『箱根総合3位以内』の目標に向けてチームを指揮する相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)。箱根まで残りわずかに迫った今、現状をどのように把握しているのか。詳しくお話を伺った。
※この取材は11月30日に行われたものです。
スタミナへの手応えを感じた全カレ
丁寧に取材に応じた相楽駅伝監督
――夏の期間からお伺いします。まず日本学生対校選手権(全カレ)は入賞者が出ない結果に終わりました。振り返っていかがでしょうか
言い訳になってしまうかもしれないですけど、箱根予選会があったことで例年よりも走り込みの量は増やしていましたし、全カレにかける調整期間は例年よりも少なめにしていきました。もちろん対校戦なので最低限の準備はしてきて、当然入賞は一つのミッションや目標でありましたが、合宿でやってきたスタミナを確認するということも半分置いてレースに出させました。結果的に前者は入賞できずに達成できませんでしたが、後者の方はある程度かたちにして、走った4人ともにそれなりのかたちにはできました。入賞できなかったことを差し引いて、50点くらいだとは思いますけど、やりたいことはうまく進んでいると感じられたレースだったと思います。
――その後には3.5次合宿を行ったと伺いました。この狙いとは
順調に行っていれば3次で終わりますが、全カレに出場していたメンバーは、その調整と合わせて走り込みが少し不足していたので、主にインカレメンバーと、3次合宿までけが等でうまく走り込めなかった選手を選抜して合宿をやり直したかたちです。
――消化具合は他の合宿と比較していかがでしたか
全カレのメンバーはもともと順調だったので、そこを中心にうまくいきましたし、それ以外のメンバーもけがが解消されて連れて行っているので、少人数ではありましたが集中して良い合宿ができました。
「箱根予選会の敗因の一つは私です」
――箱根予選会は9位という結果でした。最大の敗因に「練習と試合のギャップがあった」と仰っていました。これはなぜ起こってしまったと考えていますか
敗因の一つは難しいけれど、私でしょうね。学生には、設定したペースが当日のコンディションからすると少し速かったですし、あとは集団走にしなかったんです。本戦でのレースの流れや状況を考えて、付くべき集団やペースを考えてやらないと戦えないと思ったので。すごく迷いましたけど、集団走はしない選択しましたので、その選択が裏目に出てしまったのが一つです。また、出た選手の経験不足が悪い方に出たかなと。対校戦に初出場のメンバーだったり、一般入試で入ってきた選手の割合が多い試合でしたが、そういった選手が暑さなど、熱中症ぽくなってアクシデントもあって、うまく力を出せなかった。その2点が、あの順位につながった要因だと思います。
――予選会後には指揮官を含めてブロック全体でミーティングしたと伺いました。どのようなことを話されたのでしょうか
予選会の結果を受けて私が感じたのは、予選会はうまくいかなかったし、反省すべき点は多々あるんだけど、やっているトレーニングからしたら、僕たちの力はこんなもんじゃないよね、もっとやれるよねとということと同時に、体調不良を起こしたことや試合で力を出せないことに関しては、生活の中に何か緩みがあるのではないかということでした。そこでルールを見直したり、日常生活の中で甘いところなどを指摘しあったりして、チームの膿みを出すことが一つでした。
また、年間目標として『全日本・箱根両駅伝で3位以内』という目標を立てていましたが、箱根予選会の結果を受けて、ちょっと考えなさいと。3位になるという目標に対してどうするのか。目標を見直すのか、目標は変えずに自分たちが変わらなければならないのかを話しなさい、ということで、僕が誘導するというよりは、学生が主体的に自分たちの今後のあり方について考えさせる時間をつくりました。
――全日本までの1週間で選手の意識の変化は見られましたか
やはり練習中の雰囲気などがガラッと変わりました。予選会の結果もありましたけど、なあなあになっていた甘さとかが拭い去った状態で全日本に迎えたかなと思います。
「全日本は練習の成果と選手の意識が噛み合った結果」
――全日本では6位で3年ぶりのシードでした。この結果を改めてどう分析していますか
やはりトレーニングがうまく行っていて、力がついているというのは練習で実感していたので、私としては手応えがありましたね。もちろん選手は不安だったと思いますが、箱根予選会の結果が自分たちのやってきた全てではないという思いがあったし、このままではやばいぞという危機感もありました。そういった、やってきた練習と選手の意識が噛み合って結果につながったと思います。
――『5強』(東海大、青学大、東洋大、駒大、国学院大)と呼ばれる大学と競り合いました。この点についてはいかがでしょうか
