【連載】『捲土重来』 第8回 柳利幸

駅伝

 躍進を続け、まだまだ伸びしろを感じさせる走りを披露した柳利幸(教3=埼玉・早大本庄)。今季の東京箱根間往復大学駅伝(箱根)は9区で早大記録をマークするなどロードでも実力を示した。しかし、まだ満足のいく走りはできていない。自身に足りないもの、ワセダに足りないもの。それを埋めるための新たな一歩を踏み出した。志高く未来を見据えた柳が目指すものとは――。箱根から約1カ月が経ったいま、その胸の内に迫った。

※この取材は2月11日に行われたものです。

「復路優勝目指してやろう」

冷静にレースを分析した柳

――箱根からおよそ1カ月が経ちましたが、振り返ってみていかがですか

全日本大学駅伝対校選手権(全日本)から予想するとしたら、僕が1区に来るのではないかということが雑誌などでありましたけど、結果、中村信一郎(スポ3=香川・高松工芸)が走りました。先頭と1分以内で仕事はできていましたし、自分としてもちょっと1区は向いていないのではないかということを集中練習くらいから渡辺さん(康幸駅伝監督、平8人卒=千葉・市船橋)と相談していたんです。それで、当日9区を走ることになりました。往路が監督とメンバーが予想していたよりも少し順位が悪かったと言えば悪かったので、そこを復路のメンバーは前日に集まって、「復路優勝目指してやろう」っていう意気込みで走りました。

――途中、明大の木村慎選手と並走する場面がありましたが

ここで一緒に前を追わなきゃ復路優勝もないし、チームの順位も押し上げられないと思って、途中17、8キロまで想定していたペースよりも少しオーバーペース気味だったんですけど、それでもしっかりと前を追えたのは良かったです。ですが、それ以降少し無理していた分が出てしまいました。駆け引きして落とされたというかたちではなくて、結果的に徐々に差が広がっていくようなかたちでした。そこはもう実力不足というか、自分のロード適性が出てしまったのかなと思って。結果的に区間4位。渡辺監督からは「3位以内」ということは言われていましたが区間4位で。早大記録を更新したって言われますけど、所詮今大会では区間4位というタイムなので、そこは少しチームに流れを作れなかったというか、最後田口さん(大貴、スポ4=秋田)に前を追える位置で渡せなかったというのが悔しかったです。

――当日はエントリー変更での出場でしたが、その時の心境はいかがでしたか

(箱根の)1週間くらい前から、「そこの区間(9区)で準備しろ」と言われていたので、当日僕がケガとかしない限り、そこで使うと言われていました。なので、そのイメージだったり心構えとかを準備する期間はあったので、全然プレッシャーとか驚きはなかったです。

――もともと走りたい区間はありましたか

往路は自分の中でも少し意識というか、走りたいっていう気持ちはあったのですが、そこは集中練習とか上尾ハーフ(上尾シティマラソン)の結果を監督やコーチが考慮して決めているので。まず大会の1、2週間くらい前から、往路とそれ以外のメンバーという感じで分けられるんですけど、その往路のメンバーに僕は入っていなかったので、そこでもう往路は走らないんだなと思って切り替えました。

――往路6位という結果を個人としてはどのように受け止めましたか

まず三浦(雅裕、スポ3=兵庫・西脇工)が山下りで区間賞取るということは全然心配していなくて、そこは確実だと思っていました。あとは夏合宿参加していなかったケガ明けの凜太郎(武田、スポ2=東京・早実)と箱根初出場の安井(雄一、スポ1=千葉・市船橋)が、どんな位置で渡されてもしっかりと最後まで勝負できる田口さんに渡せるとようにと思って臨んだ感じですね。

――昨年の走りから成長したと思う点はありますか

経験も積んできたので、ある程度ロードでもそれなりの順位で走れるようになりました。自分の中でのロード嫌いというか、そういう嫌なイメージというのはだんだん薄れてきています。ここからトラックで自己ベストをどんどん更新していければ、それに応じてロードもそれなりにレベルアップするのかなと思っています。いまはすごい前向きにロードでもやってやろうという気持ちがあるので。

