【連載】『頂』第8回 安井雄一

駅伝

 前回の東京箱根間往復大学駅伝(箱根)では5区、ことしの全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では8区を任されるなど、長い距離において絶大な信頼を得ている安井雄一(スポ3=千葉・市船橋)。全日本で誰よりも悔しい思いをしてから、勝利への強い気持ちを胸に、ここまで過ごしてきた。リベンジを果たす舞台が目前に迫り、何を思うのか。お話を伺った。

※この取材は11月30日に行われたものです。

「質の高い練習ができた」

今季を振り返る安井

――きょうはどのような練習をされましたか

 きょうは5000メートル3本という結構きつい練習をしました。

――現在の調子はいかがですか

 全日本が終わってから疲れが残っていたのですが、今は順調に練習が積めています。

――集中練習が始まりましたが、今までよりも意識していることはありますか

 去年は粘る、我慢するといったスタミナを重視した集中練習だったのですが、ことしはどちらかというと質を重視すると言いますか。まだ分からないですけど僕は5区を走るつもりなので、今回は区間1位を目指している中でいかに速く走れるかを考えて、より上のレベルの練習ができるように、というのを意識しています。

――それではトラックシーズンのお話を伺います。トラックシーズンは振り返っていかがでしたか

 トラックシーズンは正直に言って100点中ゼロ点でした。自己ベストも、これと言って良い結果も出せずにすごく悔しいシーズンになっていまいました。

――ことしは2月に東京マラソンを走られましたが、その影響というのもあるのでしょうか

 そうですね。言い訳にはしたくはないのですが、東京マラソンを走ってマラソンの後どうやって過ごしたらいいのかというのが分からなくて。結局ケガを繰り返したりだとか、失敗してしまって思うようにトラックシーズンに入れなかったというのが反省点かなと思っています。

――マラソンの練習とトラックの練習が大きく違ったのですか

 そうですね。トラックはスピードが重視されるのですが、ずっとスタミナを重視していたのでいきなりスピード練習をやったときに全然動かなかった感覚がありました。

――ご自身の持ち味である序盤からの積極的な走りは、ことしも意識されていましたか

 トラックシーズンでそれができませんでした。トラックシーズン通して調子が悪くて、それでも攻める姿勢を見せなくてはいけなかったのですができずに悔しいなと思っています。

――次に夏合宿についてお聞きします。夏合宿で特に意識した点はどこですか

 夏合宿ではまずはチームで引っ張っていくことを意識していました。ポイント練習もしっかり全部こなすというのを第一として、去年は(走行総距離)1000キロと結構距離を走ったのですが、ことしはジョグのペースを速くしたりしていかに速く走れるか、出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)からしっかり勝負できるようになるべく速い動きを取り入れた夏合宿になりました。

――上級生として臨んだ夏合宿になりましたが、昨年までと比べて何か変化はありましたか

 全カレ(日本学生対校選手権)組が別メニューでやっている中で、僕が全カレに出ない組をずっと引っ張っていました。やっぱり上級生として練習も外せないですし、普段からしっかり練習している姿を後輩に見せないといけないと思っていたので、その点に関しては上級生としてしっかりできた合宿だったのではないかなと思います。

――ことしはAチームを10数人に絞り、少人数合宿もされたということですが、いかがでしたか

 本当に質の高い練習ができました。お互いに意見を言い合ったり、強い4年生方と練習ができたりして自分としてもワンランク上のレベルに成長できたかなと思います。

――ご自身にとっても良い刺激になりましたか

 そうですね、かなり。10人の誰も弱音を吐かずに、どんどん練習やっていこうという雰囲気だったのですごく良かったです。

――10人に絞ったことが、そこに入ることができなかったメンバーにも刺激になって全体の底上げにつながったなという印象はありますか

 そうですね。それ以外の選手も頑張ろうという意識でやっていたとは思うのですが、(10人との間に)少し差を感じていたらしくて。僕もそれにはちょっと気付いていたので、後輩やB、Cチームの選手に積極的に声を掛けて意識を高められるように努力はしました。

――ことしになって新しく取り入れた練習は何かありましたか

 補強を取り入れるようになりました。特にお尻の筋肉や上半身の体幹を鍛えて、ケガなく夏合宿とこの集中練習を超えられるように、下地を作るじゃないですけど、そこに関しては去年より重点的にやっていると思います。

――効果は感じていますか

 はい、かなり。全日本を走ったときもいろいろな人から上半身がっちりしているねと言われたので。ああ、変化しているんだなというのは感じました。

「もっと食らいついていかないと上のレベルでは戦えない」

――それではここまでの駅伝について伺います。出雲は残念ながら出走なりませんでしたが、調子が悪かったのでしょうか

 いや、調子は良かったです。その中でもより調子が良い選手が使われた感じですね。

――安井選手は長い距離が得意だと思いますが、出雲は距離が短いということも関係があったのですか

 相楽さん(豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)に「お前は長いところで使いたい」と言われていました。やはり短い距離が得意な選手もいるので、その点も少しは含まれていたかなと思います。

