【連載】『栄冠への走路』 第5回 光延誠

駅伝

 昨年ほろ苦い駅伝デビューを経験した光延誠(スポ2=佐賀・鳥栖工)。その悔しさを糧に、この1年間走りを磨いてきた。5000メートルやハーフマラソンで自己記録を更新するなど、着実な成長を見せてきた今季。その中には自身を見つめなおす転換点があった。一回り成長した今シーズンを光延はどのように振り返り、そして目前に控えた東京箱根間往復大学駅伝(箱根)への思いとは。その胸中に迫る。

※この取材は12月1日に行われたものです。

「悔しい、情けないシーズン」

真剣な表情で質問に答える光延

――現在行われている集中練習の手応えはいかがでしょうか

 きょねんに比べて質も量も上がっていますが、いまのところ順調に練習できています。

――上尾シティマラソン(上尾ハーフ)の後には距離に不安があるとのことでしたが、その部分はいかがでしょうか

 まだ集中練習も始まって1週間ちょっとなんですけど、だいぶ不安はなくなってきています。それを試合で出せるかと言われるとまだわからないので、残されたここからの期間の中で不安を徹底的になくしていきたいと思います。

――調子は上向いてきているということでしょうか

 上尾ハーフの時に比べると自分の調子は上がってきていると思います。

――ここまでの今シーズン全体を振り返って、ご自分の走りはどのように評価していますか

 対校戦でしっかりと結果を残していくことが今シーズンの目標だったので、シーズンの前半は本当に悔しい、情けないなというシーズンでしたが、後半に入ってからは、全日本(全日本大学駅伝対校選手権)などでは自分の中ではうまくまとめる走りができたかなと思います。

――悔しさが残ったというトラックシーズンで特に印象的だったレースはありますか

 全カレ(全日本学生対校選手権)ですね。きょねんは初めての全カレでしっかりと結果を残すことができなくて、ことしは勝負をすることすらできませんでした。一番悔しいレースでした。

――きょねん以上の悔しさがあったのですね

 (今シーズンは)1万メートルなどで自己ベストは出せたんですけど、きょねんからで言うと安定感というか、一つ一つのレースをあまりまとめることができなかったので、そういう意味ではトラックシーズンのレースはあまり納得できていないです。

――夏合宿ではどのような練習を積んだのでしょうか

 最初の1次合宿は足づくりを自分で目標にしていました。トラックシーズンからロードシーズンへの移行期間なので、それに向けてしっかりと体をつくることを1次合宿でやって、2次合宿では全カレがあったので途中からはそちらの練習をしていたんですけど、それまでは距離を踏む練習をしました。3次合宿では駅伝の実践練習に取り組むという流れでやってきました。自分としては、充実した夏合宿を送れたかなと思っています。

――充実した夏合宿だったとのことですが、一番の収穫は何でしょうか

 収穫はやはり長い距離を走っても、きょねんに比べて疲労が全くなくなったところですね。

――夏合宿で印象的だったことはありますか

 岩手での合宿だったのですが、地元の人に声援というか応援の言葉をたくさんもらって、頑張らないといけないなと思いました。それが一番うれしくてとても印象に残っています。

――周りの応援はやはり力になりますか

 そうですね。遠くからも応援してくれていると思うとすごく力になります。恩返しというか、結果で返さないと、という気持ちになります。

――レース中に周囲の応援の声は聞こえますか

 僕は聞こえます。なので、なるべく駅伝のときとかは沿道側を走るようにしていますね。そうすることできついときも勇気をもらえるので。

「甘えがあった」

――出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)は駅伝ではなく、同日の出雲市陸協長距離記録会での出走でしたが、どのような気持ちでレースに臨みましたか

 きょねんは(駅伝で)自分が走る区間も決まっていたのですが台風で中止になって、ことしは絶対に出雲から三大駅伝全部で走るということを駅伝シーズン前に心に決めていました。夏合宿最終日にあまり良い結果を出せなくて、そこで出雲のメンバー入りは厳しいなと思っていたんですけど、(出雲は)チームにとっての初戦だったので、そこはチーム内の雰囲気のことも大事にしないとと思っていました。ですがやはり走れないという現実を受けると、悔しいという気持ちで。でも記録会にも他大の選手は出ていますし、そこで負けないようにと思って記録会に臨みました。

