【連載】『逆襲』 第1回 渡辺康幸監督

駅伝

 第1回は渡辺康幸駅伝監督(平8人卒=千葉・市船橋)。学生三大駅伝のうち一冠を掲げ挑んできたことしの駅伝シーズンは、なかなかベストメンバーが組めず厳しい戦いが続いている。これ以上負けが許されない中、チームの現状と課題をどのように捉えるのか。リベンジの箱根に向け、王座奪還への意気込みを伺った。
 

※この取材は11月24日に行ったものです

「120%のオーダーが組めたときに、素晴らしい結果が待っている」

取材を受ける渡辺監督た

――現在のチーム状況はいかがですか
 きょうから集中練習が始まって、練習自体は例年と同じ流れではできています。しかし、毎年ここから、どうしても故障者が出てきます。層が薄い中で、故障者が出るという状況をどうするかということですね。出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)と全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では故障者が出てベストメンバーが組めずに負けてしまいましたし、何とか乗り切りたいと思います。

――故障者はどれくらいを想定されていますか
 0人だったら一番いいなと思います。しかしそれだけ負荷をかけた練習をしないとやはり優勝には近づけません。選手寄りの練習になってしまうと優勝は遠ざかってしまうので、そのあたりは心を鬼にして練習をやらせるつもりです。

――ワセダは層が薄いことが長年の課題ですが、どのような対応策を取っていますか
 インフルエンザや風邪などの予防はもちろん、故障しないような体力づくりなどで、練習以外のところでの気は遣っていますね。

――無冠に終わった昨年度駅伝シーズンから、この1年間どのように強化されてきたのでしょうか
 うちはやはり練習量をこなさないと、箱根でスタミナ勝負になったときに負けてしまうので、気を付けてはいます。しかし相手が東洋大、駒大というのは非常にやりづらいですね。なぜかと言うと、同じようなタイプのチームが3つ並んでいるからです。スピード駅伝スピード駅伝と言いながらも、やはり練習量は年間通じてやっているチームです。その中でのたたき合いなので、やはりうちは120%の体調でいかないとこの2つとやりあうというのは厳しいと思います。うちはどうしても選手層が薄いので、故障者が出たときにどれだけ補える選手が出てくるかということも重要になってきますね。ただうちのチームの良いところは、先頭を走らせたら必ずみんな3割増しで走るという点です。短いよりは長い駅伝の方がうちとしては戦いやすいということもありますし、箱根ではそれらの点を味方に付けて戦いたいなというのはありますね。

――昨年の箱根後には、「伝統的なワセダの練習を一度壊してでも勝ちにいかなければいけない」とおっしゃっていましたが、具体的に改善された点はありますか
 スピード練習に例年以上にウエイトを置いて、トラックのタイムの底上げを図った点ですね。1万メートルだと、いまはもう28分台は当たり前です。恐らく駒澤さんなんかは28分30秒ぐらいで10人走るのではないでしょうか。それを考えると、うちもそれに近いくらいのタイムでいかないとやはり10時間台は厳しいですよね。そこのところは夏の合宿に入るまでに、自分の中では気を遣いながらやってきたつもりです。伝統的なワセダの練習はどちらかというとスタミナ勝負で、ロードでしっかり距離を踏む傾向にありました。その中で、スピード練習のウエイトを少し重くしてきているというのはありますね。

――それでもなお、ことし出雲と全日本で敗れた原因はどこにあるとお考えですか
 ただ単にベストメンバーが組めなかったということに原因があると思います。主要選手の油断などですね。しかし、どこのチームも練習を積めば故障者は出るでしょうし、出雲や全日本を見ても、駒澤や東洋がベストメンバーを組めていたかというとそうではありません。その中でチームを組みながらも成績を残しているわけです。ワセダは層が薄い分厳しいですが、1月2・3日で120%のオーダーが組めたときに、素晴らしい結果が待っているのではないかなと思います。

――駅伝で求められるのはどのような選手でしょうか
 選手には1人で走った方が良いタイプと、一緒で走った方が良いタイプがいます。しかし、駅伝ではほとんどの区間で、1人で走る可能性が圧倒的に高いです。ここが駅伝の難しいところなのですが、それを考えるとやはりまず1人で走れる選手をつくるということですね。それから、やはり自分のペースが守れるということは大事です。ペース感覚のない選手というのはやはり駅伝向きではないということですね。

