出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)、全日本大学駅伝対校選手権(全日本)は共に4位に終わったワセダ。残された東京箱根間往復大学駅伝(箱根)という大舞台で、3強に挑戦状を突きつける−−。その指揮を執る渡辺康幸駅伝監督(平8人卒=千葉・市船橋)に、箱根で勝つための戦略について伺った。
※この取材は11月24日に行ったものです。
「往路優勝の時のパターンに戻している」
――集中練習を迎えられたそうですが、チームの状況は
まだ集中練習は2発目ですから、この時点でだめだったら戦えないですね。このまま何もないということは例年なくて、故障や風邪など絶対に何かしら問題は出てくるので、今後それを最小限にするということですね。
――今後の集中練習の予定は
伝統的にだいたいやるスケジュールは決まっていて、その中で失敗と成功を繰り返しているので、「何年のときのどういう練習が良かった」ということや「ことしの戦力だったらこの年の練習パターンが良い」などデータ的なものでやって行きます。ことしは昨年とは少し流れを変えていますね。
――スピードと距離のバランスは
20キロ以上の区間が9区間あるので、距離はもちろん踏みます。インターバル系の練習はあまり入れないですね。きちんと走り込んで足場を固めながら12月20日を過ぎてから調整に入るという感じです。
――そこが昨年と違う部分でしょうか
ことしは上尾ハーフマラソン(上尾)がいつもよりも早かったので、集中練習に例年より5日ほど早く入っています。2008年に往路優勝しているんですが、その時のパターンにことしは戻しています。ことしは層が薄くて12月15日以降の練習を余裕を持ってやらせたいので、早くから集中練習に入って途中少し空けながら様子を見るというパターンですね。今までは層が厚かったので、練習を詰め込んで故障者が出ても良いやというやり方でやっていたんですが、ことしは主力が故障をすると痛いので、真ん中のところで余裕を持たせるという感じです。あとは臨機応変に対応します。
――監督から見たチームの雰囲気は
良いですよ。大迫(傑、スポ4=長野・佐久長聖)がいないときには田中(鴻佑、法4=京都・洛南)がきちっとまとめてくれています。田中と大迫がすごく仲が良いので、これが大きいですね。
――大迫選手の不在中は田中選手がチームを引っ張るということでしょうか
はい。年間通じてそういう時がほとんどなので、もう慣れているというか、チーム全体でそういうかたちで把握しているので。彼が帰ってきたらまたキャプテンとしてやらせます。
――昨年の箱根は5位という結果でしたが、振り返って
気候条件とかいろいろありましたけど、それも含めて実力でしたよね。往路に全部並べて本来ならば往路で勝たなければならなかったところ2番という結果に終わって、そこで勝てなかったところがまず敗因だと思っていますし、あとはまあ1区のブレーキですね。やはり特に前半にブレーキ区間があると、流れに乗れないので。うちはもうそこが最近かみ合っていないので、頭が痛いところなんですけれどもね。箱根駅伝では秘策はあるので、それで東洋大、駒大の本来の方程式を崩して行かないといけないですね。どういうオーダーが組めるかはわからないですが、今までとは変える可能性が高いです。
――復路は下級生中心の来年につなげるオーダーだったと思いますが、そういう意味での手応えは
ことしは新1年生に良い選手が入ってきてくれたことによって、4年生から1年生までバランスが良いです。どちらかというと1、2年生のチームなんですかね。ただまあそうは言っても長い駅伝になれば上級生の力が必要になってきて、4年生だったり3年生の浪人組だったりがきちんと頑張ってくれないとチームはまとまりませんから。そこは上級生に期待しています。
――それから1年間、どのように強化されてきましたか
これは毎年言えることなんですが、うちのチームは勝負弱い、精神的に弱い、向かい風に弱いなど他のチームに比べてひ弱なところがあるので、そこを徹底的に鍛えたというのはありますね。夏の北海道合宿をやめて1ヶ月間クロカン漬けにしたりとか、悪条件の中でやらせるということですね。
――ことしのトラックシーズンにおける結果については
