大学で箱根を目指し、そして夢破れたモノマネ芸人がいる。市民ランナーとして注目を集めた川内優輝(埼玉県庁)のモノマネをするM高史氏と、元日本記録保持者の設楽悠太(Honda)のモノマネをするポップラインの萩原拓也氏だ。現在、モノマネ芸人として陸上界を盛り上げるべく奔走しているこの二人。今回は特別企画と題して、マラソン芸人の現状を語り合ってもらった。
※この取材は12月3日に行われたものです。この取材をもとに1月2日発行の『早稲田スポーツ 箱根駅伝号』にて、記事を掲載しております。
ポップライン萩原氏がモノマネを始めたきっかけ
取材は終始和やかなムードで進んだ
――お二人が知り合われたのはいつごろでしょうか
M高史 東京マラソンの後にゲストランナーで一緒になる仕事がたまたまあったんですが、そこでポップライン萩原さんがいるんだと思っていました。東京マラソンで設楽さんが日本記録を更新されて。それでお会いして、そういえば似てるという話になりました。それならユニホームも作って本気でやったら面白いのではないかということで。たまたま渋谷のラジオという番組に僕がたびたび出させていただいているんですが、そのパーソナリティーの方に写真を送ったんです。それで似てる、ということになって。それをEkiden newsさんがやっているTwitterに載ったんですね。
萩原 すごいバズりましたね(笑)。3月4日の調布典型マラソンですね。
M 調布の飛行場の周りを走るものでしたね。
萩原 川内さんのモノマネをされていることは知っていたので、モノマネに関してはこの人に聞くのが一番だろうと。たまたま、(東京マラソンの)1週間後に会えたので(笑)
M それが1カ月後だったらまた。
萩原 スタートが遅れてましたね。3月4日に会って、3月9日の渋谷のラジオに出演させていただいて。その週の金曜がたまたま空いてて出れたんですよ。
M 「今週空いてますか」「空いてます」という感じで(笑)
萩原 覚悟を決めたのはそこですね。本格的にやろうと思いました。
M そこからは鬼のように一緒にいますね。
萩原 4月とかはずっと一緒で(笑)
――最初会ったときは『似てる』という印象でしょうか
M 最初は衣装とかも着てないので。横顔とか走ってる姿とかは似てました。体型がすごいそっくりなんです。足の感じとかも似てて。元々、競技をされていたので、陸上選手へのリスペクトがあったので。
萩原 僕はもともと知っていたので、似ているというよりかは、本物のM高史だ、という感じで。川内さんが本物なのに、M高史本物に会えたという感じでしたね(笑)
――一緒の仕事が多いということでしたが、マラソンのゲストランナーとかの仕事が多いんでしょうか
M ラジオとマラソンのゲストランナーもありましたし、イベントとか結婚式の余興とかですね。
萩原 この先だと忘年会は多いですね。意外とマラソン大会はそこまであるわけではないです。。
M そういえばそうですね。
萩原 2回くらいじゃないですか。僕たち二人がゲストランナーです、というのはそれくらいだと思います。
M 一緒にいる量が多いのでわからなくなってきますね。
――結婚式の余興があったということでしたが、陸上関係者の方なんですか
M そうですね。新郎新婦がランナーとかだと、客人もランナーなので。一番多かったのは村山謙太君(旭化成)の結婚式で。奥さんも日立のランナーで。
萩原 謙太君のは凄かったね(笑)
M メンバーが大八木監督(弘明、駒大)もいるし。旭化成がズラーっといて、あっちは日立がズラーっといて。会場が6割知り合いで(笑)。陸上ファンが見たらすごいメンバーですよ。
萩原 本当にすごいですよ。
M あっちには市田兄弟(孝、宏、旭化成)でどっちも同じ顔してる!みたいな感じで(笑)
萩原 双子がたくさんいましたよ(笑)
M 市田兄弟、村山兄弟、奥さんもそうですし。
萩原 そこに双子のモノマネをしている人がくるという(笑)。
ご本人様へ似せる方法
時折、モノマネをしていただきながら解説していただいた
――モノマネをされるうえで気を付けていることはありますか
萩原 それはあれですね。フォームとかですね。
M 萩原さんは大変そうですね。
萩原 ご本人様はきつい顔をしないんですよ。こういう感じで(走るときのモノマネ)。この格好で走るときにきつい顔ができないから、本当にきつくても我慢するんですよ(笑)。
M 僕は逆にきつい顔をやると(モノマネ)。こうなるので(笑)。やはり、マラソンのトップ選手のモノマネをさせていただいているので、僕らが失速すると怒られるんですよ(笑)。
萩原 東京マラソンの時ですね(笑)。
