【連載】箱根事前特集『燕脂の挑戦』第4回 井川龍人

駅伝

 注目の有望株が、いよいよ初めての箱根路を迎える。全国高校総体、国民体育大会の5000メートルで日本人トップ、全国都道府県対抗男子駅伝で1区区間賞など、抜群の成績を引っ提げて早大に入学した井川龍人(スポ1=熊本・九州学院)。早大入学後には初戦から5000メートルの自己記録を更新し、対校戦にも出場するなどの活躍を見せたが、全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では悔しさも味わった。そんなルーキーは、東京箱根間往復大学駅伝(箱根)を前に何を思うのか。詳しくお話を伺った。

※この取材は12月4日に行われたものです。

「全カレは大きな収穫」

今季を振り返った井川

――大学初めてのトラックシーズンでした。振り返るとご自身にとってどんなシーズンでしたか

 前半最初のトラックレース(ゴールデンゲームズinのべおか)で自己ベストを2年ぶりに出して(5000メートル13分54秒59)、良いスタートを切れたと思ったのですが、その後の関カレ(関東学生対校選手権)や全カレ(日本学生対校選手権)では13分台に遠く及ばないような結果で、納得のいくレースはずっとできませんでした。ですが、最後のトラックレースとなった日体大記録会(日体大長距離競技会、5000メートルに出場)では一杯一杯にならずに13分台に乗れたので、最後の締めとしては良い終わり方をしたのかなと思います。

――特に印象に残った試合はありますか

 全カレの5000メートルですね。夏合宿を途中抜けして出場するというかたちでした。13分台を目標にがんばりましたが、そのタイムには届きませんでした(14分13秒07で13位)。でもずっと勝てなかった中谷さん(雄飛、スポ2=長野・佐久長聖)に勝てたので、それは自分の中で大きい収穫となりました。

――全カレを機に何か変わったことはありましたか

 中谷さんに今までは勝てないと思っていましたが、一勝することができました。自分にも勝てるということがわかったので、特に大会の時にはすごく意識するようになりましたね。

――トラックシーズンでの成長面、もしくは課題などは見つかりましたか

 高校の時はスピード練習を多く入れていたのですが、大学では距離を踏むのがメインになって、スピード練習ができていませんでした。高校時代に持ち味だったラスト1周では誰にも負けないというのが、大学で微妙な感じになってきている部分があります。ラストスパートは自分の長所なので、そこで負けていたらダメだと思います。もっとスパートのキレを上げられるようにしないと、と思いました。

――高校と大学の試合の違いはどう感じましたか

 やはり大学だとスパート(の距離)が長いと思いましたね。

――それに対応するために何か取り組んでいることはありますか

 きょうの練習ですと、2万1000メートルをみんなでペース走をして、最後は全員で2分59秒くらいで上がりましたが、そこからもう一度、一人で1000メートル(のペース)を切り替えて終わろうと。最後(ペースが)上がった中で、もう一回上げることを意識して練習しました。

――少し話が戻ります。夏合宿では距離を踏む練習を多く行っていたそうですが、初めての夏合宿を振り返るといかがでしたか

 最初の方は1年生メニューでしたが、上級生と同じ距離を自分でプラスして一緒にやっていました。ただ、後半は前半にやりすぎていた疲労などで走れなくなってしまいました。でも高校に比べると、しっかりと距離を踏むことができたと思います。

自身を見つめ直す機会となった全日本

初めてエンジのタスキをかけて臨んだ全日本。1区を担当した井川だが悔しい区間16位に終わった

――ロードシーズンの初戦は箱根予選会となりました。はじめてのハーフマラソンだったということで、改めてレースを振り返るといかがですか

 レースプランとして、前半は抑えて後半にペースアップできれば少しずつ上げていくというのが相楽さん(豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)から言われたものでした。そのレースプランを守って1時間3分台、というのが目標だったのですが、それに届かずすごい悔しい結果になりました。でも、ラップタイムを見ると前半抑えたところがかなり遅くて。まだまだ前半から上げていけると感じたので、次にハーフマラソンの距離を走るのは箱根になりますが、それに生かせるような良いレースになったと思います。

