【連載】箱根事後特集『不撓不屈』第8回 中谷雄飛

駅伝

 3大駅伝で区間賞。1万メートルで27分台。誰もが認める早大のエースとして東京箱根間往復大学駅伝(箱根)に臨んだ中谷雄飛(スポ3=長野・佐久長聖)。しかし、結果は3区6位と、自身が求める結果には及ばなかった。そんな中谷は、どのように箱根路を振り返るのか。そして、ラストシーズンに向けた覚悟とはー

※この取材は1月20日にリモートで行われたものです。

「区間6番という順位はとってはいけない」

――現在(1月20日時点)練習はどのように行っていますか

 箱根が終わってから地元に帰っていた時期とセットでやっている感じです。基本的には、ジョグなど練習量に重きを置いて、下地づくりを行っています。

――箱根の疲労は抜けましたか

 丸4日間ぐらい、全く走らずゆったりできた期間があったので、うまく疲労を抜くことができたかなと思います。

――今季の活躍ぶりから例年以上に注目を浴びていたと思います

 箱根に向けての取材などで、とても注目されているなと感じるとともに、結果を出すことも求められているなと感じた大会だったと思います。

――どんな経緯で井川龍人選手(スポ2=熊本・九州学院)が1区、中谷選手が3区に決まったのでしょうか

 監督(相楽豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)から12月31日ぐらいに3区出走を告げられた感じです。監督は直前まで井川と僕で1区と3区どちらに配置するのか迷われていたと思います。僕自身、単独走も得意ですし、3区の方が自信があると監督に話していた部分もありました。結果的に井川の調子も上がっていたこともありますが、僕の意見も汲んでいただいたかなと思います。

――2020年を通じて20キロという距離に向けた走り込みをしていた時期はありましたか

 単体でそのような走り込みをしていたのは比較的少なかったかなというのはありますが、その分1日のトータルの走行距離で考えればだいぶ増えたかなという印象はあります。

――そのような走り込みは下級生時もしていましたか

 そうですね。全てチームに合わせてやっていたわけではないですが、うまく自分なりに調節しながらやっていた感じです。

――集中練習の出来に関しては

 飛び抜けていい感じではなかったですが、最低限できていたかなとは思います。

――10番目でタスキを受けましたが、どんなことを考えて出走しましたか

 僕のところでしっかり順位を上げないといけないなということは考えていたので、とにかく前を見て走ろうと考えていました。

――どこまで順位を上げたいと考えていましたか

 動き出しからあまり体の調子が良くないなと感じた部分があったので、具体的にどこまで行けるかというイメージはありませんでした。ただ、前に何校か確認できていたので、そこまでは行きたいと考えながら走っていました。

――前半から突っ込むという指示があったと思いますが、ご自身の感覚と実際のタイムに違いは感じましたか

 最初の10キロは27分台か28分10秒ぐらいでそこからはひたすら粘って押していくという指示でした。ですが走り始めてみたところ思ったより動かなくて、なかなか流れに乗ることができなかったなと思います。10キロの通過も実際は28分台ギリギリという状況だったので、理想と現実がかけ離れているということで、少し焦りはありました。

――ダメージが来たのはどれぐらいの距離からでしょう

 10キロを超えたあたりで体がいっぱいになり、残り10キロぐらいの海岸沿いの道に入ったときから、前との差も詰まらなかったということもあり精神的にもきつかった印象です。

――監督車からはどのような指示をうけていましたか

 定点での区間順位や前との差などの状況を伝えてもらいました。あとは後続の大学に追い付かれたときに簡単には負けるなよと声掛けをもらって、それが力になって頑張れた感じです。

――後半の走りの指示はどのような内容でしたか

 最後残り1キロを切ってから得意なラストスパートを出せと言われました。また10キロから15キロ地点までの間と最後の5キロに関しても、そこの粘り次第で区間順位もトータルのタイムも変わると言われていたので、そのあたりを意識して走りました。

