【連載】箱根事前特集『起死回生』第9回 渕田拓臣

駅伝

  前回の東京箱根間往復駅伝(箱根)でルーキーとしてただ一人出走した渕田拓臣(スポ2=京都・桂)。高校時代から憧れていたという6区を走り切り、7区の走者が待つ小田原へとタスキをつなげた。あれから一年。今年は体調不良やケガの影響などで不調に陥り、陸上人生始まって以来の苦しい時間を過ごしてきた。それでも、箱根に向けた強い気持ちを胸に練習に取り組み、現在は見事復活。昨年度の経験を生かし、新春箱根路では59分半以内で復路の好スタートを切れるか。

※この取材は12月5日に行われたものです。

「あくまで箱根当日に一番いい状態で持っていけるか」

笑顔で話す渕田

――現在集中練習が行われているということですが、ここまでの手応えはいかがでしょうか

そうですね、自分は日体大(12月2日の日体大長距離競技会の5000メートル)に出たので(チームメイトと)違う流れではあるのですが、去年よりも余裕を持ってこなせているので、そこは良いと思います。

――現在どのような点を重視して箱根まで取り組まれていますか

 去年は集中練習でいっぱいいっぱいになってしまって、調子があまり上がらないまま箱根、という状況でした。(今年は)どれだけ余裕を持って集中練習をこなしていくのかという問題と、集中練習で完結させてしまうのではなくて、あくまで箱根当日に一番いい状態で持っていけるかという事が課題です。

――集中練習ではどのようなことをされていますか

 質と量がものすごい感じですね。本当に今までの練習の中で一番しんどいというか。詰まっている期間ではあるのかな、と思っています。

――同じ2年生の中には今年度の駅伝に出られている人もいると思いますが、同期の活躍というのはどう見ていますか

 去年も出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)、全日本(全日本大学駅伝対校選手権)とエントリーされずに箱根を走ることができて。今年に関しては(学生三大駅伝を)全部走るというつもりでいたのですが、ケガなどで走ることができなくて。ちょっとそういう点で歯がゆい気持ちなどもあったのですが、そこは割り切って。去年の自分は(出雲、全日本のエントリーメンバーに)選ばれていないけれど箱根は走ったということを自信にして、今年も箱根だけは譲らないという気持ちでやっています。

――3月の日本学生ハーフマラソン選手権では、初のハーフマラソンでチーム内1位という好成績でしたが、振り返えってみていかがでしょうか

 1月に箱根を走って、そのダメージで1月中は全然走ることができませんでした。それでも2月の1カ月間練習して、臨んだ(3月頭の)ハーフでした。準備期間が短いわりには自分になりに手応えのつかめたレースだったので、その20キロやハーフに対する不安というのは一気になくなったのかな、と思います。

――当時の調子というのはいかがでしたか

 上がり調子ではあったのですが、そんなに自分では絶好調とか、いけそう、などの手応えは全く感じていなかったので、走っている中で自分の順位であったり走りの感覚というのがつかめていったので、まだまだタイムとかを狙って行ける状態だったと思います。

「一番陸上がしんどかったかもしれない」

12月上旬の日体大長距離競技会では自己記録を更新した

――4月から体調不良と軽いケガを繰り返し、先日の日体大長距離競技会の後には「こんなに長い間走れなかったことはない」とお話しされていました。この期間のメンタル面などはいかがでしたか

 そうですね、完全に脚が痛くて走れないところから、気持ちの面ですごく落ち込んでしまって。しんどかったというか、苦しいなという時期があって。なかなか自分の脚の状態もそうですし、気持ちの面でも上がっていくのがちょっと遅かったのかな、というか。なかなか戻すのに時間がかかりました。夏合宿に入って、3次合宿を終わったくらいから、箱根に向けても本当に時間がないという焦りもありましたし、箱根はやはり四年連続で走りたいと思っているので、そこに向けてようやくスイッチを切り替えられたというか、そういう気持ちの面で切り替えられたと思います。

――ケガをしたことによってその後不調になったのでしょうか、不調になったことが先でケガをしてしまったのでしょうか

 体調不良を起こしてから、状態を取り戻そうと無理やり走ってしまいました。そこで軽い脚の痛みが出て、状態も落ちてという感じですね。そこから走りも崩れていって、脚の痛みもなくならなくて、という悪循環に陥ってしまったというか。

