【連載】箱根事前特集『臙脂の誇りを取り戻す』第2回 駒野亮太長距離コーチ

駅伝

 Bチームを指揮し、チームの底上げを担う駒野亮太長距離コーチ(平20教卒=東京・早実)に、この1年のチームの歩みと、現在のチーム状況についてお話を伺った。

※この取材は11月28日に行われたものです。

「故障が減ってうまく練習が繋がる選手が増えた」

練習を終えた選手と言葉を交わす駒野コーチ

――東京箱根間往復大学駅伝(箱根)以降、Bチームについてどのような方針の下強化に当たってきましたか

 20キロを走れる力を付けてもらって、そこから1万メートルや5000メートルを走れる選手になっていってもらう。どちらかというとAチームが5000メートルや1万メートルから20キロにアプローチしていくのに対して、逆ですよね。長いところから短い距離に下ろしていくような、泥臭い練習を積んで、苦しい時に強さをしっかり発揮できる集団にしたいと思ってやっていました。

――コロナによる解散や遠征中止の影響で、長い距離を積む練習はしづらかったと思いますが、難しかった点は

 約3か月間学生たちの自主性に任せざるを得ない状況で、練習報告を受けてはいたものの個別に指示を出すことが難しかったので、例年課している春シーズンの距離の積み上げができなかった部分はやはりあったと思いますね。

――その中で、多くのBチームの選手がトラックで自己記録を更新しましたが、要因についてどのように考えていますか

 7月の記録会に関して言えば、5000メートルに特化した練習を彼らができていたことが大きかったかもしれないですね。例年であれば20キロをしっかり走れる体を作ろうということを第一にやるので、そこからスピード練習にうまく移行できない選手が一定数いるのですが、今年はそれがなく、彼らの日々の練習で5000メートルや3000メートルに適応できたということだと思います。9月後半から10月、11月にかけての好記録については、夏合宿を今年は所沢でやらざるを得なくなったので、ボリュームを落としたんですよね。所沢は暑くて朝・午前・午後の三部練習を基本的にできないので、朝と夕方とか、比較的涼しい時間しか走れなくて、午前中はみんなで補強をしたりしていました。走るトレーニングに関して言えばうまくできなかったのですが、結果的に故障が減ってうまく練習が繋がる選手が増えたという気がするので、5000メートルや1万メートルに関しては夏合宿を所沢でやったことが影響して、良く走れたのではないかなと思います。

――一方で距離を積むことができなかった点は、箱根では不安材料になりうると思いますが、現在距離への対応はいかがですか

 例年だと上尾ハーフに出場させてみて状態を見ることができますが、正直距離に対して耐性があるかどうかを測るチャンスすら今年はないという状況です。でもやはり、先週行われた1万メートルの記録会(早大競技会)でも、Bチームの選手の後半の失速が目立ったので、5000メートル以上の距離になるとまだまだ不安があるなというのは、なんとなく感じています。

Bチームでブレイクのきっかけをつかんだ山口

――日本学生ハーフマラソン選手権(立川ハーフ)が中止になったことで、特にBチームには冬の成果を測る機会がなくなってしまった選手が多かったと思います。コーチから見て冬の練習の手応えはいかがでしたか

 立川ハーフがあったら上に行けただろうなという選手も河合陽平(スポ3=愛知・時習館)など何人かいたので、なくなってしまってガックリ来ている選手も多かったですし、例年通りかそれ以上に練習を積めていた記憶があります。

――夏の所沢での合宿で、特に集中的に取り組んだことはありますか

 Bチームの選手については知野トレというチームで取り組んでいるトレーニングをやっているだけではフィジカル的に不十分かなという思いがありましたので、夏の2か月ほどかけて、自分に必要なトレーニングをしっかりカスタマイズできるようになろうという取り組みをしました。その締めくくりとして、それぞれに自分の考えるトレーニングメニューを紙に書いて出させたのですが、思った以上にそれぞれが自分に必要なトレーニングはこれだというのをしっかり組み立てられていたので、Bチーム全体としてトレーニングの重要性、自分でトレーニングを組むことの重要性や楽しさを感じてくれたのかなと思います。

――例年にはない取り組みということでしょうか

 例年はないですね。例年は知野トレと呼ばれる柱のトレーニングをやろうねというようにしているのですが、今年はプラスアルファでフィジカル的なトレーニングを入れたりとか、ミニハードルのトレーニングを入れたりしました。良くも悪くも普段と同じ環境で夏もトレーニングを積むということで、部が普段使っている器材、機器を活用してトレーニングを組もうという試みでした。

――全日本大学駅伝対校選手権(全日本)でアンカーを担った山口選手も夏の期間はBチームで練習を積んでいたようですが、彼の今季の出来についてどのように評価しますか

 彼は怪我で出遅れていてずっとジョギングしかできていなかったので、急にAチームの練習をするとまた故障のリスクもあるので、それよりはBチームでじっくりやった方がいいのではないかということで、夏合宿に入るくらいの頃から2か月ほど預かっていました。しっかりコツコツと、先ほどお話したフィジカルのトレーニングも積んでいましたし、BチームにはAチームよりも長い距離を課していたので、そういったところで少しずつリズムをつかんでいきました。ブレイクの兆しが見えてきたのは9月の中旬に行った3次合宿ですね。

――どういった点からそれを感じたのですか

 Bチームにいながらも、彼と河合にはAチームに肉薄するような練習を課していたのですが、二人はそれをこなすことができていました。中でも山口はかなりの余裕度を持ってこなすことができていたので、一番良かった時に近い、もしくはそれを少し超えるくらいの状況まで戻っているのかなという手ごたえがありました。