――帝京大に追い付かれたときのご心境は

 僕自身厳しい走りになっていると感じていて、どこかのチームが追い付いてくることは想定していました。追い付かれたときに簡単には離されないようしたいと考えていたのですが、足が残っていなかったこともありそれができず、自分の力不足を痛感しました。

——4区の鈴木創士選手(スポ2=静岡・浜松日体)に何か声は掛けられましたか

 あまり覚えてないですが、中継のときに声掛けしないというような規則があったので、頼むぞ、と念じながら渡しました(笑)。

――レース後に監督からはどのような話をいただきましたか

 僕自身自覚はしていませんでしたが、日本選手権の疲労やピークがうまく合わなかったという話をしたかなと思います。例年と日程もかなり異なり、本格的に箱根に向けた練習というのが少なかった部分もあったので、その影響が出たという内容です。

――調子が上がり切っていなくても区間6番。ある程度まとめることができたという見方もあると思います

 他の選手と流れが違い、練習でなかなか準備ができなかったというのはあります。しかしやはり3区の中では僕が一番持ちタイムも良かったですし、力があると自他共に認めるなかでとても応援や期待をいただいていましたが、それでも勝ち切れなかったことはふがいないと感じます。エースと呼ばれるからには区間6番という順位はとってはいけないものだと考えていて、どんな状況でも区間賞やもっと順位を上げる走りをしなければと思っているので、もう一度気を引き締めていかなければならないといった危機感を感じました。その意味で反省点が多かった走りでした。

――短期間にピークを2つつくることの難しさは実感されましたか

 そうですね。僕は結構試合に向けて自然と調子が上がってくるタイプなので今回もその通りになるかなと考えていたのですが、今回なかなかうまくいかなかったので、ピーキングの難しさを感じました。自分の中で探る感じで新しく方法を見つけるのもありなのではないかなと思っています。

――復路はどのようにご覧になっていましたか

 往路が終わった時点で順位も良くなかったのでヒヤヒヤしていましたが、復路にも強い選手が残っていたのでみんなならやってくれるだろうと信じて見守っていました。

――どのようなサポートをされていましたか

 8区千明(龍之佑、スポ3=群馬・東農大二)の付き添いですね。

――10区山口選手(賢助、文3=鹿児島・鶴丸)が6位争いをしていたときはどんな心境でしたか

 山口はどちらかといえば、切り替えてスプリントというよりは長い距離をハイペースで押していく方が得意という印象だったので、最後ラスト200メートルの勝負だったら負けてしまうのではないかと(笑)。ですが、あの状況下でベストを尽くしてくれて頼もしいなと、良くやってくれたなと思いました。

 

ラストイヤーに向けて

オンライン取材では笑顔を見せた中谷

――来年度のチームとしての目標は決まりましたか

 学年の中では、3冠を狙う、新入生含めていいメンバーが揃っているのでやるからにはトップをとりたいという話が出ています。これから正式に話し合っていく感じになるのですが、3つの駅伝全てで勝ちたいなと考えています。

――佐久長聖高から伊藤大志選手が入学されますが、中谷選手の影響でしょうか

 いや、どうなんですかね(笑)。高校時代あまり関わりが無かったので、そういうかたちで入学してくれたのならとても嬉しいです(笑)。

――中谷選手から見て、どんな点がチームとしての伸びしろや良い点だと捉えていますか

 いい意味で、個性が揃っているなと。長い距離が得意な選手もいればスピードに長けている選手もいるなど、一人ずつ長所がある選手が集まっているのがこの早稲田というチームです。個々が自分の得意分野を伸ばしていけたらさらに強いチームになるなと、そこが伸びしろだと思います。また、うちのチームは団結力、まとまりがよいと思っているので、そこは良い点だなと考えています。

――逆に課題に関してはいかがですか

 今回の箱根でも表れましたが、僕も含めて自分自身の力を100%出せなかった選手が多かったので、その部分を改善できればもっと強くなれると考えています。それは、ピーキングも含めて、普段の練習が大きく影響しているなという感じです。

