東京箱根間往復大学駅伝(箱根)直前特集の最終回を飾るのは菖蒲敦司駅伝主将(スポ4=山口・西京)。主将として「結果で示す」という言葉通り、トラックシーズンではその実力を遺憾なく発揮し、チームをけん引してきた。しかし、駅伝シーズンはチームも個人も苦しんでいる。最後の箱根へどのような気持ちで挑むのか。菖蒲の熱い思いを伺った。
※この取材は12月12日に行われたものです。
駅伝主将としての1年間
合同取材にて、先頭を走る菖蒲
花田さんからも主将として気負いすぎず、結果を出して背中で引っ張ってくれという話はされていました。僕自身、今年はトラックシーズンからチームと一緒にいる時間が少なかったので、結果で鼓舞して、やる気を出させることができればと思ってやっていました。ですが、ユニバから帰ってきてからは長い距離に適応できなかったこともあって、夏以降は走りで引っ張ることができなかったと思います。トラックはうまくいっていましたが、駅伝ではトラックほど結果を出せるの選手ではないので、駅伝シーズンは苦労しました。主将としてこんなのでいいのかとは思っていました。
――主将に就任されてから「結果で示す」ということは繰り返されていましたが、結果という部分で1年間を詳しく振り返っていかがですか
トラックシーズンは結果を残すことができて、他の選手からも「菖蒲主将が頑張っているから頑張らないと」という話をしてくれる選手もいましたし、良かったかなとは思っています。ですが駅伝に関してはまだまだ未熟な部分があるなと。花田さんからは、あまり(主将として)気負いすぎなくていい、主将だからなどは考えなくていいという話はされました。今はストレスフリーでリラックスして練習に臨めています。
――主将として1年間どのようなことを意識して練習されていましたか
主将としてというよりは、4年生としてになるのですが、僕らの学年は横のつながりはもちろん、縦のつながりも意識しようということは話をしていました。早稲田と言われると少し固いイメージもあるかとは思うのですが、今年は1年生も含めてチームになじめるように注意深くコミュニケーションを取っていました。それもあって後輩たちも、あまりストレスなく過ごせているのかなと思います。
――今までのチームと比べて、現在のチームの強みはどのようなところにありますか
チームの雰囲気としては、一言で言うと仲がいいと思います。今までは先輩に対して気を遣うイメージはありましたが、今年は柔らかい雰囲気でやれていると思います。
――主将としてもそういった雰囲気づくりは意識されていましたか
僕自身は後輩とコミュニケーションを取るのが得意な方ではないのですが、昨年よりもなるべくそうしようとは思っていました。他の4年生が下の学年と仲良くできる人たちなので、そういった人にも頑張ってもらってチームづくりをしてきました。
――例年のチームと何か変えたことはありましたか
花田さんが来てからは花田さんを主体に変わっていくことが多いかなと思います。ジョグの前に補強のメニューを取り入れましたし、土日の朝練習もなくなりました。自分たちに委ねられる時間も増え、自主性を重んじた早稲田らしさがあるなと思います。
――主将として苦しかった時期はありましたか
僕自身が「結果、結果」と言ってきた中で、夏以降は結果を残せなかったので、主将としてあるべき姿ではないなと思いながらずっと考えていました。ですが、花田さんとも話をして、「ここまできたら一選手として箱根駅伝に向かってほしい」と言われました。僕としても主将としてプレッシャーはあったのですが、そこからは変な緊張はせずに、うまく練習できていると思います。
――この1年間を振り返って、ご自身はどのような主将だと思いますか
花田さんからは「優しい主将」 と言われました。僕自身、あまり強く言えるタイプではなくて、確かに優しすぎる部分もあったのかなと思います。
結果を残したトラックシーズン
日本選手権のレースを走る菖蒲
――トラックシーズンを振り返って点数をつけるとしたら何点ですか
95点かなと思います。
――その理由は
トラックシーズンに入る前はユニバ(ワールドユニバーシティゲームズ)に出て表彰台に立つことが目標でした。それ自体は達成することができて、日本選手権もまさか表彰台に乗れると思っていなかったので、本当は100点とつけてもいいかなとは思います。ですが、そこまで来て上の世界が見えてきた分、世界陸上(世界陸上競技選手権)の代表を逃したことなど、少し悔しい思いもしました。