「例年通り4年生のチームを作りたい」

――今季エースとして活躍している大迫傑選手(スポ3=長野・佐久長聖)の調子はいかがですか
 大迫に関しては、出雲でこそああいう結果に終わりましたが、心配はしていません。彼は天才肌なので、余計なことはさせずにある程度自分の流れの中でやらせています。もちろんある程度はみんなと合流して一緒に練習はさせますが、やはり彼は他の選手と力が違うので、全部が全部同じメニューというわけにはいきません。試合が近くなってからは別の流れでうまく動きづくりをさせるというかたちで3年間やってきていますね。

――大迫選手なりの流れというのは、具体的にどのようなものでしょうか
 彼は疲れを残す中でスタートラインに立ってしまうと良い走りができないので、そのあたりは考慮しています。他の選手の6~7割くらいの練習でもしっかり結果は出せますし、全部が全部これをやらなくてはいけないと決めつけることはしません。彼には彼なりの調整方法があるので、ある程度は彼の意見を尊重しています。ただやはり駅伝はチームプレーなので、すべてにおいて自分勝手にやるということは許されません。そこのバランスは考えながらやっています。

――チームのための練習、また大迫選手自身の将来を考えた練習と、現在の大迫選手のための練習については、どのように折り合いをつけているのでしょうか
 いくら天才肌とはいえ、練習をしなければ強くはなれません。しかしかと言って逆にやりすぎるのも良くないと思っています。その点で彼は私とタイプが似ているので、彼の気持ちはわかりますね。箱根駅伝は20キロですが、彼が次にオリンピックで狙うとしたら、やはりトラックでの1万メートルか5000メートルでしょう。恐らくその後マラソンとなっていくのだと思いますが、在学中、僕は彼にマラソンを教えるわけではありません。まずはしっかりとトラックの中で、学生記録、あるいは日本記録を目指させたいと考えています。駅伝についても、あくまで通過点というような意味合いでやらせていますね。

――大迫選手と渡辺監督の意向はうまくマッチしているのでしょうか
 お互いが歩み寄っているかたちで、うまくバランスは取れていると思います。やはりチームがありますので、その点は選手主導ではなく監督やチームに合わせるということも必要です。一方で個人競技でもあるので、彼のように個性が強いというのも僕は尊重したいと考えています。そのあたりはバランスが大切ですね。

――平賀翔太選手(基理4=長野・佐久長聖)についてはいかがですか。国際千葉駅伝での走りは例年の選手と遜色ないものの、駒大の窪田忍選手には1分の差がついてしまいました
 平賀は、特に手間がかかるわけではありません。ただ、どうしても他の選手より学業に時間を割く必要があるという点で彼の場合はカベがあるので、自分のペースでやらせています。卒論が1月ということで11~12月は比較的余裕があるようなので、ここからは箱根駅伝に集中できるかなと思っています。彼は練習に集中できる環境があれば必ず走る選手なので、やはり睡眠をきちんととって、環境や状態を整えてほしいです。最後の箱根ですし、ここでしっかり走り込んでもらいたいですね。その上で、ことし一度走っているびわ湖毎日マラソンを走らせるつもりです。本人もやりたいと言っていますので、やらせる方向で考えています。

――もともとロードに強いと言われていた平賀選手ですが、日本学生対校選手権(全カレ)の1万メートルで3位入賞を果たすなど、ことしはトラックでの活躍も見られました。平賀選手の強みとはどこにあるのでしょうか
 平賀は、もちろんロードには強いです。しかしアップダウンがあまり得意ではないので、箱根では2区に起用しているものの、彼の特性にあったコースなのかなという点では少し疑問がありますね。たまたま2回走っているのでことしもそうなのかなとはなっていますが、練習の全体的なバランスを取りながらその点も考慮して、彼の区間を決めていきたいなと思います。

――先日の上尾シティハーフマラソン(上尾ハーフ)でも好走した、前田悠貴選手(スポ4=宮崎・小林)は調子を保っているようですね
 もう4年生ですし、彼は頑張ってくれないと困りますね。去年と比べても主力の層ではまだ柱が残っているので、彼が主要区間にくることによってチームのバランスが取れてくるのではないかなと考えています。ことしはトラックでも1万メートル、5000メートルと自己ベストを出しているので、勢いもあると思いますね。

――駅伝でも、全日本では区間賞の走りを見せてくれました
 唯一の区間賞でしたので、チームには刺激になったと思います。本来彼は別の区間に入る予定だったのですが、チーム事情で直前につなぎ区間の6区になりました。最近はそのような状況でもしっかりと自分の力を出せるようになってきているので、その点はすごく成長していますね。

