【連載】『栄冠への走路』 第9回 平和真

駅伝

 前回大会は直前の故障により、チームに迷惑をかけてしまった平和真(スポ3=愛知・豊川工)。復帰レースの5000メートルで13分台を記録すると、その後は故障することなく練習を継続してきた。上級生になりチームに目を向けてきた1年間を振り返るとともに、東京箱根間往復大学駅伝(箱根)に向けての意気込みを伺った。

※この取材は12月1日に行われたものです。

無難に終わってしまったトラックシーズン

今季を冷静に振り返った平

――箱根が1カ月後に迫りました。いまの心境は

 2年間この雰囲気を経験していて慣れてはいますが、そろそろだなという感じです。

――緊張はされていますか

 いや、緊張はしないです。

――現在の調子はいかがですか

 調子はあまり良くないです。全日本の後に足に少し不安があって少し休みました。そこからいまひとつ(調子が)上がってきていないです。練習はできているので感覚としては悪くはないかなという感じです。

――チームの雰囲気はいかがですか

 集中練習も始まって、緊張感のあるとても良い雰囲気で練習ができていると思います。

――調子の良い選手はいますか

 4年生は安定感があって、下の学年でいうと、僕たちの学年は凜太郎(武田、スポ3=東京・早実)が駅伝シーズンはずっと練習が継続できているので良いと思います。1、2年生も体ができてきていて良い走りをしていると思います。

――集中練習ではどのようなことを意識していますか

 とにかくまずはケガをしないことです。こなすだけではなく一つ一つ内容のあるものを、量よりも質を求められたらと思います。

――集中練習で特に強化したいと思っていることはありますか

 僕自身は後半のスタミナの部分で箱根の20キロ以上のところでどれだけ勝負ができるかというのが大事だと思っています。練習でそこの部分を補いたいと思うので、距離を踏むことや練習の終盤でどのような走りをするのかというところが一番ポイントかなと思います。

――過去2年間の集中練習と比べてどうですか

 3年生になって気持ちにも体にもゆとりがあるので内容としては悪くないと思います。集中練習はこれからが本番なのでいまは何とも言えないです。

――集中練習でいままでと何か変えたことはありますか

 ポイント練習ごとにいっぱいいっぱいになっていた1、2年目と比べてことしはゆとりがあると思います。だからプラスの筋トレやジョグの量を工夫していきたいと思っています。

――改めてトラックシーズンを振り返っていかがですか

 春は(故障で)出遅れてしまった部分がありましたが、3レースはうまくまとめられたので、まずまずの合格点は上げられるかなと思います。しかしこの3年目のトラックで飛躍できればと思っていました。それができたかと言われればレベルアップしたレースはできていないので、無難に終わってしまったと思います。全カレ(日本学生対校選手権)も入賞しなくてはいけないメンバーの中でできなかったので、そこは合格点も上げられないレベルだと思います。

――日本選手権に出場しましたが、何か変化はありましたか

 監督(相楽豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)にもそこに出た経験をチームに還元してくれと言われていたので、そこで後輩とかに経験を伝えることもしました。また練習でもトラックの自分のスピードが生かせる部分では、引っ張ってきたつもりです。そのようなところではチームを引っ張れたのではないかと思います。

――夏合宿を振り返っていかがでしたか

 まず一番良かったのは故障をせずにやり切れたことです。やはり3年目といっても合宿では相当の距離を踏むので、その中で自分の体がいっぱいいっぱいになってしまったことが3回ほどありました。そこでポイント練習で少し失敗してしまったので、故障をしなかったのは良かったのですが、全部練習がこなせたかと言われればできませんでした。そこが反省です。ただ故障をしなかったのでそこは良かったと思っています。

――長い距離の練習で良くなかったのですか

 練習内容は関係なくて、その時の自分のコンディションが悪くて失敗してしましました。

――監督が相楽監督へと変わりましたが、夏合宿で何か変化はありましたか

 自分たちの力をしっかり見極めて、自分たちに合った練習ができたと思います。ことしは少しレベルを下げた部分も上げた部分もあったのですが、序盤は抑えて距離を短くし、徐々に(練習を増やしていった)というところが相楽さんの工夫したところだったと思います。それによって故障者が出なかったというのはことしの成功した部分だと思います。

