大学1年生時からこれまで東京箱根間往復大学駅伝(箱根)では安定した結果を出し続けてきた武田凜太郎(スポ4=東京・早実)。しかし4年生のトラックシーズンはケガで結果を出せず悔しい思いを味わうなど、決して順風満帆ではなかった。苦難を乗り越えた武田が同期と挑む最後の箱根に懸ける思いとは。決戦を直前に控えたいま、じっくりと語っていただいた。
※この取材は11月30日に行われたものです。
「箱根で一番力を出さなきゃいけない」
今季を振り返る武田
――集中練習が始まったと思いますが、ご自身の調子と手応えはいかがですか
先週末に長い距離の走り込みをしたのですが、その時に足に違和感を覚えて(練習を)途中でやめました。量を少し少なくして練習しているというのが現状ですね。
――調子はいかがでしょうか
調子自体は良い状態をキープできていると思うのですが、夏からノンストップできた分、足に見えない疲れがあったのかなと思います。結果が良かったので、気持ちは乗ってきているのですが、しかしその分冷静さを欠いてしまっていたかなと思います。そこは地に足を付けると言いますか、油断せずにいきたいと思います。
――武田選手は現在練習の際、何を意識して取り組んでいますか
ハーフマラソンは走れるということが分かったので、距離に対する不安とかではなくて、箱根を一番良い状態を迎えることができるように、余裕をもって練習するということが一番大きなテーマというか、意識してやっています。
――箱根に向けて準備を進めているということですね
そうですね、箱根で一番力を出さなきゃいけないと言いますか、そこが本番なので、練習でいっぱいいっぱいにならないようにしたいですね。
――いまのチームの士気は
全日本(全日本大学駅伝対校選手権)、上尾ハーフ(上尾シティマラソン)とレースを経て僕らもかなり手応えを感じていますし、特に同期の平主将(和真、スポ4=愛知・豊川工)を始め洋平(鈴木、スポ4=愛媛・新居浜西)や井戸(浩貴、商4=兵庫・竜野)、あと佐藤淳(スポ4=愛知・明和)も復調してきてメンバー争いに絡んでくるので、特に同期に関して充実してるなと思います。
――4年生を中心に練習が展開しているのですね
そうですね、僕らが練習から引っ張っていこうというのは話していたので。ただ1月で代も変わりますし、実質部としては幹部交代して僕らの代ではなくなっているので、そこは「僕たちに頼りすぎちゃ駄目だよ」ということは平主将のほうから言っているところですね。
――先日の八王子ロングディスタンスで永山博基選手(スポ2=鹿児島実)が好記録をたたき出すなど、後輩の活躍も目立ちました
永山に関しては、出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)こそ出ませんでしたが、本当に強い選手ですし、練習でも僕たちに食ってかかってきます。そこまで良い記録が出るとは思いませんでしたが、「やってくれたな」というのが素直な意見というか。
――ではこれからは、春先のトラックシーズンから振り返っていただきます。武田選手は春にケガをされていたと思いますが、具体的にいつくらいからのケガでしたか
3月の初めくらいですかね。合宿のときも全く走れなくて所沢に帰ってきて治療に専念したりしていましたね。
――その時のお気持ちというのは
六大学(東京六大学対校大会)の代表というのは決まっていたので、走りたい気持ちは強かったです。最後の関カレ(関東学生対校選手権)も出たい気持ちがありました。なんとか、どうにかしたいという気持ちが先行しすぎて長引く原因にもなってしまったのかなとは思います。
――そのケガの影響で、関カレはメンバーを外れました
平と井戸が(それぞれの種目で)日本人トップを取っていて。素直に喜べない気持ちがありましたし、「本当に何しているんだろう」とか情けない気持ちが強くて心も体もボロボロでしたね、あの時は。
――5月の日本体育大学長距離競技会では5000メートルを14分06秒95で走り、ケガから復帰されました。その時を振り返って
タイムだけ見れば本当に復調してきたなと分かったのですが、目の前で洋平が良い記録を出していて。やはりそこでまた悔しい気持ちとか、同期としてうれしい気持ちと、自分がより情けなく見えて、本当に複雑な気持ちでしたね。でもその気持ちがまだ諦めていない証拠かなと思って、いまは苦しいけど頑張ろうと思いました。
