第8回は、今季チームで最も成長した選手として呼び声の高い中村信一郎(スポ3=香川・高松工芸)。春先から5000メートルの自己ベストを4度塗り替え、夏合宿後にはついに1万メートル28分台をたたき出すなど、いまや主力としてチームに欠かせない存在となった。アンカー対決に敗れた前回の東京箱根間往復大学駅伝(箱根)。力を発揮できずシード権を失った全日本大学駅伝対校選手権(全日本)。駅伝で味わった人一倍の悔しさを胸に、箱根路でのリベンジに燃える思いを伺った
※この取材は11月26日に行われたものです。
「あの悔しさを思い出しながら練習してきた」
取材に応じる中村信
――箱根まで約1カ月となりましたがいまの心境はいかがですか
集中練習が先週の土曜日から始まって、もうあと1カ月しかないんだなと思うと、本当にあっという間です。
――集中練習はいかがですか
痛いところも全然なく、順調にやっています。調子は良くもなく悪くもなくですけど、順調にきているかなという感じですね。
――集中練習はやはり厳しい内容なのですか
そうですね。やはり合宿並みのきつさにもなりますし。そんな中でも、自分はケガが非常に少ないということが強みでもあるので、プラスアルファで練習をするということもできています。なので、力にはなっているとは思います。
――ケガをしないために心掛けていることはありますか
定期的に治療に行っていますが、それも親の理解があってのことなので。それで、治療に行かせてもらえているというのがあります。それ以外でもマッサージペアといって、いまは田口さん(大貴、スポ4=秋田)とペアを組んでいるのですが、なるべくできる限り自分たちでケアはするようにしています。
――練習以外で気分転換にしていることはありますか
元々ドラマが好きなんですけど、いまの時期のドラマは結構好きなのが多くて。『きょうは会社休みます。』とかも見ていますし、なんかきょねんも同じようなことを言った気がしますけど(笑)。それを見てリラックスというか、気分転換になりますね。
――もう3年生も終盤となりましたが、ここまでを振り返るといかがですか
もう3年生の終わりで、4年生とも最後ということを考えると本当にあっという間でした。もっとやれたんじゃないかという後悔も感じますし、そう感じないためにもやはり一日一日を大切にしていきたいなと思っています。
――「もっとやれたんじゃないか」とのことですが、ここまでの道のりは苦しいことも多かったですか
そうですね。1年目は思うように走れなくて、そんな中でも同級生が日本学生ハーフマラソン選手権で63分台を出していたので。やはり同級生というのが一番悔しかったです。それが励みになったんじゃないかなとは思いますけど。でも、いまは楽しいですね。
――前回の箱根を終えてからこの1年間は、いかがでしたか
やはりあの日体大と争っている場面で負けてしまったのは、本当に悔しかったです。あの悔しさを思い出しながら練習もしてきたつもりなんですけど、全日本では甘さが出てしまったのかなと。でもいまは本当に、きょねんの箱根と全日本の悔しさを常に感じるというか、心に置きながら練習しています。
――練習はできているのに、試合で実力を発揮できないもどかしさなどは感じていましたか
そうですね。いままでは試合で実力を発揮するということができなくて、ずっと悩んでいました。でも夏合宿を経て力が付いて、早大長距離競技会の1万メートルでようやく力が出せたかなというので、全日本で油断してしまったというのはあります。
――ことしも夏合宿は収穫の多いものとなりましたか
そうですね。きょねんも夏合宿で大きく変わることができましたし。ことしはさらに良い内容で余裕を持って、そして距離も踏んでいたので、夏合宿自体は本当に良かったのではないかなと思います。
――「3次合宿で走りの感覚をつかんだ」とおっしゃっていましたが、それはどのようなものなのでしょうか
こういう走りをしたら絶対に行けるというのが、なんだか分かりました。本当に感覚の話なんですけど、どんなに疲れていても離れることはないという感覚がありましたし。それが本当に大きかったです。
――しかし学生三大駅伝の一つである出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)が中止となってしまいました
調子もよく練習もできていてチーム状態も良かったんですけど、なくなってしまって。出雲が月曜日にあって、その後の日曜日に早大長距離競技会の1万メートルがあるということで、選手たちはうまい具合に集中できたのではないかなと思います。ショックだったと思うんですけど、気持ちを切り替えることはできたのではないかなとは思います。
――出雲中止から約1週間後の早大長距離競技会1万メートルでは、見事28分台をマークされました
練習の内容からして、もう出さないと駄目だと思っていました。とりあえず28分台を出せたことは良かったんですけど、本当に引っ張ってもらってのタイムだったので、もう少しいけるんじゃないかなという気持ちもありました。タイムだけ持っていても、やはり勝負の世界で勝てないと意味がないので、そこらへんが難しいです。
