【連載】箱根事前特集『臙脂の誇りを取り戻す』第14回 半澤黎斗

駅伝

 躍進を続ける同期の陰で、悔しさをつのらせてきた選手もいる。半澤黎斗(スポ3=福島・学法石川)は、約2年間自己記録を更新できずにいた。「スタートに立つと『また今日もダメなのかな』と思ってしまうことが多かった」という苦渋の時を経て、ついに今年の11月、5000メートル、1万メートルで立て続けに自己ベストを更新。輝きを取り戻しつつある半澤が、箱根にかける思いとは――。

※この取材は11月28日に行われたものです。

吹っ切れるきっかけ

11月28日の練習後に撮影

――前回の箱根以降どのような目標の下過ごしてきましたか

 2年間自己ベストを更新できていなかったので、まずは全種目で自己ベストを更新すること、そして駅伝でもなかなかうまく走れなかったので今年はチームの総合3位以内に貢献することを目標にしていました。

――その目標達成のためにシーズンを通じて意識的に取り組んできたことはありますか

 2年間メンタルの部分が課題だったので、その改善のためにメンタルトレーニングを受けたりとか、相楽さん(豊駅伝監督・平15人卒=福島・安積)と話し合いを重ねたりとかして、メンタルの強化は意識してやってきたつもりです。

――冬季練習はどのようなテーマの下取り組みましたか

 唐津10マイルロードレースもあったのである程度量を意識した練習をしていました。一方で、春先には1500メートルをやる予定だったのでそこに少しずつ移行するために、動きづくりやハードル、練習後の流し、ポイント練習の最後の1本を上げるなど、スピードを出すための準備も同時に行っていました。

――冬季練習の成果を測る指標として出場を予定していた大会はありましたか

 4月5月に1500メートルに2、3本出て、関東学生対校選手権(関カレ)という流れを想定していたのですが、3月末に解散になってしまいました。3月末まで自分の中ではそんなに悪くない感じがしていたので、これからどれくらいいけるかなというところだったのですが、出場できなくなってしまいました。

――解散期間にもその手ごたえを引き継ぐことができましたか

 地元に帰る直前に足を痛めてしまったので、それをまず治すことを第一にしました。3か月も帰ることになるとは思っていなかったのでとりあえず治して合流しようと思っていたのですが、思ったより解散が長引いたので2週間くらいで治ってからは少しずつ練習を始めました。

――ケガが治ってからの2か月半は十分に練習を積むことができましたか

 高校の後輩や僕と同じく帰ってきていた先輩と、一緒に練習できる時はしていました。一人の時はきつい練習を継続してやるのが難しかったので、多少質を落としてでも自分のできる範囲の練習を途切れないようにやることを意識していました。ポイント練習は、アメリカからちょうど帰ってきていた住友電工の遠藤さん(日向)と一緒にやったりしていたので、質の高い練習ができていたと思います。

――解散期間中に得た収穫はありましたか

 一緒に練習してもらった遠藤さんや、明大の櫛田(佳希・2年)、今度関東学生連合に選ばれた東農大の高槻(芳照・1年)から刺激をもらいながら練習できたなと思います。それは心細い自粛期間をなんとか乗り越えられた要因でもあったかなと思います。

――高校の先生に見てもらう機会はありましたか

 戻ってからしばらくは行かないようにしていたのですが、最後の方は週末に練習に混ぜてもらったり、高校の部員やОBで一緒にタイムトライアルを開催したりしました。

――解散期間明け、7月の早大競技会では5000メートルで14分24秒15という結果でした

 今までの結果が出なかったレースでは、どうしてこうなったんだろうというやりきれない思いでゴールすることが多かったのですが、7月の記録会はそこまでのトレーニングを計画する上で全部自分で考えてやって、自信を持って走ってそれで結果が出なかったので、久しぶりに悔しさを感じたレースでした。2年間自己ベストも更新できず、公式戦でもなかなかいい走りをできなくて、「練習はできているのにどうして走れないのかな」とずっと思っていましたし、スタートに立つと「また今日もダメなのかな」と思ってしまうことが多かったのですが、それが吹っ切れるきっかけにはなったのかなと思います。

――このレースで具体的にはどのような課題を認識しましたか

 解散期間中に質の高い練習はできたのですがその上に量を重ねることができなかったので、そのツケが回ってきたような感じで、スピードは出るけど最後まで持たないという状態でした。なので、距離に対する不安という課題は明確になっていたかなと思います。

「あいつらができるなら俺もできる」

――所沢での夏合宿で特に意識的に取り組んだことはありましたか

 2年間途中で穴が空いてしまっていい準備をできないままスタートすることが多かったので、夏合宿でも本当に継続してやるということに重きを置いて練習していました。その上で、量が足りなかった分を補えるように増やしていったつもりです。

