【連載】箱根事前特集『それが早稲田のプライドだ』 第13回 安井雄一駅伝主将

駅伝

 「笑顔で。」東京箱根間往復大学駅伝(箱根)への意気込みとして、安井雄一駅伝主将(スポ4=千葉・市船橋)が記した言葉だ。これまでの三年間、そして駅伝主将として過ごしたこの一年、苦しんだことも当然多かっただろう。それでも最後は仲間と笑顔で終わりたい。実に安井らしい言葉である。ついに迎える最後の箱根を『笑顔で』迎え、『笑顔で』終えるために、これまでどんな時間を過ごしてきたのか。どのような覚悟でここまで来たのか。様々なお話を伺った。

※この取材は11月29日に行われたものです。

「僕が誰よりも走っていればおのずとチームみんなも」

いつも通り、笑顔で取材に応じてくれた安井

――前回の箱根から時系列を追って質問させていただきます。日本学生ハーフマラソン選手権(立川ハーフ)は個人としてもチームとしても目標には届かなかったと思いますが、改めて振り返っていかがですか

 新チームになってみんなで挑む最初の大きい大会だったのですが、正直僕自身もチームもいい走りができなくて。そこが危機感を持つきっかけになったというか、これからチームを変えていかないといけないなと思った大会でした。

――トラックシーズンに入り、春先で意識していたことはありましたか

 立川ハーフもそうだったのですが、持ち味である攻めの走りだったりとか、先頭付近や上位で走るということができていなかったので、そこを修正しようと思っていました。練習も積極的に引っ張って行ったりしたのが日体大記録会(日本体育大学長距離競技会)で出せた感じですね。六大学(六大学対校大会)も前には出れたのですがずるずる落ちてしまって課題が残ったので。そういう練習をしている中で、日体大でいい走りができたのは一つよかったかなと思います。

――関東学生対校選手権(関カレ)までは5000メートル中心で出場されていましたが、その狙いや意味は何でしょうか

 関カレは1万と5000の2本でいこうと思っていましたし、5000の記録会に挑戦できるのは春先しかないかなと思ったので、そうなった感じですかね。

――ハーフマラソンはあまり想定はされていなかったのでしょうか

 1万で出るというのが最大目標で、ハーフは出られたら出るというか。出られる準備はしていましたがそんな感じでした。

――では関カレの1万メートルのレースは振り返っていかがですか

 本当に最低限のレースといいますか。やっぱり4年生ですし、主将ですし8位入賞というのをしなければいけなかったのですが、8位に入るためには自己ベスト以上の走りをしなければいけなかったのでそういった意味ではまだ自分の弱さがあったかなというのは感じました。

――臨むにあたって自信はありましたか

 速い選手がたくさん出場していて、いま言ったように自己ベスト以上の走りをしないと無理だなというのは思っていたのですが、練習をしっかりやっていたので自信を持ってスタートラインには立ちました。

――ハーフマラソンでは入賞をされました

 ハーフマラソンは1万のあとでちょっと疲れもあったので、正直不安な部分もあったんですけど、やっぱり1万であまりいい結果を出せなかったのでもう後がないといいますか。絶対、死んでも入賞するという強い気持ちで臨めたことがああいう結果につながったのかなと思います。

――石田康幸選手(商4=静岡・浜松日体)とダブル入賞されましたが、そのことでチームが勢いづいた部分もあったのではないでしょうか

 そうですね。5000と1万でいい結果が出せていなかった分、ハーフで2人で入賞することができて、チームの中にも少なからずいい影響はあったのではないかなと思います。

――改めて結果をどのように受け止めていますか

 いままで3年間関カレで入賞できていなかったので、ハーフなのですがしっかり入賞することができて自分自身にとっても自信になりましたし、ちょっとホッとした部分もありましたね。

――日本学生対校選手権(全カレ)は出場とはなりませんでした。全カレについてはどのような思いだったのでしょうか

 本当はしっかり走って、そこでも入賞しないといけなかったのですが、(標準タイムを)切れなかったので、しっかり気持ちは切り替えて出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)に向けてやっていこうと思っていました。全カレは光延(誠、スポ4=佐賀・鳥栖工)が出るというのが決まっていたので光延に任せようと思っていました。

