【連載】『逆襲』 第7回 大迫傑 

駅伝

 第7回はワセダの絶対的エース大迫傑(スポ3=長野・佐久長聖)。今季はあと一歩のところでロンドン五輪出場を逃したものの、1万メートルで自身初の27分台を記録、日本選手権1万メートルでも2位入賞を果たすなど学生の域を超え活躍を続けてきた。自身の成長を大切にする中で、来季の駅伝主将就任が決定。エースの心境にはどのような変化が生まれたのか――。

※この取材は12月8日に行ったものです

「わくわくした気持ちもすごく強かった」

ワセダの絶対的エースとなった大迫

――集中練習が始まって2週間が経過しました。現在の調子はいかがですか
問題なく練習もできているので、悪くはないですね。

――きょうはどんな練習をされましたか
きょうは30キロの距離走でしっかり距離を踏みました。

――チーム全体の状況はいかがでしょうか
みんながある程度まとまっているので、非常に良い状態で練習できていると思います。

――トラックシーズンをご自身で振り返って、どのような印象ですか
結果として五輪には行けなかったですし悔しいレースでしたけど、次の年につながるレースができたので、その点では良かったかなと思います。

――『自然体』を目標に掲げていましたが
力まずというか、大事な年ですけどあまり気負わずにいこうというつもりで書きました。

――今季は千葉国際クロスカントリー、福岡国際クロスカントリーでの好成績からスタートしました
クロカンは練習の一環として走ったんですけど、二つで日本人トップを穫れたことは自信になりましたね。

――その後の兵庫リレーカーニバルでは思うようなレースができなかったのでは
そうですね。体調もありましたけど、もっとこういう練習が必要だとかそのあとにつながったので、そういう点では良かったと思います。

――ゴールデンゲームスinのべおかの出場を決められたのはいつ頃でしょうか
もうずっとあの大会で記録を狙うと決まっていました。A標準(五輪参加A標準記録)は切れなかったですけど、日本選手権で優勝すればと望みはつなげたかなと思います。

――その翌週、関東学生対校選手権(関カレ)5000メートルで優勝されました
日本選手権前の調整というか勝たないとという気持ちもありましたし、1500メートルに出場していなかったので、しっかり1位を獲ってチームに貢献しなきゃいけないなとも思っていました。結果として両方できて良かったなと思います。

――そして迎えた日本選手権。やはり緊張はされたのでしょうか
そうですね。やはり大事な試合の前でしたので緊張はありました。でもチャレンジャーでしたので、わくわくした気持ちもすごく強かったですね。

――レース内容に関してはいかがですか
終わったことでしたので、来年も世界選手権がありますしそこに向けてという気持ちで、その日のうちには気にならなく…気にしなくなったわけではないですけど、来年頑張ろうという気持ちを持つことができました。

――周りの人から声をかけてもらうことはありましたか
周りの人の方が結構長くまで気を遣ってくれていたので…。気を遣ってというか「立ち直ったか」みたいに聞いてくださって、逆に申し訳ないなという気持ちがちょっとありましたね。

――ロンドン五輪への挑戦を通して学んだことや得たものは何でしょうか
ロンドン五輪を見て思ったのは、B標準で(五輪出場を)狙うことは狙ったんですけど、やはりそれではダメだなと。もうちょっと上のレベルで、A標準は当たり前に切って当たり前に日本選手権で優勝して五輪に出ていかなければならないなと思いました。

――ディーン元気選手(スポ3=兵庫・市尼崎)が五輪の舞台で活躍されているのはご覧になりましたか
僕が行けなかった舞台に立っていたので、僕も頑張らなきゃいけないなと強く感じましたね。

――五輪後、ディーン選手と何か五輪についてお話はされましたか
合宿中でしたのであまり聞けなかったんですけど、しっかり結果を残してきたということは聞いていたので、それが僕自身の力にはなりました。

――大迫選手が五輪出場を目指す姿が部内に刺激を与えたのではないでしょうか
どうですかね…。残念だったねという言葉はよくかけてもらったんですけど、自分の姿が部内に良い影響を与えられたのであればうれしいです。ただ自分ではよくわからないですね(笑)。

「僕は僕の結果を出すだけ」

全日本では区間新の好走をみせた

――今季はトワイライトゲームスで1500メートルの自己記録を大幅に更新されましたが
力がついてきたというのもありますし、1500メートルに関しては、レースによってはまだまだタイムが出るなと感じています。当時は調子も良かったですし、昨年に比べて力がついていたというのがやはり大きいと思いますね。

