【連載】『ツナグ』 第1回 渡辺康幸監督 

駅伝


 第1回は渡辺康幸駅伝監督(平8人卒=千葉・市船橋)。先行逃げ切りの狙いのもと往路を主力で固め、また来季への布石とすべく、復路はすべての区間で3年生以下を起用した第89回東京箱根間往復大学駅伝競走大会(箱根)。しかしふたを開けてみれば、昨年から順位をひとつ下げて、理想とは程遠い5位という結果に終わった。学生三大駅伝のうち一冠を掲げ挑んできた昨シーズンだったが、無冠に散ったいま何を語るのか。まずは指揮官である渡辺監督にお話しを伺った。
 

※この取材は1月26日に行われたものです

「総合5位は惨敗」

渡辺監督は「奪還」「改革」を掲げ新しい1年に臨む

――箱根駅伝総合5位という結果についてはどのようにお考えでしょうか
優勝を狙っていたので、5位という結果ははっきり言って惨敗ですね。

――惨敗ですか
はい。初日の往路に主力を全部つぎ込んで、往路優勝は絶対条件という中での戦いでした。それが1区のブレーキから始まってしまったのは大きいです。結果的には芦ノ湖で2番まで追い上げましたが、正直この時点で勝負あったかな、と思っています。

――復路が終わった後に「危機感がない」とおっしゃっていましたが
シード権を取っていれば出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)も全日本大学駅伝対校選手権(全日本)も箱根も出られるのですが、それによって1年間がなんとなく過ぎていくことに対して危機感と言いました。やはり、4番から7、8番ぐらいまでのチームはシード権を取っているので、どのような意識を持っているかによって1年間のチーム作りが変わってきます。そこのところでの「現状維持でいいや」というくらいの感じで、前に一歩も進もうとしないチームは今ではどんどん落ちて行きますね。それだけ各大学の戦力が拮抗しているということであり、ウチの場合で言えば3冠した後に4番まで落ちて、そしてことしは5番になってしまった、ということですね。

――主力選手を往路につぎ込んだ分、復路は苦しい展開となりました
それはあらかじめ想定していて、主力メンバーを散らすという考えは私にはありませんでした。主導権を握るというのが駅伝のセオリーですから、それを何が何でもしなければいけなかった、ということですね。向かい風でしたが、そこまでは他の大学も同じ条件ですので、速いだけではなく「強いチーム」が今回は日体大さんだったということですね。

――今回のオーダーは何パーセントぐらいだったのでしょうか
私としてはベストメンバーを組んだつもりだったのですが、主力の前田(悠貴、スポ4=宮崎・小林)や志方(文典、スポ3=兵庫・西脇工)の練習の消化具合が良くなかったです。これは仕方のないことなのですが、やはり1番のマイナス要素ですね。それによって区間配置、主力区間が決まりませんでした。特に1区は迷いました。迷ったからこのような結果になってしまったということもありますね。

――このような状況でも往路優勝は当たり前と考えていたのでしょうか
そうですね、絶対いけると思っていました。僕自身も9年監督をやっているので、まずこのメンバーなら負けないだろうと。ただこの時点でもう油断ですね。まさかあれだけ向かい風も吹くとは思っていませんでしたし、常にどういう状況であろうが、危機感を持って対応できなければなりません。

――復路を走られた柳利幸選手(教1=埼玉・早大本庄)、田中鴻佑選手(法3=京都・洛南)、田口大貴選手(スポ2=秋田)は、高校時代にはさほど実績のある選手ではありませんが、箱根を走りました
「たたき上げ」の選手が出てくることはチームにとっても必要なことですし、彼らを使うことによって一般受験で入ってくる選手や付属校の選手も4年間頑張れます。そのような意味での活性化も狙って必ず3人ぐらいは使うようにしています。でも、ただそのような選手を使うだけでは優勝にはつながらないので、それだけのことをしてきた選手に、箱根をスタートラインという考えで使います。彼らにもきっちりノルマというものもありますし、ただ「出ればいい」ということはワセダでは許されないので、毎年優勝を狙っていく中でそういった選手を走らせますね。

――逆に今回は、出雲と全日本を走った高田康暉選手(スポ1=鹿児島実)はメンバーから外れました
彼は練習でやったことをまだ試合で出せていなかったので、今回は制裁的に出しませんでした。ただ少なくとも間違いなく彼は1年生の中心にあるので、今回は来年のことも見越してそのような采配を組みました。

――調子が上がらなかった、というわけではないのですね
はい。高校の時から実績のある選手なのでそのような仕打ちを受けたことがないのですが、このカベを必ず乗り越えてくれる奴だと思っていますし、精神的・人間的にも成長してくれるでしょう。メンバーを外されたからふてくされたり、何もしないというような奴ではありません。

――今回、監督がいつも理想とされている「4年生のチーム」は作れたのでしょうか
それを1番達成できたのは、日本体育大学さんであって、3年生の服部選手(翔大)が中心となってうまくチームを引っ張って、ナンバーワンの主将だったから優勝できたということでしょう。ウチは20チーム中5番目のチームだったということです。でもウチの4年生がだめだったというのは彼らに失礼になるので、そのような言い方はできませんね。