M 東京マラソンの時に「川内選手はそんな走りしないぞ!顔だけか!」と(笑)。そういった激励をいただきますね。
萩原 川内選手はどちらかというと、後半に追い上げるタイプですもんね。
M なのでトレーニングは最近できています。見た目だけでなく、中身もということで。
萩原 気を付けているのはなるべく速く走ることですね。ハードルが高いですけどね(笑)。前の記録保持者になってしまいましたけど、すごい速い人じゃないですか。そっくりさんで少し競技してたというと、「あーじゃあ、マラソン走るならサブ3出るでしょ」って言われて。「じゃあ走れるでしょ」という感じで(笑)。
――先日はご本人様たちが福岡国際マラソンに出場されていました
M ゲストランナーの仕事があったので。例年、川内さんの試合を見に行ったりもしないですし、というのも同じ大会に出場したときに大会が大パニックになってしまって。
萩原 どっちがどっちだって(笑)。
M ヤフーニュースになって、ブログが炎上したりして(笑)。
萩原 ご本人が通って、「川内君が通ったね」と周りの方がなって、すぐ後に「また通ったよ!?」って(笑)。
M 「きょう、川内君調子悪いの?」って。それなりに上位を走ると調子が悪いのかなと。
萩原 思いっきり後ろだったらまだ大丈夫ですけどね。
M それがその日、川内さんがゲストだったので最後尾から走っていったんです。
萩原 うーわ。それはやばいですね(笑)。
M 優勝したのは川内さんの弟さんで。
萩原 ややこしいですね。
M なるべく、川内さんとは同じレースに出ないということを埼玉県ともお約束しています。パブリックビューイングもあるんですが、一回行ったら失速されたので、なるべく見ないようにしています。
萩原 僕は相方と一緒に見ました。鎌ヶ谷のランフェスタの楽屋で見ていました。Youtubeでライブ配信があったので、その見ている模様をインスタで中継していました。もしか設楽が本物を見るということで。
M 毎年、福岡国際の日は中之条まちなか5時間リレーマラソンというリレーマラソンがあるんですが、リレーなのに1人で走るということをしていまして。いつも見れないんです。
萩原 タスキつけてるんですか
M 付けてます。
萩原 誰に渡すんですか(笑)。
M 最後は外して、手にもって走るという(笑)。それで、川内選手が調子のいいときは沿道から教えてくれるんです。
――普段からもちろんチェックされているということで
萩原 めっちゃチェックしてますよ。
M もちろん、ネットでチェックしています。
萩原 寄せないといけないので、どの靴を履いているかが重要なんです。昨日はYoutubeで見ていて、画質が荒いから赤ということは分かったんですが、フライニットなのかヴェイパーなのかが分からなくて(笑)。赤のヴェイパーでした。高いんですけど、すぐに買います。
M 僕は逆にご本人様から自分の道を行ってくださいと言われていて。今は緑に黒のユニホームを着てるんです。僕が今着てるのは一つ前のもので。一回新しいものに変えたんですが、前の方が良かったと川内さんにおっしゃっていただいて。赤緑の方が目立つし、そっちの方が目立つので今は川内選手とは違う格好になっています。
萩原 今の方が目立つのでいいですよね。
――ユニホームを少し工夫されていると聞きました。埼玉県庁ではなくて、埼王県庁だったり、HONDAではなくてNONDAだったり
M 川内さんだと思って話しかけられることが多くて、川内さんご本人が冗談をおっしゃる方なので、違うと言っても冗談だと思われる方がいます。その説明材料として、『埼王県庁』を使うんです。
萩原 僕もあって。ご本人様が東京ドームで始球式をされるときに、ドームの周りを始球式をするのでアップしますと言って周りを走っていたんです。東洋大の学生課の方にお会いしまして。「悠太何アップしてんの、こんなところでアップするんじゃないよ」って言われて。一緒に写真撮ろうと言われて、いつ気づくのかなと思って黙っていたんです。本人のふりして会話もしたりして。写真撮っても気づかず、最後にやばいと思って本人じゃないことを伝えました。「ポップラインの萩原です」と言ったら、とんでもなく驚かれました。東洋大の身内の方にも間違われるくらいなんだと感じたので、最後は僕も決め手で「NONDAです」と言うようにしています。ただ細かいので「わかりづらい」と言われました(笑)。
――身内でも間違われるんですね
M 川内さんの母校の後輩に間違わられたことがあります。「ご無沙汰してます。」と言われまして。先入観で話しかけてこられるんで。