――夏は海外遠征に行ったり実業団の合宿に参加したりとチームと別メニューでの練習が多かったのではないでしょうか
そうですね。ただ今季はずっと一人で練習をしてきたので、夏に関しても場所と周りの人が変わっただけで僕の中ではそんなに変化はなかったなというのが正直なところですね。

――初めて記録を狙う海外遠征に行ってみていかがでしたか
あれだけ狙いにいって記録が出なかったのは非常に残念だったんですけど、ああいうレースを経験できたのは良かったです。

――日本のレースとどのような点で違いを感じましたか
まずはレベル自体が全然違いますね。先頭についていけば日本記録も狙えるレベルですので、そういうレースにどんどん出てきたいなということは感じました。

――競技レベル以外の点でも違いを感じることはありましたか
そうですね、レベルの高いレースに出場する機会が海外の選手の方が多いんじゃないかなと。その点でちょっと遅れをとっているのかなと思いました。

――海外の高いレベルを実感できたことが、海外遠征での最大の収穫ということでしょうか
はい、そうだと思いますね。

――岩手で行われた3次合宿からチームに合流されたと思うのですが、合流してみて何か気付いた点はありましたか
あのときはあまりチーム状態が良くなくて非常に暗い雰囲気を感じたんですけど、合宿後半になるにつれてみんなの調子も上向きになってきて、明るい雰囲気になったので、合宿の中でチームの状態が良くなっているんだなということは感じました。

――来季の駅伝主将就任が決まっていますが、いつ頃から話し合いをされたのでしょうか
10月くらいですかね。監督たちは全くそこには介入しないかたちで、選手だけで決めました。

――3年生だけで集まって、ということでしょうか
そうですね、はい。最初に全体主将を決めて、それぞれのブロック長を決めていきました。

――大迫選手は全体主将にも名前が挙がっていたとうかがったのですが
はい、そうですね。でも早川(恭平、スポ3=長野吉田)自身やりたいと言っていましたし、早川ならチームをうまく引っ張っていけると思ったので、ディーンや僕がやるよりうまく回るんじゃないかなと思ってそうなりました。

――駅伝主将に関してはすんなり決まったのですか
他にいないということもありますし、長距離ブロックに関しては僕が引っ張っていくのが一番回りやすいのかなと思ったので。

――大迫選手は世界を目指す中でチームを空けることもあるかと思いますが、目指す主将像などはお持ちですか
(僕が)いないからといってチームがだれてしまうようなことは大学生ですのでないと思いますし、結果でチームを刺激していけるような存在でいられればいいかなというのはありますね。

――佐々木寛文駅伝主将(スポ4=長野・佐久長聖)の姿を見ていて感じることや学ぶことはありますか
いろいろ苦労をされてると思うので、どういう部分で苦労したのかということを聞くと僕たちの学年ではこうしてみようという考えにつながります。そういうことを話すことは多いですね。

――大迫選手から見た佐々木駅伝主将はどのような主将ですか
非常に責任感が強くて、自分で引っ張っていくという意思が強いので、そういう意味で来年チームを引っ張っていく面でも学ぶことが多いというか、非常に参考になります。

――来季の駅伝主将就任が決まってから「周りをもっと見なきゃいけない」とおっしゃっていましたが、具体的に気付いた部分や感じたことはありましたか
小さいことはいろいろあるんですけど、それはそれでちょっとずつ変えていけばいいかなと思っているので、まずは自分の結果をしっかり出すということがチームのために一番僕がやらなきゃいけないことじゃないかなと感じています。

――山本修平選手(スポ2=愛知・時習館)がここまで成長できたのは大迫選手の存在が大きかったとおっしゃっていました
一人で練習をしている姿や結果を見て頑張ろうという気持ちになってくれることはうれしいです。全員にそう思ってほしいし、全員にそういう刺激を受けてほしいですね。僕自身も上を目指していかなきゃいけないのは当然なんですけど、下の学年でも僕の学年でもそういった刺激を受けてほしいとは思います。

――先日の国際千葉駅伝でも日本代表として走られて、いまや日本学生界というよりは日本のエースに近づいてきているのかなという印象を受けます。ご自身ではどのように感じていらっしゃいますか
世界で戦うにはまずはそういう存在でなければならないと思っています。まだまだそういう意味では力が及ばないですけど、どんどん来年に向けてしっかり準備をして力をつけてそういう存在になれたらいいなと思います。