――長距離全種目入賞を果たしましたが、その点については駅伝主将としてどう思われましたか

 よかったと思いますね。みんないい走りをしていましたし、合宿の成果というのがしっかり出せていたんじゃないかなと思います。

――シーズンを通して自己ベストを更新することはできませんでしたが、その点についてはいかがですか

 素直に悔しかったです。春シーズンでしっかり自己ベストを出すというのはチームの目標としても掲げていたんですけども、僕自身達成することができなくて悔しかったですね。

――続いて夏の期間についてうかがいます。1次から3次まで合宿を行ったということですが、それぞれの狙いはどういったものだったのでしょうか

 1次合宿は基本となる基礎、下地や足をつくるといいますか。2次合宿ですごくボリュームのある練習をするので、それに慣れるためにクロスカントリーでしっかり長い距離を踏むということをメインにやっていました。2次合宿では量と質、どっちも追い求めて非常に高いレベルで練習をしました。3次合宿はどちらかというと実戦に向けて気持ちと体を鋭くしていくというイメージでやりました。

――ご自身の中で何かテーマはありましたか

 夏合宿に関しては、チームで誰よりも練習するというのは決めていて、しっかり1000キロ以上走ろうと取り組みましたし、4年間の中で一番いい合宿にするというのを自分自身テーマにやっていて、それはしっかり達成できました。

――昨年は夏合宿では距離よりもスピードを意識したと伺いましたが、もう一度距離を踏むことに重点を置いた理由は何かありますか

 キャプテンとして僕に何ができるかなと考えたときに、もちろんみんなにいろいろ指示をするのも大事なんですけどそれ以外に練習面から見せていこうかなというのがありました。僕が誰よりも走っていればおのずとチームみんなも走らないといけないという雰囲気になると思いましたし。僕自身、箱根では2区やもちろん5区といった主要区間を走るつもりで練習を多めにやりましたし、その後もマラソンをやるつもりなのでマラソンの練習という意味でも、ボリューミーな合宿にしようと思っていました。

――チームとしてのテーマは何かありましたか

 トラックシーズンがうまくいかなかったので、変わらないといけないということで。1次合宿前に『意識改革』というテーマを掲げて、「練習だけじゃなくて練習に取り組む姿勢や普段の生活から色々なところで意識をしっかり変えていかないと駄目だね」という話をして、それをテーマにやりました。

――夏の間に新たに取り入れた練習などはありますか

 うちのチームは伝統的に同じメニューをやって、前年度と比較したりすることが多いので、そんなに新しい練習はしなかったんですけども、例年以上に一つ一つの練習をしっかりやろうというところでは午前中にやる補強をしっかり長くやったりだとか、練習時間に関してはいままで以上に増えたのかなと思います。

――個人的に意識した点はどこでしょうか

 ひたすら走って、かつ良いフォームで走るというのを意識していました。ことしはがむしゃらに走るだけじゃなくて、良いフォームで、良い形で走るというのをすごく意識して取り組んでいました。補強も去年以上にやっていましたね。本当にいままでで一番いい練習をしようとしていたので、全部が変わったといえば変わったと思います。

――夏の間に安井選手がチームに檄を入れた、という報道もありましたが、それはどういった状況や理由からだったのでしょうか

 しょうもないことといえばしょうもないことなんですけど。1次合宿で意識を変えてやろうと言って取り組み始めたのにも関わらず、練習が終わってちょっとだらけた雰囲気があったというか、ふざけたりとか遊んだりとかしていたことがあって。そうやってヘラヘラしているんじゃなくて自分の体のケアとか風呂に長めに入るとかして次の練習に備えるべき時間にだらけていたので、そこは強く怒りましたね。

――その後に見えたチームの変化は何かありましたか

 合宿をやるにつれてみんなの意識は変わっていったと思いますし、ミーティングを毎日やるんですけどもそこでもチームに対して「もっとやらないとだめだよ」という意見言う人が出てきたりしました。トラックシーズン中はなれ合いの雰囲気があったんですけど、お互い注意し合ったり言い合ったりする場面が増えてきて。最終的にはそういうのも言わずにみんながしっかりやるようになったので、良い流れができたというかチームとしてやっと機能するようになっていったのかなと思います。

――夏の期間を総括するとどうなりますか

 トラックシーズンが終わったときは、うちのチーム本当に大丈夫なのかというのを僕もそうですし、チームのみんなもそうですし、外部のファンの方とかも感じていた部分はあったと思うのですが、合宿が終わって「戦えるな」と。僕はそう感じましたし、それを感じられるような夏合宿にできたと思います。

「自信を持ってスタートラインに立てた人が何人いたか」

――では駅伝シーズンについてうかがいます。出雲のご自身の走りは振り返っていかがでしたか

 アンカーを任されて、9位で前とも50秒で前を追うしかないという中で、前半突っ込んでいっても後半きつくなると思ったので、開き直ってじゃないですけどしっかり自分の走りをしようと思いました。結果的に区間4番だったんですけど、自分の走りはできてあともう少しというところまでは追い上げられたので、自分の走りをしっかりやるというのは大事だなと感じました。