――チーム内2番手の結果についてはどう感じられましたか

 タイムは遅かったので、特に何とも思わなかったですね。

――ハーフマラソンは楽しく走れたと仰っていました。長い距離ですが、どういった点でそう思ったのですか

 トラックレースは場所取りが大事なのですが、自分は正直スタートが苦手で、そんなにガッと行きたい感じではないんです。でもハーフマラソンだとゆっくりスタートできるし、リズムをつかみやすいです。またトラックだと前の人と当たりやすいけれど、伸び伸びと走れるのがハーフの良いところですね。

――全日本は箱根予選会からわずか1週間のレースでしたが区間16位。改めて振り返るといかがでしたか

 かなりのスローペースで入って、途中、「これだけスローならスピードがあるから戦えるのではないか」と思っていたのですが、それは甘い考えでした。みんなのレベルはかなり高く、ラスト3〜4キロからスパートに対応できなかったので、大学のレベルの差を感じたというか、レベルが違うなと感じました。

――ご自身が得意とする1区でしたが、任されたときのお気持ちは

 高校の時からよく1区を任されていて、監督から「駅伝は前半の流れが重要になってくる」とずっと言われていたので、早稲田が後半に良い結果を出すには、1区の流れが大事と思っていました。なので流れをつくることを大切して臨みました。

――チームは3年ぶりにシード権を獲得する6位でしたが、チームの結果をどのように受け止めましたか

 僕が1区で不甲斐ない走りをしたんですけど、残りの区間では区間一桁で、どんどん順位を上げてくれて、チームが一丸になってきたのを感じました。

――レース後に相楽駅伝監督など、指揮官からはどのような話を受けましたか

 「まだがんばれる」と言われました。あと田澤(廉、駒大)などが良い走りをしていたので、ライバルがいるからそれに負けない気持ちを持って、練習をもっとがんばれと言われました。

――それを受けてご自身ではどう受け止めましたか

 やはり振り返ってみると、基本的な流しとかジョグのペースが高校の時と比べておろそかになっていて、高校の原点に戻るとまだまだ練習を工夫できることに気付きました。それから流しではスパートを意識するようにしたり、ジョグに関してもゆっくりで終わるのではなく、後半しっかり上げて終わるとか。また補強で体をしっかりつくるといった点を改めてきました。

――それは高校時代のメニューを取り入れたものなのでしょうか

 高校の時は当たり前のように、どんなにきつくて足が動かなくても流しを監督から言われた本数をやっていたのですが、大学に入ったら「きょうはきついから流しはいいかなみたいな」といった甘い考えになっていた部分がありました。高校のことを考えてみたら自分に甘くなっていたので、高校の時を思い出して始めました。

「もう一皮むけるように」

――全日本から2週間後の日体大記録会で2度目の13分台となる13分59秒00でしたが、あまり納得はしていない様子でした

 持ち味のラスト1周のスパートで、かなりの人に抜かれてしまって。高校生にも抜かれて離される展開になってしまいました。キレがなくなっている点ですごい悔しい思いではあったのですが、その中でもだいぶ余裕を持って5000メートルを走り切ったという部分もあって。13分台は出ることは分かったので、そこは少し成長したのかなと思いました。

――現在は集中練習の期間だと思います。練習の消化具合や調子はいかがですか

 先週少し(練習を)やり過ぎた感じがあって、今週の始めは疲労が残っている状態であまり思いどおりに動かないという感じでしたが、しっかりケアをして、きょう(12月4日)の練習ではまただいぶ戻ってきたと感じています。もう一回ここから、一皮むけるようにしたいと思います。

