箱根直前特集2回目は、Bチームの指導に当たる駒野亮太長距離コーチ(平20教卒=東京・早実)に話を伺った。今年は昨年度Aチームで練習していた選手も長い間Bチームに在籍したが、これまでどのように練習を積んできたのか。
※この取材は12月5日にオンラインで行われたものです。
前回の箱根は「タイム通りの力が出せなかった」
オンライン取材に応じる駒野コーチ
――まず前回の箱根について伺います。結果をどのように捉え、またチームとして強化が必要だと思った部分はどこでしたか
4区までは良いかたちでいけて、5区のつまずきが結果的に復路にまでに影響してしまった部分があったので、上りの5区が課題として上がりました。もう1個あげるとすれば、1万メートルのタイムが勝負の強さに変換されていない選手が見られた部分があると思います。去年で言えば、太田(直希、スポ4=静岡・浜松日体)と中谷(雄飛、スポ4=長野・佐久長聖) が直前で27分台を出して注目されていましたし、それだけでなく卒業してしまいましたが宍倉(健浩、令3スポ卒=現JR東日本)や山口(賢助、文4=鹿児島・鶴丸)も28分20秒前後のタイムで走っていました。他大学からすれば往路で戦える選手たちがそろっているのに、そこを復路に回したときにアドバンテージを握るのではなくただ順位を維持するだけだったところもあったので、全体的にそういう選手も多かったかなという印象でした。
――強さという部分で物足りないところがあったと
タイム以上、タイム通りの力が出せなかったことが前回物足りないポイントとしてありました。そこはしっかり相楽監督(豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)も、年間を通して「強い選手になろう」という話をしてきていました。そこから(新チームの)立ち上げがあって、やっぱり日本学生ハーフマラソン選手権大会が試金石になるかなと思って臨んだのですが、結果的にワールドユニバーシティゲームズの出場権を獲得できなくて。風がすごく強い中のレースでしたが、そこでも強さを見せるよりは弱さを露呈してしまった選手の方が多かったかなと思います。
――4月には一般組を含めて多くの選手が入部したと思いますが、4月頃の練習メニューは、一般組は駒野コーチが見ていらっしゃったのですか
一般組で入ってきた選手たちはほぼ例外なく全員私のところでしっかり力をつけて来なさいという話だったので、1年生ですぐ監督のライン、Aチームに入ったのは石塚(陽士、教1=東京・早実)、伊藤(大志、スポ1=長野・佐久長聖)の2人だけでしたかね。
――夏合宿は、Bチームは人数が多かったと思いますがどのように取り組んでいらっしゃいましたか
夏合宿は本来Aで合宿しているはずの鈴木(創士、スポ3=静岡・浜松日体)、山口賢助(文4=鹿児島・鶴丸)らの箱根経験者が数名、Bチームで立ち上げから始めてくれと言われていました。一般入試の選手たちだと基礎がまだできていない選手たちも多かったので、特に前半は、8月の中旬から下旬ぐらいまでスピードを一切出さないジョギングと距離走ですね。徹底的に土台作りをしようという位置づけでやったので、本当に選手たちには1カ月ジョギングしかさせなかったです。それぐらい徹底して基礎をやってもらってそこが今秋シーズンになって少しずつ結果として表れてきているかなと思います。
――土台作りを徹底されていたのですね
8月の2次合宿の途中まではしっかり基礎固めを半澤(黎斗、スポ4=福島・学法石川)などを含めた4年生 、箱根を経験しているしていないに関わらずある程度特別扱いせずにやってもらったという感じです。
――9月以降はその中でも分けたりしましたか
そうですね。そのなかから9月の3次合宿のタイミングで半澤と安田(博登、スポ3=千葉・市船橋)と伊福(陽太、政経1=京都・洛南)と鈴木創士の4名はAに合流してもらいました。逆に山口、室伏(祐吾、商4=東京・早実)に関しては出遅れていたので、そこは引き続きBチームで、Bの中でもAにいつでもトライできるような環境で練習しつつ、力を引き続き蓄えて貰うという。Bの中でもAに極めて近いところにいる選手と、いわゆるBチームの選手たちには分かれていたかもしれないです。
――3次合宿のタイミングで半澤選手、鈴木選手、安田選手、伊福選手の4選手をAチームに上げた理由は
