【特集】長距離夏合宿取材 花田勝彦駅伝監督インタビュー

駅伝

 東京箱根間往復大学駅伝(箱根)でシード落ちに終わり、チームの再建が必須となる今年の長距離ブロックは、花田勝彦氏(平6人卒=滋賀・彦根東)を新駅伝監督に迎え、夏の鍛錬期を迎えた。予選会からのスタートとなる秋の駅伝シーズンを前に、チームの状況はどうなのか。就任してから今までで変わったところは。話を伺った。

※この取材は8月18日に行われたものです。

就任から今まで

早稲田大学競技会で選手に指示を出す花田駅伝監督

――就任から2カ月半ほどたちましたが、就任当初とチームの印象は変わりましたか

 印象はあまり変わっていないと思います。4月中旬に瀬古さん(WAC会長)と初めて練習見学に来た時にも、私がいた当時とそんなに変わらない競走部の雰囲気があったので、割とスムーズに入っていけました。練習も相楽さん(相楽豊前駅伝監督、平15人卒=福島・安積)のメニューから私のメニューに変わりましたが、選手は新しいことにチャレンジし、そこにフィットしていって少しずつ方向性が一緒になってきたというイメージです。

――では、就任前のイメージとはそんなに変わらずという感じですか

 そうですね。これまでも私は上武大学や実業団で指導していましたが、母校の早稲田で新たに指導するとなった時に、思っていた以上に溶け込みやすい雰囲気だったので、すんなり入れました。実際に就任したのは6月からですが、4月下旬からは週に1、2回程度は練習に来ていたので、普通だと慣れるまでに時間がかかるところも違和感なくスムーズに入っていけました。

――ケガ人が多い中での就任でしたが、そのあとは結構ホクレン・ロングディスタンス・チャレンジ(ホクレン)や士別ハーフマラソンの結果も良く、ケガしていた選手も戻ってきました。その辺りはどう感じていらっしゃいますか

 私が初めて練習を見に来た時は半分以上の選手がポイント練習できないような状況だったので、最初に取りかかったのはケガ人をなくすことからでした。今までの練習を全て白紙にさせてもらって、私の方で2週間程度練習メニューを提示して、故障から復帰した選手も含めてやってもらいました。練習強度を下げたというところは正直ありますが、そこから1カ月たつと故障者も減ってきて、今はほぼいない状況ということなので、(チーム状況が)良くなってきたと感じています。

――練習以外で、チームとして変えたことなどはあるのでしょうか

 それほどありませんが、確認したことはあります。早稲田は、監督が毎日練習を見にきて細かく指示を出すというかたちではなく、ポイントポイントで集まって、私たちが選手に指導するかたちなので、基本的には学生たちが主体性を持って考えてやらないといけないというところを確認しました。

 私が来る前は相楽さんも多忙であまり練習に来られず、選手たちは、メニューは与えられているものの、自分たちで律してやらなければいけない状況でした。私が行くようになってからは、私が見ているからやるのでは無く、あくまでやるのは君たちだから、来て見ていなくても考えてしっかりやるんだよ、というところを改めて確認しました。選手たちもだんだん分かってきて、見られていなくてもちゃんとやるんだという雰囲気になってきたと感じています。

――就任してからチームの目標のすり合わせなどはしましたか

 この合宿を経て具体的な目標は見えてくると思っています。現実的な目標をどこにするのかを今考えています。

今のチームについて

――就任以後見えてきたチームの良さを教えてください

 私が今まで指導してきたチームの中では、やったこと以上はできない選手が多くいました。(早稲田は)ポテンシャルが高く、期待以上に走れる選手が多くいたので、やはり能力の高いチームだと感じました。

――具体的には

 例えば前半シーズンだと井川(龍人、スポ4=熊本・九州学院)が活躍しました。彼は、故障したりしていて、勝つための練習まではやっていなかった中でも、関カレ(関東学生対校選手権)やホクレンで2番になったりと結果が出たので非常に楽しみです。あと石塚(陽士、教2=東京・早実)も、授業が大変で、平日は早朝しか練習できない中でも自己ベストが出たので、非常に能力が高い選手だと感じました。

