【連載】箱根事前特集『RE:』 第8回 伊福陽太

駅伝

 今年の春までケガや体調不良に悩まされ、思うような結果が出なかった伊福陽太(政経2=京都・洛南)。しかし夏合宿で順調に練習を積み、上尾ハーフマラソン(上尾)では62分台の快走を見せた。今勢いに乗っている伊福に今シーズンの総括、そして東京箱根間往復大学駅伝(箱根)への決意を聞いた。

※この取材は12月11日に行われたものです。

走れなくても腐ることはなかった

夏合宿で走り込む伊福

――春先に立てた今シーズンの目標を教えてください

 春先はケガでだいぶ出遅れていて、今年の夏合宿は選抜がほとんどだったので、とりあえずそこまでに間に合わせるということを考えていました。

――駅伝シーズンに向けて考えていたことはありますか

 春先は出遅れていたので、トラックは結果が出せないだろうなと思っていました。どちらかというと駅伝シーズンに向けてやらなくてはいけないと考えていて、夏合宿で距離を踏むためにしっかり体をつくろうと思っていました。

――時系列が前後してしまうのですが、年明けの日本学生ハーフマラソン選手権(学生ハーフ)の結果についてはいかがですか

 病み上がりだった部分もあって、自分の力を出し切れた大会だとは思っていないです。

――部員日記で、昨年の夏合宿以降内臓系の不調で練習が積めなかったと拝見しました。今、食事面で気を付けていることはありますか

 昨年の夏以降、刺激物がまだ食べられていません。もともと夏になるとごはんが食べられなくなるので、1日3回とかじゃなくて、5回に小分けにして食べていました。今年花田さん(花田勝彦駅伝監督、平6人卒=滋賀・彦根東)が監督になって栄養士の紹介もあったので、オンライン会議ツールで栄養面のことを指導してもらって、改善された部分もありました。今年は内臓疲労とかなくこられたので、そういうのが良かったのかなと思います。

――学生ハーフ以降も練習が積めない時期が長かったとお聞きしました

 学生ハーフ以降体調不良があって、復帰してすぐの筋力が落ちている中でケガをしたので5月くらいまで練習ができなくて、6月からポイント練習を再開するような感じでした。

――走れなかった時はどのように過ごしていましたか

 今やれることをやるしかないと思っていたので、特に腐るようなこともなかったです。

――夏以降、練習が積めるようになった要因をどのように捉えていますか

 昨年の夏合宿の最後の方はAチームに上げてもらっていたので、昨年の段階で自分のキャパは広がっていたのかなと感じていました。昨年の経験があったから今年は(練習を積むことが)できたのかなと思っています。

――夏合宿で意識して取り組んだことはありますか

 上の人とでは能力の差があって、やれる練習の質も変わってくるので、その質で差が出る分、量で埋めるしかないと思っていました。質の分ではどうしても追えない部分があるので、その代わり練習の量を増やす、とことん追い込むというのは意識してやっていました。

――質というのはスピード練習のことですか

 そうですね。設定タイムが違うので、そこはどうしても差が生まれるという感じです。

――夏合宿では他の選手や花田監督からも、伊福選手が良いという話がよく聞かれていました。ご自身の手応えはいかがですか

 練習の走行距離は結構増やせたので、スタミナ面の走力の強化はできたのですが、一方でポイント練習の大事な面で離れるということがあったので、正直とても手応えがあったというわけではないです。ですが、結果的には花田さんからもしっかり積めているからと今も言ってもらえているので、良かったのかなと思います。

――夏合宿を終えた時点で駅伝シーズンに向けて自信はありましたか

 長い距離への不安は夏合宿で完全になくなったので、あとはどれだけレースに近いスピードでできるかということでした。スピード面に関して不安がなかったかと言われればあったのですが、今はありません。

62分台が出るとは思わなかった

上尾ハーフマラソンを走る伊福

――それでは駅伝シーズンについてお聞きします。東京箱根間往復大学駅伝予選会(予選会)メンバーに選ばれました。出走する手応えはありましたか

 出走するかしないかは本当に微妙なラインでしたが、走ったらそれなりにまとめる自信はありました。ですが昨年1年間結果を残していないので、選ばれないのは妥当なのかなと思いました。

――予選会メンバーを外れた後、平成国際大学長距離競技会(平国)に出場した意図は何ですか

 5000の自己ベスト(14分34秒43)が高校3年生の時から更新できていなくて、練習の一環で出るようなかたちでした。それでも14分20から30秒では走れるだろうとは花田さんから言われていたので、楽に自己ベストで走れたらいいなと話していました。

――その中で14分12秒60という記録についてはいかがですか

 平国に向けてちゃんとした調整はしてなかったのですが、うまくいけば疲労がある中で14分10秒台は出るだろうなと思っていたので想定内の走りはできたのかなと思います。

――チームの予選会や全日本大学駅伝対校選手権(全日本)の結果はどのように受け止めましたか

 予選会でいったら山口(智規、スポ1=福島・学法石川)のアクシデントがあったのですけどそれはもう仕方がないことです。それは抜きにして、上のグループの井川さん(龍人、スポ4=熊本・九州学院)、航希さん(佐藤航希、スポ3=宮崎日大)、創士さん(鈴木創士駅伝主将、スポ4=静岡・浜松日体)がうまくいった一方で、中盤と下のほうのメンバーがもう少し走れないといけないのかなとは捉えています。全日本にしても同じような感じで、夏合宿で上のほうでできていた選手は走れていて、うまくいかなかった区間は、どちらかというとチームの中で中間層前後の選手だと思います。自分の立ち位置も中間層くらいになるので、そこの立ち位置の選手がどのように走らなくてはいけないかを実感したレースだったと感じます。

