抜けるような冬晴れの日。様々なランナーが行き交う駒沢公園に、八木勇樹(平24スポ卒=現・YAGI・RUNNING・TEAM)の姿があった。八木はかつて早大競走部の主将を務め、学生三大駅伝『三冠』を達成した年の東京箱根間往復大学駅伝(箱根)メンバーでもあった選手。早大卒業後は村山紘太や佐々木悟といったオリンピアンを擁する強豪・旭化成へと入社した。絵に描いたようなエリートランナーと言っていいだろう。しかしことし6月、八木は旭化成を退社。輝かしい経歴を全て投げ打って、『YAGI・PROJECT』の名の下に、YAGI・RUNNING・TEAMを発足させた。八木の決断の裏に、一体何があったのだろうか。
「東京五輪が2020年に控える中、独立してやってみた方が“マラソンでのメダル獲得”という目標に近づくのではないかと考えました」(八木)。世界との距離はいまも離され続けているにも関わらず、残された時間はあまりにも少ない。自分の殻を破るためには、新たな環境に身を置く必要があった。そうとは言え、独立すれば会社を辞めざるをえなくなり、安定した生活を捨てることになる。しかし、「自分の人生だから、自分のやりたいことを全うしたい」と、八木に迷いはなかった。
チームにはごく一般的な市民ランナーも参加している
現役でありながら自身のランニングチームを発足させ、その運営をしていく。これは極めて珍しい選手のかたちだ。「はじめは本当に難しさや戸惑いがあった」と振り返る八木だが、現在は練習のリズムをつかめてきているという。直近ではマラソンランナーに向けての第一歩として、神戸マラソンにも出走。結果は2時間24分台と振るわなかったが、悲観的に受け止めてはいない。「今はもうシンプルに、ダメだったら改善するために何をすればいいのか、道が見えてくるようになった」(八木)。独立したからこそ見えるようになった、自分が進むべき道。八木は自らを信じながら、今も前へ歩みを進めている。
持論を語る八木
八木は競走部時代に、『大学駅伝三冠』を経験している。『三冠』が懸かった第87回の東京箱根間往復大学駅伝(箱根)。八木は復路のエース区間9区を任された。当日は首位でタスキをもらったものの、後ろから東洋大が猛追してくるという展開に。「やめてくれよと思っていました」と冗談交じりに当時を振り返るが、「箱根は大学で陸上をやる上で一つのゴール」と、強い思いを持って臨んだ。自身の状態は万全ではない中、先頭を守り切り継走。結果的に早大はそのまま優勝することとなる。駅伝とは無縁となった今も、駅伝を通して学んだことは八木の胸に刻まれている。「自分だけでは競技ができないというのは(独立して個人で練習をしているいまと)一緒。人とのつながりの大切さは、独立してなお感じる」。実業団や大学というバックボーンが外れても自分を応援してくれる人がいる。そんな人を大事にしたいと思うようになったという。
八木はメダルを獲得したいと思うと同時に、「今の実業団のシステムや市民ランナーのランニングクラブの仕組みなどを変えていきたいと思っている」とも語る。支えてくれる人とともに、強い信念を抱きながら、八木は未来を見据えている。
(記事 平野紘揮、写真 太田萌枝、鎌田理沙)
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