――目標としていたユニバに内定された日本学生個人選手権(学生個人)を振り返っていかがですか
学生個人の前にあまり練習ができていなくて、自信がない状態ではありました。ユニバにつながる大会ということで、ここに懸けて練習をしてきました。勝たなければいけないと思っていましたし、標準の8分40秒も切らなければならなかったので、練習をできたという自信はありませんでしたが、「自分は勝てるんだ」と言い聞かしていました。それで、勝つことができて、(ユニバの)内定までいただけたので、良かったなと思います。
――3000メートル障害で3連覇となった関東学生対校選手権 (関カレ)を振り返っていかがですか
今までの関カレで一番緊張しました。周りの人からも勝てるだろうと思われていましたが、僕自身はすごく緊張していて、勝てるのかという不安がありました。ですが、レースを走ってみると、チームもいい流れできていたのもあって、その流れに乗って、しっかりと勝ち切れて良かったと思います。文字だけ見れば3連覇となりますが、そこに向けて体調を合わせてきたことや、試合に出続けられたことに価値があると思います。
――日本選手権は3位でした。振り返っていかがですか
日本選手権がある週の月曜日から教育実習が始まっていたこともあって、直近の練習ができず不安でした。ですが、日本選手権の前のセイコーグランプリでいい走りができていたので、そのイメージを取り戻しながら、3番に食い込むことができました。青木さん(涼真、ホンダ)が途中で垂れたので、三浦(龍司、順大)の後でゴールしたかったのですが、砂田(昴弥、プレス工業)に抜かれてしまって。そのまま砂田はアジア(アジア陸上競技選手権)と世陸に行って、僕は日本選手権で終わったので、そこが先程95点をつけた理由でもあります。目標としていたところに届きはしましたが、さらにその上がつかめなかったことが少し悔しい部分ではあったと思います。
――ユニバの舞台を経験していかがでしたか
昨年アメリカへ海外遠征に行かせていただいて、今年もベルギーに行かしていただきました。ある程度、海外でのレースを経験してきたので、ユニバに関してはあまり緊張せず、自信を持って臨めた大会だったと思います。
悔しい駅伝シーズン
全日本を走る菖蒲
――夏合宿の消化率はいかがでしたか
ユニバが終わってすぐに合流した妙高では何もできなかったです。次の紋別はしっかりとできたのですが、また妙高に戻ってきてからは、あまり練習できませんでした。昨年も(消化率は)30パーセントくらいだったのですが、今年も同じくらいかなと思います。
――夏合宿ではどのようなことを意識して練習されていましたか
花田さん(花田勝彦駅伝監督、平6人卒=滋賀・彦根東)よりも相楽さん(相楽豊前駅伝監督、平15人卒=福島・安積)から「ユニバに出たら出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)には間に合わないと思った方がいい」と言われていました。なので、じっくりと箱根に向けてやっていこうということで、ポイント練習を離れることもありました。
――夏合宿はロードへの移行というよりは、箱根に向けて仕上げていくというように捉えていたのでしょうか
教育実習に行ってから日本選手権に行って、ユニバにも行って、8月に帰国してという感じで、ユニバから帰ってきた時点で本当に疲れていました。長い距離への移行は、(夏合宿の時点では)体に対する疲労度が強いなと思って練習していました。
――昨年はコロナに感染したこともあり、トラックからロードへの立ち上げがうまくいかなかったとおっしゃっていましたが、今年はいかがでしたか
合宿はうまくいかなかったと言いましたが、紋別はかなりうまくいったので、花田さんから出雲は、(菖蒲選手を)できれば1区で使いたいという話はありました。出雲は10キロ以内と距離は箱根ほどは長くないので、そこに向けて調整しようとは思っていました。ですが、それでは箱根に間に合わないということになったので、妙高では長い距離への練習をしていたのですが、まだそこまで(長い距離を)走れるわけではなかったので、うまくいきませんでした。このような経緯もあって出雲のメンバーには絡めなかったという感じです。
――チームとして出雲を振り返っていかがですか