――初めに体調不良が来て調子が上がらなくなったのはいつ頃でしょうか

 4月半ばくらいですね。その時に日体大(長距離競技会)の1万メートルに出場する予定だったのですが、そこで体調を崩して、棄権したというか走らなくて。関東インカレ(関東学生対校選手権)のハーフ(マラソン)も狙っていたのですが、そこまで時間が3週間ちょっとくらいしかなかったので、ちょっと焦った気持ちがあったのかなと思います。

――7月21日の早大長距離競技会では15分45秒03という結果でしたが、このころはいかがでしたか

 一番落ちていた時期というか。僕は出たくなくて、それを監督(相楽豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)やコーチ(駒野亮太長距離コーチ、平20教卒=東京・早実)に伝えたのですが、僕自身そのシーズン全然試合に出ていなかったので、その試合に出る感覚(をつかむため)ということで出してもらいました。ですが、脚の状態もそうですし、気持ちの面でも全然乗れていない状態だったので、全然駄目で・・・。それを機にもう一つきつくなったというか。全然駄目だな、と。

――7月ころまでの今年の前半シーズンを振り返っていかがでしたか

 一番陸上がしんどかったかもしれないですね。今までが全部うまくいってきた訳ではないのですが、ここまで落ち込んだ、というか、陸上も脚の状態もそうなのですが、ここまで走れなくなったことが今までなくて、初めての経験でした。

――夏合宿はBチームでの参加になったと思いますが、どのような練習をされましたか

 1次合宿はほとんど走らない状態というか。ポイント練習もしていませんでした。2次合宿の2週間もポイント練習をするにしても、Bチームの練習に復帰するための、状態を上げていくためのポイント練習というか。ほとんど強化するための練習というか、体の状態を戻していくための練習だったと思います。

――夏合宿ではケガは完治していたのでしょうか

 3次合宿が終わるまで脚に違和感があって、うまく走れなくて。ポイントが途切れ途切れになったりだとかしました。本当にポイントが消化できるようになったのは10月に入ってからですね。

――夏合宿は具体的にどのような目標を持って挑まれましたか

 基盤を取り戻すというか。自分の状態をまずはリセットさせるというか、元に戻そうと。無理に頑張って自分の状態を上げようとするのではなくて、とりあえず本来の自分の体の状態に戻していけるように、という感じでした。

――夏合宿が終了した当時の気持ちであったり体の状態というのはいかがでしたか

 全部の夏合宿が終わった時に、去年は岩手の夏合宿に連れて行ってもらったりだとか充実感があったのですが、今年に関しては、不安しか残らなかったというか。箱根に向けてこのままで間に合うのかな、という気持ちはあったのですが、割り切ってやるしかないのかな、というか。10月くらいからは確実にこなしていかないと間に合わないので。そこは本当に一つでも失敗できないな、というのはありました。

――7月末の早大長距離競技会を最後に今月2日の日体大長距離競技会までしばらくレースに出ていませんでした。ケガが完治してからは、レースに出ながら調整をしていくという選択肢もあったと思いますが

 そうですね、去年も7月のレースの後は10月頭のレースだったのですが、そこでそこまで試合に出る状況ではなかったので出なかったというのと、上尾(上尾シティマラソン)とかに関しては、山下りの準備とかがあったので、そこは去年と同じ流れですね。10月の記録会だけ出ずに、というかたちだったので。その時には出る状態ではなかったというだけなので、そんなに自分では悲観的にはなっていないというか、影響はないのかな、と思っています。

――箱根で『平地』を走るという予定はなく、昨年から6区を走る予定での一年間だったということでしょうか

 まず、大学に入ってきた時に一番走りたかったのが6区で、1年目に走らせてもらって。2年目に関しては去年のリベンジということで、今年一年6区を走りたいと思ってやってきて。走る予定というか、走る準備はできているのですが、ずっと四年間山下りをするというのは考えていなくて、3年、4年と『平地』で走れるくらいの走力を付けるために一万だったりハーフの力を付けていこうと思っています。