――専門のトレーナーを招いて体の動きづくりをしたそうですが、その効果はどのようなところに感じますか

 ワセダはここ最近走ることばかりしてきて、補強などの走ること以外の部分は各自に任されていました。その結果走りがどんどん小さくなっていってしまったり、自分の走りがなかなか定まらなかったりということが多かったと思います。ことしはみんなでそのような動きづくりや重心の操作などをやったことで、走りが変わった選手や故障が減った選手がいたのでとても良かったかなと思います。

――自分の中ではフォームが変わったなど変化はありますか

 自分の中でしっくり来ている部分はあって、長い距離を走る中でいままでは後半にへばっていたところで楽に押していけるようになったので、そこは成長したかなと思います。

――夏合宿ではどのようなことを中心に練習されましたか

 レベルは低いですがとにかく故障をしないことが第一で、トラックシーズンではないのでひたすらスタミナの強化に取り組んでいました。

――昨年は夏に故障がありましたが、ことしは思ったような練習ができましたか

 内容が少し伴わなかったので満足はできないですが、やり切ったという達成感はありました。

――合宿を通して精神面での成長はありましたか

 長い距離に対して苦手意識があったのですが、それが無くなってきているのが成長できている部分ではないかと思います。

――夏合宿で大きく成長したと思われる選手はいますか

 2年生の藤原(滋記、スポ2=兵庫・西脇工)や石田(康幸、商2=静岡・浜松日体)あたりですかね。

――藤原選手はことし駅伝を走りましたが、下級生が伸びてきていかがですか

 上級生としては選手の充実が箱根で戦えることにつながってくるので、ライバル意識というよりは、上がってきてくれたなという感じで見ています。

「最上級生になる準備ができた」

――3年生はどのような学年ですか

 3年生はそれぞれタイプが違う選手だと思います。仲は良いですが、競技になるとライバル意識はあります。例えば井戸(浩貴、商3=兵庫・竜野)はハーフが得意なので僕ら学年の中では一番強いと思っています。そのように得意なところでそれぞれが勝つことでそいつには負けないぞという意識が生まれるので、いろいろなタイプがいることでお互いの成長につながっているのではないかと思います。

――ことしは3年生が多く出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)、全日本と2つの駅伝を走りました

 ことしの春のシーズンでは3年生がぜんぜん機能していなくて、その時にミーティングをしました。自分たちがもっとしっかりしなくてはいけないという意識がありました。駅伝を走った4人は特に必死になってやってきたので、その結果が駅伝では3年生が4人出場というかたちにはなりました。しかしチームに貢献というか良い走りができたかと言えばそうではなく出ただけというかたちになっているので、箱根ではしっかり出るプラス活躍ができたらと思います。

――4年生の印象はいかがですか

 安定感のある選手が多いので、下(の学年)も心配することなく安心してついていくことができると思います。

――高田康暉駅伝主将(スポ4=鹿児島実)はどのような人ですか

 僕が言うのもなんですが、ことしは高田さんは苦しんでいると思います。別にそこをどうとかではなく、自分のやることをやって箱根にしっかり戻ってきてくれたらと思います。

――部員日記で「最上級生は難しい」と書かれていましたが、高田選手を見てきてどのような思いですか

 高田さんは3年生まではけっこうのびのびやってきたのですが、4年生になるといろいろ考えることが多くなり、自分のこと以外にも目を配らなくてはいけないと思います。その中で自分を成長させていくということがどれだけ難しいのかということがことし分かりました。

――駅伝主将には立候補したそうですが、どのような思いからですか

 自分が強くなりたいという思いはずっと持っていて、駅伝で勝ちたい勝ちたいと毎年言っている中で、それに伴うような練習や行動が自分自身もですができていません。自分がキャプテンになることによって本当に駅伝で勝つための1年間にしたいと思ったからです。

――これまで主将の経験はありますか

 ないです。高校ではキャプテンではなかったので。キャプテンというのは初めてですが、昔から引っ張っていくタイプだと思うので不安はないです。

――主将が果たすべき役割はどのように考えていますか

ま ずは自分自身のことで公式戦では最低限入賞することや日本人トップというところを目指していかなくてはいけないと思います。その走りで良い背中を見せることができれば、みんながついてきてくれると思います。まずは口で言うよりも自分の走りで示していければベストかなと思います。