「速さ」と「強さ」

――前回の箱根後、監督は練習を改革するとおっしゃっていましたが
そうですね。どの大学も「速い」方向に行きすぎて、「強い」チームを作ることを忘れているのではないでしょうか。今回の箱根に関して言えば、特に1万メートルのタイムで圧倒的だった駒澤さんが勝てないということは、「速さ」と「強さ」を兼ねそろえていかないと箱根駅伝での総合優勝はないということですね。

――今年度を振り返って、チームに点数をつけるとしたら何点ぐらいでしょうか
30点ぐらいですね。今年度は本当に何もできませんでした。

――東洋大や駒澤大にも次ぐ戦力だといわれていましたが
やはり、三大駅伝の入りである出雲で大迫(傑、スポ3=長野・佐久長聖)の1区でのブレーキがききましたね。あれで駅伝シーズンに気分良く入れなかったというのが本音です。それが尾を引いて全日本、箱根と来ている感じはありました。出雲を制された青学さんのようにいい流れで波に乗って入れれば3冠した時のように行けるのですが。そこが今回は機能しませんでした。ことしはまた違ったチームを作っていきたいと思います。

「4年生のチーム」

――来年度はどのように良いチームにしていこうと
まずは雰囲気や明るさですね。それに危機感や反骨心などもあるのですが、このようなことを心に刻んで1年間やっていければいいですね。学生スポーツのチーム力は1年1年変わるものですから、うまく選手の戦力を把握して戦略を先に立てられるかが大切です。

――来年度は有望な1年生が入ってきます
もちろん期待はありますが、これは毎年言えることで、いい1年生が入ってきても期待はしないという考えでやっています。それはプラスアルファであって、使えればラッキーという感じでチームを作っておかないといけません。やはり上級生の力で戦わないとだめですね。あくまで1年生はオマケである、という考えです。それこそラグビーの藤田選手(慶和、スポ1=東福岡)や野球の吉永選手(健太朗、スポ1=東京・日大三)のような1年生が入ってきたら期待はしますが、彼ら1年生を中心としてチームを作るわけではありません。上級生の力があってこそ彼らの力が発揮できるのでは、と僕は考えています。他の競技の監督さんもそのような考えでやっているのではないでしょうか。

――上級生と1年生とでよい相乗効果を生み出せるのですね
そういうことですね。いい選手を取るのも、1年生を成長させるのも大事ですが、最終的には4年生中心のチームを作るということです。ここがまとまらなければ強いチームにはなりません。あと良いキャプテンでしょうか。

――駅伝主将は大迫選手になりますが
まあ力的にも人間的にも彼はやってくれるでしょうから、心配はしていません。私としては、大迫はもう大学レベルの選手ではないので、しっかり力をつけながら学生記録、日本記録といったレベルで勝負してほしいですね。というよりしてもらわないと困ります。彼に望むところはそこです。

――3冠をされた前年度の箱根は7位でしたが、今回の5位という結果が来年度の萌芽にはなるのでしょうか
それはもちろん良い意味での期待はあります。これは日体大さんにすごく失礼になりますが、19位のチームでも勝てた。本来は日体大さんの力からすると19位のチームではなかったということはありますが、こういったことを考えると、私たちが7番から3冠できたように5番から優勝しても何ら不思議なことではないと思いますね。

――監督ご自身はことしで不惑を迎えますが、何かお考えになることはありますか
厄年とかいくつになったとかは気にしない性格なので、特にこうといったことはないですね。常に物事をポジティブに考えて、一歩一歩前に進むということしか考えていません。後ろを向かない、ということですね。良いこともあれば悪いこともあるのが人生です。チーム作りの中で成功と失敗を繰り返しながら自分自身も選手と一緒に成長させてもらっています。

――ことしで卒業される4年生にかけたい言葉はありますか
4年生は本当によくやってくれましたよ。3冠した時のメンバーもいましたし、4年生が抜けるということは、痛いです。そうは言ってもまだ主力が残りますので、きちっと骨組みを大切にして来年はいいチームにしていきたいですね。

――来年度、意識するチームなどはあるのでしょうか
いえ、もう今回日体大さんが来たみたいに優勝するチャンスは箱根に出場するどの大学にもあると思います。20チームに可能性があるとは言っても実際には5、6チームになりますが、その中にきちっと入っていくことが課されるでしょう。冬の鍛錬の時期を越えて、春のトラックシーズンでいい流れを作り、夏はナンバーワンの練習をきちっと合宿でやって秋以降の駅伝につなげていきたいですね。

――来年度の抱負をお聞かせください
まずは奪還です。3冠してから4番、5番と順位が落ちているのでまずは順位を上げる、というよりは常に優勝を目指してやりたいです。ワセダスポーツとしてやらなければならないことですね。そして4月1日に1年生が入ってきて新チームになったときに、改革というか変革をしようかと。ゼロからの出発というわけではありませんが。ラグビーではありませんが、チームのスローガンというものをたててみたいと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 青木泰達)