――改めて出走ならなかったことを振り返っていかがですか

 すごく悔しくて。出雲に合わせて練習も夏合宿もしっかりできていた分、選ばれなかったときにすごく落ち込んでしまって記録会もその気持ちのまま挑んでしまいました。その点に関してはすごく反省しないといけないなと思いますが、それがあって全日本は絶対入ってやるという気持ちをより強く持てたので、良かったのか悪かったのか…(笑)。

――出雲は8位となりましたが、レースはどのようにご覧になっていましたか

 正直僕は走っていないので(結果について)悔しいという気持ちよりも、選ばれなかった悔しさの方が大きかったです。チームの8位という結果を見て、全日本は僕が走ってもっと良い順位にしてやろうという気持ちはありましたね。

――出雲市長距離記録会で全日本はアンカーを走りたいというお話を伺いましたが、そのときから監督とも話し合われていたのですか

 そうですね。僕の中では1年くらい前から全日本はアンカーを走りたいという気持ちがありました。井戸さん(浩貴、商4=兵庫・竜野)の調子が上がってこなかったこともあって、夏合宿後から相楽さんに「全日本のアンカーはお前でいく」という話はされていたので気持ちの準備はしていました。

――改めて全日本をチームとして、また個人として振り返っていかがですか

 チームとしては、正直言えばかなり良い結果だったと思います。ワセダは『三冠』して以来なかなか3位より上に入れていなかったので、そのカベをまず打ち破れたというのはすごく大きいことでした。やっぱり悔しい思いもありますがちゃんと誇るべき結果だったのかなと思います。個人的には1位で持ってきてくれたタスキを2位にしてしまって、悔しさを通り越して情けないというか。4年生の先輩方にとっては最後の全日本だったので、そういうことを考えると僕が優勝のチャンスを逃してしまったのは申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

――先頭でタスキを受け取った経験はいかがでしたか

 1位で来てくれたので僕もみんなと同じような走りをしないといけないという気持ちになりました。また、みんなと同じように練習をしてきていたので自信はありました。

――中継時の笑顔がとても印象的でした

 1位で後続との差も広げて持ってきてくれましたし、タスキリレーは笑顔でやろうというのをチームで決めていたので、後輩である太田(智樹、スポ1=静岡・浜松日体)を笑顔で迎え入れようと思っていました。

――レース後はチームでどのような話し合いをされましたか

 青学大は100パーセントの力を出していないのにも関わらず、(早大は)勝てなかったので、もっと自分たちが強くならないと青学大には勝てないということを話し合いました。あと、平さん(和真、スポ4=愛知・豊川工)がおっしゃっていたのですが夏合宿から4年生に頼りすぎたと言いますか。強い4年生に引っ張ってもらいっぱなしで、僕ら3年生が前に立って練習することが少なかったことがダメだったかな、もっと食らいついていかないとその上のレベルでは戦えないなと思いました。

――レース中、レース後にかけられた言葉で何か印象的だったものはありましたか

 レース中はワセダのファンがかなり多いなと感じました。走っていると「ワセダ優勝しろよ」とか、「絶対あきらめるな」、「青学大抜かしてくれ」と色々な方が応援してくれていて。本当にワセダのファンは多いんだなと思える、そういう言葉をかけてもらいました。

――安井選手は次期駅伝主将になりますが、どのように決まったのでしょうか

 僕の立候補です。入学したときから4年生になったらキャプテンになって、主将としてチームを引っ張ろうと思っていて、同期にも言っていたのでいざ決めるとなったときもみんな快くOKしてくれました。かといって僕が一人ポンと前に出るのではなくて、光延(誠、スポ3=佐賀・鳥栖工)や藤原(滋記、スポ3=兵庫・西脇工)と3人で引っ張っていくと言いますか、僕らの学年は人数が少ないのでみんながキャプテンという気持ちでやっていこうという話はしています。

――主将になることが決まってから何か意識していることはありますか

 まだ僕は主将じゃないですし、いまのこのチームというのがあるので正直まだないです。いまはこのチームで1月3日までやっていく中で、3年生としていかに結果を出していくかが大事だと思っています。

――次期主将への就任が決まったことで、内面的なこと等で走りに影響を与えている部分はありますか

 来年チームを引っ張っていく立場として、ことしもある程度結果を出さないといけないと思っていました。でも全日本で失敗してしまったので、箱根はもっとやってやるぞという気持ちでいます。

――いまの平駅伝主将はどのような存在ですか

 素晴らしいです。僕が高校生のときから平さんは憧れの選手で。僕が高3の時に渡辺さん(康幸前駅伝監督、平8人卒=現住友電工監督)が勧誘してくださったときも、平さんの学年が本当に良い選手ばかりだからお前が大学3年になるころには強いチームになると言われていて、いまその言葉通り平さんがチームを引っ張ってくれて、強いチームになっているので僕もそういう主将になりたいなという思いはあります。

