【連載】箱根事後特集『不撓不屈』第3回 井川龍人

駅伝

 チーム全体の流れを左右する1区に抜てきされたのは、2年生の井川龍人(スポ2=熊本・九州学院)。高速レースになると見られていた中、まさかの超スローペースという幕開けになった。それでも井川は終始先頭を徹底マークし、トップから17秒差の5位でタスキをつなぐ好走を見せた。そんな井川はどんな思いでレースに臨み、2度目の東京箱根間往復大学駅伝(箱根)でどんな収穫を得たのか。改めて振り返っていただいた。

※この取材は1月20日にリモートで行われたものです。

自信を持ってスタートラインに立てた

一斉に大手町を飛び出す1区の選手たち 写真提供:共同通信社

――箱根後には周囲の方からの反響はありましたか

 親戚とかからは「頑張ったね」と言われて、友達からは「何やってんの」とか言われました。厳しいですみんな(笑)。

――もう疲労は抜けましたか

 疲労は抜けました。

――では箱根についてお伺いしていきます。区間はどのように決まったのでしょうか

 決まったのは(12月)31日頃で、他には3区の候補にもなっていました。前回(3区を)走ってコースもよく知っていて、去年よりも走れるんじゃないかなと思ったので、自分的には3区を走りたいなとは思っていました。

――付き添いは安田博登選手(スポ2=千葉・市船橋)でした

 去年も安田にしてもらって、今年も安田から「俺選んでくれるんでしょ」ってきたので、安田にしました(笑)。

――スタートラインに立ったときはどんな心境でしたか

 去年よりは緊張もなく、練習をやってきたこともあって、スタートラインには自信を持って立つことができました。

――1区といえば、高校時代にも全国高校駅伝(2017年1区2位)や都道府県対抗男子駅伝(2018年1区区間賞)など成績を残しています。箱根でも、今までの経験がつながってくる部分はありましたか

 はい。1区は経験しているので、どうしたら勝ちにつながるのかというイメージはあったと思います。

――12月20日の取材時には集中練習の疲労があるということでしたが、その後当日までの調子はいかがでしたか

 いい感じに疲労も取れてきて、当日も疲労感なく走れたんじゃないかなと思います。

――レース前、相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)からはどんな指示がありましたか

 後出しじゃんけんという感じで、絶対自分からは前に出るなということでした。しっかりラストで自分がいけると思ったときだけ出るようにと言われていました。

――想定していた展開は

 去年とかもハイペースだったので、今年もそうなってくれたらそこまで最後も上がらずに、最後のスパート勝負になれば粘り勝ちできるかなと思っていました。

――そのような想定の中で、1区はかなりスローペースでの出だしになりましたが、走っているときの心境は

 やっぱり前に出たかったのですが、強い選手がたくさんいたのでここで出たら絶対みんなついてくるし、無駄な力を使うだけかなと思ったので、そのときは勝ちにこだわることだけを考えていました。

――レース中はどんなことを考えて走っていましたか

 自分に自信を持たせるような感じで、まだ余裕があると言い聞かせながら走っていました。1区はついていくだけでいいので、できるだけ何も考えないようにしました。

――沿道応援が自粛されていましたが、昨年との違いは感じましたか

 昨年までは(声援で)すごい耳が痛くなるような感じだったのですが、今年はそういうのもなくてまばらだったので、それと比べると応援はあったほうが走りやすいなと思いました。

――特にきつかった場面はどのあたりでしょうか

 六郷橋を下った後の平坦な部分が一番きつかったと思います。

――19キロ過ぎでアームウォーマーを取りましたが、そのときはどんな状況でしたか

 練習のときとかも付けていると温かくて走りやすいのですが、外した方が腕は(振れて)走りやすくて良かったので、ちょっと軽装で切り替えていこうかなと外しました。

――タスキを渡すときに何か声をかけましたか

 声をかける力もなかったです。

今後に向けて

オンライン取材に応じる井川

――レース後相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)からは何と声を掛けられましたか

 褒められるよりかは反省点という感じでした。自分は前の方で誰かが出たときに対応できるような位置で走っていましたが、それも大事ではあるけど、法大の鎌田(航生)選手が勝った理由として、後ろの方でずっと力を使わずについていたのが良かったのではないかというような、次に生かせるような話をしました。

――昨年の箱根と比較して2年目の走りはどう評価しますか

 昨年は10キロを過ぎたところからずっときつくて全然自分の走りができなかったのですが、今年は自信がついていたのもあって最後まで自分の力を出し切っていい走りができたと思います。

――今季はフォーム改善や走り込みなどいろいろな取り組みをされてきたと思いますが、それらはどのようなところに生きたと感じていますか

 フォーム改善についていえば、無駄な動きが減ったので楽に走れるようになっていたと思います。距離を踏んできたことに関しては、21キロという距離自体が怖くないようになっていたので、スタートラインに立ったときの不安は去年に比べてなかったと思います。

――自分の走りのさらなる課題は見つかりましたか

 (力を)出し切った後に力んでしまい、フォームがまた昔の状態に戻って後半うまくスピードに乗ることができなかったと思うので、出し切った後にどれだけまたフォームを崩さずに走れるかが課題になると思います。今後は練習の後にプラスアルファで400メートルを走ったりして、もう一回追い込めるような練習をできたらいいなと思っています。

――チームの内外で刺激を受けていた選手はいますか

 やっぱり創士(鈴木創士、スポ2=静岡・浜松日体)と小指(卓也、スポ2=福島・学法石川)から一番刺激を受けたと思います。小指は5000メートルで日本選手権に出たりとか、( 5000メートルで13分)30秒台を出したりとか。創士に関してはかなり練習量が多くて、「創士がこれだけやっているからもっとやらないといけないな」と思って、刺激になっていました。

――今季は大会が減り、箱根も開催自体が検討されることがありましたが、それは自分のモチベーションには影響しましたか

 でもどちらかというと今年は自分の課題が多く見つかっていて、それを改善しようということで、箱根までも時間はありましたがやることが多くてあっという間に来たなという感じがありました。

――来季に向けた目標はありますか

 5000メートルで(13分)30秒台を出して、1万メートルでも27分台を出すのが一番近い目標だと思っています。

――ではタイムの目標に加え、チームではどんな存在になりたいですか

 チームでの存在…。

――エースになりたいなどの気持ちは

 もちろん! 今年の箱根を見たら僕と創士と小指が一番というくらい活躍したのではないかと思っているので、その3人でどんどん直希さん(太田直希、スポ3=静岡・浜松日体)、中谷さん(雄飛、スポ3=長野・佐久長聖)に食らいついていけたらなと思っています。チームの中での存在となると、僕は怒ったりするようなタイプではないので、相楽さんにも言われていたのですがしっかり走りでチームを引っ張っていけたらなと思っています。

――来季に向けての意気込みをお願いします

 まずトラックシーズンでは関カレ(関東学生対校選手権)、全カレ(日本学生対校選手権)で絶対入賞したいと思います。また、タイムとしては27分台と、5000メートルでは小指に勝てるようなタイムを出せたらなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 瀬山菜々美、布村果暖)

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◆井川龍人(いがわ・りゅうと)

2000(平12)年9月5日生まれ。178センチ、63キロ。熊本・九州学院高出身。スポーツ科学部2年。自己記録:5000メートル13分45秒30。1万メートル28分12秒13。ハーフマラソン1時間4分50秒。2021年箱根駅伝1区1時間3分17秒(区間5位)。チームでの存在についての質問には悩まれていましたが、エースという点には力強く、「もちろん」と即答。上級生となる井川選手はどんな姿を見せてくれるか、注目です。