僕もそうですし、佐藤航希(スポ4=宮崎日大)も走れる状態ではあったのですが、花田さんは1年生を使う方針でした。フレッシュなメンバーで戦って6番という順位でした。出雲に関しては結果はあまり気にする必要はないのかなと思っていました。1年生もレースを経験できましたし、エースの3人を前から並べて他大学との差も確認できましたし、結果よりは経験として良かったのかなと思います。
――全日本の結果はどのように受けとめていますか
最低でもシード権は取らなければいけないと思っていたのですが、シードを落としてしまって。僕自身もあまりいい走りができずに申し訳ないという気持ちがありました。4年生として最高学年であるにもかかわらず、走った人が僕しかいないというのは、まずかったなと思います。
――全日本が終わってからのミーティングではどのような話をされましたか
学年としては「4年生としてしっかりやっていこうよ」という話をしました。全体では僕が前に出て言うことはあまりなかったのですが、花田さんからは、昨年からの成長があった分、周りからの期待がかなり強く、高い目標を掲げざるを得なかったという話はありました。箱根も3番を目指すと言ってはいましたが、もう一度足元を見て5番以内へと目標変更してやっていこうという話はありました。
――出雲、全日本を終えて感じた他大学との差はいかがですか
駒澤大学がずば抜けているというのはあるのですが、5番以内に関しては可能性がないわけではないと思っています。箱根に関しては特殊区間もありますし、そこは僕らの強みだと思うので、うまく機能すれば、5番以内は目指していいと思っています。
最後の箱根は「4年生らしく」
花田駅伝監督、同期の選手たちと笑顔を見せる菖蒲(写真右から3人目)
――現在の調子はいかがですか
毎年この時期になると大腿骨に痛みが出て、練習を抜けることが多く、今年も上尾(上尾シティハーフマラソン)の前に痛みがありました。数日休んで痛みが消えたので、そこからはかなり質の高い練習を詰めているのかなと思います。
――箱根に向けて、現在の練習の消化率はいかがですか
上尾の後からみんなで足並みをそろえて練習をしています。僕自身は上尾の後からは100パーセントの消化率で練習できています。
――最近はどのようなことを意識して練習していますか
全日本(全日本大学駅伝対校選手権)で負けてしまって、4年生も僕1人しか走っていない状況だったので、4年生全体でミーティングをして「4年生らしくあろうよ」という話をしました。それからは、朝の集団走でも4年生が引っ張ったり、ポイント練習でも4年生が引っ張る回数が増えてきたりという感じです。4年生としてやるべきことを一つ一つやっているという感じです。
――現在のチームの雰囲気はいかがですか
全日本の負けで悔しい思いをして、そこからは箱根に向けて足並みをそろえて練習できていると思います。
――全日本5区区間12位ということで、箱根へのリベンジという気持ちはありますか
全日本は本来は長屋(匡起、スポ1=長野・佐久長聖)が走る予定で、僕に出番が急きょ回ってきて、僕自身もあまり仕上がっていませんでした。チームの足を引っ張る走りになってしまったので、箱根ではチームに貢献できる走りができればと思います。
――希望される区間はありますか
前回大会に走った9区が一番力が出せると思っています。
――箱根でのご自身の役割はどのように考えていますか
チームとしてになるのですが、本番走る走らないに関わらず、4年生がやはりチームを引っ張っていかなければならないと思っています。本番で4年生の出走人数が多いに越したことはないですが、それまでの過程から4年生らしくしっかりしていければなと思います。
――最後に箱根への意気込みをお願いします
いろいろな方面から期待されている中で全日本ではふがいない走りをしてしまったので、箱根では早稲田という文字が少しでも前の順位で、少しでも多くの方に見てただけるように走っていければと思います。個人としては最後の箱根になるので、いい成績で終われればいいですが、出走がかなえば楽しめればと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 近藤翔太)
◆菖蒲敦司(しょうぶ・あつし)
2001(平13)年12月16日生まれ。168センチ。山口・西京高出身。スポーツ科学部4年。箱根が終わったらやりたいことは旅行に行くことと答えた菖蒲選手。主将として迎える最後の箱根路では、4年間を出し切るような走りを見せてくれるでしょう!