【連載】箱根事前特集『臙脂の誇りを取り戻す』第17回 山口賢助

駅伝

 夏から秋にかけて飛躍を遂げ、快進撃を続ける早大にとって欠かせない主力となった山口賢助(文3=鹿児島・鶴丸)。5000メートル、1万メートルでは大幅に自己ベストを更新してチーム上位に食い込むと、初の大学駅伝となった全日本大学駅伝対校選手権(全日本)で最長区間の8区を任され区間6位と好走した。ここまでの活躍のきっかけはどんなところにあるのだろうか。そして、中学時代から目指してきた大舞台に向けてどのような思いを抱いているのか。山口の今の心境に迫った。

※この取材は11月28日に行われたものです。

ようやく積み上げてきたものが形になって表れた

12月20日の合同取材にて

――集中練習が始まりましたが、消化具合はいかがですか

早大競技会のダメージが今も少し残っているので、自主練習の時は少し疲労を取りながらという感じでこの1週間は過ごしてきました。

――以前集中練習ではチームを引っ張りたいと話されていましたが、集中練習初参加となった昨年と比べて意識や取り組みで変わった点はどんな所ですか

 昨年は直前の記録会で思うような結果が出せなかったので、この集中練習を完ぺきにこなして挽回しないといけないなという心境でした。今年は良い記録が出たからと言って慢心するつもりはないですが、練習をしっかりこなすのは当たり前で、逆に自分がチームを引っ張って底力を上げて行くことをもっと意識していこうと思っています。

――個人として集中練習の中で特に意識している部分はどこですか

 箱根は今までのレースと比べても距離が一番長いので、集中練習の期間を通して元々自信のあるスタミナの部分の土台をもう一度作り直して行きたいです。あと僕はレースの最初を速いペースで入ることと最後の切り替えが課題で、集中練習は最初を速く突っ込んで入ってラストも競うような形で終わる練習が特に多いので、そこでラスト負けないように、レースをイメージしながら走ることを意識してやって行こうと思ってます。またジョグの時間も増やして、単独走のレースのイメージも作っていきたいです。

――現在チームでは箱根駅伝で総合3位以内という目標を掲げていますが、そこに向けてのチームの雰囲気はいかがですか

 1・2年生の頃も同じ3位以内という目標を掲げていたのですが、今年が一番その目標が達成できるんじゃないかという雰囲気が強いと思います。だからと言って実現度が高そうだとしてもやることは変わらないと思うので、そこで変に気を休めるというか慢心するのではなく、逆にもっと気を引き締めていく雰囲気を作らなくてはいけないのかなと思います。

――今季はトラックで大幅に自己ベストを更新し、勢いに乗っている印象を受けます。躍進の要因は何ですか

 意識の面については5000メートルで13分台・1万メートルで28分台を出したいという思いをずっと変えずにやってきたので、3年目にしてようやく積み上げてきたものが形になって表れたと思います。具体的な練習に関して言うと、相楽監督からミニハードルやラダーで動きづくりや流しをするようにと言われてきました。理由は、自分は接地したときに地面からの反発を貰い切れていない走りだったからで、そこを改善すればもっと伸びると言われました。1・2年目の頃はほとんど取り組んでこなかった練習を今年は重点的に取り組んできたことが功を奏したのかなと思います。走っている時もいいフォームが身についてきているという感覚があります。

――それは主にスピード面で生かせたことなのでしょうか

 そうですね。そのおかげで、レースの中盤の余裕度がかなり劇的に成長したかなと。ラストの絶対スピードはそんなに簡単に変わるものではないですが、レース中盤の余裕度はその取り組みのおかげで持ててきたと思います。