チームとしては(1万メートル)28分台が5人以上とか、(5000メートル)13分台が10人近くいないと箱根は戦えないんですよ。そういう意味でのトラックでの強化という点では他のチームに比べればまだまだなんですが、ただハーフマラソンの平均タイムに関してはうちが一番良いはずなんですね。というのもうちは年間通じてそういう練習の立て方をしているので、20キロの方が得意です。だから伝統的にも一番出雲駅伝を苦手としていて、距離が長い方が戦えるのかなというのはあります。
――日本学生対校選手権(全カレ)の5000メートル、1万メートルも多くの選手が入賞されました
関東学生対校選手権よりはだいぶ立て直したかなという感じです。ただ全カレは他大の主力の選手はあまり出ていなかったですからね。参考にはならないですが、本人たちにとっては自信になったのではないかと思います。
――一方大迫選手は世界陸上に出場されて、21位という結果でした
大迫はことしは出場することを目標にやっていたので、本人は世界のレベルを知ることができてまず良かったんじゃないかなということですね。次のリオデジャネイロ五輪で入賞するために今回出場したので、もっともっと力をつけないといけないというのは本人もわかったでしょうから。スピードだけではなくてスピード持久力や勝負強さもすべてを兼ね備えないといま世界では戦えないので、それを今回経験できただけでも良かったと思いますね。
――出雲の裏で行われた所沢市選手権の1万メートルでも自己新記録が続出しました。チーム全体の調子は上がってきたのでしょうか
あれは部内の争いなのでうちのグラウンドでやらせました。日体大競技会は記録が出やすいのであまり参考にしないようにしているんですね。ここ(早大)のグラウンドはトラックの固さや実際よりも大きく見えることなんかが影響して記録が出ないんですよ。その中で何分何秒というデータがあるので、それにのっとってやっています。夏合宿の疲れが取れたところで記録が出たのは調子が上がってきたなという感じですね。
「練習をしっかり積めない選手は使わない」
取材に応じる渡辺監督。「往路優勝は絶対したい」
――続いて駅伝シーズンのことについてお伺いします。出雲のオーダーはどのように決められたのですか
結果的には柳利幸(教2=埼玉・早大本庄)でだめになったという感じになってしまっているんですがそうではなくて、柳しか1区を走れないチーム力だったということです。だから4番というのは出雲、全日本では妥当な結果だったかなと。1年間箱根の総合優勝のためにやってきているので、そのために何が足りないのかとかどういうオーダーを組めば良いのかというヒントはこの2つの大会で見つかりましたね。
――好調の3区・高田康暉選手(スポ2=鹿児島実)に関しては
高田はまだ本当の力を出し切れていないですね。上尾では走ったから良かったんですが、私としては彼に将来的にはエースになってもらいたいし、大迫が抜けた後にワセダを支えてほしいというのはあるので、そういう期待も込めて主要区間に使いたいんですけどね。まだまだそういう意味での結果を出していないので、つなぎ区間でまだ甘んじていますけど、そろそろ主要区間でも行かせられるかなと思います。
――4区、5区の武田凜太郎選手(スポ1=東京・早実)と中村信一郎選手(スポ2=香川・高松工芸)は初駅伝でした
武田は全国都道府県対抗男子駅伝なんかで駅伝の経験があったので、確かめるという感じでした。中村信は駅伝の経験が少ないものですから、彼を使ってみたかったというのがあって、それと全日本は井戸(浩貴、商1=兵庫・龍野)と平(和真、スポ1=愛知・豊川工)をそれぞれ試したんですね。だいたい見られたので、箱根駅伝はチーム内の競走で勝ち残った10人を使うということですね。経験者はもちろん主要区間に入りますけど、練習をしっかり積めない選手は使わないということです。
――4人を試された収穫は
まずは最低限の力を出せるかというところが見たかったのでそれに関しては4人ともほぼ合格点にはなっています。あと実は1年生の佐藤淳(スポ1=愛知・明和)を使いたかったんですけどね。ただ上尾の前に故障して途中棄権してしまったので、そこが私と相楽長距離コーチ(豊、平成15人卒=福島・安積)の中では不満ですね。彼はたぶん井戸ぐらいの力があるので。箱根までには間に合わせてほしいですね。
――全日本では出雲に引き続き柳選手を1区に起用されました
これはもうギャンブルですよ。直前まで武田と迷っていて、やはり1年生だと怖いということで、また柳で行ったんですけれどもね。ここでだめだったら箱根の1区はないと相楽コーチとともに決めていました。不安要素があって行ったので、本人には申し訳なかったですね。その選択も含めて実力だし、そこから4番まで上がったというのも実力です。
