【連載】箱根事前特集『燕脂の挑戦』第2回 駒野亮太長距離コーチ

駅伝

 東京箱根間往復大学駅伝への出走を夢見るB、Cチームの育成に当たっている駒野亮太長距離コーチ(平20教卒=東京・早実)。そんなコーチから見える今年のチームの現状とは。詳しくお話を伺った。

※この取材は12月8日に行われたものです。

B、Cチームは泥臭く

丁寧に取材に応じた駒野コーチ

――B、Cチームを指導する面で、今年変えられたことは何かあったのでしょうか

 シード落ちしたチームということで、当然箱根に出られる確約はない中で1月から10カ月近く過ごさないといけません。なので、Aチームにも共通しているのでしょうが、挑戦者というか、例年以上に泥臭くやらないとと。泥臭くやるという点については、B、Cチームの選手は順応性が高いように思われるので、それを徹底してきました。朝のペース走もAチームと完全に切り分けて長いことやっていましたし。泥臭く、というのが例年と違ったかもしれないですね。

――B、Cチームは箱根の20キロに対応できる選手を育成するという点で指導していらっしゃるということでしょうか

 そうですね。5000メートル、1万メートルでAチームと戦える選手をすぐに育てるというよりは、まず20キロを足掛かりとして。ゆくゆくは5000メートル、1万メートルでも勝負できるような力をつけてほしいと思っていますが、まずはハーフを1キロ3分で押していけるような力をつけるというコンセプトは変えていません。

――夏合宿を通しての消化具合はいかがでしたか

 消化具合は良かったですよ。例年よりも箱根予選会を意識した、量が多めの練習をAチームとBチーム共に組みましたが、故障で離脱するメンバーがそんなに多くなく、みんなでみっちりやり切ったという感じですね。

――夏合宿を経て成長したと感じる選手はいらっしゃいますか

 今年は吉田(匠、スポ3=京都・洛南)と太田直希(スポ2=静岡・浜松日体)ですね。1次から3次合宿までを通してしっかりやっていましたし、特に3次合宿では全カレ(日本学生対校選手権)と被っていたことで、(太田)智樹(駅伝主将、スポ4=静岡・浜松日体)や中谷(雄飛、スポ2=長野・佐久長聖)、千明(龍之佑、スポ2=群馬・東農大二)といった主力の選手がいなくなった時に、残ったメンバーの中で存在感というか、引っ張っていこうというのを出していました。直希はこの間もしっかり走りましたし(1万メートル記録挑戦会で28分48秒69の自己新)、吉田も箱根予選会と全日本(全日本大学駅伝対校選手権)の2本をしっかりまとめたので、力もついてきています。そのベースは「この合宿を自分たちがやるんだ」という意識でやったことが大きかったのではないでしょうか。

――昨年の秋シーズンは記録会に多く出場していたと思いますが、今年はあまり出場していない印象がありました。そのあたりは、戦略の変更というかたちなのでしょうか

 箱根予選会があったことが大きいでしょうね。去年は出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)や全日本の前に記録会に出ていましたが、それはレースのための記録会という意味を含めていました。今年はやはり箱根予選会があったので、3次合宿が終わった後に記録会に出ましたが、それ以降は予選会に向けて(体を)つくっていく期間でした。それで少なく見えているのだと思います。

「全日本では、戦える自信がついた」

――箱根予選会では9位でした。この結果はコーチの目にどう映りましたか

 厳しい結果だったですけど、どちらかというと、力を出し切れなかったことの悔しさや、こんな力ではないのに、これで彼らが評価されてしまうのが残念だという気持ちが強かったですね。当日が暑くなってしまってそこに順応できなかったなど、結果的には力のなさを露呈してしまったんですけど、彼らの練習を身近で見ている者とすれば、能力の低い子たちではないのにな、という感想でした。

――駒野コーチは選手時代にも箱根予選会を経験されていましたが、何か違ったことを感じましたか

 雰囲気が変わりましたね。お客さんの人数もすごく多いし。立場が変わったからそう感じるだけかもしれないんですけど、雰囲気がすごく本戦に似た緊張感とか注目度がありましたね。僕らの時は、予選会は「所詮予選会だしな」という雰囲気がありましたが、今はレベルが上がっていると感じましたし、その分注目度も上がっているなという印象はありました。