――一方で佐々木寛文選手(スポ4=長野・佐久長聖)や志方文典選手(スポ3=兵庫・西脇工)といった主力の調子が戻りません
 もちろん、佐々木、志方、ここが戻らないとチームとしてうまく回っていきませんし、当然私もかなり気は遣ってやっていますね。

――上尾ハーフでは、佐々木選手は15キロ以降のスタミナが課題であるとおっしゃっていました。箱根は 1区間が約20キロになりますが
彼はもともと、長い距離に対しての順応能力がそこまである方ではありません。上尾では、練習の様子を見て、15キロまでいってそれ以降はスタミナ切れしてもいいという指示を出しました。スタミナという点に関しては、これから1カ月、去年と同じような流れで補っていくというような感じですね。練習は積ませますが、スピードを生かせる区間配置になると思います。

――主将として見た佐々木選手はいかがですか
 出雲で外したことがすごくプラスになっていて、いまはうまくチームをまとめてくれています。自分がこのままではいけないという意識が生まれたということだと思いますね。

――志方選手は全日本の前に捻挫をしてしまったということですが
 トップアスリートであれば、どういう理由であれきちっとスタートラインに立ってほしいとは本人にも言っています。彼のいままでの実績からすれば、駅伝では主要区間を走らなくてはいけないし、トラックでもしっかり結果を残さなければならない。高校時代の実績で言えば、大迫と変わりません。ですからもう少し頑張ってほしいなというのはありますね。彼が戻ってくることがとってチームにとってプラスになるのは間違いありません。

――志方選手の走りから、大迫選手や山本修平選手(スポ2=愛知・時習館)への焦燥感や対抗意識を感じることはありますか
 そのような想いはあると思います。僕としてもやはり常に大迫や山本に対するライバル心は持っていてほしいですね。ですからこのまま、離されてしまったからいいや、とは思ってほしくありません。やはり同じ学年である以上はライバル心を持ってやってほしいというのはありますね。彼は本来1人で淡々と練習していて表に感情を出さないタイプなので、何を考えているのかわからないところもあるのですが、もういまこの時期になって故障だの走れないだのと言っている余裕もないでしょうし、ことしはもう箱根しかありません。箱根できちっとスタートラインに立てなかったら、その後のロードシーズンやクロスカントリー、トラックシーズンにマイナスになるとも思いますし、何が何でもスタートラインに立ってほしいですね。

――即戦力として期待される1年生の中では、高田康暉選手(スポ1=鹿児島実)と柳利幸選手(教1=埼玉・早大本庄)の活躍が目立ちます
 高田はまだ距離適性がないので、何回も長い距離を走らせる中で、体で覚えさせる必要があります。柳はどちらかというと1人で走れるというタイプではありません。そのために全日本でも1区で使って試したというのはありますね。箱根では1年生を2人使うとうことはないと思うので、柳と高田でうまく競り合ってもらって、どちらか1人を使うということになると思います。

――高田選手は試合で力がなかなか発揮しきれないともおっしゃっていますが、具体的にどのような点でそのように感じますか
 全てですね。彼は高校時代の実績もそうですし、練習に関しては100点の選手です。しかし強い選手というのは、スタートラインに立ってからそれを何パーセント出せるかによって全てが決まると思うんですよね。その点に関しては本人もすごくよくわかっていると思います。上尾ハーフでも絶対に負けてはいけない相手である柳に負けてしまいましたし、そこのところの悩みは多分本人の中にもあるでしょう。まだ1年生ですから、これからもっと経験を積めばきちっと練習が積めるはずなので、結果は絶対に出ると思います。間違いなく1年生の中ではエースですし、それが素直に結果に結びつくようになってほしいです。

――そこに辿りつくまでにはどれくらいの時間が必要でしょうか
 練習では走る選手なので、自分でも何で走れないんだろうと試行錯誤しているとは思います。その中でなぜ走れないのかという理由が自分でもわかってくるはずです。こちらも1年間見てきて、たとえば練習の前の調整など、走れない原因ではないかと思う点が出てきています。その、彼が思う原因と私たちが思う原因が一致した時に、多分結果が出てくるのではないかなと思っています。箱根までもお互いその部分の意見を交わしながら進めていきたいと思いますね。

――柳選手は駅伝経験が少ないのが気がかりです
 経験不足という点も考慮して、全日本では思い切って1区に起用しました。駅伝初出場であの区間で力を出せというのはとても難しいことですし、僕の中では本人は頑張ったと思います。きちんと練習を積ませて次に駅伝で使うときには、全日本でのブレーキが必ず生きてくると思いますし、すごく期待値は高いですね。