箱根予選会の結果を受けて、しかも出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)がなかったことで、自分たちはやれるのかやれないのか、という一抹の不安を持ってスタートした選手も少なくないと思うのですが、その中で優勝候補と呼ばれる学校と肩を並べて走れたのは、自分たちが進んできた方向は間違っていないという手応えが得られた部分があると思うし、ただやはり最後は競り負けているので、そこに関しては純粋に悔しかったのではないかと思います。
――全日本が終わってチームの雰囲気は監督にどのように映りましたか
全日本である程度の結果が出たことで、安心した面があったのですけど、その後にじわりじわりと、「3位以内を目指したところからすると悔しいよね」と。肩を並べていた学校が優勝争いで前まで行っているわけですから、それも終盤に。それに関しては「まだまだ強くならないと3位以内は達成できないよね」というところで、改めて危機感ややる気がチーム内に出てきた気がします。
――それは全日本が終わった後の練習の消化率にも現れていましたか
全日本後は休養を優先したので、そこまで練習をしたわけではないのですが、その後の上尾ハーフ(上尾シティマラソン)や1万メートル記録挑戦会などの試合に対して、ぼんやりと試合に出るのではなく、はっきりとこれくらいで走らなければならないという目的が明確になって試合に出る選手が増えてきた印象があるので、そこは変わったのではないかと思います。
――例年ですと全日本の後は上尾ハーフに出場し、その後集中練習に入るというかたちをとっていたと思いますが、今年はトラック組と上尾組に分かれていました。この狙いは
上尾ハーフにしてしまうと4週間で3レース走ることになってしまうので、けがを含めて怖かった部分が一つと、箱根予選会を走っているので、ハーフマラソンに関してはある程度経験値が得られています。かつ出雲のあたりから感じていましたが、最近の学生駅伝は高速化が進んでいるので、ただ1キロ3分ペースでハーフマラソンを走れれば戦える時代ではないなというのは感じていました。そのため、チームのスピードを養うという点でも主力組にはトラックという選択をしました。
――上尾ハーフでは三上選手がチーム内トップに入りました
箱根予選会が思ったよりも走れなかったんですね。本人もそれは感じていて、3月(日本学生ハーフマラソン選手権)に似たようなコースを63分台で走っていますし。やっている練習にしては予選会はどうだったんだろうねという話になって、上尾では思い切ってチャレンジして攻めてみようじゃないかということで送り出しました。彼はすごく真面目で、レースも控えめになってしまうところがあったのですが、前半は付き切れませんでしたけど先頭集団に付いて、そういうチャレンジをしたことで彼が変わるきっかけができたと思います。タイムや順位は納得いくものではありませんでしたが、突っ込むチャレンジをして、ある程度のタイムでまとめてくる力はついているのかなと感じます。
――上尾ハーフに出たメンバーでは住吉宙樹選手(政経3=東京・早大学院)など、Bチームで新たにハーフマラソンを走れる選手が出てきましたが、育成の成果はいかがでしょうか
住吉がこのタイミングで出てくるとは、夏くらいの時点では僕は想像していませんでした。そこは彼自身の努力もそうですし、BCチームのメンバーが、Aチームに追いつこうと取り組んできた成果の一つのかたちだと思います。住吉にも期待しているし、住吉が変わったのなら自分たちにもやれるという意識が出てきて、BCチームの一人でもAチームに絡んでくるような競争が起きれば、成功なのだと思います。
――日体大長距離競技会では半澤選手の復帰戦になったほか、井川選手にとって2度目の13分台、中谷選手のシーズンベストの結果でした。出来を振り返るといかがですか
半澤に関しては、夏合宿は本当にうまく行っていて、長い距離に対して苦手意識がなくなってきていたので、けがしたと聞いたときにはすごく残念でしたけど、幸いにも1カ月程度で練習が再開できました。半澤と同じタイミングでけがをして、箱根に間に合ったパターンはいくつかあったので、彼と話し合って、記録会に出すのは十分ではなかったんですけど、箱根までに一度試合に出るという試合勘を取り戻すことが必要だと考えて出しました。結果としては想定していたよりも良いタイムで、良い内容で走れたので、直近の練習だけでなく、夏合宿にやってきたものに対して手応えが感じられたし、同時にこれでは足りないなと課題も感じられました。すごく収穫のあるレースだったと思います。
井川はハーフマラソンか、5000メートルか1万メートルかですごく迷ったのですけど、全日本のレースを見た時に、箱根予選会でハーフマラソンは一度走っていたので、彼にはスピードを取り戻してほしくて。あとは、記録会だとペースに乗って付いて行くだけなんですけど、レースで勝ち切る経験をさせたかったので、5000メートルという選択をしました。箱根予選会や全日本よりも状態は上がっていたので、13分台を出したことには一つの成果があると思うんですけど、彼本来の状態からするとまだ足りないなと感じていましたので、彼にも課題と収穫が得られたと思います。