――実際にレースを振り返っていかがですか

 内容としては3000メートルくらいまで自分が引っ張るレースができたので、良かったとは思うんですけど、勝負どころで離れてしまう部分があって。そこはまだ弱いなと思いました。まだ改善するべき点があると感じました。

――レースプランはありましたか

 レースプランは特になかったのですが、控えの選手が勝つことによってチームの雰囲気も上がると思っていました。なので、レース内容は良かったんですけど、やはり勝ちたいというところで勝てなかったのがこのレースの課題でした。

――駅伝はどのようにご覧になっていましたか

 先輩たちもこれまでの成果を出してくれると思って、期待していました。

――6位という結果を受けて、光延選手から見てチームの雰囲気はいかがでしたか

 出雲が終わって全日本の練習に入る時に、4年生からげきが飛んで、チームが変わらなければ全日本では戦えないと感じました。ここでチームの雰囲気はがらりと変わりました。

――練習の質も変わったと感じる部分はありましたか

 練習の質自体は夏合宿から変わっていて、やはり一人一人が一回一回の練習を大切にする気持ちを持てるようになったと感じました。

――全日本は予選がありましたが、その時のご自身の走りはいかがでしたか

 予選の走りはレースプランも守れずに、自分が足を引っ張ってしまって本当に申し訳なかったです。きょねんも(本戦)で自分がブレーキしてしまったせいで予選会に出場することになったので、本当に情けないという思いしかありませんでした。

――守れなかったというレースプランはどういったものだったのでしょうか

 残り5000メートルからが勝負だと言われていたんですけど、通過タイムが設定タイムよりも遅すぎて足を使ってしまって、後半残り3キロから前の集団に付いていけなくなってしまいました。後輩の永山(博基、スポ1=鹿児島実)を頼って先にゴールさせてしまって。先輩として自分が先にゴールしなければいけないのに、本当に申し訳ないという気持ちでした。

――うまくいかなかったレースの後の気持ちの切り替えはどのようにしているのですか

 その時のミーティングでは相楽さん(豊駅伝監督、平15人卒=福島・安積)からげきをもらって。やはり甘えが出ていたんじゃないかなと。私生活でも、練習に対する気持ちの面でも。げきをもらったおかげでそのことに気付けて、その後のホクレン(ホクレンディスタンスチャレンジ)ではベスト更新とセカンドベストを出すことができたので、気持ちの部分はそこで切り替わったと思います。

――相楽監督からはどのような言葉を掛けられたのですか

 レースプランを守るということと、後輩が先にゴールしてお前の気持ちはどうなんだと言われました。そう言われた時は本当に情けないなと思いました。

――自分を見直すきっかけになったということで、やはりこのレースは光延選手の今季の転換点とも言えるのでしょうか

 そうですね。ここから調子も上がってきていますし、1つの試合に対する気持ちも変わりました。前までは不安というか、びびってしまっていた自分がいたので、そこを変えようかなと思ったのも相楽さんからのげきがあったからなので。やはりいま思うとげきをもらって良かったなと思います。

――生活面の見直しもあったということですが、具体的にはどのような点を変えたのですか

 朝練前にいつもより5分早く起きたり、時間にゆとりを持つことから生活面を見直しました。

――その成果は実感していますか

 そうですね。朝練前の時間はストレッチや体操に充ててウォーミングアップもできているので、ケガの予防にもなっています。そのおかげでいまもケガなく練習できています。早くそのことに気付けば良かったなと思いました。

――では全日本本戦についてお聞きします。昨年と同じ5区での起用を聞いた時はどう思われましたか

 夏合宿の3次合宿の時に走りたい区間を聞かれて、きょねんと同じ5区を走りたいと伝えました。その理由を言ったら監督に笑われてしまったのですが(笑)。

――どのような理由だったのですか

 きょねんのリベンジをしてチームに貢献したいと言ったら笑われました(笑)。でも(5区を)走りたいという気持ちをずっと思っていたので、5区で起用された時にはリベンジしようと思いました。

――昨年の全日本から5区への強い思いがあったのですね

 そうですね、初の駅伝であの結果だったので。僕のせいで7位には入れずシード落ちしてしまって、予選会でも足を引っ張ってしまいましたし、ここだけは絶対に外せないと思っていました。