――沿道での応援は聞こえましたか

本当に力になりました。毎年毎年、高校の友達が結構走りながら応援してくれるんですけど、本当に元気もらえてうれしいです。

――写真で歯が血で染まっている場面が見られたのですが、何かアクシデントがあったのでしょうか

あー、そうですね。なんか遠目から見たら、歯が抜けてるような感じでしたね(笑)。自分でもわからないんですけど、走り終わった後すごい喉が痛くて、血の味もしました。喉か唇が切れたのかわからないですけど、ちょっと出血はしていました。ちょっと歯が抜けてマヌケな顔みたいな感じに写ってたんですけど(笑)。

――今回の走りはご自身の役割を果たせたと思いますか

70点か80点はできたのかなと。もう20、30点はやはりそのまま木村と一緒に東洋や明大と競り合うかたちで田口さんに渡せたらよかったです。田口さんはすごく力もありますし、そこでまた順位も変わったのかなと思うので。そこの最後の詰めの甘さがちょっと反省点というか、そこが改善すべき点だったと思います。

――総合5位という結果についてはどう思われますか

往路も復路も含めて、走るべき人がしっかり走っていれば、もう少し上に順位を上げて、渡辺さんを胴上げするっていう目標でやっていたので、それに近い結果は出たと思います。当日走ってみないとわからないというので、結果的になかなか走れない人もいました。それも自分たちの実力なので、しょうがないというか現実的な結果だったのかなと思います。

「現実的な結果だった」

――初優勝を成し遂げた青学大についてどのような印象を持たれましたか

監督会議とかの話を聞いて、原(晋)監督(青学大)の『ワクワク大作戦』という、すごい明るい感じの会見でした。青学のカラーとして明るくて元気なカラーとして売っていて。ですが、ワイワイやっている裏では、すごく努力してきているというのが箱根終わってからのレースでもわかりますし。青学の選手の持ちタイム的にもすごく力があるので。今回の7区に小椋(裕介)っていう28分台の選手を持ってこられるというチームの厚みにみんな驚いているのかもしれないですが、やはりそれは当然の結果として、努力した分、優勝というものを獲得できたのかなと思います。

――他大学の印象はいかがですか

やはり駒大は同世代の馬場(翔大)が山で苦労してて。僕は山の区間で応援してたんですけど。まあ全て馬場のせいじゃないですけど、そういうロスがあってもしっかりと総合順位を3番以内にしてくるというのは、やはり駒澤というのは力のある大学なんだなと思いました。東洋も服部兄弟(勇馬、弾馬)であったりとか、アンカーの淀川さん(弦太)が明大に抜かれて渡されて、そこからもう一回抜き返したということで、意地というか泥臭さみたいなものが東洋大にはあるなと思いました。明大は大エースの八木沢さん(元樹)を欠いて、あの結果だったので。やはり自分たちの大学と意気込みに差があるというか、まあそういうのに差があるとは思わないんですけど、やはりどこかしらで、僕たちの足りなかった部分というのが総合順位で大学ごとに出たのかなって。取り組み方の差が出たのかなと思います。

――今回の順位を受けて、さらに上の順位を目指すために今後何が必要だと思いますか

箱根終わって次の日にミーティングをして、自分たちには泥臭さというか競り勝つ勝負強さが他大学の選手に比べると足りなかったのかなという感じでした。ここぞという時に頑張れない、踏ん張れない選手が多いのかなとも思うので、そこをチームとしても、ことしの目標というかスローガンとしては、『泥臭く、一歩でも前へ』ということをみんなで決めて、それを念頭に置いてます。いまみんな立川ハーフに向けて練習を詰んでいるんですけど、そこでそのスローガンというのをしっかりと実現というか結果で示せれば、そこからトラックシーズンに向けて合宿とかもあるので、一つ一つの試合で合宿とか練習で続けていけたら、もっと上の順位も目指せますし、チームとしての総合力というか厚みも増してくると思います。まあそれだけじゃなくて、高田(康暉、スポ3=鹿児島実)だったり僕だったり、主力の選手もそれに応じて、自分たちも対校戦などで結果を出していければ、チームとしても勢い付いて、トラックシーズン、ロードシーズン両方しっかりと良い結果が出せるのかなって思います。