――尼子風斗選手(スポ4=神奈川・鎌倉学園)や遠藤宏夢選手(商4=東京・国学院久我山)、三上多聞選手(商4=東京・早実)、山口賢助選手(文2=鹿児島・鶴丸)といった一般組の選手も出場しました。これらの選手についてはいかがでしたか

 本来、ああいう暑くなった中では、彼らのような泥臭い集団が力を発揮してほしかったんですけど、全体的に彼らも力を発揮できませんでした。せっかくのアピールのチャンスだったので、もっと頑張ってほしかったという思いはありましたね。

――全日本では6位で3年ぶりのシード権を獲得しました。箱根予選会から1週間でチームを立て直すことができた要因というのは

 二つあります。一つは精神的な切り替えですね。監督ももちろん私も声掛けしていましたし、選手たちもそのまま全日本に引きずって入るよりは、通ったからもういいじゃんと、良い意味で開き直れたのが大きかったのかなと。もう一つは自分たちがやってきた練習を信じてきたことです。箱根予選会の翌日に、目標を下方修正するかどうかの学生のミーティングがあったのですが、そこで3位をブラさないでいこうという方針を再確認して、駅伝に向けて力を出し切ろうと、もう一度気持ちを新たにできました。これは箱根予選会があったからこそ、こういう場をきっと設けられたと思うので、9位がもたらしてくれた、ある意味で良い材料だったのかなと思います。

――疲労もあったと思いますが、箱根予選会を比較して後半のペースの落ち込みは少なかったと思います。この点についてはいかがでしょうか

 箱根予選会の日に比べて気候が良く、走るのにも適していましたし、距離も半分弱で、しっかり彼らがやってきた練習の成果が出て、後半の落ち込みを食い込められました。あとは箱根予選会で、あまり褒められたことではないですが、良くも悪くも力を出し切らなかった。それが結果的に、翌週に疲れをそこまで引きずらずに済んだ要因だった気がします。

――選手、監督に話を聞くと、悔しい気持ちと安堵の気持ちの両方が伺えました。駒野コーチは結果についていかがですか

 悔しいですね。やはり途中までは3位だけでなく2位や首位も見える位置だったので。もちろん安心した気持ちもないわけではないんですけど、そこでしっかり勝負できたかもなと思うと、悔しさや次こそ絶対という気持ちの方が圧倒的に強いですね。

――全日本では、一般組の選手の出走はなりませんでした。この点についてはどのようにお考えでしょうか

 山口や三上は最後の8番手の争いに入っていたのですが、決め手となったのは箱根予選会で凡走してしまったこと、力を発揮し切れなかったことでした。特に全日本は失敗できなかったので、やはり大舞台で力を発揮できる、よりエンジのユニホームを着て走る経験がある選手を優先して起用したというのと、予選会からの立ち上がりが推薦の選手の方がスムーズだったところがとは違いましたね。

――全日本が終わってチームの雰囲気に変化はありましたか

 自信が一つポンとついたのではないでしょうか。自分たちがやってきたことは間違っていなかったとか、自分たちも戦えるという自信がついたと思います。これまでは智樹とか、中谷といった一部のメンバーしか感じられなかったものが、走った8人はもちろん、そこにいた補欠の何人かも、「自分たちもそのレベルに到達できるかもしれない」という実感を持ったと思います。

――上尾シティマラソンでは主に一般組の選手が出場しましたが、結果や走りをご覧になっていかがでしたか

 去年はうまくいっていて。伊澤(優人、社4=千葉・東海大浦安)や真柄(光佑、スポ4=埼玉・西武学園文理)、三上がしっかり走れて、真柄は箱根を走りました。その流れに乗って今年も仕掛けていたので、練習の流れはほとんど変えていませんでしたし、去年よりも真柄や渕田(拓臣、スポ3=京都・桂)に関しては消化率が良かったんですね。なので、正直真柄(1時間11分19秒)と渕田(1時間10分35秒)の失速は想定外でした。あとは室伏(祐吾、商2=東京・早実、1時間7分13秒)も練習は良かっただけに、初めてのハーフという気負いがあったのかなと。どちらかというと悪い誤算の方が多かったレースですね。

――レース後には選手にどのような声掛けをしていたのでしょうか

 頑張った選手には、「よく頑張ったね」ということと、「ここで満足するんじゃないぞ」ということを言いました。特に昨年、伊澤と真柄は上尾を走った後に、少し一息ついてしまって。そこでけがをしたり、練習がうまく積みきれなかった部分があったので、「ここで油断するな」ということはかなり口酸っぱく言いましたね。走れなかったメンバーには、「走れなかった原因が必ずあるから、まずはそこをしっかり考えて。箱根予選会から全日本にかけて切り替わったように、集中練習に入る時には気持ちを切り替えられるように、引きずらないで切り替えていこう」と話しました。