――上尾シティマラソンにはもともと出場しない予定だったのでしょうか

 そうですね。今年に関しては状態が良くても出なかったと思います。

――6区を走りたいと思ったきっかけというのは

 自分自身、下りを結構得意にしているというか、一番自分の力を出せるところだと思っているので、それで一番走りたかったです。

――それは高校時から6区を走りたかったのでしょうか

 そうですね。はい。高校3年生の時からです。

――先日の日体大長距離競技会では約4カ月半ぶりのレースとなった中で2年ぶりに自己ベストを記録しました。この試合を振り返っていかがでしたか

 体の状態がだんだん上がってきていて、自己ベストは出るだろうと思っていました。思っていたよりレースがハイペースじゃなかったというか、だいぶ遅かったので、そこから後半2000(メートル)で上げていって。この前も言ったのですが、あくまで箱根駅伝に向けて、という位置付けでの記録会だったので、そんなにタイムとかに一喜一憂するのではなくてそんなに重く捉えていないというか、一つの練習の一環というか、そういう感じで取り組みました。

――試合後には試合勘が取り戻せたとお話しされていましたが

 練習だとやっぱり決められたペースで走って、ゴールも設定されたタイム通りにするのですが、試合というのは1周ごと、1キロごとにラップがバラバラで。その中での競り合いというものがあります。そういう意味では、久しぶりに出たのですが、落ち着いて走れたので良かったです。

――目標タイムというのはありましたか

 いや、あんまり自分の中ではなくて。(14分)10秒から15秒くらい出ればいいな、と思っていたのですが、さっきも言ったようにスピードが遅かったので、後半巻き上げたわりには良かったのかな、と思います。

「下りのスピードは他大の選手と比べても戦えると思っている」

昨年に引き続き6区での活躍が期待される

――ここからは箱根の話をさせていただきます。昨年度は6区で1時間超えのタイムでしたが、振り返っていかがでしたか

 去年も59分台を出せる練習のでき具合だと自分の中では感じていたのですが、後半の3キロですごく失速してしまい、それが響いて60分を超えてしまいました。自分が思っていた以上にかかってしまったのですが、最低限自分の中では1時間半(60分30秒)というのがあったので、そこはぎりぎりでしたが最低限クリアできたので、そこは達成できて良かったと思います。

――最後の3キロはどのようにきつかったのでしょうか

 全然脚が動かなくて・・・。前に進みたいのですが、ずっともがいていて空回りしてしまうというか。全然前に進みませんでした。

――最後の3キロは上りにも感じられる、という話も聞かれますが

 上りに感じることはなかったのですが(笑)。脚が詰まってしまうというか。今まで下りでスピード感が出ていた中で、平地に変わって、今までと違うリズムに対応しきれなかったのかな、と。

――それを踏まえての今回の目標タイムというのは

 最低59分半というのを目標にしています。59分前半、あわよくば58分台というのも目標にしていて。最低でも去年より1分は速く走りたいというのはあります。去年の練習の消化具合などを見て、今の自分と比べることができると思うので、これからの練習をどれだけ余裕を持ってやっていけるか意識してやっていきたいと思います。

――ケガなどもあり、前回とは異なる状況だとは思われますが、昨年度の練習の消化状況と比べて今のご自身はいかがでしょうか

 去年に比べるとだいぶ自分の走りが良くなったという実感があります。だいぶ練習にも余裕を持ってできているので。ケガしていたというのを差し引いても、去年よりはだいぶ力も付いていると思います。

――他大で同じ6区を走りそうな選手で注目している選手などはいますか

 やっぱり、青学大の小野田(勇次)さんとか東海大の中島(怜利)さんとか、法大の佐藤(敏也)さんだとか。そういう58分台で走られる方にどれだけ食らい付いていけるか。どれだけタイム差を開けずにまとめるかという事が重要になってくるので。どれだけ自分も58分台に近づけるかですね。

――今年は残り3キロに対する対策というのはどのようにされていますか

 下りだと走っていてペース感覚というものをあまり考えていないというか。本当にそこまでリズム良く走って、残り3キロをどれだけ耐えるかというところだと思うので。去年は知ってきつさを知っている分、今年はどれだけその3キロに耐えられるかだと思います。20キロに対する走り込みというのは夏はできていないのですが、立川(学生ハーフ)での走りだとか、距離に対する脚づくりというには去年よりはできていると思うので、思い切ってそこまで攻めていって、ラスト3キロ耐えてという感じですね。

