいいなと思っています。」

 高校時代から世代トップとして世界の舞台も経験し、大学でも1万メートル27分台をマークしたランナーは、決して「土台」という言葉が似合う選手では無い。だが、泥臭い練習を積み、大会での安定感が増した井川の今回の箱根での走りは、花田監督新体制のもと出来上がりつつある、新しい早稲田の強さの土壌を感じさせるものだった。そして、井川は花田監督がその上に敷くレールの先頭を行った。

合同取材にて撮影に応じる井川(左)、花田監督(中央)、鈴木駅伝主将

 井川の大学の主要大会での最高成績は2位で幕を閉じた。高校時代のインパクトからすると、大学での成績は華やかさに欠けるかもしれない。それでも、最後の箱根で見せた走りは、高校時代の実績や自己ベストの数字とはまた違った「強さ」を印象づけた。「最後に早稲田としてしっかり活躍できてよかった」。井川は4年間で確かに強くなった。

(記事 及川知世、写真 星野有哉、及川知世、湯口賢人)