――渡辺監督からはどのような指示や言葉掛けを受けていましたか

「三浦がやったぞ。お前もしっかりと結果を残せ」と言われたのと、やはり下級生がつないできたタスキをしっかりと最後までつなげ、というのは言われました。それだけですね。もうあとは何も言わずに、僕に任せてくれたので。本当に自由にやらせてもらえました。

――今季で引退される渡辺監督への思いは

箱根が終わってからお忙しくて、一回も直接お話する機会はないんですけど。やはり強豪校上がりではないのに最初から面倒を見てくれて、比較的自由にやらせてくれて、それで1年からAチームで合宿に行ったりとか箱根を走らせてくれたりとか、そういうことをやらせてもらえたのは本当に渡辺監督の下だったからこそなので本当に感謝しています。陸上競技人生、僕のこれから先もすごい見えるというか将来もっと高いレベルでやりたいと思わせてくれた監督なので、本当に感謝しかないですね。たまにちょっと、うちの監督面白いというか結構明るい性格なので、そういうところがあるからこそ選手からも信頼されたりするのだと思うので、本当に良い監督だと思います。

「下を向かずに上を向けるチームにしたい」

早大記録を更新し、来季につながる走りを見せた

――最近の練習の調子はいかがですか

先週末に千葉クロカン(千葉国際クロスカントリー)がありました。少し疲れなどもありましたけど、いまは練習を順調に積めていると思います。

――千葉クロカンのレースを振り返ってみていかがでしょうか

悪天候の中でそれぞれ選手の適性というか、走り方だったり、そういうのがかみ合う人もいれば、かみ合わない人もいて。僕はどちらかと言うとかみ合わなかったんですけど。その中でもプラスになるところはいくつか見つけられたので、そんな無駄なレースではなく、収穫のあるレースだったと思います。

――具体的にどのような収穫がありましたか

悪天候の中でもしっかり走れてる人は、やはり周りをよく見てみたら他大学のエース格とかいたので、そういうところの強さが自分としては必要だったかなと。あとは自分の走り方があの中での適性がない走り方というか、フォームをもう少し改善する必要があるんじゃないかなと思うようなレースでした。

――レースプランはどのようなものでしたか

クロスカントリーは最初離れてしまったら、なかなか先頭で優勝争いというのはできないものなので、最初の100〜200メートルで突っ込んで、前半から勝負していって、そこで何かつかめればいいかなというレースプランでした。しかし、僕は300〜400メートルくらいで足を取られてしまって、そこから思うように走れないようになってしまい、最後までなかなか上がりきらないレースでしたね。

――次の大会のご予定は

僕はもう福岡クロカン(福岡国際クロスカントリー)にも出ないし、立川ハーフ(日本学生ハーフマラソン)にも今回エントリーしてないので、そのままトラックシーズンに入ると思うんですけど。おそらく4月の学内記録会であったり、六大学(東京六大学対校大会)であったり、次の試合はそこら辺になると思います。

――いまの時期からトラックシーズンに切り替えるということには何か理由があるのでしょうか

現時点で僕が目標としているのがトラックの種目で、ユニバーシアードと日本選手権の標準を切って、実業団に行った先輩方と勝負したいというのがあって。毎年、立川ハーフは出ていたんですけど、その前後でロードからトラックに以降する時に故障してしまったりして、トラックシーズンに毎年出遅れてしまっていた。なので、そこを考慮してよく考えて相談して、この2、3月はしっかりと練習を積む期間ということにしました。

――新体制になってからいかがですか

いままでと同じことをやっていたら勝てないので、いろいろチーム内でも変えようとしていて、いまは変革の時というか。一からスタートするというかたちでやっています。本当にいまは試行錯誤しながらやっているところで、まだ結果には結び付いてないのですけれど。試合がすぐ来月なので、そのやってきたことが実を結ぶという機会はないのですけれど、ここでしっかり高田を筆頭に新4年生がどんどん引っ張っていって、チームを盛り上げていけたらいいかなと思います。