――ちなみに、今年の最初にはどんな目標を立てていましたか

 最初はトラックでは5000メートルで13分台・1万メートルで28分台、三大駅伝に出場するという目標でした。

――残すは箱根のみとなりましたが、ここまでを振り返ってみていかがですか

 5000メートルに関しては今なら13分台を出せる自信はありますし、今は目標を大きく上回る実力と自信がついていると思います。

故障を乗り越えて得た自信

――今季の練習についての話に移ります。今季は新型コロナウイルスの影響で寮から離れていた時期もありましたが、その間はどんな練習に取り組んでいたのでしょうか

 地元に帰ってからは一人で時間を決めて練習してたんですけど、朝と夕方の二部練習でこっちにいる時と変わらないくらいの量を確保できていました。ポイント練習についても、地元の高校生や社会人の方、自分の地元は駅伝が結構盛んで社会人でも走られている方が多いので、そこの合同練習に参加させてもらって質の部分はカバーできました。逆に時間が縛られない分、自粛期間中も自分がやりたいと思った練習をこなせたかなと思います。ただ寮に帰ってから故障をしてしまったので、技術的な部分での取り組みを疎かにしてしまったのかなと思います。

――「やりたい練習ができた」とのことですが、具体的にどんなことをしていましたか

 何度かジョグで近くの知らない道を30キロ以上何も考えずに走って気晴らしができたり、高校生に知野トレを教えたこともあって、普段できないような練習ができました。 ※知野トレ…知野亨トレーニングコーチによる体幹を中心としたトレーニング

――寮に戻った後に故障があったとのことですが、以前その時期に取り組んだトレーニングが好調につながったと話されていました。

 (故障で)1ヶ月くらい走れてなかったのですが、元々筋力の部分がかなり弱点だったので、その間は皆が練習を上がる時間まで地道な補強をやっていました。トレーニングをする中で、やはり技術的な部分がなってないから故障してしまったと考える部分もあったので、故障が終わってからはミニハードルとか縄跳び、ラダーを始めました。そしたら割とすぐ形となって表れてきた感じです。

――昨年の本取材で自身の走りを『スタミナ型』と評していましたが、今改めて自身のタイプや持ち味、課題について分析してみるといかがでしょうか

 スタミナに関しては自分で言うのもなんですけど、今の学生界の中では誰が来ても太刀打ちできる自信を持っています。ですがレースになった時に勝ち切れるかと言うと、スパートや前半から攻めていく走り、そこの部分が常に課題として残っています。やはり最後勝ち切るという部分がまだ自分には足りてない所で、スピードを身につけたいですね。

――スピードを課題に挙げられていましたが、これからどのように鍛えていきたいですか

 引き続き先ほど挙げたような技術的なトレーニングを一貫して取り組むようにして、集中練習でラスト競い合うような練習だったり、メインの練習の後に坂ダッシュとか200メートルの流しが今年はけっこう多く組み込まれているので、そこで周りの自分よりスピードのある選手について行って、一人ではできないような速いスピードを体感していくことで改善して行ければと思います。

――同じ所沢キャンパスの練習でも例年と練習が変わった部分はありますか

 今はもうほとんど元通りなんですけど、帰ってきてからすぐは様々なメニューを各自で考えて練習する機会が与えられていました。特に朝練習は以前は集団走が今までは週に3~4回あって距離もかなり長かったのですが、回数が減ったりして、今は自分の体調の主観的な感覚を大事にして取り組んでいくような練習が全体的に増えた気がします。

――その練習の変化は山口さんにとってプラスとマイナスどちらに働いたのでしょうか

 僕はやはりそこはプラスに働いていると思います。朝練習の集団走が無い日でも、必要かなと思ったら周りがやっていなくても一人でやったりします。集団で走るのも大事ですけど、一人で走ることも駅伝とかを想定していく中ではかなり大事になってくると思うので、そういった点でプラスですね。

――今の朝練習の話から派生するのですが、山口選手は練習量はチーム内でもかなり積む方なのでしょうか

 練習量で負けてはいけないと思っていたので、自分で言うのもなんですが、量だけで言えば1年の頃から常にチーム内で一番と言っていいくらい多い方だとは思います。

――普段の練習で意識している選手はいますか

 最近だと中谷(雄飛、スポ3=長野・佐久長聖)、太田(直希、スポ3=静岡・浜松日体)が日本選手権に向けて別メニューでやっていて、全日本大学駅伝が終わってからは井川(龍人、スポ2=熊本・九州学院)や創士(鈴木、スポ2=静岡・浜松日体)と一緒に練習を組むことが多いです。彼ら二人は1年の頃から特に活躍していて、今自分が追い付いてきたような形になるので、一緒に練習することが多い分(意識します)。創士は本当に走り方が綺麗ですし、井川はいつもポイント練習の後半に一人でペースを上げて自分を追い込む姿勢が見られるので、その辺りを見習いつつ逆に利用させてもらうというか、良い所を真似していかないとなと思って(練習を)やっています。

