全日本大学駅伝対校選手権(全日本)で区間5位、1万メートルで28分台に突入と成長を見せる太田直希(スポ2=静岡・浜松日体)。前回大会以降、8カ月の不調に苦しんだ。初めての長期不調から彼を復調へと導いたのは、駅伝シーズンへの思いだった。我慢の期間を乗り越え、躍進を始めた太田。1年間を振り返り、箱根への意気込みを語った。
※この取材は12月4日に行われたものです。
先を見据えたことで不調から脱出
質問に答える太田
――前回の箱根後、不調だったという話でしたが、どのように練習していましたか
箱根の後はインフルエンザになってしまったので、質より量という感じで、長めの距離を積んで体力を戻していく練習をしていました。
――4月末の日体大長距離競技会で1万メートルの自己記録を更新しました。不調から一度立て直せたのでしょうか
いや、そういう感じではなくて。アプローチの仕方とか準備の段階もあんまりよくないなと思っていたので、日体大記録会っていう記録の出やすい環境で、自己ベストを出したというより出ちゃったという感じでした。
――喜べるものではなかったと
そうですね。
――今年は春から東京六大学対校大会や関東学生対校選手権と、エンジを着る機会もありました
去年はメンバーにかすりもしなかったので、出場の機会をもらえたことはよかったです。ただ、出場しただけでは意味がないので、点数を取らなきゃいけない場面で良い結果が出せなかったのが、今年の春のシーズンの反省かなと思います。
――春のシーズン、長い不調に陥った原因というのは
おそらくなんですけど、インフルエンザになって、その後あんまり目標が明確じゃないままずっと練習をしていました。インフルエンザが一つきっかけというのもありますし、その中で目標を見失ってしまったというのも原因なのかなと思います。
――トラックにおける目標が定まらなかったということでしょうか
そうですね。ちょっと先を見た目標を立てるべきだったんですけど、不調だったので、どうしても一回一回のポイント練習ばかりに目が行ってしまって。結局つながらない練習をしてました。走っても不調なので、どうしようどうしようと悪いサイクルになって、悪い状況から脱せなかったです。
――その悪いサイクルから抜けようと試みたことはありましたか
箱根が終わってからいろんな筋トレとか、動きづくりとか取り入れたんですけど、それを一回やめて、一番最初の何もしていない状態に戻ってみました。夏合宿くらいからは、ずっと先を見据えて、具体的には全日本、箱根を見据えて練習をしてみようと。そしたら結構状態も上がってきたので、そこからはそういう不調というのはないですね。
――駅伝への意識が強くなったと
はい。
――結果がなかなか出なかった春を受けて、夏合宿にはどのような意気込みで臨みましたか
去年よりも成長していないと駄目だと思ったので、去年より距離を踏むことはもちろんですけど、ずっと不調だったので、そこから脱することを課題として臨みました。
――夏合宿の練習の消化具合というのは
二次合宿の前半の菅平まではあんまりいい練習ができず、悪い状態を引きずってしまったんですけど菅平の後半くらいからは本来の走りを取り戻せて、結構調子よくというか、調子を戻せた状態でできたので、消化率は高かったのではないかと思います。
――苦しかった期間、相談したり参考にしたりした人はいましたか
相談したりはなかったんですけど、こういう不調が初めてだったので、自分でもどうしていいのかわからなくて。相楽さん(豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)とは、話し合いというか、どうしていくのが正解なのかっていうのを模索していました。他の部員にはあまり出さないようにしていました。
――意識的にですか
他のみんなは調子よく頑張っていけているので、自分の競技に集中してほしいなと。
――トラックシーズンを振り返って、すごかったなと思う選手はいますか
やっぱり、千明(龍之佑、スポ2=群馬・東農大二)ですね。同学年というのもありますし、常に安定した結果を残しているのと、あと練習内でも離れそうな人がいたら声をかけたりしていたので、刺激は受けました。
「全日本の区間5位には満足していない」