――大学入学後二度目の駅伝でしたが、気持ちの面で昨年との違いは感じましたか

 1年目はやはり初の駅伝だったのでゆとりがなかったというか、緊張でアップもいつも以上に長くやってしまったりと、余裕がありませんでした。ことしは少しずつ慣れてきたので、しっかりと余裕を持ってスタートラインにも立てました。

――今季の全日本では緊張はありませんでしたか

 多少緊張はするんですけど、1年目に比べると緊張はだいぶなくなりました。リラックスして走ることができました。

――駅伝に限らず普段からレース前は緊張するのでしょうか

 大会が大きくなると緊張はします。会場に入った瞬間からしています。

――その緊張はどのように和らげているのですか

 とりあえず他の選手のアップを見て落ち着きます。他の選手も緊張しているということを思いながらアップすると、自分の緊張が和らいできます。

――少し時間が経ったいま改めて全日本の走りを振り返っていかがですか

 最初の5キロは良い入りだったかなと思うんですけど、単独走が初めてだったので少し突っ込み過ぎたなと思います。でもまとめる走りができたとは思います。

――区間4位という結果はどのように捉えていますか

 自分のところで青学さんと東洋さんに離されたというところがやはり悔しいです。そこを縮めていくことと、勝たないといけないとうことを再認識しました。なので4位には満足していないです。

――全日本を終えてチームの雰囲気はまた変わりましたか

 そうですね。前まではチーム内の争いだったんですけど、いまはしっかりと他大の選手を意識することができるようになりました。

――出雲から成長を感じられたレースだったかと思いますが、チーム全体ではこの結果はどう捉えたのでしょうか

 順位としては悪かったんですけど、レース内容は一人一人がしっかりと力を出せたので良かったと思っています。

――直近の上尾ハーフではハーフマラソンのベストを更新しましたが、そのレースは振り返っていかがですか

 レース前は62分台を目標にしていました。ですがレース内容もすごくスローで(1キロ)3分切りくらいのペースだったので、残り5キロくらいからペースアップした時に付いていけなかったんです。悔しいんですけど、まだ夏の成果は出しきれていないかなと思います。

――ここまでのシーズンを振り返って1年時から成長を感じた点はありますか

 練習では余裕があるときは引っ張れるようになりました。でもまだ試合では…特に変わってないと思います。

――練習中に引っ張れるようになったのは先輩になったという意識が働いているのでしょうか

 あまりそういう感じではないんですけど、引っ張ることで自分の競技にもプラスになるので、余裕ができたら引っ張りたいなと思うようになりました。

――先輩になり後輩ができましたが、心境の変化はありましたか

 結果を出さないといけないという責任を感じるようになりました。その思いが全日本予選の時の気持ちにもつながっていると思います。

――後輩のみなさんの印象はいかがですか

 真面目です。きょねん自分は先輩に迷惑を掛けるというかお世話になったので、それに比べるとまだましかなって(笑)。でも表では真面目なんですけど、裏ではわからないです(笑)。

――では先輩方の印象はいかがでしょうか

 自分の学年が上がって、いまの先輩たちを見るとすごいなと思いますね。練習でも積極的に「引っ張るよ」と言っている姿を見るとかっこいいなと思います。

――同期の2年生のみなさんはいかがですか

 自分のキャラがすごいというのもあるんですけど(笑)。みんなキャラが違うので、一緒にいて楽しいですね。話も盛り上がりますし。

――昨年は先輩たちとウイニングイレブンをするのが流行っていたそうですがことしは何かみなさんの間で流行っているものはありますか

 きょねんよく一緒にやった先輩は卒業されてしまったんですけど、時々ウイイレはやります(笑)。でも田口さん(平27スポ卒=現日立物流)がいないので、勝ったときに「ウェーイ」ってやってくれる先輩もそんなにいなくて(笑)。ちょうどこないだの日曜日に田口さんに会って(ウイイレを)やりたいと言ったら、田口さんは負けず嫌いなので「どうせやってもお前は負ける」って言われちゃいました(笑)。

――卒業された先輩との交流はいまでもあるのですね

 競技面で悩んだ時に相談とかもさせてもらいます。良いアドバイスをもらったりしています。

「勝ちたいという気持ちをもっと強く」

全日本では昨年と同じ5区を走り、リベンジを果たした

――昨年度の箱根は補欠ということでしたが、走りたいという思いはありましたか

 そうですね。走って勝ちたいという気持ちはありました。

――出場大学の一員として箱根を見たことは何か変化をもたらしましたか

 入学前からずっとワセダを応援していたんですけど、いざ入ってみると本当に勝ちたいと思うようになりました。入学前は勝ってほしいという気持ちなんですけど、入学してからは勝ちたいと主体性を持って考えるようになりました。それは見る側とやる側の違いかなと思います。