――今季は、「継続していい準備をやってきた」という自信を持ってスタートラインに立てることが実際に増えたのでしょうか

 そうですね。ここ最近のレースでは、「やれることはやった」という自信を持ってスタートラインに立った結果、自己ベストが2レース続いているのでそこは今までと変わったところかなと思います。

――練習量を調整したこと以外に、継続して練習を積むことができている要因はありますか

 足を痛めてから朝練の前に足湯をして温めてからスタートしたり、最近だと少しアップをしたり、今までやっていなかったことをプラスでやるようにしています。あとは同期が結果を残しているのを見て刺激を受けて「自分もやらないといけないな」と思って、そこをモチベーションに変えてやっています。

――同期の3年生をはじめ、部内で好記録が続出していますが、それについてはどのように感じていますか

 中谷(雄飛・スポ3=長野・佐久長聖)や直希(太田・スポ3=静岡・浜松日体)は1年生の時から公式戦を走って結果を残してきていてずっとモチベーションになっていたのですが、それよりも山口(賢助・文3=鹿児島・鶴丸)とか室伏(祐吾・商3=東京・早実)の好記録は自分の中で本当に大きかったです。負けたくないという気持ちが大きいですし、あいつらができるなら俺もできるという気持ちにさせてくれたというか、ここで止まっていてはいけないなと思うきっかけをくれたので、負けないように頑張っていきたいです。

――強い選手がそろっている3年生はどんな雰囲気の学年ですか

 結構穏やかというかケンカとかもなく仲の良い学年だと思います。あまり入り合わないというか、いい距離感を保っていると思います(笑)。

――9月には日本学生対校選手権(全カレ)に出場しましたが、ご自身の結果についてどのように受け止めていますか

 結果予選落ちになってしまったのですが、合宿ではその先の駅伝も見据えた練習をしていたので、決勝に残れなかったことは悔しかったですが、先を見据えた上では仕方ないといってはいけないですが練習通りかなという感じでした。1年生2人が良く練習できていたので、その流れを借りて決勝で戦えればなと思っていたのですが、それができなくて残念でした。

――10月のトラックゲームズ in TOKOROZAWA(トラックゲームズ)には5000メートルにオープンで出場しましたが、そのレースについて改めて振り返っていただけますか

 相楽さんからは全カレに出た1年生4人、自分、吉田さん(匠駅伝主将・スポ4=京都・洛南)の中から4人走ると前々から言われていて、1年生4人は勢いも実力もあって、そこに僕らは入っていかないといけなかったのですがなかなか調子が上がらずエンジを着るメンバーに入ることはできませんでした。その中で、白エンジでも食ってかかろうという気持ちで走っていましたし、結果的に負けてしまいましたけど1年生の実力を見ることもできましたし、自分の弱さも知ることができて、そこまでの練習から考えれば妥当な結果だったかなと思います。

――そのレースで具体的に課題だと感じたのはどのような点ですか

 やはり準備段階でみんなと同じ内容の練習をできていなかったというところでそもそも準備がうまくいっていなかったことが一つです。加えて残り2試合と違ったのはメンタルがうまく回っていなかったというか、本当に自信を持ってスタートラインに立つことができていなかったので、その二点だと思います。

――トラックゲームズ以降は周囲と同じ内容の練習をできるようになってきたのでしょうか

 段々メンタルの部分も充実してきて走れるようになってきて、そこから11月4日の5000メートルに出走したので、トラックゲームズが終わってからの流れは良かったと思います。

――逆にそれまで同じ練習をできていなかったというのは、どういった要因だったのでしょうか

 そもそも今年はレベルが高くて、例年より設定タイムが速かったり量が多かったりしたので、基本的に走力が足りていなかったところと、あとはメンタルだと思います。

――高いレベルの練習に追いつけるようになったのはご自身の成長の証だと思いますが、メンタル以外に特に成長を感じる部分はありますか

 夏合宿前くらいから相楽さんと話して、シューズが段々進化してきて走り方も変わってきているから、それに慣れていくためにも接地の時にしっかり地面を捉えて力をもらうということを今シーズン意識してやってきました。そういうトレーニング、例えば縄跳びや、ハードルを並べてしっかり真上から踏む感覚を覚えるトレーニングなどを地道にやってきたところが結びついたのかなと思います。

箱根では攻めるレースを

11月21日の早大競技会では1万メートルで自己ベストをマーク

――全日本のチームの結果についてはどのように感じましたか

 まずは自分が走れなくてテレビの前で見ているというのが本当に悔しかったです。去年はケガで外れたのでもったいなかったなと思っていたのですが、今年は本当に実力で外れたので悔しくて、テレビで見ていても同じチームなのにどうしてここにいるんだろうなと思ったり、先頭を走る場面もありましたがこのまま優勝しても心の底から喜べないだろうなと思ったりしました。でも、普段一緒に生活して一緒に練習しているみんなが日本のトップを走っているというのを見て、みんなができたら自分も絶対できると思えましたし、最後3番以内に入れなくて悔しかったですけど、箱根は絶対にいけるという流れを作ってくれたかなと思いました。