――渡辺康幸駅伝監督(平8人卒=千葉・市船橋)や相楽豊コーチ(平15人卒=福島・安積)と接する中で、ご自身に対する反応や期待に変化が生まれたなと感じることはありますか
ワセダのエースというのは自分自身あまりこだわりのない部分ですので、期待していただけるのはうれしいですけど、僕は僕の結果を出すだけですね。誰かが期待しているからとかではなくて、自分のためにしっかり頑張ろうと思っています。駅伝に関してはもちろんチームのためですけど。

「120%の力を出す準備をするしかない」

――夏まではトラック中心の練習だったと思いますが、駅伝シーズンへの不安などはありましたか
あまり不安とかはなくて、秋シーズンになってからみんなと同じ練習を余裕を持ってこなせれば、長い距離でも難なく走れるんじゃないかなと思っていました。

――出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)のレースを振り返っていかがですか
全部が全部うまくいくレースではないので、チームには迷惑をかけてしまいましたけど、自分の中ではそんなに気にしてはいなかったです。次頑張ればいいやという気持ちでしたね。

――その言葉通り、全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では区間新記録の好走でした
もらった位置も良かったので、タイムも良くて、最低限の走りはできたんじゃないかなと思っています。

――昨年と出雲に関しては腕時計をされていなかったと思うのですが、全日本から腕時計をされているのは何か心境の変化があったのでしょうか
いつもだいたい1区だったのでしてなかったんですけど、タイムが気になるときもあったので、時計を見て走ろうかなと思ってつけるようにしました。

――昨年は「2区であってもある程度タイムにこだわらず、自分の殻を破ってやっていこうという気持ちがある」とおっしゃっていましたが、そのときと比べると考え方が変わっているのでしょうか
そうですね。しっかり自分の殻を破るのはトラックレースでいいかなと思うので、駅伝のレースは難なくこなした方がチームに貢献できますし、その方がいいのかなと。

――昨年と比べてご自身ではどのような点が成長したと感じていますか
一つは地力がついたかなというのがありますし、レースでしっかり周りを見て落ち着いたレースができるようになったかなと思います。

――駅伝や箱根の捉え方で変わった部分はありますか
前は嫌なもの嫌なものと考えていたんですけど、いまはトラックとは別の、チームの目標として大事に捉えることができるようになったので、そのあたりは変わった部分だと思います。

――今季は田中鴻佑選手(法3=京都・洛南)や相原将仁選手(教3=東京・早実)など同期の一般組が着実に力をつけてきましたが、そのことについてはどう感じていらっしゃいますか
特に相原や田中はことしになって力をつけてきた選手なので、そういう選手が自分たちの学年から出るというのは、ことしに関してももちろん心強いと感じますし、来年に関してもすごく心強いですね。

――3年生同士は仲が良いとうかがいました
そうですね。3年生同士で飲みにいくこともたまにありますし、田中とはよくジョグなんかもしますね。結構仲は良い方だと思います。

――下級生の台頭に関してはいかがですか
それも本当に来年の駅伝にとって心強いので、どんどん出てきてほしいですね。

――今季は東洋大、駒大の二強と言われていますが、二強に勝つためにワセダに足りないものは何だと思いますか
単純に力が足りないというのはあるとは思うんですけど、いまから力を上げるというのは難しいと思います。その二校がレースで100%の力を出すんだったら、僕たちは120%の力を出さなければ勝てないので、その120%の力を出す準備をするしかないのかなと考えています。

――箱根ではここまで2年連続で1区を担当されていますが、走りたい区間や抱いているレースプランはありますか
2年間スターターなので、3年目は追ってみるレースもしたいなという気持ちはありますけど、チームが勝てるのであればどこでもいいかなと思っています。

――では最後に、箱根への意気込みをお願いします
学生三大駅伝のうち二つは東洋さん駒澤さんにやられてしまったので、最後の箱根では勝てるように全力を尽くしたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 菅原理紗子) 

◆大迫傑(おおさこ・すぐる)
1991年(平3)5月23日生まれのA型。170センチ、51キロ。長野・佐久長聖高出身。スポーツ科学部3年。自己記録:5000メートル13分31秒27。1万メートル27分56秒94。ハーフマラソン1時間01分47秒。2011年箱根駅伝1区1時間02分22秒(区間賞)、12年1区1時間02分03秒(区間賞)