――初めての集中練習ですがこれまでの練習との違いは何か感じますか

 高校と比べると距離が違うし、距離が違う中でタイムも断然大学の方が速い中でやっているのでかなりきついのですけど、強くなっているというのを感じています。良い練習ができていますね。

――差し支えない範囲で、こういった練習ができたというのはありますか

 先週に、1000メートルを突っ込んでから1万6000メートルのペース走をして、200メートルを8本というメニューをしたのですが、そこでは課題のラストのキレを戻すために、絶対に200メートルでは誰にも負けずに全部トップを取るというのを走る前に決めていました。何人か代わり代わりに攻めてきましたが、一回も譲らずにやり切ることができましたね。

――20キロへの対応を口にしていますが、現在はどの程度手応えを感じていますか

 夏明けくらいに比べたらだいぶ体力はついてきてると思うのですが、今までの箱根の1区の動画を見る限り、これではまだまだ体力が足りない感じがして。正直この状態でスタートラインに立っても、自信がある状態で立つことはできないかなと思っています。

「早稲田に流れをつくりたい」

――箱根があと1カ月に迫っています。現在の箱根へのお気持ちはいかがですか

 全日本で1区を任せられたのですが失敗してしまって、はっきり何区を走るのかというのはわかりませんが、もしまた1区を任せてもらえるのならば、大迫さんが1年生の時に1区で区間賞を取っているように、1年生でも戦えることを証明しているので、自信を持ってスタートラインを立って早稲田に流れをつくれるようなレースをできたらいいなと思います。

――ライバル選手はいらっしゃいますか

 田澤ですね。大学に入って日体大記録会の5000メートルあたりから急に強くなって(9月22日の日体大長距離競技会で13分41秒82をマーク)。まだ大学に入って一緒にレースをしたことはないのですが、強敵になっているのは見ててわかるので、負けたくないですね。

――鈴木創士選手(スポ1=静岡・浜松日体)とルーキーコンビで活躍したいと部員日記に書かれていました。鈴木選手は井川選手にとってどんな存在ですか

 この前の1万メートル記録挑戦会で28分40秒台を出して、僕の1万メートルの自己ベストと1分くらい差ができてしまいました。強いな、とすごく思っています。僕も負けていられません。箱根で二人が活躍したら、ルーキーコンビが話題になると思うので、それを楽しみにして二人でがんばっていきたいと思います。

――太田智樹駅伝主将(スポ4=静岡・浜松日体)はどんなキャプテンですか

 絶対勝てそうにないです。特に試合では背中が大きく感じます。

――スーパールーキーとして井川選手の注目度も高いと思います

 周りから見たら、どちらかというと田澤という感じになってて、結構忘れられている感があるので……(苦笑)。箱根で一発走れることを証明して、まだ僕がいるんだというのを周りに見せられたらと思います。

――箱根までにさらに強化したい部分はありますか

 スパートのキレですね。キレがあれば途中の中間走も楽に走れるようになると思います。残り短い期間で強化できることは動きのキレだと思うので、ドリルや補強などを行って、キレを出していきたいと思います。

――ご自身の走りの強みを教えてください

 ラストの勝負で負けないところだと思います。

――箱根への意気込みをお願いします

 スタートラインに立った時に後悔がよぎらないように。万全な状態で立って、早稲田に流れをつくりたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 岡部稜)

色紙に書いたのは頑固者を意味する『肥後もっこす』。力強い走りに期待です!

◆井川龍人(いがわ・りゅうと)

2000(平12)年9月5日生まれ。178センチ、63キロ。熊本・九州学院高出身。スポーツ科学部1年。自己記録:5000メートル13分54秒59。1万メートル29分42秒03。ハーフマラソン1時間4分50秒。夏合宿の帰省中には福岡に出掛けるなど、アウトドア派の井川選手。普段のオフの日には、仲の良い先輩の大木皓太選手(スポ4=千葉・成田)とよく外出しているそうです。オンとオフの切り替えのうまさが、強さの秘訣なのかもしれません。