――河合選手も11月に5000メートルと1万メートルの両種目で自己記録を更新しました。彼についてはどのように評価しますか

 彼は努力家で、まじめにコツコツ取り組める選手の一人なので、ようやくそれが実を結んだかなと思います。一足飛びでいける選手ではなくて、一歩一歩上っていくタイプの選手です。山口とそん色ない練習をしていたのですが、同じ練習をしていても余裕度が違って、少し疲労をため込んでしまったり、介護体験の実習が重なったりして、うまく記録を出すタイミングがなかったので、直近の2レースに関してはそのうっぷんを晴らして、自分の持っているものを発揮することができてきたと思います。あと彼に求めるとしたら、山口のような爆発力というか、一発でまずはチーム内の序列をひっくり返すようなレースをしてくれたら面白いかなと思います。

――全日本の結果についてどのように評価しますか

 レースはほぼプラン通りでしたね。3区の中谷で先頭に立って、4区の太田直希で突き放して、あとはなんとか食い繋ぐというか(笑)、粘っていくというレースプランを監督とも想定していたので、しっかり思い描いていた通りのレースができたと思います。昨年が6位で今年は5位ということで、順位としてはなんとかシード権を取れたというようなところで大差ないのですが、今年は先頭に立って、自分たちにも優勝争い、先頭争いに絡む力があるんだということを実感できたのが一番大きかったかなと思います。

「3位を狙うなら優勝を狙えるくらいのチームにならないといけない」

――集中練習が始まって数日が経ちましたが、チームの雰囲気は今いかがでしょうか

 全日本、全日本の翌週水曜日に行われた記録会、そして先週行われた記録会とタイムトライアル、全てにおいて高いレベルでやれているので、間違いなく全日本からうまく流れができています。とにかく今は「自分たちならやれるかもしれない」とか「やってきたことは間違っていなかった」という実感を持てていますね。チーム内の競争も激しくなっていて、16人の争いに関しては結構し烈かなという気がしています。そこから10人に絞り込むとなると、例年以上に競争が激しくなると思うので、緊張感が出てきているなと思いますね。

――集中練習にはBチームの選手も多く参加していますが、16人に入る決め手になるのはどんな点になりそうですか

 例えば河合を例に挙げると、Aチームの選手がちょっとやりたくないなと思うような、スピードを出すというよりはじっくり走らなくてはいけないような練習において、苦しい局面でしっかりそこにいるという不気味さは、コツコツとやってきた彼が出せるものだと思います。集中練習の量や質が高まっていく中でも、いかに不気味な存在であり続けられるかというのが、最終的には16人のメンバーに入るかどうかにかかわってくるかなと思います。

――相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)は集中練習で特にスピードを重視しているとおっしゃっていましたが、コーチから見て他に特に重きを置いている点はありますか

 Aチーム、Bチーム問わず、夏合宿で距離を踏めていないという不安は付きまとっていますが、それを集中練習のポイント練習だけで補おうとすると故障者が続出すると思うんですよね。そこはいかに間の各自に任されているジョギングなどで、「あいつが走っているなら俺も走ろう」というような競争心を持って距離を積むことができるかがカギになってくると思います。そうやって、監督やコーチが集中練習で長い距離を走らせる練習を組まなくても、ベースとなるスタミナがしっかり培われているという状況ができて、監督の言うスピードを強化した練習とうまくマッチした時には、かなり面白いことになるのではないかと思います。

――集中練習を見ていて、特にコーチが注目している選手はいますか

 4年生ですね。集中練習に入っている4年生は吉田(匠駅伝主将・スポ4=京都・洛南)、宍倉(健浩・スポ4=東京・早実)、住吉(宙樹・政経4=東京・早大学院)の3名ですが、彼らが全日本でエントリーを外されてしまった悔しさや、最後の箱根にかける思いをどう言葉と練習における姿勢で示すかが大事だと思います。彼らがどういったかたちで集中練習を乗り切るかがチーム全体の士気にもかかわってくると思うので、そこはしっかりフォローしていきたいなと思います。

――全日本で逃した3位以内という目標を箱根で達成するために鍵になる部分は

 全日本もそうでしたけど、秒差の争いになってくると思うので、これは東洋さんのスローガンですけど(笑)、いかに1秒を削り出せるかというのが大きいと思います。例えばうちが中継所で1秒遅れてタスキを渡すようなことがあれば、それが積もり積もって1分とかの差になってしまうのかなと思うので、日頃の練習からいかに1秒を意識できるかが大事になってくると思います。また、3位を狙うなら優勝を狙えるくらいのチームにならないといけないと思うので、「優勝を狙う」と本人たちが見栄ではなく本心から言えるチームになるかどうか、そう言えるだけの練習を積めるかどうかが鍵になってくると思います。

――コーチから見て今年のチームの強みは

 特に今年は人数が少なくて、Aチーム、Bチーム全体で30人を切っているので、誰かがやっていることがすぐに伝播するという点が今のチームではいい方向に向かっているのかなと思います。先ほどお話した「あいつが走っているから俺も」というような様子が少しずつ出てきていると思うので、人数が少ないからこそ伝わりやすいという点は今年の特徴かなと思います。

――最後に、コーチとして箱根への意気込みをお願いします

 野球が(東京六大学秋季リーグ戦で)劇的な勝利を収めて、ラグビーもいいかたちで来ていて箱根の頃には(全国大学選手権)2連覇がかなり濃厚になっているのかなと思います。野球、ラグビー、駅伝が早大では特に重要視されるので、変にプレッシャーを感じる必要はないけれども、大学全体として来ているいい流れに乗っていきたいです。3位と言わず優勝を狙っていけるような布陣になりつつあると思いますし、やはり勝負事ですから1番を目指してやってほしいので、私も優勝を狙えるようなチームになれるようなサポートをしたいなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 町田華子)