――箱根に向けてB、Cチームの強化はいかがでしょうか

 Bチームから住吉(宙樹、政経3=東京・早大学院)や室伏、渕田あたりは集中練習に合流させています。そういうメンツが、メンバー争いだけではなく、(エントリーの)16人が決まった後も、その16人に入っている気持ちで練習してほしいと思います。

――1万メートル記録挑戦会では28分台を3人がマークしました。この他の選手の結果も含めて、どうご覧になりましたか

 直希と創士(鈴木、スポ1=静岡・浜松日体)が28分40秒台で走りましたが、智樹の献身的なサポートがありつつも、練習からすれば出てもおかしくないタイムだったと思います。どちらかというと新迫(志希、スポ4=広島・世羅)が主戦場に戻ってきてくれたというのが、チームにとってすごく明るい材料だと思います。

集中練習の消化率は良好

――集中練習が始まって数日経っています。現在のチーム全体の雰囲気はいかがでしょうか

 例年以上にしっかり消化している選手が圧倒的に多いです。ちょっと気を抜いたらメンバーから外されてしまうかもしれないという、それは16人の争いだけでなく10人でもそうですし、そういうところがかなり意識されているんだろうなと思っていて。例年よりも「俺はもう大丈夫」と感じている選手が少ないはずなので、そこはすごく競争意識が高まっているんじゃないかな。すごくまとまっているし、質も高いし。本当に故障者さえ出なければ、良い感じになるのではないかという印象ですね。

――手応えを感じていると

 手応えは、今のところは。まだ半分過ぎたくらいなのですが。ここからまだ重い練習があるので、そこを経て故障者が出なければかなり楽しみかなと思います。

――ここ最近でBチーム以下出身のメンバーが練習でアピールを見せていることはありますか

 Bチームの選手たちが、Aチームの選手に勝とうとするならば、やはり長い距離の練習ですね。集中練習中も泥臭い練習が多くなってくるので、そういう練習の中で、存在感がどれくらい示せるかというのが重要になってくるのですが、三上や住吉、室伏など、相当きついと思うけれどしっかり歯を食いしばってがんばっているので、そこの存在はAチームにとって刺激になっていると思います。

――箱根まで1カ月を切っていますが、一般組のメンバーが箱根のエントリーメンバーに入る、もしくは箱根で走るためには何が必要でしょうか

 一般の選手に関しては、この1カ月で何ができるというよりは、1年を通してちゃんと準備ができたかどうか、に尽きると思いますね。現在16人の争いの中に入っている、例えば今年で言うと、住吉は割と春先からコンスタントに練習をコツコツと積めてきていて、夏合宿でも3次合宿くらいからは、一人で練習することが多かった中でもしっかり体が強くなってきて、故障せず苦しい練習に耐えられるようになってきています。なので集中練習の期間だけがんばるというよりは、年間を通してちゃんと準備できていることですね。山口とか向井(悠介、スポ2=香川・小豆島中央)にしても、Bチームから上がってきている選手ですけど、同じことが言えるのかなと思います。

――チームでは『全日本・箱根3位』と掲げています。箱根3位以内を達成させるために、現チームに何が必要だと考えていますか

 まず一人も故障者や体調不良者を出さないことが大前提です。その上で、今8、9番手くらいまでとそれ以下の選手との間に力の差が開いてしまっているのですが、10番手以降の選手も5、6番手くらいにしっかりと近づけられるように。集中練習の残りは少ないですけど、そういった練習が出来ればもっと10人の争いがシビアになってきますし、当然いろいろな緊張感や競争意識がさらにはたらくと思います。ですので自分は何番手だということを決めつけず、とにかく上に上に、前に前にという意識をしていってほしいです。

――箱根は現在スピード化が騒がれていますが、それに関してはどうお考えですか

 どちらかというとスピード化というよりも、最初の3キロや5キロを突っ込んで入って、そこから我慢して押していけるという選手が強いとされていますね。今の集中練習でもそれに対応できるような取り組みをしていて、前半突っ込んで、しっかりそこから3分前後のペースで押していくことをやっているのですが、その練習を課していてもしっかりやっているので、夏合宿からしっかり積み上げができているのだと思います。