――ご自身のチーム内の役割については、どのように考えていますか

 チームのキャプテンは千明ということになっていますが、千明が引っ張るだけではなく、学年全体で千明をサポートするつもりなので、その中の一員としてしっかりとしたいなと。練習の部分では、チームをけん引したいと考えています。僕自身これまでチームに対して何かを言う機会はあまりなかったのですが、これからは自分が気付いたことを積極的に発信していけたらいいなと思います。それはいい部分も悪い部分も含めてで、より良いチームづくりに貢献したいなと考えています。

――今シーズン全体を振り返っていかがですか

 難しいですが、得点で表すと大体75点だったかなと(笑)。

――残りの25点はどんな部分ですか

 箱根で区間賞を獲得したかったですし、勝負事のレース、例えば日本学生対校選手権(全カレ)でトップ争いに絡めたらなというのはあります。1万メートルに関しては目標が達成できましたが、5000メートルでは目標に1秒届かなかったので、そういった詰めの甘さを含めてマイナス25点です(笑)。

――1万メートルの持ちタイムのランキングは大きく飛躍したと思います

 27分台を出せたこと、特に自分でレースをつくった中での27分台は自分の中でとても自信になりましたし、今後につながる点かなと思います。ただ、上を見れば留学生だったり、1学年下の田澤(廉、駒大)がいるのでまだまだ満足はできないなと感じました。それ以外にも28分20秒を切っている選手やそのあたりの選手はたくさんいて、そういった選手たちも27分台を出してくるような力があると思っているので、より危機感を持たなければと思っています。タイムとしては日本人学生記録を更新するつもりで取り組んでいかないと学生の中で突き抜けられる存在になれないので、それを体現できるように頑張っていきます。

――その学生記録は大迫傑選手(平26スポ卒、現ナイキ)が持つものです

 そうですね。目標としている先輩であり、それを超えたいと思って早稲田に入ってきたので、日本人学生記録を達成できたらなと思います。

――以前、伸びしろとして走行距離を増やすことを挙げていらっしゃいました。それはトラックを意識したことか、それとも駅伝を意識したことでしょうか

 半々ぐらいで、どっちもいけるようにと考えています。一番念頭に置いているのは前半にあるトラックシーズンで連戦が続いていく期間です。しっかりと下地をつくって、連続して高いパフォーマンスが出せるようになることを狙っています。また箱根を通して、20キロという距離になると最後まで脚がもたないと感じていたので、脚づくりをしておくことで長い距離を走り切れるということを見据えて、走行距離を増やしているといった感じです。

――具体的にはどういったかたちで距離をのばしているのですか

 メインはジョグで増やしている感じです。あとはポイント練習の前後で普段より多めに走っています。

――来たるトラックシーズンの目標は

 まずは、開催は不透明ですがユニバーシアードがあるので、1万メートルで出場できるようにやっていきたいなと思っています。また記録に関しては、1万メートルと5000メートル両方で学生記録に近づけるような走りをしたいです。勝負事のレースも多くなってくるので、そこで勝ち切れるような強さを身に着けたいです。

――次戦のご予定は決まっていますか

 このままうまく練習を積むことができたら、学生ハーフに出場する予定です。この1月2月の走り込みがどのようなかたちで結果として表れるのかを確認する機会として出場します。

――最後に改めて、大学4年目の意気込みをお願いします

 最後のシーズンになるので、練習でも試合でも悔いなく終われるように、1日1日を大切にしてやっていきたいです。応援していただいているたくさんの方々にいいかたちで恩返しができるように、結果を通して感謝を伝えられればなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 青山隼之介)

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◆中谷雄飛

1999(平11)年6月11日生まれ。169センチ。長野・佐久長聖高出身。スポーツ科学部3年。2021年箱根駅伝3区1時間3分29秒(区間6位)。常に高い意識を持って鍛錬を積む中谷選手。早稲田のエースとして、更なる飛躍を誓います!