――上尾での好走に対して監督やチームメイトから反響はありましたか

 監督からは64分を切って63分台で走れればいいかなというような話は出ていて、自分も周りもそのように思っていました。あとあと聞いてみたら、花田さん含め誰も62分台で走るとは思っていなかったらしくて、花田さんも「え? 」みたいな顔をされていました。練習はできていたので自分としてもよければ63分30秒は切りたいなと思っていたのですが、62分50秒まで出るとは思っていなかった部分もありました。

――上尾が終わって今の調子はいかがですか

 上尾の疲労がだいぶ癒えてきたので箱根に向けてあげていこうかなという感じです。

箱根は長い区間で貢献したい

質問に答える伊福

――今はどのような練習を行なっていますか

 全日本を走った組は今、追い込むところなのですが、自分は追い込む練習はしていなくて、花田さんや相楽さん(相楽豊チーム戦略アドバイザー、平15人卒=福島・安積)にも完全に流れが別だからと言われているので、一人で進めています。

――伊福選手の走りの強みをご自身でどのように分析していますか

 自分一人でリズムを刻めて走れるところかなと思っています。上尾のレースが一番いい例なのですけど、集団につくより一人のほうが楽だったので、集団につかないでほぼ一人で走っているような状況でした。ですからやはり単独走なのかなと思います。

――その強みが生かせるのはやはり箱根の復路ですか

 箱根の復路かつ後半の長い9区とか10区とかを走りたいなとは思っています。

――反対に箱根出走に必要だと思うこと、今の自分に足りていないとこは何だと捉えていますか

 単純にスピードがないので、スピードがある選手と比べても同じペースで走っても余裕度が全然違うと思っているのでそこが課題です。

――それを克服するために今取り組んでいること、今後取り組みたいことはありますか

 スピードがないと5000とか1万はタイムが出ないので、来年はウエイトトレーニングとかもそうですし、トラックに向けたスピード強化もやっていきたいなとは思います。

――伊福選手から見て今のチームの雰囲気をどう捉えていますか

 夏合宿に瀬古さん(瀬古利彦氏、昭55教卒=現日本陸連マラソン強化戦略プロジェクトリーダー)が来られて、結構活を入れられました。そこから変えなきゃいけないなという雰囲気はあって、創士さんも中心に変えようとしていました。予選会は例外としても、全日本はトップ争いしていた中で中盤以降失速したのもあって、特に全日本のエントリーに入った人は課題を感じる部分もあると思います。昨年のこの時期はケガ人が多くてチームの雰囲気もあまりよくなかったのに対して、今年は3週間前に迫った箱根に向けて一人一人気を引き締めることができているのかなと思います。

――チーム内でライバル視している選手はいますか

 大志(伊藤大志、スポ2=長野・佐久長聖)と石塚(陽士、教2=東京・早実)は昨年からチームの核として活躍していてそこを目指してやっていかなくてはいけないなとは昨年一年間通して思いました。今僕たちの学年だけで考えると5000のベストは大志が、10000のベストは石塚が一番速いです。ハーフでは今回、僕がタイム出せたのでちょっとずつ追いつきつつも、やはり練習では差を感じるのでそこを埋めていきたいなと思っています。

――関東学生対校選手権(関カレ)や予選会では同じ一般組の菅野雄太(教2=埼玉・西武文理)選手が活躍されていましたが、その姿をどのように見ていましたか

 エンジを彼のほうが先に着たというのは僕にとって刺激にはなりましたし、自分にとって気持ちが入るきっかけになったのかなと思います。

――山口賢助(令4文卒=現トヨタ自動車九州)選手などの一般組の先輩を間近で見て「早稲田の一般組」をどのように捉えていますか

 監督は一般組と推薦組が切磋琢磨できたときが一番強いとよく言っています。山口さんは3、4年の箱根と全日本を走っていて、自分が入学したときもこの人のような立ち位置にならなきゃいけないなというのは感じていました。山口さんは昨年の夏合宿の取り組みを見ていても、人がやっていない中でやっている場面が多くありました。推薦組と比べたら能力が劣るというのは仕方がない部分もあるので、その部分の穴埋めを自分で考えてやっていかなくてはいけないのが一般組なのかなと思います。

――これまでのシーズンを100点満点で表すと何点ですか

 正直前半シーズンは点数がつけられないくらい酷かったので、夏から考えると80点から90点の割と高い点数を付けられるのかなと思います。

――伊福選手にとって箱根駅伝とはどのようなものですか

 陸上を始めたのが中学だったのですが、そのときからテレビで見ていて一回は走ってみたいなとずっと思っていました。昨年とかは手の届かないところにあったのですが今年は目の前に迫っているので、走ったうえでチームに貢献できるようにしたいなと思います。

――箱根駅伝を走ることに対しての楽しみな気持ちや怖さはありますか

 怖さとかはないですけど、絶対緊張はすると思います。ですけど競技自体は楽しいですし、楽しいからやっていることなので楽しんで走りたいなと思います。

――箱根に向けての意気込みを教えてください

 個人としては9区や10区の長い単独走が求められる区間でまとめられるような走りをして、安心してタスキを渡してもらえるような、今年のチームの目標に貢献できる走りをしたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 飯田諒、戸祭華子)

◆伊福陽太(いふく・ようた)

2002(平14)年12月23日生まれ。172センチ。京都・洛南高出身。政治経済学部2年。自己記録:5000メートル14分12秒60、1万メートル30分15秒42、ハーフマラソン1時間2分50秒。上尾で監督やチームメイトもびっくりの走りを見せた伊福選手。箱根でも周りをあっと驚かせる快走に期待です!