――夏合宿はAチームの人数を減らすなど、変化を付けて取り組まれていたと思います。成果のほどは
全カレ(日本学生対校選手権)がありましたし、早めにその準備を始めたり、長い距離への刺激を入れるという目的がありました。上のチームだけでやったので常に高い意識を持ち続けることができましたし、僕たちが主力としてやっていかなきゃいけないんだよということは後輩もかなり感じてくれたので良かったと思います。
――4年生が結束したのはいつくらいからでしょうか
やっぱり僕たち4年生の足並みがそろってきたのは、夏合宿くらいからですかね。トラックシーズンはまちまちだったのですが、みんなの結果が出るようになってきてよりまとまったかなと思います。
――3位入賞した全カレの1万メートルを振り返っていかがでしょうか
「やっとこの舞台に戻ってこられた」という気持ちが強くて。このレースを楽しもうとレースに臨みましたね。
――全カレは、早大勢の入賞が目立ちました。駅伝シーズンへ向けての弾みになりましたか
1万メートルこそ他大の主力が出ていませんでしたが、その中で得点をとって、5000メートルでは新迫(志希、スポ1=広島・世羅)が高順位で帰って来ました。「僕たちのやってきたことは間違っていなかったな」ということを感じた大会でした。この勢い、結果を自信にして駅伝も戦っていこうという気になりましたね。
――では駅伝シーズンのお話に入らせていただきます。出雲では序盤で大きく出遅れ、武田選手は予想しなかった展開でタスキを受け取りました。振り返ってみていかがですか
そこは割り切って前を追うしかないので、「前へ前へ」という気持ちを持って走ることはできたと思います。でも大きく流れを変えることだったり、次の区間の選手に楽をさせてあげることだったりはできなかったな、と感じる部分は大きかったと思います。
――出雲は目標の順位を達成できませんでした。終わったあとのチームの雰囲気は
正直僕らもショックでした。ここまでひどいのかとは思いましたが、全日本まで時間がなかったので、終わった日だけは落ち込んで、あしたからは切り替えていこうと。そういう雰囲気にみんななったので、うまく気持ちをシフトできたかなとは思います。
――出雲の後メンタルトレーニングを受けられたとお聞きしました。武田選手はどのような効果を得られましたか
このメンタルトレーニングがきっかけでまたチームの雰囲気が良くなりましたし、良い刺激にはなったのではないかと思います。個人的に何か大きく変わったことはないとは思うのですが…。いつも通りやることが一番だな、と感じました。
――その後の全日本で、武田選手は1区に出走しました。ご自身で「90点」と走りに点数を付けていましたが振り返って
良い流れで渡すことができたと思いますし、仕事はこなせたとは思います。でももう少し東洋大と近い位置で(タスキを)渡せたら、もしかしたら流れが変わっていたかもしれませんし、それが優勝につながっていたかもしれないと思います。最後の最後の詰めが甘かったのかなと感じました。(東洋大との差を)1桁くらいに収めることができたらなにか変わったのかな、とは思います。
――全日本は1区ということで、緊張はされましたか
去年の出雲の1区で失敗をしているので、正直トラウマはありましたが、(ことしの)出雲を終えてからは「僕がやるしかない」と思いました。「やってやる」という気持ちが強かったです。
――前日はなにをされていましたか
前日…。恥ずかしいのですが、2区の平と同じ宿舎の同じ部屋に泊まったのですが、部屋にしきり(パーテーション)がついていて2人で使うことになっていたんです。それを外して2人で起きて、ということはしていましたね(笑)。
――やはり仲がよろしいのですね
そうですね、いつも一緒にいることが多いので、その日はいつも以上に濃い時間を過ごしました(笑)。休みの日とかも一緒にいるくらいなので…。落ち着くというか、楽しくて仕方ないといった感じです(笑)。私生活ではそうなのですが、練習では「絶対負けない」とみんなが全力を出してきますし、すごく良い関係だなと思います。