――井川選手にお話を伺った中で、「2位ばかりで勝ちきれてはいない」ということをおっしゃっていました。勝つ練習を今からやるというかたちになりますか

 戻す練習や強くなる練習はしていますが、まだ勝つための練習まではやっていません。これから、と言っても半年しかないですが、戻りきれていない部分をまずは戻し、その上で競り合った時の勝つ練習ができると面白いと思います。

――逆にチームの課題点を教えてください

 思った以上に選手層が薄いところです。トップには強い選手が何人かいますが、中間層があまりおらず、その下に、強くなるにはまだ時間が必要な選手がまだいるので、上と下との差が非常に離れています。今常勝の青学大さんなどは、1番から30番、40番まで選手層がとても厚くて、代わりがどんどんいます。早稲田は箱根駅伝で言うと12、3人の中から10人をピックアップしないといけない状態なので、そういった面では個別に指導しながらケガ無くやっていかないと大変だと感じます。

――中間層やこれからの選手は中長期的な目で見て強化していくかたちになりますか

 そうですね。箱根駅伝に出るだけだったら、今いる選手も本人たちの努力でメンバーに入ることはできると思います。ですが早稲田はやはり優勝を狙うチームなので、そういうチームで戦力になるには各大学のエース級と戦える選手にならないといけないので、4年間でそういったメンバーになるには本人たちも相当な努力が必要になると思います。

――予選会でボーダーラインとなるような選手の強化はどのように考えていますか

 予選会はもちろん上位通過したいですが、通ればいいという大会でもあるので、全体の底上げをするようなトレーニングをしていくべきだと考えています。戦える選手がまず12、3人はいるので、その選手たちがきっちりハーフマラソンをしっかり走れる状況を作り、ケガしないようにすること。今でいうと、コロナ等の病気に対しても注意をするというところが重要だと思います。

夏の状況

妙高選抜合宿の練習後、ミーティングを行う花田駅伝監督ら指導陣と、選手たち

――1次合宿(尾瀬合宿)と2次合宿(妙高選抜合宿)の今まで、チームの印象としての状況はいかがですか 

 1次は、チーム全体の懇親を深める意味合いが強いものだったので、2次合宿で、本当の意味での秋に向けての強化合宿が始まったばかりです。まだ前半のセット練習で、彼らが苦手な練習ですが、それをどれくらいできるかと今見ているところです。良かった面と、やはりできなかったという面がありました。もう少しできるかと思っていた部分もありますが、実際には想定通りです。

――この選抜合宿のテーマなどはありますか

 まずは決められたメニューをどれくらい消化できるかというところです。先ほど言った、勝つための練習ではなく、強化という意味での練習で、私が上武大学で指導していた時にこの時期にやっていたものと近い練習を行なっています。アップダウンのあるタフなコースで、彼らはきついという印象を受けているようですが、できて当たり前の練習だと思います。

――どういった練習が多いのですか

 セット練習で、2日続けて行う練習が多いです。今までそういった練習が少なかったため、選手たちは割ときついという印象を受けているようです。選手たちには、練習だけでなくて、練習・休養・栄養の正三角形を大きくしていかないとケガをするので、という話をしました。練習後のケアや食事をしっかり行わないとこなせないメニューなので、それがどれだけできるかというところだと思います。

――監督から見て今調子の良い選手はどなたですか

 調子がいいというか、実力通りしっかり期待通りの走りができている選手は結構います。その中でもキャプテンの創士(鈴木創士駅伝主将、スポ4=静岡・浜松日体)はしっかり合宿をやれていますし、石塚や菖蒲(敦司、スポ3=山口・西京)もいいかたちできています。あとは伊藤大志(スポ2=長野・佐久長聖)もいいですし、あとあまり名前の上がらないところでいうと、伊福(陽太、政経2=京都・洛南)はすごく頑張っているという印象を受けます。伊福は去年故障などであまり走れておらず、私が来た時も故障していたのですが、この2カ月でぐっと一気に上がってきたので、すごく期待しています。