1万メートル記録挑戦会で28分台に突入した
――ロードシーズンの話に入っていきます。箱根予選会では直後、不本意な走り振り返っていましたが
通過しないといけないっていうのが絶対条件で、チームの中でもトップ通過というのを掲げていたんですけど、自分がピークを合わせられなかったです。準備の段階で調整ミスをしてしまっていたなと感じているので、あまり動きの良くない状態で走りました。ハーフという距離と、箱根予選会というプレッシャーの中でメンタル的にもやられてしまったのが反省すべき点かなと思います。
――夏明けの練習が詰めていなかったというわけではないと
そうですね。
――それでも20キロという距離に自信がなかったということですか
そうですね。これまでロードレースのハーフマラソンでなかなか結果が出せなかったのが、心の中で残ってしまっていたのがよくなかったのかなと思います
――予選会の結果について、2年生同士でなにか話されたことはありましたか
その結果は受け止めないといけないですし、自分たちがやって9番という結果なので、一週間後、全日本というリベンジの場があるから、そこに向けて切り替えていかないとという話はしました。
――その1週間後の全日本では他校の選手に食らいつく走りをされていたと思います。全日本の走りを自身ではどう評価しますか
全日本は僕のところに来る時点でいい流れができていたので、僕はその流れに乗っかったという感じですね。
――去年とは違った点だったり、収穫はありましたか
去年は少し前に集団がいたんですけど、そこっていうよりは自分のペースを守って、攻める気持ちが足りなくて。今年はちょうどいいタイミングで集団が来たので、食らいつけるところまで食らいつこうという気持ちで走りました。
――直後のインタビューで落ち着いてレースを進められたとおっしゃっていましたが、自信があったのでしょうか
自信はかなりあったというわけではないんですけど、前の選手たちがいい流れを作ってきてくれたのでそこがかなりいい刺激になって、自分もやらないとという気持ちになりました。そこが大きかったかなと思います。
――昨シーズンはシーズン通して区間10位前後でしたが、区間5位という結果は
去年よりは成長で来たかなと思う一方で、集団についていくかたちで、自分一人で走った区間5位とは違うので、満足はしてないですね。
――全日本を受けて、箱根に向けての課題など見つかりましたか
ラスト2キロくらいで集団に離されてしまったというのもありますし、集団で走ってしまったというのもあるので、箱根に抜けてはやっぱりひとりで押せる力と、ひとりでも前半10キロ速いペースで入っていいペースで最後まで押し切れるようにという感じです。詰めの甘さが全日本では出たので、そこは最後の最後まで気を抜かずにやっていかないとな、と思います。
――予選会後と全日本後でチームに変化はありましたか
予選会のあと1回ミーティングしたんですけど、そこで結構厳しい意見が出たおかげで、自分の気持ちも変わりましたし、チームももう一回しっかりやらないとという部分があったので、気持ちの面も雰囲気も変わったかなと思います。
――全日本後、1万メートル記録挑戦会で28分台に突入しました。
あのレースは無駄な力を使わず余裕を持って走れたので、28分台出せたんですけど、創士(鈴木、スポ1=静岡・浜松日体)にも負けてしまったので、そこはうれしさ半分悔しさ半分ですね。
――鈴木選手は高校時代の後輩ですが、意識されますか
そうですね。レース走ると、いつもちょっと前にいることが多いので、意識しているというか、気にしてはいます。
――自己記録を出した際の調子は今も維持されていますか
1回距離重視にしていて、疲労がたまってきちゃっているので、そこまでの調子のよさではないかなと思います。
――最近の練習の消化具合は
全部できてはいます。
攻めの走りを
――箱根に向けての話に移ります。いま、前回の箱根をどのように振り返りますか
去年は20キロひとりで押す自信があまりない状態で、そこに集団で来てしまったので、一人で攻めて抜け出して一人で押していくのが、本当にできるのかなという不安が自分の中にあったのが反省でした。今年はそれを活かして、どの順位でも、どの位置できても、1秒でも早く一つでも順位上げて次の人に渡さないといけないですし、1年間の終わりの大会なので攻める気持ちを忘れないで走りたいなと思います。