――理想のキャプテン像に近いですか

 そうですね。去年の高田さん(康暉、平28スポ卒=現住友電工)も、平さんもすごく好きなので、お2人の良いところをしっかり見習ってやっていきたいなと思っています。

「必ず往路トップで」

5区はことしから距離が短縮されるとはいえ重要区間。安井の走りが往路の命運をにぎる

――続いて箱根について伺います。前回の箱根からこの1年を振り返るとどのような1年間でしたか

 前回5区を走って悔しい思いをして、本当にきつかったので来年はもう(5区を)走りたくないなと思っていたんですけど(笑)。時間が経つにつれて悔しさが増してきて、また1年間しっかり鍛えなおしてもう一度山でリベンジしようという気持ちでやってきました。

――いまお話にもあった通り、前回の箱根後の取材では5区は本当にきつかったというお話を伺いましたが、次も山上りに挑もうと思うようになったきっかけは何かありましたか

 本当に強く思ったのはトラックシーズンが終わってからです。トラックシーズン最後にホクレンディスタンスチャレンジという記録会があったのですが、そこで相楽さんに「こんな走りじゃ山どころか平地も走れないぞ。お前は箱根で何がしたい」と言われて、その言葉がすごくグっときたといいますか。その夜ずっと考えていたら、もう一度5区を走って往路優勝することが僕の役目かなという結論が出ました。それが一つです。もう一つは、全日本で2位という順位でゴールしてしまって、ゴールテープを切れなかったことが大きかったですね。箱根で5区を走れば、往路優勝というゴールテープがあるので、そこで1位でゴールテープを切ることが僕にとってはリベンジになりますし、チームにも恩返しができると思いました。なのでいまは5区を走ろうという強い気持ちになっています。

――安井選手から見て、現チームの強みは何だと思いますか

 色々な強みはあると思いますが、元気さかな。みんな勢いも元気もありますし、やってやろうというプラス思考の選手が多いかなと思います。

――箱根が1カ月後に迫りましたが、いまの心境は

 全日本で悔しい思いをして、このまま口だけで終わらせるわけにはいきません。この1カ月間は集中してケガせずしっかり練習をこなし、自信をつけて次は必ず勝つという強い気持ちを持って過ごしたいなと思っています。

――5区の距離がことしから変更されましたがどのように考えていますか

 距離が2.4キロ短くなりましたが、その2.4キロがあるのと無いのでは全然違います。きつくなる前に終わるという感覚がありますね。前回は、粘って粘って粘って…という感じで、最初余裕を持って入って上りで徐々に上げていくという感じだったのですが、次はすぐに上りが来るのでガンガン速く上っていくことが大切かなと思っています。

――一度5区を経験している、というのはやはり大きいですか

 かなり大きいですね。苦しいところがどこかというのがわかるので。前回の経験を生かして、次はもっといけるんじゃないかなと思います。

――意識している選手や大学はいらっしゃいますか

 いまの僕の実力だとライバルとは言いづらいので、特にいないと言えばいないです。でも他大でもチームでも同期には負けたくないなという気持ちはあります。

――ご自身の中でここを見てほしいというポイントはありますか

 前回は苦しさが大きかったので、今回は楽しく上ろうと思っています。楽しんで上っている姿を見てもらえればいいかなと思います(笑)。

――それではチームとしての目標と、個人としての目標を教えてください

 チームとしてはもちろん総合優勝だと思います。個人の目標は往路優勝ですね。5区区間賞も欲しいのですが、それ以上に往路優勝することが僕の中で第一目標なので。区間賞というよりは絶対に一番最初に芦ノ湖にたどり着くということが個人としての目標です。

――最後に箱根に向けての意気込みを改めてお願いします

 全日本で、たくさんのワセダファンの期待や希望を僕の走りで裏切ってしまった、期待に応えられなかったという思いがあります。なので、もう一度チャンスをくださいというわけではないですけど、次の箱根では必ず往路トップでゴールテープを切るので、ぜひ応援よろしくお願いします、と言いたいです!

――ありがとうございました!

(取材・編集 太田萌枝)

箱根への意気込みを書いて頂きました!

◆安井雄一(やすい・ゆういち)

1995年(平7)5月19日生まれのO型。身長170センチ、体重67キロ。千葉・市船橋高出身。スポーツ科学部3年。自己記録:5000メートル14分09秒39。1万メートル29分07秒01。ハーフマラソン1時間2分55秒。リラックスした様子で丁寧に取材に応じてくださった安井選手。色紙には少し悩んだ後、『山の英雄になる』と書いてくださいました。強い気持ちで、過酷なコースを駆け上がる勇姿に注目です!