――昨年、山本選手のブレーキを受けて、「1区で1年生を使うようでは勝てない」とおっしゃっていました。それでもなお、ことしも1年生を1区に起用した理由は何でしょうか
 志方の直前の故障で、区間の突貫工事になってしまったというのが全ての原因ですね。そういうことがあると勝てないということに尽きます。柳が悪いわけではないので、チームとして責任は取りなさいということで全体には伝えました。決してそれで柳を責めることもないですし、彼がした経験は逆にプラスになるのではないかと僕は思っています。

――昨年の箱根を走った10人のうち8人がまだチームに残っています。渡辺監督自身が「骨格」とおっしゃるその8人の状態を総括していかがですか
 8人の中で8人ともスタートラインには立ってほしいとは思います。しかしそれ以外にも、夏合宿以降何人か面白い選手が出てきています。その選手たちも含めた13~14人でしのぎを削りながら、一番調子の良い選手を2・3日で使うというのが一番の理想ですね。

――ことしのワセダはどのようなチームですか
 これは例年通り4年生のチームというのを僕はつくりたいと思っています。やはり下級生の力に頼るようだと絶対に優勝はありません。ことしは、特に4年生がそろっている駒澤さんや、また東洋さんも上級生のまとまりがすごくあるんですよね。それを考えるとうちも負けないような結束力を作っていかなければいけないと思いますね。うちの4年生にもそれだけの意気込みはあると思うので、卯木(研也主務、スポ4=石川・星稜)と佐々木を中心に、もっともっと結束力を固めてかたちにしていきたいですね。

「往路優勝ではなく総合優勝の為に」

力強く抱負を書いていただきました

――現段階で描いているレースプランはありますか
 こうなればいいな、くらいに思っていることはありますが、この時期に思い描いている区間配置に、この8年間なった試しがありませんし、いまの段階では具体的には何も考えていません。いまの段階でそれを考える必要はあるのかなと思います。大抵の場合、現状でそれを考えても何もプラスになりません。練習をしていく中で、まず12月10日に16人をエントリーして、その後チームの状況を見ながら少しずつ主要区間を当てはめていきます。どういうかたちでいこうかなというのが12月20日頃から大体見えてくるかなという感じですね。練習の消化具合やその選手のポイントを見つつ、その結果青写真ができ上がるということですね。青写真ありきではなく、選手ありきで青写真ができるということです。

――箱根でカギを握る区間はありますか。またキーマンがいればお聞かせください
 山上りと下りですね。ここは例年以上に気を付ける必要があると思っていましたし、年間を通じて山上りというのは頭の中に入れておかないといけません。柏原くん(竜二、富士通)が抜けたからといって強化をしないというのは間違っていると思います。やはり平地がどんなに強くても山で区間2桁だとブレーキになるので、そのようなことはないように、できればやはり区間賞を獲って流れをつくりたいというのはありますね。そういう点では山上り、下りをする選手がキーマンであり、5区6区がカギを握る区間であると言えると思います。

――昨年は山での走りが仕切り直しになる7区も重要だということで、佐々木選手を起用されていました
 ことしも置ければ置きたいですね。それくらいのチーム状況でないと優勝争いには絡めないということでもあります。やはり東洋や駒澤は7区に設楽(悠太、東洋大)とか上野(渉、駒大)を使ってきますから、油断はできません。結局は、つなぎ区間はないということですね。

――あと1カ月でできることは何でしょうか
 まずもう練習することは当たり前、危機感を持って、1日1日大事にしていきたいと思います。他にはやはり伝統というか、ワセダ魂などの先輩たちが築き上げてきてくれたものは、いままで通り胸に刻みながらやっていきたいと思います。あとはやはり応援してくださる方たちに感謝の気持ちを持ち続けたいということですね。もちろん、なぜ出雲と全日本で勝てなかったのかということを反省しながら、やはり優勝を目指してやっていきたいと思いますね。

――最後に箱根に向けた意気込みをお願いします
 1年間優勝するためにやってきていますから、往路優勝ではなく総合優勝の為に、あと1カ月しっかり頑張ります。ワセダを背負うわけですから、恥ずかしくないような結果を残したいと思っています。選手には、1年間やってきたことを素直に出してほしいですね。これを10人全員が100点にできれば勝てるでしょうし、それをやるために私たちは彼らをサポートしていきたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 深谷汐里)