【連載】箱根事前特集『燕脂の挑戦』第7回 千明龍之佑

駅伝

 昨年度は全日本大学駅伝対校選手権(全日本)で1区、東京箱根間往復大学駅伝(箱根)では3区に出走するなど、1年生ながら早大の主力としてチームを支えてきた千明龍之佑(スポ2=群馬・東農大二)。しかし、前回の箱根を終えてから春にかけてはけがに悩まされることとなった。それでも着実なトレーニングを積み、1万メートルの自己記録を更新、全日本では4区区間3位と好成績を残し、その真価を発揮しつつある。2度目となる箱根を前に、今何を思うのか。

※この取材は12月4日に行われたものです。

「チームとしての調子は上向き」

質問に答える千明

――集中練習が始まりましたが今の調子はいかがですか

全日本が終わってから少し走りに不安があったので、集中練習の前は練習は閉じていて、集中練習の前半も距離やペースの強度を下げて行っていたのですが、今週からだんだんとみんなと同じようなメニューに移行しているという感じなので、(調子はこれから)どんどん上がっていくかなというぐらいです。

――全日本の後の記録会などに出場されなかったのも、走りに不安があった影響でしょうか

そうですね。脚が完全ではなかったので回避させてもらいました。

――今の練習で意識していることはありますか

脚の痛みをかばってフォームが崩れてしまわないように意識するのと、あとは大きな動きを意識しています。

――昨年と比べて集中練習の消化具合はいかがですか

同じぐらいな感じなんですけど、去年よりか余裕をもってこなせているかなと思います。

――練習の合間に息抜きにしていることはありますか

寒くなってきているのでお風呂に入ってから練習行ったりとかは意識してやっていることです。

――今のチームの雰囲気をどのように見ていますか

この前の記録会(1万メートル記録挑戦会)でも多くの人が自己ベストを出して、その中でも3人28分台が出ているので、チームとしての調子は上向きじゃないかなと。箱根の前に落ち込まないように、このままの調子を維持していければと思います。

――千明選手から見て太田智樹駅伝主将(スポ4=静岡・浜松日体)はどんな主将ですか

やっぱり厳しい先輩ですけど、しっかり練習も全部こなして走りで引っ張っているといます。僕も来年再来年はそういう立場になってくると思うので、太田先輩のように走りで引っ張れる選手になりたいと思います。

「チームの力になりたいと思って、気持ちを切り替えて1週間後の全日本に臨みました」

――前回の箱根からトラックシーズンにかけてはけがに悩まされたとのことでしたが振り返っていかがですか

箱根が終わってから3カ月くらいは走ることができなくて、やっと3月の鴨川合宿で走り始めたんですけど、そこでも違う場所を痛めてしまい、結局シーズンインが5月の終わりの世田谷競技会になってしまいました。関カレ(関東学生対校選手権)も出られなかったですし、自己ベストも更新できなかったので悔しいシーズンではありましたけど、全日本予選会はタフなレースで1万メートルの自己ベストを更新することができて結構自信になったので手応えのあるシーズンでもあったかなと思います。

――悔しいシーズンだったとのことですが、けがをしている間はモチベーションの面ではいかがでしたか

少し下がっていたかなと思います。

――けがの期間は動きづくりに取り組んでいたとのことですが、具体的にどんなトレーニングをされていたのですか

重りを担いでのトレーニングだったり、ドリルとかスプリント系のトレーニングだったり、長距離ではないような動きを教えてもらいながら、動きづくりや筋力の向上を目指して取り組んでいました。

――今、練習や大会などでけがをしていた期間のトレーニングの効果を感じることはありますか

後半の動きなど、小さくならずに大きく動かせているのはトレーニングの成果だと思いますし、省エネの動きになってきたかなと思います。

――部員日記に「けがをしなければ見えてこなかったチームの現状や、自分の課題などを知ることができた」と書かれていましたが、けがをしたことによって得たことはありますか

やっぱり走っている時はいつも自分ばかり見てしまって、自分の練習だったり走りに集中して周りが見られなくなってしまうんですけど、自分が走れなくなって色々な練習を外から見ていたり、生活の部分でも余裕が出てきて、私生活の面でもこれはだめなのではないかとかチームに対して色々思うことを言ってきました。