――全日本では3区に起用されましたが、この区間の役目としてはどのように考えていましたか
前半区間ということと、1、2、3区が3年生ということで、そこで波に乗るという意味で、渡辺康幸駅伝監督(平8人卒=千葉・市船橋)やコーチ陣からも期待されていたと思います。でも思うように走ることができなくて。結果シード落ちになってしまったというのは、ちゃんと受け止めるべきです。
――思うように走れなかった原因は何だったのでしょうか
すごく湿度は高かったんですけど、本当にそれは全選手一緒のことですし。やはり駒大や東洋大の選手と違うところといえば、絶対勝つという気持ちが他大に比べて弱かったのではないかと思います。それは、その1万メートルで記録が出たことによって、変な自信が付いてしまったというか。本当に油断してしまったのが原因なのではないかなと思います。
――当日の調子はいかがでしたか
調子自体は普通だったんですけど、やはり試合への持っていき方というのが甘かったように感じます。
――最後はフラフラする中で山本修平駅伝主将(スポ4=愛知・時習館)にタスキをつなぎました
本当にもう記憶がないくらいにきつくて。でも修平さんが元気よく笑顔で待っていてくれていたので、なんとしてでもタスキをつながないといけないというのは思いました。
――きついと感じたのはいつぐらいからでしたか
おかしいなと感じたのは中間点くらいからです。体が思うように動かないというか、変な感じがして。そこから無理やり動かしたんですけど、立て直せずに本当にずるずるいってしまったという感じです。
――チームはシード落ちという結果になってしまいました。改めてゴールシーンを振り返るといかがでしたか
アンカーの田口さんがゴールしてきて、泣き崩れている姿を見ると本当に悔しかったです。4年生が最後なので、なんとしてでも結果が欲しかったんですけど。とても悔しかったです。
「練習量を増やすことによってメンタルも一緒に鍛える」
――全日本を終えてから上尾シティマラソン(上尾ハーフ)までの2週間は、うまく気持ちを切り替えることはできましたか
責任を感じるなという方が無理で。やはり責任は感じるんですけど、周りの人がチームだから一人の責任じゃないよと言ってくれたり。あと、本当に声を掛けて一緒にジョグに誘ってくれたりというのがありました。切り替えるというよりか、その悔しい気持ちを練習にもむき出しにできたのかなと思います。本当にもう死ぬ気でやりましたし、それが上尾ハーフでちゃんと走れた結果なのかなと思います。駒大の1年生に負けているのは悔しいんですけど。
――上尾ハーフを迎えるにあたって自信と不安、どちらが大きかったですか
いや、もう不安の方が大きかったです。でも監督コーチから、「もう気にしなくていいからどんどん積極的に行け」と言われていました。積極的に行くということが僕には足りないところであって、今回は失敗してもいいから本当に積極的に行ってくれということで。その指示通り先頭に立ってずっと引っ張ることができましたし、そういう意味では本当に収穫のあったレースでした。
――具体的にはどのようなレース展開だったのでしょうか
最初から先頭集団の前の方に居て、10キロ過ぎに先頭集団が4人に絞られてからは、16、17キロぐらいまで先頭集団の前に立って引っ張りました。でもラスト3、4キロで、前の上位3人と力の差が出てしまったかなという感じでした。
――その力の差というものは、今後どのように埋めていきたいですか
練習自体は本当にできているんですけど、監督コーチと話して、もっと練習を増やそうということでやっています。この前初めて35キロも走りましたし。練習量を増やすことによってメンタルも一緒に鍛えられればなと思います。
――いま現在、練習量を増やしてやっているのですか
無理ない範囲で、増すことができる時に増やすという感じでやっています。本当に故障しないことが強みなので、そこをうまく利用して練習しています。
――上尾ハーフ後に監督コーチや、応援している方から掛けられた言葉はありますか
監督コーチ陣からは、エンジでちゃんとあとは走るだけというのは言われました。他の応援してくれている人も、全日本はああいう結果に終わってしまったんですけど、一生懸命精いっぱい応援をするからねと言ってくれるので非常に心強いです。
――全日本の前後で、自身が変わったところはありますか
性格が性格なので、練習でも試合でも少し抑えめになってしまう部分がありました。それが駄目だったのかどうかは分からないんですけど、やはり全日本がシード落ちという結果に終わってしまって、とても悔しい思いをしたので。違うところといえば、本当に闘志をむき出しにしてガツガツといっているところかなとは思います。
――全日本の悔しさがあったからこそ、箱根への意識は強まりましたか