――上級生になって4年生を見る目は変わってきましたか

 1、2年生は自分のことだけやっていて、4年生お願いしますという感じで良かったと思います。しかしことしは4年生の一個下である3年生が自分たちなので、協力できることは協力しましたし、4年生が練習に少なかったり離脱しているときは僕らがしっかりしなくてはいけませんでした。そのようなところで来年には最上級生になる準備ができたのではないかと思います。

――3年生になって自身の部内での役割は変わりましたか

 自分以外のところも見ていかなくてはいけないので、そこは大きく変わったと思います。

――下級生にはどのような印象がありますか

 自分のこともしっかりやれますし、素直についてきてくれる子たちが多いので、来年最上級生になるにあたってチームとしての心配はしてないです。

――休みの日などにどこかに一緒に行くことはありますか

 遊んだりとかは特定の子になるのですが、3年生になってからは普段からコミュニケ―ションを取るようになりました。

「チームのために走りたい」

日本選手権に出場した経験をチームにも還元したい

――ここからは駅伝シーズンの話を伺います。まずはことし初めて出雲を走りました

 走る前の印象はやはり距離が短いので、3つの駅伝の中では自分が一番力を出し切れる駅伝だと思っていました。しかし実際に走ってみて本当に短くて、短い中で自分の力をどれだけ発揮できるのかが難しいことをことし初めて走って分かりました。3年目にして初めては知ったのは少し恥ずかしい話ですが、来年そこはプラスになるかなと思います。

――全日本などと比べると調子の合わせ方が難しかったのですか

 そうですね。合宿でたくさんたたいてからいきなり数キロの距離になるので、調整や当日のペースの配分などが難しいなと思いました。

――出雲ではチームとして思うような結果が出ませんでした。その後のミーティングではどのようなことを話し合いましたか

 その日に(出雲に)行っているメンバーでは話し合いやお互いにもう少しこうするべきだと言いました。それはきつくではなくもっとこうしてほしいなどお互いに思っていることを言いました。また自分が2週間後の全日本に向けてどのようなことをやっていくのかという確認もしました。

――練習の中で中村信一郎選手(スポ4=香川・高松工芸)が「4年生は本気なんだ」とおっしゃっていました

 僕ら下の学年がやる気ないわけではないし、本気じゃないわけでもないです。しかし一つ一つが最後の駅伝になる4年生からしたら、下の学年がついてきてくれないと感じたり、少し考えが甘そうだと感じてしまう部分が多くあったと思います。それを僕たちに言ってくれたというのはものすごくありがたかったですし、そこでもう一度気を引き締めることができたので、そこは申し訳ないなと思ったと同時に良い機会だったと思います。

――その後チームにどのような変化がありましたか

 そうですね。相楽さんも雰囲気がだいぶ良くなったとおっしゃっていたので、周りから見て良くなったなら、良かったと思います。

――全日本でのチームの結果はどのようにとらえていますか

 出雲が6位だったのでそれと比べたらまともではあったと思います。しかしあのメンバーでも目標は先頭争いでしたし、そこで青学と東洋がだいぶ先に行ってしまっていたので、そこに絡めなかったことと3位争いをしていて駒澤に勝ち切れなかったのが反省かなと思います。

――いままで苦戦してきた一区で流れを作れたことでチームにどのような影響があったと思いますか

 駅伝は流れが大事なので、前を走ることの経験が自分の力になったり、成長につながると思います。それを8人が経験できたことは大きかったと思います。

――出雲、全日本で見えたチームの課題はありますか

 他大のエースとぶつからなくてはいけないうちの選手は力不足でした。しかし一番ほかの大学も困っている8、9、10番目あたりの選手がうちは充実していると思うので、走力的には戦える力があると思います。2つの駅伝を通して見えた課題は気持ちの部分だと思います。高田さんが言葉で優勝を目指すと言っても選手一人一人が本当に優勝したいという気持ちを持っていたかと言えば、みんな持っていなかったと思います。先頭争いができたらいいなと思っていた部分がありました。また青学や東洋は強いのでそこに勝つではなくて少しでも近づけたらいいなというように考え方が甘かったと思います。その気持ちの部分が出てしまった2つの駅伝でした。箱根では本気で勝つという気持ちにみんながなれば、本当に戦えるかなと思うチームです。