「優勝じゃないと満足いく結果じゃない」

全日本でゴールテープを切る山口(写真提供/朝日新聞社)

――ここからは駅伝の話に移ります。まず山口選手は今年の全日本大学駅伝で初めてエンジデビューを果たしましたが、早稲田を代表して走ったことで新たに意識したことはありますか

 エンジのユニフォームは中学校の頃から憧れて目標としてきたので、ようやく3年目にして着ることができて素直に嬉しかったです。でも全日本の走りではまだまだかなと思うので、箱根ではエンジに見合う走りをしたいです。大舞台でしっかり結果を残してこそ、それに見合う選手になれると思うので。今までは全日本という大きな舞台で走ることが目標でしたが、大きな大会に出てくるような選手と競い合ったことで、そこで勝たないといけないという意識を強く持ちました。この前の記録会でもしっかりその意識を持って、一緒に勝負する、絶対に勝つんだという気持ちを持って挑めたので、特に1万メートルで28分20秒というタイムが出た時にそうした部分は大きかったのかなと思います。

――山口選手は以前から箱根駅伝での優勝と区間賞を目標に掲げていますが、これはチームが目標を元々の総合3位以内から上方修正したのか、それとも山口選手自身でそういった思いを持っているのか、その辺りについて教えてください

 チームとしては3位以内という目標があるんですけど、個人的には優勝じゃないと満足いく結果じゃないので、自分の中で優勝したいなという思いが大きいです。

――箱根の優勝へのこだわりが伺えます。山口選手にとって、箱根駅伝はどんな存在ですか

 中学校の頃から目標としてきて大学の中で一番注目が集まる大会だと思っているので、そこで走って活躍したいという気持ちは素直にありますね。一番大きな目標としている大会です。

――昨年は走りたい区間に復路を挙げていましたが、今年はいかがでしょうか

 正直どこの区間でも行けと言われれば行くつもりではあるのですが、 個人的には今年も復路、特に9区を走りたいなと思います。2区と9区が全区間の中で最も距離が長いので、自分の強みであるスタミナが一番活かせる区間だと思います。あとは9区の後半の方は単独走になりやすいのですが、単独走にはかなり自信があるのでそこも生かせるかなと思います。

――チームの中でどんな役割を果たしたいですか

 前の方で来たら必ず先頭に立って後続を引き離す走りをして、逆に遅れてきたら、9区であれば10区で優勝を狙える位置まで押し上げる走りをしたいですね。

それに向けて山口選手はこれからどんな練習をしていきたいですか

 過去の箱根の動画を見たりして結構本番のイメージトレーニングはしていますね。あと一番大事なのは本番万全の体調で迎えることなので、体調の管理と怪我をしないことをコツコツ設定してやっています。

――最後に、来たる箱根駅伝に向けて意気込みをお願いします

 個人としては絶対に区間賞を取って、チームの目標である総合3位以内を絶対達成できるように、自分が頑張るだけじゃなくてチーム全体を引っ張り上げるような役割を自覚して取り組んでいきたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 名倉由夏)

◆山口賢助(やまぐち・けんすけ)

1999(平11)年5月3日生まれ。176センチ。59キロ。鹿児島・鶴丸高出身。文学部3年。自己記録:5000メートル14分01秒15、1万メートル28分20秒40。ハーフマラソン1時間4分50秒。自粛期間中にNiziUにはまり、それ以来K-POPを開拓し始めたという山口選手。部公認のInstagramではオーディション時のモノマネも披露していました。箱根路最速の「WithU」の座をつかむ走りに期待です!