――昨年度のレースはどのような思いで見ていましたか

 きょねんの箱根は、上尾ハーフのタイムからして自分が走っても足を引っ張るだけと考えて受け入れていました。でも(レースを)見ると悔しさとか、すごく感じました。

――光延選手に取って箱根はどのようなものですか

 やはり憧れの場所ですね。自分がワセダに入ったのは箱根駅伝で、ワセダで勝ちたいという理由からなので、箱根は憧れの場所です。

――憧れの箱根で走ってみたい区間はありますか

 地味って言われるんですけど(笑)。4区ですね。

――それはどうしてですか

 やはり最近のレースは山で決まってしまうことが多いので、その前の区間が僕自身は重要だと思っていて。ほかの区間ももちろん重要なんですけど、4区の勢いがそのまま山にいってしまう可能性もあるんで、4区で良い流れを作って5区の山の選手につなぎたいなと思うので4区ですね。

――箱根において、光延選手に求められているのはどのような走りだと思いますか

 やはり一番は攻めるということだと思います。最近の練習は追う練習が多くてその中でも攻めるということを期待されているのかなと。

――ご自分の走りの武器は何ですか

 ピッチで押していくということが武器です。ロードはピッチに合っているのでそれが自分の武器だと思っています。

――箱根ではどのような走りをしたいですか

 理想は区間新記録を狙いたいです。(他大の)同期が区間記録を持っているので。それを見ると悔しいので、自分が塗り替えたいと思います。

――他の選手の良い記録はモチベーションになりますか

 そうですね。特に他大の同期は箱根以外でも、(エントリーがあるか)一番最初に名前を見るので、同期の名前があると負けたくないと思います。

――箱根で意識する他大、選手はいますか

 僕は東洋大の服部弾馬さんですね。きょねんアジアジュニア選手権の時に一緒の大会に出場して、ホテルも一緒で。本当にストイックというか、練習ではすごく真面目で自分が決めたものは全部やって、帰ってくると優しい先輩でした。憧れるというか、そういう選手になりたいなと思いますね。とは言え東洋さんは全日本で青学さんに勝って優勝して勢いがあるので、東洋さんは注目というか、意識しますね。

――ことしの早大はどのようなチームでしょうか

 (ことしのチームは)いままでは自分が結果を出せば良いとか、自分のことだけを考えていたのが、出雲が終わってからやはりチームで勝たなければいけないということに気付きました。そこからはCチームなどの選手も含めてみんなが箱根で勝ちたいという気持ちを持つようになりました。どのミーティングでもそういう話があるので、走るメンバーだけが勝ちたいと思っていてもだめなので、みんながそう思うようになって練習の質も上がってきました。なので集団化していると思います。

――早大の強みは何ですか

 いまメンバーのうち誰が走っても調子が良いことだと思います。層の厚さというか。

――逆にここから残りの期間で改善したい部分はありますか

 やはり自分は距離への不安をなくすことと、勝ちたいという気持ちをもっと強く持ちたいなと思います。

――箱根は楽しみですか、それとも不安や緊張の方が強いですか

 楽しみです!

――では、最後に箱根への意気込みと目標をお願いします

 意気込みはいまの4年生にはとてもお世話になっているので、総合優勝して4年生を胴上げしたいです。自分にできることは、任された区間で最低限の走りをすることだとおもいます。そしてできれば区間賞を狙える走りをしたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 藤川友実子)

箱根への意気込みを書いていただきました

◆光延誠(みつのぶ・まこと)

1995(平7)年7月18日生まれのB型。167センチ、50キロ。佐賀・鳥栖工高出身。スポーツ科学部2年。自己記録:5000メートル13分54秒46。1万メートル29分03秒47。ハーフマラソン1時間03分53秒。箱根への意気込みを色紙に書いていただく際、考えていた言葉が他の選手に使われてしまっていた光延選手。悩みに悩み抜いた末に書いてくださったのは『笑顔』の二文字でした。箱根で快走し、最高の笑顔を見せてくれるはずです!