――全日本は2位ということで優勝にあと少し届きませんでした
2位だから感じる悔しさというのはすごくあって。いままで早大が前で戦うということがなかったので、やっと強いワセダを取り戻すことができたうれしさ半分、そこまで戦って、青学大はミスをした区間があるにも関わらず僕らが勝てなかったというのはすごく悔しかったですね。
――ではその後のチームの雰囲気は
僕らも全日本に懸けている部分が大きかったので、ちょっと1回リラックスというか、硬くならずに上尾ハーフは練習の一環で出るという心持ちでいるようにしました。
――上尾ハーフに対して調整はあまりされていなかったということでしたが、武田選手は1時間1分台の好タイムを
たたき出しました
厳しいコンディションの中でしたが、出るからには勝ちたいという気持ちは強くありました。全日本ではああいう悔しい結果に終わってしまいましたので、インパクトのあるというか、より僕らの強さとかを各大学にプレッシャーとしてかけられるように結果を出したいと思っていました。
――箱根前の好記録はやはり、他校に対するアピールになりますか
僕たちは記録をあまり持っていないチームだったのですが、全日本で戦えると証明できただけに記録が必要というか。「ワセダすごいな」と結果を出すことでプレッシャーはかけられると思いますね。
――距離としても20キロ少しということで、箱根を走る上でも自信になりましたか
僕や平、洋平は距離を踏んでこなかったということがあったので不安な要素はありました。それでも結果を出すことができたので距離に対する不安は完全に払拭できましたね。
強いワセダを
――4年生になる際、自分に設定した目標タイムなどはありましたか
達成はできていないのですが、1万メートルで28分30秒を出すということは目標に掲げていました。
――この代になってからミーティングをたくさんするようになったとお聞きしました。最初のミーティングの内容は覚えていらっしゃいますか
多分、駅伝シーズンの前か春の終わりくらいかだと思うのですが。全日本の予選会で僕らの代からは井戸しか走ってなくて、「これじゃまずいよね」と。主力として走らなきゃいけない平や僕が故障していていいのか、と。それを踏まえて他の人もメンバー争いに絡まなきゃいけなきゃ駄目なんじゃないかというのを、一番のテーマにしていた気がします。僕らがちゃんとやらなきゃいけないということと、最上級生になる心持ちをちゃんと作ろうと集まったのだと思います。
――自分たちの代からワセダを変えようと決心したともお聞きしました
ワセダが『三冠』したとき僕たちは高校生で、そういうのを見て入学しているわけじゃないですか。やっぱり早大は強い大学だとか、優勝争いするべき大学だというのは当たり前と思っていました。でもそれにほど遠い状況が続いていて、強いワセダを取り戻したいというか、何がなんでも勝ちたいよねと言う話をしました。優勝を狙えるチームにしようというのが大きかったです。
――普段のミーティングではなにを話されますか
そうですね、言い合ったりするみたいなことはなくて。A、B、Cチームはどうだろうなと、各チームにいる最上級生に現状の確認をして、故障者が出ていたら、トレーナーと話していまどんな状態なのか聞いたりします。試合前だったらどういった雰囲気でいこうとか。練習以外の補強の振り返りをしたりしていますね。
――後輩との仲はいかがですか
みんなと仲が良いわけではないのですが。やっぱり同期といることが多くて(笑)。でもご飯に行ったり遊びに行ったりはしますね、ちょっと決まったメンバーになってしまうのですが。
――やはり同期との結束が固いと、競技に良い影響が出たりしますか
刺激的ですね、毎日が。本当に練習ではバチバチして、試合でもバチバチして。でもプライベートな時間になれば飲みに行ったり遊びに行っていたりして。お互いを尊重し合えて尊敬もしていますし、だれよりも負けたくない相手ですね。モチベーションの維持につながっていますね。
――相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)になってから新しいトレーニングが導入されたと思いますが、効果のほどは