練習の継続具合がほぼ完璧だったのと、2次合宿の後半からしっかりと距離を踏みながらもレースに近いスピードを出してもらったときに適応能力が高かったので、Aにすぐ順応するとは思いませんでしたが、Aに行ってもまれておいでと送り出した感じです。
――Bチームの練習の消化状況はどう感じていらっしゃいましたか
良かったです。9月に入って3次合宿は当初蔵王での合宿を予定していましたが、コロナの関係で行けなくなってしまい所沢での合宿になりました。その中でもしっかり気持ちを切らさず、まとまってやれていました。8月の中旬くらいまでに課していた足づくりとか土台づくりがしっかり機能してきている選手が出てきたので、夏合宿に関しては手応えを感じていました。
――山口選手や鈴木選手は昨年の箱根や立川ハーフ以来ケガが長引いていたと伺っています。夏はどの程度の状態まで戻ってきていたのでしょうか
山口に関しては、7月の頭くらいから練習もしっかりフルに積めていました。結構太りやすい選手で長期間第一線から離れていたので、体がぽてっとしていて少しキレもなく、体を絞る作業が必要でした。それが6月後半から7月にできていたという点では、昨年よりも夏合宿に向けた滑り出しとしては良かったかなと。夏合宿の時点である程度絞り込めて、ようやく体のキレが出てきたのが9月の2次合宿中でした。9月末の記録会ではある程度行くかなと思っていたら案の定行ってくれたので、彼にとってそういう時期が来たかなと感じています。
鈴木に関しては、体の故障もそうですが、足の裏の状態が極めて悪く、すごく時間のかかる治療をしていました。それを春からずっとやっていて、ようやく夏合宿入るか入らないかくらいで、あとは走りながら治していけるということで少しずつ下地を作ることから始めてもらいました。彼の場合はスイッチが入ると早いですし、故障している期間も自己管理をしっかりしていたのか体重が増えなかったので、スムーズに戻るべきところに戻っていった感じですかね。
――戻ってからは早かったと
鈴木はそうですね。そんなに時間をかけなくても割といけるかなという感じです。ただ練習していない期間が長かったので、本人も早くAチームに上がりたいと言ってきたのですが、二次合宿が終わるまではタメをつくろう、足をつくって、3次合宿からチャレンジをしようと話していたので、その通りになったかなと思っています。
――夏合宿で特に力がついた、成長したと感じる選手は
みんな良いので、一人の名前を挙げると怒られそうな気もしますが、3年生の白井航平(文構3=愛知・豊橋東)ですかね。これまでの2年間、練習ができるんですが質が高くなかったり、苦しいところで離れてしまったり、取りこぼしやムラがありました。今年3年生になってBチームのムードメーカーになって、走り込みの時期も率先してやってくれていたので、その結果11月の1万メートルの記録会でベストを1分近く更新してくれました。それまで1万メートルという距離に対して不安があったので、それを払拭してくれたという点では、夏合宿で力をつけた選手の筆頭かなと思います。
――Bチーム全体を引っ張っていたのは4年生ですか
そうですね。半澤がいる時は、半澤を中心にやってくれていました。半澤がAに上がってからは、山口や河合(陽平、スポ4=愛知・時習館)、室伏といった面々がBチームにいいお手本を示してくれていたので、その背中を見て、3年生以下の選手はなんとか追いつきたいと思ってやっていたんじゃないかなと思います。
駅伝を振り返って チーム力の課題
――駅伝についてのお話に移ります。まず出雲、全日本の結果はどう捉えていますか
出雲も全日本もひと区間で大きなブレーキが発生してしまって、そこまで良い流れだったのが断たれてしまったところから、もう一度盛り返すことができませんでした。本来できる力はあるのでしょうが、それができる状態になかったことが出雲、全日本に共通していたかなと思います。ただこれは走った本人たちの責任よりは、そのオーダーを組まざるを得なかったチーム全体の責任でもありますし、しっかりマネジメントできなかった監督、コーチ陣の責任でもあると思います。走った当人たちには下を向いている場合ではないと伝えました。伊藤と佐藤(航希、スポ2=宮崎日大)に関しては集中練習をしっかりやってくれていますので、その2人が駅伝でつくった借りは駅伝で返すつもりでやってくれていると思います。
――出雲、全日本を踏まえて、レースでの収穫や箱根に向けた課題として浮かんだことは