――山(5区、6区)について。経験者が今シーズン苦しんでいる印象がありますが、今年はどのようなプランを考えていらっしゃいますか

 経験者は確かに苦しんでいるんですけど、経験者でもある程度走力がないと、適性があっても走ることができないので、そこは多少(経験者は)履いてそこの下駄をはいますけど、それで全て決まるというよりは、やはり年間を通しての走り込みの量だったり試合の結果を比べた時に、経験者の方が良いのか、経験者でなくてもきっとこれくらいでいけるだろうと見込みを立てることができるのかなと思います。

――山の区間への重要度はどの程度置かれているのでしょうか

 10区間全てが大事なのですが、やはり5区はしっかり往路の締めとして大事ですし、6区もつなぎ区間だと思って行くと1分、2分を平気で逆転されてしまいます。ですので、走るからには区間5位以内といったところを狙えるようなものを求めていきたいと思います。

――鍵となる区間は特に置いているわけではない、ということでしょうか

 ただ、前回シードを落としたのは2区、5区を外したことが原因だったので、他の区間ももちろん大事ですけど、今年は2区、5区でしっかり借りを返すこと。そこがしっかりハマればきっと上の方で戦えると思うので、2区、5区が大事だし、そこに対しては強みがあると思っています。

「チーム全体にスイッチが入っている」

――今のチームにおける現在の課題や、箱根までに詰めていきたいと考えている点は

 今年は箱根予選会があったことで、例年よりも夏合宿の量を増やしてスタミナをつけているので、そこの積み上げに関してはこれからそんなに必要ないかなと考えています。ただ夏の期間や集中練習で培ったスタミナを、今のスピード駅伝に沿うかたちに組み替えられるかどうかが今後の鍵でしょうね。箱根予選会ではスタミナの面がスピードにうまくはまらなくてちぐはぐな印象があったので、そこがしっかりハマってくるように持ってくれば面白いと思います。

――強みはどこでしょうか

 スイッチが入ったら、それなりのものを持っている選手が多いことですね。やはり高校時代に都大路(全国高校駅伝)やインターハイ(全国高校総体)でしっかり名前を残した選手もいますし。その選手たちのスイッチが入ったら僕や監督でも、思いのよらないような調子の上がり方や体の仕上がりを見せるので、そういうスイッチが入った時の強さは、ここ最近でも目を見張るものがあるなという印象ですね。

――そのスイッチは入っているでしょうか

 間違いなく入っています。全日本の6位も、そこで満足している選手は一人もいないですし、選手の中にも、安心したけどやはり悔しいとか、去年の大惨敗とはまた違った、もっとやれるはずという雰囲気が漂っています。集中練習を見ていても一人も離れないですからね。強い選手弱い選手、Aチーム上がりBチーム上がりでなく、チーム全体でスイッチが入っている状態を感じます。

――駒野コーチが注目している選手はいらっしゃいますか

 三上ですね。高校の後輩でもありますし、今年は多少波がありますけど、立川(日本学生ハーフマラソン選手権)から年間を通してコンスタントに走っています。彼が集中練習でもう一皮むけて、攻める選手として起用できるのか、守りの選手として起用するのかはだいぶ変わると思っていて、彼がどういう立ち位置で1月2日、3日を迎えるのかというのがチームにとって大事だと思っています。

――箱根まで、コーチとしてどうチームを指導して箱根のスタートラインに立たせていこうと考えていらっしゃいますか

 選手の間でもよく言われていますけど、あくまで本番は1月2日、3日です。練習は良いけど本番は力を発揮できない選手が結構多いのですが、そういった選手はどうしても練習で満足してしまったり、出し切ってしまったりして、うまく練習をつなげることができません。結局1月2日、3日が本番であって、そこに全勢力を傾けることが重要です。特にメンバー争いにかかってくると、どうしても練習のための練習になりがちなので、練習で良いかたちを残すことだけが目標ではないということは、しっかり言っていこうと思います。

――箱根への意気込みをお願いします

 選手が3位以内と言うからには、僕らはそれを全力でサポートするだけです。間違いなく右肩上がりに来ていることは誰から見ても明らかなので、その勢いをしっかりそのままに。2020年は五輪イヤーでもありますし、そういう年に早大全体で上昇気流をつくっていけると、きっと一般種目のトラックアンドフィールドにも良い流れができると思います。チーム全体にとって良いスタートが1月から切れるような、そういう駅伝にしたいと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 岡部稜)