――相楽監督も精神面が課題だとおっしゃっていました

 そうですね。僕自身も全日本の2区でそのような部分が出てしまいました。こうできればいいやとかこのぐらいでいいやというのを変えていかないと、大学駅伝のレベルも上がっていますし、優勝は難しいのかなと思います。

――全日本では主要区間を任されました。他大のエースと走っていかがでしたか

 他大の選手が強かったのではなく、自分の弱さが出てしまいました。走る前は調子も良かったですし、戦えるという自信もありました。しかし一番良くなかったのが服部(弾馬、東洋大)に離されてしまったことです。後ろが思ったより来なかったことで自分が良い走りをしているのではないかと思ってしまいました。そのあとラストの粘りが足りず一気に後ろが来てしまったので、先頭を追う意識が足りなかったと思います。ダメなレースでした。

――出雲後はラストで競り負けてしまったことを課題として挙げていました。その後の練習に変化はありましたか

 2週間でも変えられることはあるので、ラストのスピードを貯めておけるように背中や腰の筋肉を鍛えていました。全日本ではそこがうまく出せたので良かったと思います。

――昨年の箱根前の取材では1区を走りたいという話をされていました。現在はいかがですか

 いまでも走りたいところと言われたら1、2、3区は走りたいです。

――昨年は自信がなく1区は走れないとおっしゃっていましたがことしはいかがですか

 自分が見てきた駅伝の中でも1区のレベルはどんどん上がってきていて、全日本でも東洋は服部さん(勇馬)できますし、青学も駒澤も1区からエースを入れてきている印象です。箱根でもハイレベルになると予想できます。そこで戦うとなると自信がないわけではないですが、俺が1区でこの順位で絶対来てやるというような思い切ったことは言えないです。

――ことし自分が自信を持って勝負ができると思う区間はありますか

 自分の力とチームのことを考えると僕の適任は3、4区だと思います。

――3区はどのようなところが自分に合っていると思うのですか

 3区は最初の下りでだいぶ速く突っ込む区間で、自分の走りも最初から思い切っていくタイプなのでそこが自分に合っているのではないかと思います。しかし後半は海沿いなので風も強いですしそこでやられないかというのが少し心配です。しかし3区なら自分の力が出せるのではないかと思います。

――箱根ではどのような役割が求められると思いますか

 やはり前半に強い人を投入する駅伝になっているので、大事になってくるのは3、4、5番手の中堅ぐらいの選手だと思います。周りの選手をどれだけ上回れるかというのがとても大事なので、3、4、5番目あたりに位置している選手がどれだけ力を出せるかがことしの箱根のキーだと思っています。

――他大の5区に強い選手がいることを考えると1区から4区までが大事になってくると思いますが、そこに関してはいかがですか

 貯金を作ろうと思うと力みになってしまいます。うちは山下りの三浦さん(雅裕、スポ4=兵庫、西脇工)がいることで自信を持っていますし、往路は力をしっかり出してどれだけ近づいたところで復路に回せるかというのが大事だと思います。

――箱根は4年生のために走りたいとおっしゃっていましたが、ことしはその気持ちは強くなっていますか

 そうですね。それは毎年変わらないです。区間賞が取れたらうれしいですが、自分の結果がチームの結果につながると思うので、チームのために走りたいです。

――印象に残っている4年生の姿や言葉はありますか

 いまの一個上の学年とは1年生の時からずっと一緒なので、その中で上の先輩の変化を感じています。4年目になって仲良くしていた先輩もチームの前に立ってみんなを引っ張っていく姿勢になっているので、4年生という感じだなと思います。

――自分の走りのここを見てほしいというところはありますか

 チームのために走るというところです。

――最後に箱根でのチームの目標、個人の目標を教えてください

 チームは優勝で、個人は区間賞です。

――ありがとうございました!

(取材・編集 戸田郁美)

箱根への意気込みを書いていただきました

◆平和真(たいら・かずま)

1994年(平6)11月5日生まれのA型。179センチ、61キロ。愛知・豊川工高出身。スポーツ科学部3年。自己記録:5000メートル13分45秒74。1万メートル29分07秒12。ハーフマラソン1時間3分12秒。ことしになってファンが増え、特に地元で行われた全日本ではたくさんのファンに声をかけられる場面も。箱根では多くの声援を背に、『結果』を残してくれるでしょう。