中谷に関しては、夏の頃から足に痛みが出たり出なかったりで、(状態は)どうかなというのはありましたが、全日本の時に足の痛みがあったけど昨年と同じくらいのタイムで走れていたので、5000メートルのタイムも同じくらい、できれば自己ベストを出せたらいいね、というところで送り出しました。そこには届かなかったのですが、レース内容が昨年と違っていて、途中で失速することなく、しっかり走り切りました。自己ベストを出せなかったのは、スピード練習をあまりやってこなかった分だと思ったので、彼はすごく手応えを感じたレースになったのではないかと思いますね。
――1万メートル記録挑戦会では28分台が3人、自己ベストが5人と盛況な記録会となりました。振り返っていかがでしょうか
そうですね。彼らも2レース(箱根予選会、全日本)を走って休ませた後に準備してきたのですが、準備としては十分ではなくて、完全にスピード感覚を養うレースだと話をして、青学大の選手を中心にハイペースで進むと思うのでそこに負けずに突っ込んでこいという指示をしました。それを(9組を走った)4人ともしっかりと実行しましたし、後半足りない部分は集中練習で補えられればと思っていたのですが、結果的に4人ともにしっかり粘り切って自己ベストを出したので、これはすごく彼らにとってもチームにとっても追い風となる成果となったと思います。ただ一方であのレースは好記録をどこの大学も出しているので、記録を出したことに満足していると箱根で戦えないということも合わせて感じたと思います。すごくあのレースは良い経験値が得られたと思います。
――全日本、1万メートル記録挑戦会と新迫選手が好走しています。新迫選手をどう評価されますか
1年生の時に活躍した中で2、3年生の時はけがなどもあってうまく行かず、精神的にも腐っていた時期もあったと思いますが、4年生になってからは「このままでは終われない」ということで、夏からチームを離れて実業団へ武者修行に行ったりしました。ただ、帰ってきてからなかなか練習がうまく行ってなかったので、箱根予選会はメンバーに入れなかったんですけど、全日本、1万メートル記録挑戦会と、彼の覚悟が固まったんだと思いますね。一つ一つの練習や行動に対する意識が変わって、夏にやっていた練習と結びついてかたちになってきたのはとても良いことだと思います。ただ彼にも話していますけど、彼に期待する役割はもう少し大きなものなので、それをこのまま右肩上がりで箱根を迎えて、大きな仕事をしてくれる準備をこれからしてほしいと思います。
「今年のテーマはスピード」
――集中練習が始まって数日経っています。現時点のチームの状況はいかがでしょうか
半澤をはじめ、けがで離脱していたメンバーが合流してスタートできたので、それは例年よりも良い状態で入れたと思います。ですが、まだ始まったところなので、これから進んでいく中で、けがや体調を崩すことがないように乗り越えてほしいと思います。
――集中練習で重視している点はありますか
今年のテーマはスピードだと思っています。例年行っているものと比べて、高速化が進んでいる駅伝に対応できる、スピードを意識したメニューを入れています。走り込んだ中でスピード練習をやるのはきついのですが、それを乗り越えないと戦えないし勝ち切れないと思うので、そこは学生にも意識してほしいと思って入れているところです。
――今年は早大の戦力が拮抗していると思います。チーム内競争はいかがでしょうか
集中練習をやっているのが22、3人に増えていますので、そういう意味ではBチームから上がってきて一緒に練習しようということになっているので、もともと人数が少ないチームではありますけど、例年より競争は起きていると思います。
――箱根予選会と全日本を経験した1年生に関してはどう評価していますか
1年生なので、できれば予選会は上級生でカバーして、全日本に集中してほしかったのですが、チーム事情もあって予選会から出てもらいました。予選会では大学初のハーフマラソンだったので、無理をせず前半は抑えて後半上がってこいという指示をしたのですが、チーム内2、3番で帰ってきて、彼らが予選会の救世主になってくれた部分があります。逆に、全日本については二人ともよくがんばってくれましたが、予選会でうまく走れたことで、本来の力からすると全日本は力を出しきれなかったかなというところもあります。まだ1年生として体力が足りていないなと感じたんですけど、持っている能力は高いし、大舞台でも力を出し切れることを確認できましたので、箱根でも1年生なので変なプレッシャーを感じないで伸び伸びと自分の力を出してくれればと期待しております。
――今年の山の5区、6区はどのように準備を進めていらっしゃいますか