――全日本での2区以降のオーダーの意図は
大迫は2区しか行くところがないので、そうなったときにやはり1番迷ったのはアンカーですね。あそこで田中がきちっと結果を出したというのは大きかったですね。それで自信をつけて上尾でも62分台で走ったというところで、大迫不在の時のカバーを田中がしてくれて、救われています。箱根の2区に大迫は使えないので、そうなると高田とか田中とかが行くしかない。そういう危機感は持ってやっていると思いますね。
――箱根よりは短いながらも、全日本では1年生が距離への対応を見せたのでは
例年の1年生に比べたらかなりことしは面白い選手がたくさんいますね。ただ4人も5人も1年生を使うとなると上級生は何やってるんだということになってしまいますので、1年生は何人か使うと思いますけど、最終的には上級生にもう少し奮起してもらいたいです。
――他大の印象は
やはり駅伝は乗ったところが行くんですよ。駒大も強く見えますが、これは中村匠吾(駒大)の1区がはまっているんですよね。また同じような手を箱根で使ってくる可能性もありますから、この方程式を崩していかないといけませんね。1区のオーダーはお互いのチームの読み合いになるんですが、ここはもう少し集中練習を見て20日以降に決めるという感じですね。
――駒大・東洋大は実力を見せたという感じでしょうか
その2校に関してはことしに関しては鉄板でしょう。全日本で明大が3強を崩したように、やはり3強で崩せるのは日体大ですね。ただ、箱根になると東洋大、駒大には山を走れる選手がいなくて、日体大とうちは山登り、下りがいるのでまあ面白くなるかなというのはありますね。
――やはり山は重要ですか
もう8割方、山で決まりますからね。昨年日体大が優勝したのも、服部翔太(日体大)が山を登ったことで勝ったというのがありますからね。
――他大で印象に残った選手はいらっしゃいますか
駒大の村山謙太がきのうも国際千葉駅伝で大迫に先行していましたけど、駒大は彼と中村の2枚看板が相当効いていますね。そこは大迫を絡めていかないときついんですよ。でも逆に1、2区で出してもらった方が楽なんですよね。そうすると残りの8区間でけっこう崩せると思うんですよ。ことし駒大は山登り山下りがいないので、意外にそこで差がつくんですよね。うちはことし山は良いので、1、2区でどこまで差を抑えられるかということですね。差をあまり空けられると逃げられてしまいますので。どういうオーダーを組んでくるかは情報戦になると思うので、それによって駆け引きしながら組むということです。
――全日本後の上尾では田口大貴選手(スポ3=秋田)が復帰されました
彼が戻ってきたのはやはり大きいですね。上級生が入らないときついので、田口とか志方(文典、スポ4=兵庫・西脇工)とかが戻ってくるとチームとしては良いですね。
――上尾ではほとんどの選手が好記録を出されました
まあそれはそれで終わったことなので参考にはしますけど、あのコースは平坦で走りやすいのでどのチームもそこそこ走れていますからね。
――レース後のインタビューではハイペースへの対応を課題に挙げる選手も多くいらっしゃいました
スピード駅伝に対応できないといまの箱根駅伝では優勝できないので。11時間前後ぐらいの優勝タイムにはなると思うので、そういう意味で前半突っ込めるだけの体をつくれということなんですね。それで前半突っ込んでも後半足が止まらないような練習をして、それを身につけなさいということはずっと言っているので、それが浸透し出しているんだと思います。
――柳選手は上尾には出場されていませんでしたが状態は
柳も集中練習から合流して普通にやっていますから、箱根ではもう少し負担のかからないところを走らせたいですね。1区に使われて中村、設楽(悠太、東洋大)に来られたら本来大迫を使わないとだめですね。他にいなかったんで、3番手の柳がああやって餌食になってしまったんですよね。やはり甘くないですから、次は1番自信のある選手を持っていかないといけませんね。
――故障に苦しんでいるという志方選手の状態はいかがですか
志方はきのう1万メートル記録挑戦競技会で29分50秒ぐらいで走って、次の水曜日から集中練習に合流しますね。調子自体は全然悪くないので、16人には入れていくでしょうから、どこまで戻るかですね。20日を過ぎて4区、7区あたりに入る目処が立てば面白いかなと思います。
区間配置で流れを変える
「良い関係を築けている」という大迫と挑むのも来年の箱根で最後になる
――渡辺監督から見て大迫選手はどのような駅伝主将ですか