――1年経ってみて、去年の自分と今年の自分はここが違うぞという点があれば
メンタルの部分が大きいかなと思っていて。去年は自信満々で行けたかというとそうではなかったですけど、今年は夏合宿もいい状態でできて、不調はありましたけど、そこからうまく脱却することができたので、今年はいい準備をして自信持って臨みたいなと思います。
――走りの面ではどうですか
前は自分のペースを守ってイーブンペースで押すって感じだったんですけど、今年からは前半から速いペースで行っていかに耐えられるかというのが肝になってくると思います。そこは練習はしてきているので、そういう走りを箱根では見せられたらなと思います。
――今年、このチームの中で自分に求められていることは何だと思いますか
今までつなぎ区間をずっと走ってきてるので、安定した走りとかが求められるのかなと思います。
――前回は復路希望でしたが、希望する区間はありますか
ないんですけど、今年は絶対復路しかないというわけではないと思うので、気持ち的にも往路と復路どちらでも行けるような準備はしていきたいと思います。
――練習における役割として、昨年はこの対談で内部競争を起こしたいと言っていました
今年は集団を引っ張る場面が増えてきたかなと思うので、きついところだったり、ここをがんばらなければいけないというところで自分が出ていければと思っています。それでもやっぱり千明とか中谷に行かれちゃう場面があって、そこについていく形がまだあるので、集中練習では自分が引っ張ってこのチームを高められたらなと思います。
――練習中、意識する選手はいますか
同期ですね。
――先ほど、レースでは鈴木選手は気にせざる終えないということでしたが
そうですね、1万メートル記録挑戦会後も創士はやっぱり速かったです。
――1年間チームを引っ張ってきた太田主将はどのような主将ですか
>やるべきことをやってるっていうイメージが強いです。
――昨年の不調から復活していくところも見ていたと思いますが
やっぱり去年相当悔しかったと思うので。春に13分台で走ったとき、まさか出るとは思わなかったし、たぶんチーム全員そう思ってて。そういうところでキャプテンが結果を出すと全体の指揮が上がったので、そこでやっぱり頼れるなと思いました。
――普段の智樹さんと主将の智樹さんで違うなと思う点は
主将として競技をやっている時は、背中で見せるというか、自分がどんどん前に行ってっていうスタイルなんですけど、普段は意外とのんびりやってるんで、そこはメリハリがついているというか全然違いますね。
――高校時代の智樹さんと変わったなという点は
高校時代はキャプテンとかやってなかったんですけど、チームに結構目を向けているなって感じはします。
――同じ早稲田で同じ競技に取り組んでいるお兄さんはどんな存在ですか
目標ではあります。
――これから箱根まではどのように過ごしたいですか
調子を上げていかないといけないのは間違いありません。気持ちの部分で自分が上がっていけるような練習とか、自分はメンタル面が後ろに引いてしまう場面が時々あるので、集中練習で改善して、本番ではしっかり攻めていけるようにしたいです。
――最後に、箱根に向けて意気込みをお願いします。
箱根では総合3位以内を掲げているので、自分がそこに貢献できるように1秒でも早く一つでも順位を上げて、次の区間の人にたすきを渡せるように、攻めの走りをしていきたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 齋藤夏生)
2年目の箱根路は『攻』めて『好走』することを誓いました!
◆太田直希(おおた・なおき)
1999(平11)年10月13日生まれ。170センチ。52キロ。静岡・浜松日体出身。スポーツ科学部2年。自己記録:5000メートル14分09秒43。1万メートル28分48秒69。ハーフマラソン1時間5分24秒。好きな場所は地元だという太田直選手。全日本後、千明選手が浜松を訪れ、一緒にギョウザとウナギを食べたそうです。