【連載】箱根事後特集『復活』第1回 井川龍人

駅伝

 高校時代から世代トップをひた走ってきた井川龍人(スポ1=熊本・九州学院)。大学でも1年目から全日本大学駅伝対校選手権(全日本)に出場してエンジデビューを果たすが、結果は1区16位と納得のいくものではなかった。続く東京箱根間往復大学駅伝(箱根)では当日変更で3区を任された。先頭と1秒差の2位でタスキを受けて先頭に食らいついたが、序盤のハイペースがたたって徐々に後退し、区間14位にとどまった。そんな井川は箱根を通して何を得たのか。今の思いを伺った。

※この取材は1月22日に行われたものです。

自分のペースを作れず、後半苦しんだ

笑顔で質問に答える井川

――箱根後の解散期間はどのように過ごしましたか

 地元に帰りました。

――ご友人や高校の知り合いの方から、何か声をかけられたりしましたか

 見てたよとか、おつかれとか言われました。

――では、箱根当日についてお伺いします。ご自身の走りについて、良かった点や反省点はありますか

 スピード区間ということで、10キロまでですが、自分の持っている力以上のペースでしっかり前の選手を追って走れたのは良かったです。反省点としては、追うことに一生懸命になりすぎて自分のペースというのを作っていけず、後半すごく苦しんだことです。

――箱根直前期のコンディションはいかがでしたか

 集中練習期間はそこまで調子が上がってきていなかったのですが、1週間前くらいからは調整するにしたがってだいぶ動きが良くなっていき、当日はすごくいいコンディションの中で走れたと思います。

――3区への出走はいつ頃決まりましたか

 3日前か4日前くらいです。

――3区ではどのような走りを求められていたと思いますか

 (3区は)結構スピード区間と言われていて、前半下りで後半ずっと耐えていくというようなレースプランを最初から考えていました。前の位置で来たら(周りの選手に)ついていって、後ろの方で来た時は前の選手を追い上げるような気持ちで挑みました。

――他にも候補になっていた区間はありますか

 1区です。

――どちらを走りたいというのはありましたか

 全日本の1区であまり納得のいく走りが出来なかったので、もう一度1区に挑戦したいという気持ちもありました。ですが単独走で追い上げていくという走りも自分の中で好きな部分はあるので、3区を走りたいなという気持ちもありました。

――当日の調子はいかがでしたか

 たぶん大学約1年間来た中で一番調子は良かったと思います。

――出走前は緊張しましたか

 あまり緊張しないタイプなので緊張しなかったのですが、先頭と数秒差の2位で来た時にはちょっと驚きはしました。

――中継所ではどのように過ごしていましたか

 安田(博登、スポ1=千葉・市船橋)が僕の付き添いだったので、結構リラックスしていました。

――試合前のルーティーンはありますか

 えーそうですね(笑)、そんなに無いですが、走る前に立って大きく何回か深呼吸するのが落ち着きます。

――実際に走ってみて、箱根の雰囲気はいかがでしたか

 中学高校の時から何度か全国の駅伝は経験していますが、その中でもやっぱり(箱根は)一番応援の数が多くて。結構応援に圧倒されるというか、すごいなというふうには思いました。

――沿道の声援はいかがでしたか

 (周りの)声が大きいので、自分の呼吸音とか走っている足音も全然聞こえなくて。急に人がいなくなった瞬間とかに聞こえて、耳もぼわーとなっていました(笑)。

――3区に決まってからは、どのようなレースプランを立てていましたか

 1区、2区が中谷さん(雄飛、スポ2=長野・佐久長聖)と智樹さん(太田智樹駅伝主将、スポ4=静岡・浜松日体)という早稲田の最強のお二人を前に置いたので、先頭の方では来ると思っていて。どうにか近くの人に食らいついて、いい位置で次の区間に渡したいなと思いました。

――目標タイムは

 63分0を切るくらいを狙っていました。

――中継所で1区2区の展開は見ていましたか

 はい。

――2区の時点で太田智選手が先頭集団で走るという展開でしたが、それを受けてご自身はどう思いましたか

 逃げるより追いたいタイプだったので…(笑)。戸惑うというか、そういう感じはありました。

――前の方で来たら近くの選手に食らいついていくプランだったと思いますが、1位の青学大主将・鈴木塁人選手(4年)との秒差という展開でも、プランはそのままでしたか

 はい。

――中継所に並んだ時の心境は

 やってやるぞ、という感じでしたね(笑)。

――レースは緊張するというよりは楽しみなタイプですか

 そうですね。早く走りたいとか、わくわくする時ほど調子がいい感じはあります。

――箱根は

 わくわくしました(笑)。

――前後の差があまり無かったと思いますが、心構えは

 走る前に相楽さん(相楽豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)から「前に青学大の選手がいて、後ろには東海大の選手がいるからついていけ」と言われていたので、もう絶対についていく、という気持ちでした。

――実際青学大の鈴木選手の5キロの入りが13分48秒という早いペースでした。ご自身は5キロ手前で離れたと思いますが、当時の状態は

 まだ余裕はありましたが、感覚的にも13分台で走っているようなスピード感で。5キロ地点で相楽さんから13分50秒と言われたのですが、やっぱりそこから15キロ以上ある中で13分台で突っ込んで(最後まで)持つのかなというのが自分の中であって。そこは自主的に1回離れたという感じです。