――チームのメンバーに声掛けをすることはありましたか

調子の悪い選手だったりにはアドバイスをしたり一緒にトレーニングをしたりして意識的に声を掛けるようにしていました。

――全日本予選会では自己ベストを更新されましたが振り返っていかがですか

3組が終了した時点でいけるギリギリの5位だったので太田智樹さんと一緒に「攻めるしかない」というのをスタート前に話していたので、そういった面でも何も考えずというか、これでだめだったらしょうがないという感じで臨めたので、そういった部分ではいい感じでスタートできたのかなと思います。

――全日本予選会での太田智駅伝主将の存在は大きかったですか

そうですね。歩幅だったりピッチだったりも合う方なのでそういういつも練習で一緒に走っている先輩がすぐ目の前を走ってくれていたことは結構自分としては楽になる部分もあったし、きつい部分もありましたけど、その時に太田(智樹)さんがその都度気をかけてくれていたのである意味離れられなかったというか、そういった部分で助けられました。

――夏合宿についてのお話を伺います。夏合宿にはどのような目標をもって臨まれましたか

去年の夏合宿では脚の痛みとかも出ていたので、走行距離をみんなよりも落としてまずはこなすことを目標に夏合宿をやっていましたが、今年はしっかり走行距離も見ながら練習をこなすことを目標に、ジョグも増やして疲労がある中でポイント練習を行って、それでこなすことができなくてもそれでいいかなと思いながら、ジョグを増やすようにしていました。

――夏合宿での成果や収穫はありましたか

やっぱり去年よりも多く走りこめていたので体を絞ることができましたし、効率のいい走りにはなってきたのかなと思います。

――夏合宿では今後の課題として「きつくなってからも動ける脚づくり」を挙げていましたが、その後はいかがですか

お腹周りだったり背中周りだったりのトレーニングをしてきたおかげなのかは分からないですけど、後半になっても状態を保ちながら走れていると自分自身感じています。

――続いて全日本学生対校選手権(全カレ)のお話を伺います。全カレでの入賞を目標としていましたが結果を受けていかがですか

結構いい練習もできていて動きも良かったのでその時は何がだめだったのか分からなくて。靴の話になってしまうんですけど、合宿中もナイキの厚底のヴェイパーフライをずっと履いていて、それで全部の練習をやるぐらいだったのでそれだと靴に頼るような走り方になってしまっていたと感じたので、大事な練習でない時はなるべく従来の薄いレーシングシューズを履いてしっかり大事な筋肉を使えるような走り方を保って本番でヴェイパーフライを履くというのは全カレで失敗してから取り組んできました。

――全カレの結果は靴が大きな要因だったのでしょうか

大きな要因かはわからないですけど、それも1つの要因かなと思っていて、靴のせいにするのは良くないと思うので、それまでの過程なども良くなかったのかなと思うんですけど、1つ要因としてそこを変えていこうかなと思って変えていきました。

――箱根予選会は9位での通過となりましたが振り返っていかがですか

チームの主力としてタイムを稼いでもっと楽に通過させるのが僕の仕事だったんですけど、僕の準備不足で思うような走りができずにチームの状況も悪くなってしまったので、僕がしっかり走っていたらと思う部分は大きくありましたし、その分1週間後の全日本ではチームの力になりたいなと思って気持ちを切り替えて1週間後の全日本に臨みました。

――箱根予選会から全日本までに気持ちを切り替えるためにどのような準備をされましたか

個人的には治療や温泉に行ったり、酸素カプセルに入ったりして疲労を取るなど色々やれることをやってきました。チームとしては、なぜ箱根予選会で失敗したのかとか、これまで決められていた決まりごとを守れていないんじゃないかとか、そういうたるんでいたことを正して1週間後の全日本に臨もうということをミーティングをしていたので、そういったことも気持ちを切り替えられた要因かなと思います。

――1週間でチームの意識が変わった感覚はありましたか

練習の時もそうでしたし、寮の中でも雰囲気が変わったなと思うことは多くありましたね。

――その全日本は4区を走りました。「攻めの走りができた」とおっしゃっていましたが、ご自身の走りを振り返っていかがですか

もらった位置が8位でシードギリギリのところだったので、最低でも後ろとの距離は離して渡そうと思ってスタートしました。前に拓大、青学大といて、青学大の鈴木塁人さんが速いペースで2キロ入っていたのでそこはうまく使わせてもらって。そこからは少し遅くなってきたなと感じたのでそのまま前に出て1人で押していけました。

――区間賞の選手とは14秒差でしたが振り返っていかがですか

中間点では区間賞争いをしていた分、後半の落ち込みが原因だと思いました。そこまでの走り込みなど、メンタルの部分でも少し後半上げられなかったというのはあると思ったので、全日本の後からは後半尻上がりで終われるように練習の中でも意識はしています。