駅伝シーズンに向けて

――次に駅伝シーズンについて伺います。まずは予選会(東京箱根間往復大学駅伝予選会)になりますが、答えられる範囲で構わないのですが、戦略はありますか

 今、この夏を経てどういう戦い方をするかを考えているところです。本戦で上位争いをすることを考えれば、予選会も集団走ではなくそれぞれが自分の力通りに走れるような戦い方ができれば良いですが、この夏合宿を経て、それだと少し危ないとなれば、集団走を行うかもしれません。

 私は(上武大指導時代に)よく集団走をしていたと言われるのですが、集団走をしろと言っていたわけではなく、仲間が見える位置で走っていれば良いと言っていました。他のチームもいる100人以上の集団の中で、同じチームで固まろうとすると、転倒してしまうこともあります。あくまで、大集団の中でも苦しい練習を共にしてきたチームの仲間が見える位置で走っていれば、「あいつがいるから俺も頑張れる」、「俺が頑張るからついてこい」となるので、なんとなくみんな集まってしまったという感じです。

 本戦を考えた時に、集団で二つ三つ固まって予選会を通過しているような状況であれば、今年の本戦はあまり期待できないかもしれないですね。個別で上位に5人以上の選手が入ってくるような早稲田らしい戦い方ができていれば本戦も期待できると思います。

――戦い方はチームの状況に応じて柔軟にという感じになりますか

 そうですね。夏合宿までは秋のロードシーズンに向けた練習はほとんどやっておらず、それぞれ個人の大会に出る選手に合わせた練習と、ケガから戻す練習をやっていました。この合宿からいよいよ箱根駅伝に向けた練習もやっていくので、ここからという感じはします。

――花田監督から見て、予選会を上位で通過できるような戦力はありますか

 士別ハーフマラソンが思ったよりも良かったので、相手チームの分析はまだですが、今のところは十分に余裕を持って通過できると思っています。上武大時代も、予選会の前はライバルチームの戦力を分析した上で、正確にデータを出していたので、これからの2カ月では他大学の情報も集めながらやろうと考えています。

――予選会の3週間後に行われる全日本(全日本大学駅伝対校選手権)の立ち位置はどのように考えていらっしゃいますか

 全日本は早稲田にとって得意な距離だと思うので、優勝争いができるかはまだ分からないですが、確実にシード権を取って、前半は上位争いをするような見せ場のある戦いをしたいと考えています。

――最後に駅伝シーズンの目標をお願いします

 現時点でチームの戦力状況はまだ分からないのですが、本戦を戦うというのを考えれば、少なくとも予選会は3番以内では通過したいと思っています。全日本もしっかりシードを取った上で3位争いをできるようなチーム状況になってくれば、箱根駅伝では往路は優勝争いができると思っています。昨年シード権を落としているので、やはりシード権は最低限達成したいと思っていて、その中で今年は総合7番くらいが及第点と思っています。

 やはりチーム強化には3年くらいはかかります。私が監督になって一通り選手が入れ替わるのが4年後で、上武大時代も4学年そろったときに(箱根駅伝に)初出場できればと指導をして、実際に初出場したので、早稲田でも4学年全部一回りした時に優勝を狙えるチームにしたいと考えています。しかしそれだと今の3、4年生は、ここにいても優勝できないのか、という話になってしまうので、優勝という目標を立てているのであれば、覚悟を変えていく努力をみんなでしていこうという話を選手にしています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 及川知世、戸祭華子)

◆花田勝彦(はなだ・かつひこ)

1971(昭46)年6月12日生まれ。滋賀・彦根東出身。平6人間科学部卒。1994年日本選手権5000メートル優勝。アトランタ、シドニー五輪日本代表。2004〜2016年上武大学駅伝部監督、2016〜2022年GMOインターネットグループ・アスリーツ監督。2022年〜早稲田大学競走部駅伝監督