箱根予選会があったので、例年に比べると準備が遅れています。現時点では私も誰で行くというのを決め切れていないので、これから集中練習をやっていく中で考えていかないといけません。 大事な2区間になるのでしっかり戦えるメンバーを選びたいと思っています。
――長距離ブロックは『箱根3位以内』を掲げています。その目標は変わりませんか
そうですね。予選会が終わって確認した時に、みんなもやもやした中だったけれどみんなで議論して確認した目標ですし、全日本で6番だったことで、ほっとした後に喜んでいる選手は誰もいなくてやっぱり悔しいよねと。3番、そして先頭も見えていたし、という話になったので、そこは変わらず。でも3番以内は甘いものではなくて、待ってて得られるものではありません。自分たちでつかみに行くつもりで、その目標を目指して強くなって、変わって、つかみ取りたいなと思います。
――そこに向けて鍵となるのはどの部分でしょうか
一つは当たり前ですが、これからの1カ月の練習の中でけが人や体調不良者を出さないことだと思います。人数が少ないチームだというのはウチの課題なので、そういう意味では誰かが欠けてしまった時のダメージは非常に大きなものがありますから、そこを乗り越えるのが一つです。それと、前回の敗因は2区、5区が準備が十分でない時に代わりの選手が出ず、チームとしての択数が足りなかったことだと思っているので、今年はエースに頼らない、俺がエースだ、俺がやるんだという意識を持ってやることが3位以内を目指す上での重要な要因だと思います。
――箱根になると、20キロに加えてスピードの面も重要となってきます。現時点でのスピードの手応えはいかがでしょうか
スタミナの点については、集中練習をやっていく中で、これまでの実績があるのである程度走れるだろうと想定しています。スピードがどれだけ上げられるかが今年の鍵だと思うのですが、1万メートル記録挑戦会の結果を見ても、他大学の主力とそこそこ戦えるというのが学生たちも手応えとしてあると思うので、今やっている集中練習にプラスして、練習の中にスピードの要素をどれくらい取り入れていけるかというのが鍵であり、これからの課題だと思います。
――今年のチームカラーはいかがでしょうか
結構真面目でおとなしい子が多いですね。練習はコツコツとやるのですごく良いんですけど、先日もミーティングで話したのですが、ちょっと大人しすぎるよねと。もっと声を出して自分を表現するような、アウトプットするようなマインドがこのチームには足りないというのをしたので、その真面目さ、勤勉さにプラスして、思い切りの良さとか、そういったものが加わってほしいと思っています。
――チームは太田智選手を中心にまとまっているという感じでしょうか
そうですね。やはり太田の存在感は大きいので、そこを中心にチームは回っています。あとは4年生全員が対校戦の経験者になって、みんな個性があって下の学年に与える影響はそれなりにあるので、今年は良くも悪くも4年生の年なのかなと思います。
――4年生は戦力としてどのようにお考えでしょうか
長い距離になれば信頼できる選手ばかりで、経験値も申し分ないので、そこに関しては問題はありません。ただ下級生も力をつけているので、これからの集中練習でしっかりやらないと、彼らでもなかなか(エントリーに入ることは)難しいと思いますが、学生スポーツは4年生(が中心)だと思うので、彼らが最後まで引っ張ってくれることを期待しています。
――監督から見た、今年のチームの強みとは何でしょうか
やはり真面目さ、勤勉さから出てくるといいますか、手堅いレースをする選手が多いですね。崩れないのが強みです。全日本でも大きなブレーキがなくて全員がつなぎ切ったから6位があったと思うので、攻めないといけないというのは上に行くためのキーワードではありますが、それプラス自分たちが足元を固めるという意味でも、崩れない、手堅い走りをするのは強みだと思います。
――残り1カ月でどう選手の状態を仕上げていきたいと考えていますか
トレーニングに関しては伝統のある練習をやっていくことで、それなりにゴール地点を見ながらやっていけると思います。あとは意識の問題だと思います。上にチャレンジするうえで、意識改革やメンタル改革がもう一段階上に行かないと戦えません。先ほども言ったように、自分を表現することもそうだし、練習や日常生活の中で意識が変わってくるような仕掛けを何回かしていきたいと考えています。
――監督として箱根への意気込みをお願いします
予選会で不甲斐ない恥ずかしいレースをしてしまって、ご心配をいただいたことも多かったんですけど、私たちはこんなもんじゃないというのを本戦でしっかり証明したいと思います。予選会からの、文字通り『チャレンジャー』ですけど、守ることなく精一杯攻めて、目標以上の結果が出せるようにがんばりたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 岡部稜)