収穫は自分たちが力をちゃんと出せば、ある程度のところで戦えるということです。出雲も1区の菖蒲(敦司、スポ2=山口・西京)で滑り出して、途中苦しみましたけど、4区の石塚でしっかりもう一回反撃ののろしを上げてどうかなってところでした。全員が力を出し切れなかったというより、出し切れた選手が随所に見られたので、自分たちの取り組みは方向性としては間違ってないと。
ただ全体としてまだ6人とか8人を『競って』決めたというよりかは、『この6人しかいないよね』と決めざるを得なかったチーム状況が課題だったと思います。箱根に向けてなんとなくこの10人しかいないと決まるというよりは、最後の最後まで全員で争って競い合って10人、11番手12番手の選手を使っても同じくらいの結果を得られるようなチーム力で入らなければと思っています。
――チーム力が課題だと
出雲も全日本もちょっと駒が足りなかったというか、鈴木や山口が本来であれば出雲だったら絡んでこなければならなかったでしょうし、全日本に関しては千明(龍之佑駅伝主将、スポ4=群馬・東農大二)、太田の2枚を欠くことは飛車角落ちに近い状態だったので、その時点で「どうする」となってしまいました。そういう状況に陥ったときにチーム力、底力が問われると感じました。
――出雲や全日本の後のチームの雰囲気はどう感じていましたか
全日本は6区の失速以外は、8区の山口も物足りなかったですが、それ以外の6人はしっかり仕事をしてくれたと思いますし、井川(龍人、スポ3=熊本・九州学院)や中谷(雄飛、スポ4=長野・佐久長聖)は他大学のエースと渡り合ってくれたので、目も当てられないということはなかったです。ただ出雲全日本も勝ちにいっていて、3冠を目指していたチームだったので、それをかなえられなかった悔しさが例年よりも滲んでいたかなと感じる部分がありました。
ただ、悔しいなとか勝ちたいなというのが今一つ行動に見えていなかったのが全日本の後で。目の色が変わってくるのかなと思っていたのですが、意外とそういうこともなく、割と淡々とやっている印象でした。 ただこれも先日(11月21日)長距離ブロックでミーティングをして、そこで改めて4年生から「勝ちたい」と。「最後の箱根は本当に勝つつもりでやっていくからついてきてくれ」と、千明キャプテンや4年生から示されたことでスイッチが入ったのかなという印象はあります。
――ハーフマラソンのトライアルはどんな位置づけでしたか
本来上尾シティハーフマラソン(上尾ハーフ)が行われていた時期なので、昨年もそうでしたがハーフの距離を一回経験しているかは大きいので、特に未経験の石塚陽士やそこにまだ自信が持てていなかった井川であったり、そういうメンバーがまず練習の一環で、1キロ3分のペースで行くのがあって。そこに東洋大学さんが合同練習として入ってくださりました。
4年生は同日の1万メートルの記録会に出る選択肢もあったのですが、正直Bの4年生がどこで自分の存在感を示すかといったら、やはり1万メートルで29分20、30秒を出してもしょうがないよねと。正直28分台を狙える状態ではなかったのですが、ハーフに対して3分ペースで押していくのは1年時からずっとやってきているので。「そこにワンチャンスかけてみないか」という話を本人たちとして。最終的にどちらに出場するかは本人に委ねました。本人たちからそれぞれハーフで頑張ってみたいと申し出があったので、という経緯です。
――結果としては、河合選手がAチームの選手に食らいつきましたが、Bチームの選手たちの評価は
河合と茂木(凜平、スポ4=東京・早実)と向井(悠介、スポ4=香川・小豆島中央)の3人は、Bチームからトライアルに臨んだのですが、河合はいけるかなという自信はありました。他2名は練習が完全ではなかったので、ちょっと正直どこまでいけるかチャレンジするしかないという状況でした。河合は3月のマラソンも走ったりスタミナの強みがあるので、調子もよかったですし。Bチームの選手は毎年この時期の上尾ハーフで頭角を現して集中練習に食らいついていって(箱根の)アンカーを走ることがあるので、それになぞって河合がいってくれたことは一つ、チームにとっても、Bチームがすぐそこに来ていると感じてもらうきっかけになったのではないかなと。
――他の4年生は、今年の練習で継続できていない状況があったのですか