萩原 ちょっとした罪悪感にかられることがありますね(笑)。だましている気分になってしまいます。「本物だ!やったー会えた!」と言われると、このまま夢のまま終わらせてあげようか、現実を言った方がいいのかっていう。沿道で応援されてる方だと、一瞬なのでちゃんと言えないんですよ。先日も、しっかりそっくりが走ると言っていたので、お子さんが沿道で「設楽選手!」と声をかけてくれたんですけど、 それを知っていて「設楽選手だよ~」と応えたんです。終わった後にTwitterを見たら、「うちの息子が設楽選手とハイタッチしたから、絶対陸上やらせる」って書いてあって。どうしようって思ったことがあります。
M 僕も前に市民ランナーの方に「川内さんと写真撮ったことがあるんです」と自慢されたんですが、その写真は僕だったんです。
――ユニホームが寒そうなんですが、冬場は工夫されていますか
M アロマオイルを塗りこんで、保湿と保温をしています。
萩原 6回目の冬ですか。
M そうですね。毎年、春が待ち遠しいという。MCで外の現場の時が寒くて。特に河川敷は逃げ場が無いので寒いです。あとは、イルミネーションランというクリスマスの時期だと夜のイベントが多いので、陽も無いですし人込みもすごいので進まないですし、写真撮りながらなので寒いですね。寒いとは口が裂けても言えないんですけどね(笑)。
萩原 本番では言えないですね。昨日の仕事でも寒いでしょ、と聞かれることがあったんですが、「全然寒くないです」と言い張りました。鳥肌立ってるんですけど。生まれた時から鳥肌です、と言いながら(笑)。僕は初めての冬なのでここからどういった感じになるのかというところですね。少し太りたいと思っているんですが、なかなか太れないんです。対策としては腹巻ですね。ロングの女性用の腹巻をして。
M 女性用入りますもんね、細いから。
萩原 それだけでなく、保温性のものと裏起毛のものの三枚を着ています。意外と暖かいです。まだ、暖冬なので本格的ではないので、もう少し経ってからが勝負ですね。
M 今月だと福島テレビでアナウンサーの方の伴走をするんですが、福島で寒いじゃないですか。アナウンサーの方なのでペースもゆっくりなので。きっと、アナウンサーの方を励ましつつ、お互いを励ましつつですね。
――春が待ち遠しいということでしたが、その前に箱根があります。当日はどういったことをされる予定でしょうか
M 毎年、母校の駒大のサポートとなります。去年までは現地タイム係という沿道でタイム差を測って、それを監督に伝える役割だったんですが、今年は給水をさせていただいて。初めて箱根を走りました。次もたぶん何かしらします。
萩原 この格好で給水したんですか
M 違います(笑)。上に着るのがマストです。
萩原 この格好だったらめちゃめちゃ怒られますよね。
M なめてるのかと言われますね(笑)。
萩原 僕はまだ未定です。そっくりさんになって初めての箱根なので、どうしようかと考えている最中です。もちろん現地に行こうと思っています。
M この格好で。
萩原 ずっと横にはいませんよ(笑)。要所要所で盛り上げようかと思っています。
M 6区とかの沿道にいたら面白いですね。
萩原 5区で誰もいないピンカーブにいたら面白いですよね。カメラが振られたときに、「今、うつった!」となるかなと(笑)。まだわからないですね。考え中です。
――そんな箱根に向けて、何か一言お願いします
M 各大学のマネージャーさんに向けてということで、裏方の人も頑張ってると思いますので、体力勝負となりますが頑張ってほしいと思います。選手もクリスマスも返上して練習されて、青春を捧げていると思いますから悔いなく、終えられるようにしてほしいと思います。
萩原 サポートって大事だと思うので、選手たちは凄いプレッシャーの中で過ごしてると思いますから、ムードメーカーなら空気を少しでも和らげたらと思います。サポートの方も大事だぞというところですね。
――ありがとうございました!
(取材・編集 平松史帆)
色紙にサインを書いていただきました!
◆萩原拓也(はぎわら・たくや)(※写真左)
1981(昭56)年11月14日生まれ。オスカープロモーション所属。神奈川大陸上競技部に入部したが、『ぬけぬけ病』で試合には満足に出場できず。卒業後は俳優を経て、芸人の道に進んだ。モノマネは東京マラソン2018での設楽が日本記録を更新した後に開始。現在SNSで話題を呼んでいる。
◆M高史(えむたかし)
1984(昭59)年9月28日生まれ。クロスブレイス所属。駒大陸上競技部でマネジャーを務め、3、4年生時には運営管路車に乗り箱根路を走った。卒業後は知的障がい者施設での勤務を経て、モノマネアスリート芸人に転身。現在は多くのマラソン大会や陸上イベントに駆け付けている。