――総合3位以内に入るために足りなかったことは

 全日本が終わってからの記録会で好記録が続出して今でこそ一人一人自信が付いていると思いますが、あの時はまだまだ他の大学に対して自信がなかったのかなと思います。前半区間は首位に立って、後半は我慢するという戦略だったのですが、後半区間の人たちは「我慢する」という言い方を最初からされていたのも良くなかったのかなと思っていて、本当の意味で攻めるレースができなかったのかなと思います。でも今は自信が付いてきて優勝できるチームになってきていると思うので、箱根では攻めるレースを出来るのではないかと思います。

――今のチームの雰囲気はいかがですか

 11月21日の早大競技会が終わってから本当に雰囲気が良くなっていて、練習の内容も良くなってきているので、やっと戦えるチームになってきたかなと思います。

――全日本直後の早大競技会では、5000メートルで約3年ぶりに自己ベストを更新しましたが、その時のお気持ちは

 一緒に走った小指(卓也・スポ2=福島・学法石川)が13分41秒で走って、全日本に出走できないと決まってから一緒の流れで練習していたので、負けたのは素直に悔しかったです。13分台が出たのは本当に3年ぶりだったので単純に嬉しかったですけど、周りが結果を残している中でまだまだ頑張っていかないといけないなと気を引き締め直しました。

――その勢いのままに、11月21日の早大競技会では今度は1万メートルで自己ベストを更新しました

 直前の1週間くらい実習でまったく練習をできなかったので、一つ組を下げて2組目で出走したのですが、走り終わった時点では自己ベストも出て納得のいく走りができたかなと思っていました。でも3組目でみんなが好記録を出すのを見て、喜んでいたらいけないなと思いましたし、速いメンバーがたくさんいるのでそこに追いつけるようにもっとやっていかないといけないなという気持ちになりました。

――ご自身のチーム内での立ち位置をどのように認識していますか

 上級生なので組織を回すために行動し、結果で引っ張っていかないといけないなと思っています。練習でも率先して引っ張ったりして、それが結果的に自分の走力向上にもつながりますし、チームの雰囲気づくりにもつながると思うので、上級生としてやるべきことを淡々とやっていければいいかなと思います。

「6区でリベンジできるとしたら58分台を」

――集中練習が始まって、ご自身の状態はいかがですか

 1万メートルを走って間もないのでまだ疲労が残っていますし、集中練習の内容も例年より質の高いものになっているので、体の状態と相談しながらケガをせず継続してできるようにしていきたいなと思っています。

――昨年出走した6区の練習は現在進めていますか

 出走区間はまだわからないのですが、地面をしっかりとらえるというのも6区の練習の一つですし、平地にも特殊区間にもつながってくる練習だと思うので、しっかり走力をつけながらそういう練習も継続していきたいと思っています。

――今年の早大の強みは

 今年はBチームCチームからの底上げが本当にすごいと思っていて、Aチームを脅かすような走りをしてくれてそれに感化されてAチームもやらなきゃいけないという気持ちになっているので、その相乗効果が強みかなと思います。

――夏に量を意識したというお話もありましたが、長い距離への対応はいかがですか

 この間の1万メートルでも練習でも、最後までしっかり走れることが増えてきて、1万メートルのレースは今まで本当に長くて辛かったのですが、この前のレースはあっという間に終わる感覚があったので、自分の感覚と練習の内容が合ってきて、距離に対する不安もなくなってきているのかなと思います。

――箱根でご自身に求められている役割はどのようなものだと考えていますか

 去年は山の特殊区間で大きく順位を落としてしまったので、必ず先頭で来ると思うので、5区6区セットでどれだけ耐えられるか、できれば差を広げられるかというところだと思います。平地だとしたら攻める走りをしたいと思います。

――区間順位などの具体的な目標は立てていますか

 チームの目標が3位以内なので、どの区間を走っても3番以内というのはチームとして立てています。そのうえで、去年は6区で悔しい思いをしたので、もう一度走ってリベンジできるとしたら58分台を目標にしています。

――最後に箱根に向けて意気込みをお願いします

 今年はここに来て優勝を狙える実力を付けてきているので、チームとしても3番以内が目標といいつつももっと上の順位を目指していこうという雰囲気が出てきているので、その流れにしっかり乗って優勝に貢献できるような走りをしたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 町田華子)

◆半澤黎斗(はんざわ・れいと)

1999(平11)年12月3日生まれ。165センチ。53キロ。福島・学法石川高出身。スポーツ科学部3年。レース前のゲン担ぎは左足から靴下を履くこと。これは高校歴代2位の記録で1500メートル優勝を果たした、高校3年時の総体以来続けている習慣なのだそう。この2年間なかなか思うような走りをできなかった半澤選手ですが、今季は突破口を見つけた様子。箱根では悔しさを晴らす走りを見せてくれるでしょうか