――上級生となり、ご自身の心境の変化はありましたか

いま寮に4年生の先輩方はもういなくて、僕たちが最高学年となって、きょうから新しい1年生が入ってきたりとかしていて、もう新体制に向けて進んでいるので、そういうのがあるとさすがにもうあと1年を切っているので、残り少ない大学の競技生活を考えると、やはりこの期間でやり残すことをないようにしっかりやろうと思っています。いまは補強だったりとかそういう体幹トレーニングや走りから全部、一から徹底的にやろうかなと思います。最後の一年なので頑張ります。

――高田新主将を同期としてどのようにサポートしていきたいですか

高田はやっぱり競技力もありますし、人を巻き込むというところもあるので。かと言って、それをやり過ぎると高田自身、自分の競技にしっかり集中できないと思うので、そこは最高学年の主力がサポートしていって、高田だけに任せない、最高学年で引っ張っていけたらいいなと思っています。高田も言ってしまうと結構クセの強い選手なので(笑)。そこも考慮して、自分たちでしっかりと作っていっていけたらなと思います。

――その中でご自身の役割は何だと思いますか

普段の寮生活だったりとか練習でもそうですけど、自分が率先してやるべきことをやって。寮生活だったら、しっかりとした生活態度をするべきだと思います。やっぱり上の学年がしっかりしてないと、下の学年もしっかりできないと思うので、そこはしっかり徹底してやりたいです。練習では、最高学年として引っ張るというのと、調子が悪い選手だったりとか、ケガをしている選手に積極的に声掛けたりとかして、そういう人たちがどういう状況であるのかとかどういう気持ちでいるのかというのを把握していって、下を向かずに上を向けるチームにしたいなと思っています。そういうところをいまは意識してやっています。

――最上級生となりチームの要となりますが、トラックシーズンとロードシーズンそれぞれどのような目標を持って取り組んでいきたいですか

トラックはやはりユニバーシアード代表を5000、1万メートルで狙っていきたいです。あと、関カレ(関東学生対校選手権)と全カレ(日本学生対校選手権)でまだ入賞しかしてないので、表彰台狙ってやっていくというのが学生の枠では目標です。やっぱりあとは日本選手権の標準を切って、日本選手権で先輩たちや日本のトップレベルの選手たちと戦いたいです。駅伝シーズンはやっぱり、ことしは全日本の予選会もありますし、そこを通過して、出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)からしっかりと優勝を狙っていけるように。自分もまだ区間賞取ってないので。区間賞取れるようにトラックでまず結果を残して、そこから狙っていきたいなと思います。

――5000メートルと1万メートルでは具体的にはどのくらいのタイムを狙っていきたいですか

一応(日本選手権の)A標準が13分46秒と28分26、7秒なので、そこはまず最低条件として切らなきゃいけないんですけど。自分としては13分30秒台、あと28分10秒台一桁を狙っていけたらって感じですね。青学はやはり28分台前半が何人もいるので、そういうところに対抗できるのが目標です。

――陸上を始めて5年目となりましたが、それまでに柳選手を支えたものとは何ですか

やはり一緒に練習とか生活している仲間であったり、あとは大学の学科の友達だったり、先輩だったり後輩だったり。あとは高校の陸上部とか。本当にいろんな人に支えられてもらったおかげでここまで来れたと思います。自分の力だけではここまで来れなかったと思うので、本当に感謝しています。

――最後に読者の方へメッセージをお願いします

僕たちの学年がいよいよ最高学年となって、相楽監督(豊新駅伝監督、平15人卒=福島・安積)の下、昨年果たせなかったことをしっかりと成し遂げようと思うので、これから一年温かく僕たちのことを見守っていてください。応援よろしくお願いします!

――ありがとうございました!

(取材・編集 須藤絵莉)

◆柳利幸(やなぎ・としゆき)

1993(平5)年4月23日生まれのO型。172センチ、57キロ。埼玉・早大本庄高出身。教育学部教育学科3年。自己記録:5000メートル13分52秒43。1万メートル28分48秒50。ハーフマラソン1時間3分04秒。2013年箱根駅伝8区1時間7分49秒(区間14位)。2014年箱根駅伝7区1時間4分29秒(区間5位)。2015年箱根駅伝9区1時間9分32秒(区間4位、早大新記録)。