――相楽駅伝監督からも「今年は高いものを求めている」というお話がありましたが、区間順位で目標などはありますか

 区間5位以内を目標にしています。去年だと59分半を切れば区間5位以内なので。自分がさっき言った59分半以内という目標を最低限切って、5位以内に入りたいです。

――昨年度の経験を生かしてのレースになりますが、6区を走る上で気を付けたいポイントなどはありますか

 最初の5キロをいかに力を使わずに走るのかということと、下りに関してはそこまで意識していないというか、普段通りに走ればいいので。なので、最初の5キロと最後の3キロ、本当に下り以外の部分でどれだけタイムを抑えるかという点がポイントですね。

――昨大会は最初の5キロというのはいかがでしたか

 周りに比べたらだいぶ遅かったですね。上りがあまり得意ではないのでそこで離されてしまったということがあったのですが、今年はそういう上りの練習も取り入れているので、そういった面で最初の5キロも後半の3キロも速く走って、59分半以内を、という感じですね。

――差し支えなければ上りの練習は何をされているのか教えてください

 朝練のコースに2.5キロコースというのがあるのですが、それがアップダウンのあるコースなので、そこで上りを意識した練習をしています。あとは週に2回ほど『知野トレ』というものをやっているのですが、そこから『山組』というか5区候補の人と6区候補の人で重りを持って山を登る練習などもしているので、その山に向けての練習をしているという感じです。

――昨年はされていなかったのでしょうか

 やっていたのですが、そんなに回数だとか強度もやっていなくて。今年はやっぱり去年そこで走れなかった分、今年はより一層そこを意識してやっています。

――駒野コーチから期待している選手に、「2年生トリオ」として吉田匠選手(スポ2=京都・洛南)、宍倉健浩選手(スポ2=東京・早実)、渕田選手が挙げられました

 駒野さんは去年も今年もBチームにいる時に面倒を見ていただいて。やはりその相楽さんよりも長く自分の練習を見ていただいた方なので、夏に走れなかった分、箱根ではちゃんとしたところを見せたいというか。2年生を期待してもらっている分、自分一人だけじゃなくて2年生全体で結果を残せるようにやっていきたいと思います。

――今年1年生が入学し、後輩ができました。心境の変化などはありますか

 やはり年下に負けたくないという気持ちはありますし、そういう意味ではいい刺激をもらっています。下の代はすごく強いのですが、それで自分らの代は弱いと思われないように。自分たちも戦えるというところを見せたいです。

――今のご自身のアピールポイントは

 やっぱり下りのスピードは他大の選手と比べても戦えると思っているので、下りのスピードをいかに発揮できるかですね。

――チーム内でのご自身の役割というのは何だとお考えですか

 チーム内での役割・・・。どうですかね、自分よりも強い人がチーム内には結構いる中で、自分はBでやっていたのですが、底上げとまでは言わないですけど、自分は下りの準備をしている中で、『平地』でもいけるんだというのを『平地』でいく人たちに見せつけるというか。自分はいつでも『平地』にいけるというところを見せていきたいな、と思います。

――これから箱根に向けて詰めていきたい点はありますか

 やはり長い距離に対する練習ですかね。夏合宿では積めていないので。集中練習ではケガをしないように長い距離に対する走り方を付けていきたいです。

――最後に箱根に向けて意気込みをお願いします

 去年は先輩方に助けられたのですが、今年は自分が助けるくらいの気持ちでやりたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 金澤麻由)

6区の残り3キロでの粘りに注目です!

◆渕田拓臣(ふちだ・たくみ)

1998(平10)年5月12日生まれ。176センチ、58キロ。京都・桂出身。スポーツ科学部2年。自己記録:五千メートル14分16秒87。一万メートル31分51秒60。ハーフマラソン1時間4分54秒。好きな芸能人は生田絵梨花さん(乃木坂46)だという渕田選手。「笑顔が素敵です」と少し恥ずかしそうに答えてくれました。最近あったうれしかったことは、NIKEのAir Max.というシューズを買ったことだそうです。新春は期待を背負い、59分半以内で箱根の山を駆け下ります!