大迫は現代の典型的なタイプの選手ですね。私は彼のようなタイプの選手は見ていて面白いです。外から見ていると勝手なことをしていると思う方も多いでしょうけど、でも実際本気で箱根駅伝から世界を目指している選手が何人いるかと言ったら、ほとんどいないんですよね。実業団に入ってそのままつぶれて行く選手が多い中で、本当に世界で戦いたいという気持ちのある子なので、だからこそ本来なら入れない海外のチームに入りたいと言う。ただ海外に行きたいと言うだけではなくて、本当にトラックで世界と勝負したいということです。だから駅伝を最終目標としていない。強くなるためなら駅伝はいらないという考えをしているので、そこはすごい考えだなと思いますね。私はそこまで思わなかったから。彼もラッキーなのは私のような指導者で自由にやらせてもらえるというところで、考え方も一致したしお互いにメリットがあるので、すごく良い関係だと思っていますけどね。
――渡辺監督ご自身は駅伝を重視されていたのですか
私はそうしなければならないと教わってやっていましたし、それは大学の中で最後にご奉公して卒業して実業団、という流れが私たちの時代ではあったんですけれども、いまもう時代が変わってきているので。本当に世界で戦うために実業団にそのまま上がれば良いという点に疑問な部分があって、川内優輝選手や藤原新選手のような選手が出てくるわけですね。そういう選手がいてもおかしくないということです。大迫は口に出したことは必ずやる男だから、私も協力するしやりたいことをやらせてあげているということです。
――大迫選手の不在時にチームをまとめているという田中選手はこれまで苦労されてきた叩き上げの選手ですね
田中は3年前に3冠した時と同じで一般受験でこつこつやってきたワセダの伝統的なものを背負っている選手なので、彼のような選手は必ず最後に結果が出るでしょうし、これで陸上はやめますから、最後の最後に箱根駅伝は華々しく終わらせてあげたいという気持ちはありますね。
――主力として活躍されている山本選手に関しては
駒野コーチ(亮太、平20教卒)が1時間18分で上がっていますので、そのタイムは破ってほしいなと思っています。彼は平地より登りの方が力を発揮するので、山登りは向いていると思います。柏原竜二くん(富士通)の一番悪い記録ぐらいは来年までに破ってほしいですね。
――力をつけてきた1年生については
同じ学年どうしのライバル意識が強くあって、それによって刺激を受けてがんばっていますし、すごくいい関係だなと思いますね。ライバル意識がなければ絶対に強くならないですし、あとは上級生を抜かそうという気持ちも大事ですしね。将来的には日の丸をつける選手になってほしいですね。最低ユニバーシアードぐらい出るようにならないとだめですね。
――オーダーについて何かお考えは
復路まである程度とっておこうという考えもあるんですが、往路優勝は絶対したいなというのはあります。
――残り1ヶ月、特に強化したい部分は
距離は絶対条件で踏まなくてはいけないので、そこは当たり前にやるんですが、あとはロングインターバルも含めてスピード持久力の練習も大事なので、どちらも追わないと11時間前後でゴールできるチームはつくれないんですよ。そこは譲れないというか、それができなかったら優勝はないですね。だましだましやるようなチームになってしまうようだと、5番6番になってしまうと思います。
――キーマンは
もう1、2区ですね。ここが出れば面白い戦いはできると思います。山はことしはきちっと準備するので、それよりも1、2区ですね。
――他大で気をつけたい選手は
駒大は村山、中村で出雲、全日本を獲っているので、この2人の区間配置がどうなるのかでことしの箱根は結構違ってくると思います。どこのチームも区間配置に頭を悩ませると思いますし、他大学もそれによってどういう展開になるかいろいろ考えますから。やはり1区に中村のような選手が来るとみんな嫌がるんですよね。全日本の時もまたそれで来たか、と思ったんですが、そういう揺さぶりなんですよね。ただ同じことが何度も通用しないということもあるわけですよね。相手も準備してきますからそこが難しいですね。
――箱根に向けて意気込みをお願いします
前回は5番というふがいない結果に終わっていますが、1年間総合優勝のためにやってきましたし、箱根で優勝することがOBの方や応援してくださる方に対するご奉公であると思ってやっているので、頑張ります。
――ありがとうございました!
(取材・編集 手塚悠)