――チームとしての9位という結果についてはどのように思われていますか

 正直本当に悔しいですね。もっといけたと思っていたのにいけなかったので。悔しかったです。

――出雲後にチームでどのようなことを話し合いましたか

 出雲が9位で、このままだと全日本(全日本大学駅伝対校選手権)も同じような結果になると思ったので自分の出雲の走りからも感じたように、与えられた区間で自分の力をしっかり発揮するというのを絶対やろうという話をしました。

――続いて全日本についてですが、レース後に「不安要素があった」というお話をうかがいました。具体的にチーム状況はどのようなものだったのでしょうか

 出雲が終わって先ほどのような話をしたんですけど、全日本前に光延が腰が痛かったりだとか、宍倉(健浩、スポ1=東京・早実)も出雲付近から足を痛めて離脱していたりだとかそういうちょっとしたことというか。不安要素があるままスタートラインに立ってしまったなと思います。

――相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)も本来は8区に置きたかったというお話をされていましたがその点については

 去年のこともありますし、8区にいきたかった気持ちはあったのですがチームの状況とかも含めて2、4、6区のどこかにはいかないといけないなというのは出雲が終わったあたりから感じていました。その中でも自分では4区なのかなとは思っていました。

――2区でのご自身の走りはどう評価されていますか

 太田(智樹、スポ2=静岡・浜松日体)がいい位置で持ってきてくれて、その流れにのって先頭で渡すくらいの気持ちで走らないといけなかったんですけども、30秒くらい離されてしまって。正直僕のところでいい流れをせき止めてしまったという点に関してはすごく責任を感じていますし、主将としての走りができなかったなというのはすごく感じていますね。悔しかったです。

――結果的には7位でシードを落とすことになってしまいましたが、後輩の皆さんへの思いは何かありますか

 こういう言葉ではあれなんですけど、本当に申し訳ないというか。やっぱり後輩のミスは先輩がカバーしないといけなかったと思いますし。1年生の2人は初めてですごく緊張していたこともあってブレーキしてしまったのですが、もっと試合前にできることがあったのではないかなと感じていますね。

――全日本を終えて4年生で話し合ったと伺いましたが、具体的にはどのような話し合いをされたのでしょうか

 僕たちは『箱根総合優勝』という目標を掲げている中で、出雲、全日本とああいった結果で終わってしまったので。これからどうしようかと話し合ったときに、何か変えるというよりはちゃんと与えられた練習や集中練習をしっかりやるということが出たので、まずは4年生が全員しっかり走って集中練習などを引っ張っていこうという話をしました。

――全日本を終えて具体的に課題や修正しないといけない点は見つかりましたか

 出雲、全日本両方から言えることとして、不安要素があったということと自信を持ってスタートラインに立てた人が何人いたかということがありました。逆に言えば両方とも自分たちの力を発揮すれば、優勝はなくても3番だったりそういう上位で戦えたなというのも感じています。そういった意味では箱根では二つの駅伝で感じたことや不安要素をなくすこと、みんながスタートラインに立ったときに「次の区間にあいつがいるから大丈夫だな」と思えるようにしないといけないなと思いました。

「4年生のみんなと肩を組んで、笑顔で」

――続いて主将としての質問に移ります。新チームになってすぐのころはどういう思いがありましたか

 去年の4年生は強かったですし、抜けてその穴をどう埋めるかというのは周りからもすごく言われたんですけども、穴を埋めるという意識では僕たちはやってこなかったというか。僕たちは僕たちなりのチームを一から作り上げていこうという気持ちで、自分たちの力をしっかりつけていこうと思っていました。

――チームをまとめていく上で意識してきたことはありますか

  Aチームの選手は自分でどんどんできるので、どちらかというとBチームやCの選手などの最前線じゃない選手たちとのコミュニケーションはすごく意識して取り組みましたね。

――先ほども少し伺いましたが、チームとしてまとまりがでてきたのはいつ頃でしょうか

 夏の2次合宿くらいですかね。AチームもBチーム以下も4年生を中心に同じ方向を向くことができたかなと思います。トラックシーズンが終わって変わらないといけない、まずは4年生が変わらないといけないということで。『意識改革』というテーマを掲げて、かつ1次合宿で4年生が引っ張る姿を見せられたのがよかったかなと思います。

――チームメートの皆さんからは、主将としてはどういったキャラクターだと思われていると感じますか

 僕は全然怒らないですし、どちらかと言うと温厚で優しいキャプテンという感じじゃないですかね(笑)。でも言うときは言いますね。ちょっとよくわからないんですけど1年生からは結構ビビられているらしくて(笑)。怒ると怖いというのが浸透しているみたいです(笑)。