室伏は大丈夫でした。トライアルの前からAに合流していたので。ですので室伏は(トライアルの結果は)どうしちゃったのかなと。気負いすぎてしまったのか、700メートルのコースが合っていないのか。去年もあまりよくなかったので。実力が発揮できなかった悔しさもあると思うのですが、我々も室伏は河合くらいで走るのではないかと期待していたのでそこに誤算がありました。
向井は夏合宿がほぼできていないので、積み上げ段階でどこまで頑張れるかなと思いましたが、10キロ過ぎまでは対応できていましたので少しずつ戻ってきたのは印象づけてくれました。茂木は夏合宿、その後からも細かい故障で練習が積めておらず、引退なので我慢して走るという状態でした。本当に(練習を)やり切ってスタートラインに立ったわけではなく、本人も「ごまかしがききませんでした」と終わってから言っていたので、そういう結果になったのかなと思います。
――チームとして、冒頭でも山が課題だということでしたが、今年の取り組みで工夫されているところは
去年は早い段階から諸冨(湧、文2=京都・洛南)かなというのは選手間でもそうですし、我々の中でもなんとなく決まってしまっていて。諸冨が緊張感なかったとは思いませんが、チーム内で競争を生む意識がなかったのかなと思います。本当のスペシャリストだったらいいですが、まだスペシャリストでない選手に当確を与えるのは違うのかなと思っています。今年に関しては、今は誰で行くかは決め切っていないというか、最後の最後までいろいろなことをやって総合的にこの選手で行けるだろうと決められるようにしています。
――5区候補の選手は他の区間で走る可能性も並行して残しているのでしょうか
5区だけでとはならないかなと。5区がダメだった時に8区に回ってもらうこともあるでしょうし。そこは「自分が5区行きたいです」という選手が何人かいるので、そういう選手たちで競わせて見極めていかないとなと思っています。
――自ら行きたいという声が複数からあるのですか
自分が行くしかないと覚悟を持って話してくれる選手が。あの区間は自分も経験者だから分かりますが、最後走力や適性も大事ですが、やっぱり気持ちを切らさずに最後まで足を動かし続けられるかがポイントです。自分が何が何でも勝ち取ってやるとか、上がってやるという思いが最後は勝負を分けるかなと思っているので、そういう「我こそは」という選手が複数出てきていることは頼もしいですし、うれしいですね。
集中練習の様子
――(12月5日時点では)集中練習が始まって1週間経ちましたが、チームの雰囲気や練習の消化具合はいかがですか
ちょうど今日までが集中練習の『基』の期間、いくつかのカテゴリーでいくとスタミナづくりとか足づくりをしようという期間だったので、例年になく多くのメンバーがやれています。下地づくりでは、監督からも距離の適応が遅れているという話をデータを示しながら話していただいて、選手たちも目に見えて足りていないところを実感として持っています。特にこの2週間ちょっとは意欲的に走り込んでくれているので、そこの第1クールというか、最初のステップはクリアしたかなと思います。
――夏合宿をBチームで積んだ選手で、集中練習に参加している選手は誰がいらっしゃいますか
山口、河合、室伏、向井、安田、半澤ですね。Bチームでしっかりやっていたメンバーが、スピードをバンと出すよりはじっくり精神的につらくなるような練習を率先してやってくれているので、やっぱり頑丈だなと思って今日も見ていました。
――(12月5日時点で)11月21日のミーティング以降のチームの雰囲気はいかがですか
練習中に全体でしっかり声を出して盛り上げていこうという話が出ていて、今日みたいな苦しくて泥臭い練習でも実践されていました。雰囲気としては主力で出遅れている選手が数名いるので、そこが合流してさらに雰囲気が上向いてくれば、ここからあと1カ月、状態としては上がっていくとの期待のほうが大きいです。
――最後にコーチとして箱根に向けた意気込みをお願いします
学生たちの『勝ちたい』という思いがどれだけ出てくるか。それに我々も呼応するかたちでアドバイスとか、指導に熱が入っていくと思います。強いワセダといいますか、これまでの何回かの駅伝は『速いけど弱いワセダ』しかお見せできていないので、『強いワセダ』をもう一度お見せできるような下準備をしています。強いワセダに期待していただいて、それをお見せできるように選手と頑張っていきたいと思っています。
――ありがとうございました!
(取材・編集 布村果暖)