そうですね。やはりなんとしてでも結果が欲しくて、優勝というのを目標にして4年生を中心にやってきたので。もう本当に4年生と最後なので、なんとしてでも結果を求めていきたいなと思います。
箱根は「ガツガツと積極的に行きたい」
全日本では悔しさを味わった中村信。並々ならぬ決意で箱根へ挑む
――ここまでこの1年間のお話を伺ってきましたが、最も印象に残っていることは何ですか
やはり、この1年間は箱根でも全日本でも笑顔で終われていないということが本当にずっと残っています。だからこそ笑顔で、みんなで笑って終わりたいという気持ちが強いです。
――箱根、全日本で悔しい思いをされて、分かってきたことなどはありますか
きょねんから練習はできているんですけど、結果が出せないのが現実であって。本当に試合が全てということも感じます。やはり箱根で勝ってからじゃないと全日本のリベンジができたねとは言えないので。いまは本当にチーム内でも危機感を持ってやっていますし、そういう意味では良い練習ができているのではないかと思います。
――走り続ける上での信念、モチベーションとなるものは何ですか
本当に練習ができているというのを自信にして、試合で走るしかなくて。練習ができていないと不安ですし、そういう意味では練習だけはできているので、そこを自信にして試合では走っていかないといけないなとは思います。
――箱根で最後となる4年生への思いを聞かせてください
1個上ということもあって、入寮してから本当にずっとお世話になっていて。一番ご飯にも連れていってもらいましたし、一番ジョグも一緒にしましたし、そういう意味では本当にお世話になっているので。恩返しというか、本当に笑って終わってもらいたいなと思います。
――先ほどおっしゃっていたマッサージペアでもある田口さんとはやはり仲も良いのですか
そうですね。休日も一緒にどこかに出かけたり、普段も一緒に居ることが多いので。そういう意味では全日本のゴール後の姿というのは、とても悔しかったというか。田口さんの姿を見ると、なんとしてもやらねばならないというのはあります。
――同期はどのような存在ですか
同期は本当に仲良い感じなんですけど、みんな負けず嫌いなので、そこが切磋琢磨(せっさたくま)してできている良いところなんじゃないかなと思います。やはり練習でも特に同期には負けたくないというのはありますね。
――箱根が終わったらついに最上級生となりますが、そういう意味では気持ちの変化などはありますか
それぞれ学年内で役割があるんですけど、僕の場合はガツガツ引っ張っていくタイプではないんですけど、しっかりと周りを自分たちの目標を共有していく立場というか。そういう役割で、他の下級生も巻き込んでいくことができればいいなと思っています。僕はそういう感じかなと思います。
――箱根に向けて意識していきたいことは何ですか
本当に攻めていきたいなと。いままで消極的だった部分があるので、攻めていきたいです。周りの選手にしっかりと声をかけつつ、全員で良い練習ができるようにしていけたらと思います。
――箱根で何区を走りたいというのはありますか
何区走りたいというのはあんまりないんですけど、復路で走りたいというのはあります。いや、でも往路ということになっても積極的な走りをするだけだと思います。
――箱根ではどんな走りをしたいですか
そうですね、やはりガツガツと積極的に行きたいです!なんか顔も弱々しい感じなので(笑)、本当に闘志をむき出しにしていけたらいいなと思います。
――今後の集中練習はどのように取り組んでいきたいですか
とりあえず一番大事なのは、ケガをしないで無事に練習をするということと、やはり練習強度が上がってくると免疫力も下がってくるのですが、風邪に気を付けることはできるので。やらないといけないことはちゃんとやらないといけないと思っています。また練習をただやるわけではなく、うまい具合に消化しつつ、プラスアルファで入れていけたらいいかなと思います。
――箱根に向けて意気込みをお願いします
本当にリベンジという気持ちだけです。とりあえず悔しさを晴らしたいです。
――最後に読者の方に向けてメッセージをお願いします
本当に沿道で応援してくれているのはちゃんと聞こえていて、本当に力になりますし、ワセダの応援というのは特別なんです。他の大学だと全然耳に入ってこないんですけど、本当にワセダは気付けるというか。本当に心強いので、箱根でも応援してください!
――ありがとうございました!
(取材・編集 加藤万理子)
箱根への意気込みを書いていただきました
◆中村信一郎(なかむら・しんいちろう)
1993年(平5)4月14日生まれの。174センチ、57キロ。香川・高松工芸高出身。スポーツ科学部3年。自己記録:5000メートル14分06秒00。1万メートル28分56秒00。ハーフマラソン1時間02分30秒。箱根が終わったらしたいことを尋ねると「いろんなところに行きたい」と答えてくれた中村信選手。大好きな温泉や、スヌーピーの居るUSJなどを挙げてくれました。