――ことしのチームの特徴は何でしょうか

 みんな真面目ですね。昨年のような個性バリバリな感じではなくて、どちらかというと淡々とやるような真面目な奴が多いですね。ただネジが取れたときはみんな面白いので、メリハリがしっかりしていると思います。

――同期の皆さんへはどういう思いがありますか

 4年間ずっと一緒にやってきて、光延は全日本は外れてしまったんですけどことしに入ってからは全員特に大きなケガもなくここまで来れています。もうあとは箱根だなというか、この6人で陸上ができるのもあと1カ月しかないので毎日を悔いなく楽しくと言いますか。この6人で箱根を走って、大手町でみんなで笑ってゴールラインに並ぶのが目標であり、そうしたいと思いますね。

――では箱根に向けてのお話を伺います。現在の調子はいかがですか

 調子はいいですね。特に痛いところやケガもなく、全日本が終わってから順調に練習を積めてきています。

――集中練習で意識していきたいことは何でしょうか

 去年は距離を落としてスピードを重視してやったんですけど、それで箱根が上手くいかなくて。2年生のときは逆で練習を積んで、しっかり準備した状態で臨んだら割といい走りができたので、どちらかというと2年生のときのようなイメージでいつもより練習を多めにやって20キロという距離に抵抗がない状態にしようかなと思っています。あとは4年生なのでしっかり前で引っ張ってやっていこうかなと。

――いまのチーム状態はいかがですか

 いまのところ集中練習に参加しているメンバーはケガなく、とりあえずスタートを切ることができています。いまのところ順調ですね。

――走りたい区間や走る予定の区間というのは

 走りたい区間というのは素直に言ったら10区です(笑)。でもやっぱり5区は外せないかなと思っているんですけど、5区だけじゃなくてことしのチームを考えると2区や4区の平地を走る準備もしておかないとなと思っています。

――5区だったらという話になってしまうのですが、前回の経験を生かしていけそうな部分はありますか

 昨年度は前半うまくリズムに乗れなくて、そこで1~2分遅いタイムで上ってしまったのでその反省を生かして、前半からガンガン攻めるというわけではないのですがリズムに乗って、前回よりも2分以上早く走るというのが目標になりますね。

――5区に限らず、任された区間での目標はどういったものでしょうか

 区間賞は絶対だと思っています。区間賞を獲らない限り往路優勝も総合優勝もないかなと思っているので、そこだけは外せないかなと思います。

――少し似た質問になりますが、自分に求められる走りや役割というのはどういったものだと考えていますか

 どういう状況であってもトップに立つ走りが必要だと思いますし、5区だったらという話になれば総合優勝には往路優勝が必須だと思っているので、まずは往路優勝に向けて自分のところでそれを決定づける走りがしたいなと思っています。

――約1カ月後に迫ってきましたが心境はいかがですか

 すごく楽しみです。最後なので楽しく走りたいなと思っています。まずは目の前の練習をしっかりやっていくことと、ケアと体調管理を一番大事にしています。そこをしっかりやって、まずはスタートラインに立つこと、そしてあと1カ月楽しく明るくやっていければなと思っています。

――何度も伺っていますが、改めてチームとしての目標を教えてください

 総合優勝という目標は絶対に変えないです。優勝ですね。

――最後の箱根へ向けての意気込みをお願いします

 4年間の集大成となる最後の箱根となるので、明るく楽しく。あとは出雲と全日本で早稲田のファンの方をがっかりさせてしまったので、箱根ではいままで支えてくれた方やファンの皆さんに笑顔になってもらえるように、そして僕自身も笑顔になれるように全力を尽くしたいと思います。

――では最後の質問です。1月3日、大手町でどのような景色を見たいですか

 箱根の目標として、僕の中では総合優勝の他にもう一つあって。最後、やり切った笑顔を大手町でみんなでしたいなというのがあります。隣にいる4年生のみんなと肩を組んで、笑顔でアンカーの選手を待つ景色が見たいですね。

――ありがとうございました!

(取材・編集 太田萌枝)

箱根への意気込みを書いていただきました!

◆安井雄一(やすい・ゆういち)

1995(平7)年5月19日生まれ。170センチ、57キロ。千葉・市船橋高出身。スポーツ科学部4年。自己記録:5000メートル14分09秒39。1万メートル29分07秒01。ハーフマラソン1時間2分55秒。卒論では競走部らしく、「長距離選手と短距離選手の内受容感覚の違い」を研究しているという安井選手。内受容感覚とは、体の内部の状態を感じ取る能力なのだそうです。研究内容が競技に生かされている部分もあるのでしょうか。主将として迎える、最後の走りに注目です!