いままでチーム全体として補強をすることがなかったので、そこは走り以外のトレーニングも大事なんだよという認識をみんながするようになったきっかけになったと思いました。筋肉を付けるというよりは体を大きく使うようなトレーニングがメインですかね。
――相楽駅伝監督はことしで就任2年目です。相楽監督の印象は
結構僕たちの代って、わがままなんですよ。「練習でもこうしたい、こう変えたい」と言ったときに割と柔軟に対応していただいています。そこはすごく良い面だなと思いますね。
「インパクトのある走りがしたい」
箱根でも、その安定感を発揮してほしい
――自分の走りの強みは何だと考えられていますか
冷静さ、落ち着いた走りというのが僕の持ち味だと思います。
――去年と変わられたところはありますか
みんなとやるトレーニングとは別に、走りのトレーニングを取り入れるようになってより結果が安定してきました。高いレベルで安定した力を出せるようになってきたというのが大きな違いかなと思います。
――自分のチームにおける立ち位置はなんだと考えられますか
「こいつならやってくれる」というか、みんなを安心させられるような存在ですかね。自分で言っちゃってるのですが(笑)。仕事人というか、必ず結果を出してくるというのが僕の持ち味なのではないかなと思います。
――チーム内で負けたくない選手は
そうですね、特に井戸、洋平、平ですかね。この3人です。チーム内で争いすぎてしまうと悪い面もあるのですが、近くに意識する相手がいるので、本当に毎日刺激的です。
――武田選手は1年生から数えて4度目の箱根となります
ずっと区間5位という結果が続いていて、なによりインパクトのある走りがしたいなというのが一番大きいですね。
――武田選手が希望する区間は
1区か2区で勝負したいというのがあります。1区に関していえば必ず自分が良い流れを作れる自信があるということと、2区に関してはチャレンジしたい気持ちがありますね。
――箱根が近づいていますが、いま健康面で気を付けていることは
体を冷やさないことですかね。お風呂にゆっくりつかって、しっかり厚手の靴下を履くとか着こむとか体を冷やさないことを一番意識していますね。
――他校で意識している選手、大学はありますか
意識している選手はいないですね。意識するのはやはり青学大さんです。
――では箱根の目標は
総合優勝、往路優勝です。
――では早大が優勝するために必要なことは
走る10人が良い状態で大会を迎えることが1番ですし、いわゆる『つなぎ』と言われる区間でしっかり勝ってくるということがキーになってくると思いますね
――ことしのチームのカラーは
勢いだと思いますね。洋平を始めやんちゃなやつらがいますので(笑)。そういう勢いのある選手と、井戸とか僕のような安定して力を出せる選手が呼応してバランスが取れているのかなと思います。
――では早大で安定感のある選手は
僕ですかね(笑)。井戸はずっと結果を出し続けている選手なので、彼には頭が上がらないというのはありますね。
――これまで何度か話題に上がりました、同期の皆さんに対する思いを話していただいてもいいでしょうか
本当に愛しています。愛していますし、あと1カ月で離ればなれになると思うと寂しい気持ちでいっぱいです。こいつらと笑顔で、最高の瞬間を迎えたいと思います。
――では最後に、武田選手の箱根に向けた武田選手の意気込みをお願いします
最後の箱根で区間賞を獲ってチームの優勝に貢献したいと思います!
――ありがとうございました!
(取材・編集 鎌田理沙)
箱根への意気込みを書いて頂きました!
◆武田凜太郎(たけだ・りんたろう)
1994(平6)年4月5日生まれのA型。175センチ。57キロ。東京・早実高出身。自己記録:5000メートル13分58秒83。1万メートル29分04秒20。ハーフマラソン1時間1分59秒。スポーツ科学部4年。武田選手は4年生ということで、卒論の作成に力を入れているそうです。卒論のテーマは『動作解析』。さすがスポーツ選手ですね!また対談中何度も『同期』という言葉が出てきたように、とても同期思いの武田選手。その熱い思いを胸に、本番では魂のタスキリレーをしてくれることでしょう!