――全日本は箱根を見据えたオーダーだったとのことですが箱根に向けて収穫はありましたか

1区の井川(龍人、スポ1=熊本・九州学院)で出遅れて、去年の早稲田だったらそこで中谷(雄飛、スポ2=長野・佐久長聖)でしか流れを変えられる選手がいなかったんですけど、今年は太田智樹さんやその次の中谷だったり、その次の僕や太田直希(スポ2=静岡・浜松日体)だったりが流れを変える走りだったり流れを切らさない走りが前半の区間でできました。そこはやはり箱根の往路を見据えたら大きく収穫になる部分ではないかなと思うので、そういったことは良かったかなと思います。

「流れを変える走り」を

全日本は攻めの走りで4区を攻略。区間3位で順位を4つ上げた

――箱根が近づいていますが今はどのような気持ちですか

まずは脚の状態をこれ以上悪くしないことと、不安要素をなくして臨んでいけばいい走りができると思うので、しっかり練習をこなしつつ状態を見極めて、良い状態で臨めるようにしていきたいと思います。

――2年目の箱根となりますが、昨年と比べて気持ちの変化などはありますか

昨年はどういう雰囲気で走り出すかとかどういう大会なのかとかは本当に分からないままスタートして分からないまま終わったという感じだったのですが、今年は昨年のような展開にならないだろうとは思いますし、しっかり前で勝負できると思うので、そこは去年と違って前で勝負して前の選手たちに勝つという走りをイメージしています。

――後輩がいることで違う思いはありますか

練習でも去年はついていくことが多かったんですけど、今年は1つ学年が上がっているので練習でも引っ張る立場にはなってきましたし、後輩も力がある選手が多いので後輩たちに負けないようしていこうとはいつも思っています。

――後輩が刺激になっている部分はありますか

練習では負けないようにしていますし、後輩たちがタイムを出しているのであれば僕も絶対出せると思っているので、そういう後輩たちに負けないように頑張ろうといつも思っています。

――箱根ではどの区間を走りたいですか

アップダウンが得意なので4区だったり、自分では器用な選手だと思っているのでどの区間を任されてもいい走りができるように準備していきたいなと思います。個人的には4区に行きたいです。

――前回は3区を走りましたが、4区を希望する理由はありますか

アップダウンが得意というのもありますし、後半3キロ上ってのタスキ渡しになるのでそういった部分でも自分の強みを生かせるのではないかと思います。去年から4区にいきたいとは言っていたんですけど、そういう理由があります。

――箱根の中で自分に求められている走りはどういったものだと思いますか

流れを変える走りやゲームチェンジャー的な役割だと考えているので、もらった位置よりも2個、3個、4個前で渡して良い勢いのまま、次の走者につなぐことが仕事なのではないかと思います。

――箱根までの課題はありますか

やっぱり(課題は)ラストスパートなので、ラストスパートを意識して練習していきたいと思います。

――箱根で強みにしていきたいことはありますか

外さないことが強みだと思うので、求められている仕事をこなせることが強みだと思います。

――箱根に向けてチームの中で話はありましたか

特に話すということはないですけど、チームの目標の3位というのはみんな思っていることですし、たまにそういう話も出ることはありますね。

――個人での目標はありますか

全日本で区間3位だったので、最低でも3位以上は走りたいなと思いますし、区間賞との差も見据えてあわよくば区間賞を取れるだけのレースをしたいなと思います。

――箱根に向けて一言お願いします

去年はチームとしても個人としても不完全燃焼で終わってしまって僕たちの力はこんなもんじゃないとずっと思っていたので、来年の箱根は僕たちの力を示せるように全力を出し切って笑顔で大手町で終わりたいなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 橋本和奏)

「エースになる」。これからの長距離ブロックを担うべく、2度目の箱根路を快走します!

◆千明龍之佑(ちぎら・りゅうのすけ)

2000(平12)年3月3日生まれ。169センチ。52キロ。群馬・東農大二高出身。スポーツ科学部2年。自己記録:5000メートル14分02秒16。1万メートル29分03秒19。ハーフマラソン1時間3分40秒。最近楽しかったことは11月の終わりに学年でご飯を食べに行ったことだという千明選手。学年は一番仲がいいそうです。箱根ではチームの流れを変える攻めの走りに期待が高まります!