――特にきつかったのは

 湘南の海の直線に入ってからがすごくきつかったです。

――運営管理車の相楽監督からはどんな声掛けがありましたか

 最初の方はいい動きだからそのままどんどん行けというような声掛けでした。後半きつくなってからはピッチとかが落ちてきていたので、ピッチを意識して少しペースを上げていけという感じでした。

――走り終えた時は何を思いましたか

 走りたくない…って。思っていたよりきつかったので…。

――走っている最中は何を考えていましたか

 走っている最中…もうすごくしんどくて…(笑)。早く終わらないかなと思って走っていました。

――箱根が終わったら、何か自分へのご褒美は決めていましたか

 箱根に向けて1ヶ月ちょっとくらいすごく集中して練習をやったので、箱根が終わったら思いっきりオフを過ごすというのが自分の中でご褒美でした。

――同じ区間や全体で意識していた選手はいますか

 やっぱり田澤(田澤廉、駒澤大1年)を一番、意識はしていました。

――同じ区間だと分かった時はどう思いましたか

 大学に入ってから一回も(一緒に)レースをしていなかったので、やっと一緒に出来るという気持ちと、やっぱり少しその、田澤がずっと調子良かったので、何ていうんですかね、怖いというか、そういう気持ちも少しありました。

――普段仲はいいのですか

 はい。

――箱根前後でお話ししましたか

 はい。高校の時は一回負けたくらいであとは全部僕が勝っていて、大学に入ってから田澤が急に伸びてずっと調子がいい感じだったのですが、(箱根が)終わった後に田澤から「まだ勝ったつもりはないから」みたいなことを言われて、「俺も、今年はがんばるから。」と。そんな感じで話しました。

一番身近にライバルができた

2位でタスキを受け取ったが、ハイペースなレースに揉まれ、8位まで順位を落としてしまった

――復路の間はどのように過ごされていましたか

 最初に創士(鈴木創士、スポ1=静岡・浜松日体)の給水地点の近くまで行って応援して、8、9、10区とゴールは全部行きました。

――鈴木選手とはレース前後で何かやりとりしましたか

  レース前は、頑張れよ、みたいな感じで、レースの時も結構分かりやすい位置にいて、いい動きだからどんどん行けというふうに言葉を交わしました。

――鈴木選手の走りはどのように受け止めましたか

 やっぱり同学年の創士が区間2位という走りで、すごいなというふうに感じて。それと同時に一番身近にライバルという存在ができた感じがして、今は自分が負けている状態なのですが、二人で切磋琢磨していけばもっと強くなるんじゃないかなと思いました。

――では、総合7位という結果はどう受け止めますか

 3位以内が目標で途中は2位とかにいたので、悔しい気持ちも結構ありますが、とりあえずシードは取れたので少しほっとする気持ちもありました。

――今回の箱根で印象に残っている選手や場面は

 創士の走りがすごく印象に残っています。

――箱根後に監督やコーチとは何かお話ししましたか

 はい。 高校の時はすごく厳しい環境でやっていて、大学に来て自分で考えてやるという環境に来て少し自分に甘くなっていた部分があったという話をしたら、「自分で分かっているなら大丈夫だ」と言われたので、2020年はしっかりやっていくというふうに話を色々しました。

――同期や先輩とは箱根について何か話しましたか

 僕らが3年とか4年くらいの時には優勝を狙えるくらいのチームになると思うので、それまでにしっかり力をつけていきたいねという感じで話しました。

――新体制での練習が始まっていると思いますが、現在のチームやご自身の状態はいかがですか

 個人としては、初心に戻ってというか、取り組みを色々変えました。たっぷりある時間を効率的に使って沢山練習しようというふうに今は取り組んでいます。

――来年箱根で走りたい区間はありますか

 もう一度3区に挑戦したいなと思います。走ってみてちょっと3区に魅力を感じて。3区は28分前半で入るくらいのハイペースな展開になる区間だと思って。スピードにはまあまあ自信があるので、前半押していって28分前半とか27分台近くで走って、後半もそれを維持できるくらいの力が付けば、来年おもしろい走りが出来るのではと思い、もう一度挑戦したいなと思いました。

――風はいかがでしたか

 結構風がくると聞いていたのですが、どうだったかな…。そんなになかったとは思いますが…ちょっとあんまり、きつすぎて覚えていないです(笑)。

――もうすぐ新入生を迎えます

 いいお手本になれるように…。新1年生は僕が高校の時にずっと日本人トップで走っていた姿とかを見ていると思うので、それに恥じないような行動が出来たらいいなと思います。

――今後のレースの予定は

 唐津10マイルロードレースと立川ハーフ(日本学生ハーフマラソン選手権)に出る予定です。

――では、次のシーズンに向けての目標をお願いします

 トラックシーズンの関カレ(関東学生対校選手権)と全カレ(日本学生対校選手権)で入賞するのと、学生三大駅伝の中でどこか一つ以上は区間賞を取りたいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 布村果暖)

◆井川龍人(いがわ・りゅうと)

2000(平12)年9月5日生まれ。178センチ、63キロ。熊本・九州学院高出身。スポーツ科学部1年。自己記録:5000メートル13分54秒59。1万メートル29分42秒03。ハーフマラソン1時間4分50秒。2020年箱根駅伝3区1時間03分52秒(区間14位)。レースは緊張するというより楽しむタイプで、初の箱根もわくわくしたという井川選手。来シーズンでのさらなる活躍に期待です!