【連載】箱根事前特集『燃』 第9回 伊藤大志

陸上競技

 入学以来、着実にステップを重ねてきた伊藤大志(スポ3=長野・佐久長聖)は今季も安定感を発揮。春と夏にはさらなるレベルアップを目指して海外遠征も経験した。来たる継走を前に、主力として次期駅伝主将としてチームをけん引する伊藤大志の胸中に迫る。

※この取材は12月13日にオンラインで行われたものです。

自分に求めるものが上がった

「反省の方が大きかった」4月の日本学生個人選手権(学生個人)でレースを走る伊藤大志

――自己新をマークした2月の香川丸亀国際ハーフマラソン(丸亀ハーフ)などを含めて、前回大会後の調子はいかがでしたか

 丸亀ハーフあたりは連戦の疲労もあり、100パーセントのコンディションではありませんでしたが、レース展開を考えながらその当時できる100パーセントのパフォーマンスができたと振り返ってます。丸亀もそうでしたが、昨季の終わりから今季の頭にかけて、自分の中で納得いくレースができても勝ち切れなかったという反省がひとつ残ったと思います。

――4月の日本学生個人選手権(学生個人)のレースではあと一歩で日本代表入りを逃す結果となってしまいました

 やはり学生個人も人数が少ない中で、ずっと集団を引っ張り続けたことに後悔はありませんが、勝ち切れなかったのはレース展開に見合った実力がまだついていなかったという反省の方が大きかったかなと思います。

――勝ちにこだわる中で、勝ち切るために必要なことはなんでしょうか

 山口(智規、スポ2=福島・学法石川)のようにラストスパートで他の選手よりも1段階上の走力があれば勝ち切れる武器になると思います。それがまだ足りないので、ラストスパートももちろん考えてはいきたいですが、ラストスパートはある程度才能やもともと備わったものもあるので、それよりも自分の今ある力をどれだけ生かせるレース展開にできるかというところが鍵になってくると思います。例としては日本選手権10000メートルの塩尻さん(和也、富士通)の勝ち方のように、ラストスパートで突出したキレがなくても勝てるレース展開とそれに見合った構想力や、ハイペースで押し切る力が必要かなと感じました。

――レースの進め方では昨年よりも積極性などに変化はありましたか

 昨シーズン以上に自分でレースを動かしたり、引っ張ったりする展開が増えたというか、意識的に増やそうとしているのかなと思っています。海外遠征を経験した中で、勝ち切れるようなレースを国内だけでなく海外でもできるようにすることを考えると、毎回毎回のレースで意識やっていかないと成長はないのかなという風に思います。そこの部分は今シーズン一番意識したところです。

――改めてトラックシーズンの総括をお願いします

 トラックシーズンで一番感じたことは、自分に求めるものが上がったことです。走力がかなり向上し、安定して(5000メートル)13分30秒台にのせることができるようになったところが1段階成長したなと思います。その一方で勝ち切れない部分や、自己ベストの13分35秒を切って20秒台を狙うといったり、関東対校選手権で勝ち切ったりというところであと一歩足りなかったことが悔やまれるシーズンだったかなと思います。

――4月からは3年生となり、生活面や練習での変化はありましたか

 昨年も学年が1個上がり「もう1年生じゃないんだぞ」と思いながら生活していたので、(今年は)そこまで違和感なく学年も上がりました。ただ代替わりが近づいてくるにつれ、菖蒲さん(敦司駅伝主将、スポ4=山口・西京)の取り組みや主将としてどういった取り組みをしたらいいのかなということを考えながら過ごすようになりました。そこの部分が昨年と違って、さらに一つ上からチームを俯瞰(ふかん)できるようになったと思います。そうやってチームを俯瞰(ふかん)した上で3年生の立場として、菖蒲さんの手が回らないところを自分がカバーできたというか、考えられたかなと思います。

――夏はクラウドファンディングを通じてチームとして海外遠征がありました。遠征の目的や成果を教えていただけますか

 一番は海外で試合をするというのが目的です。日本のレースは独特と言いますか、ペースメーカーがペースを引っ張ってくれるので、日本選手権や記録会など日本で勝負するとなると主にそういった駆け引きになります。ですがやはり海外に行くと、いろんなレベルの選手がいて、それこそ同じ年代でも10000メートル26分台の選手がいる中で、ペースメーカーなしで10キロをどのように駆け引きするのかというところは日本では経験できないレース展開でした。そこを経験できたのは大きかったかなと思います。日本のようにペースメーカーについていってラスト自分で勝つ、とは違う勝負の仕方とかがないと、やはり世界では勝てないんだなということが痛感できました。

――海外遠征で得た経験をどのように生かしていきたいですか

 海外レース特有のレース展開や、自分の思うようなレース展開ができなくても勝ち切れるタフさがもっとほしいと感じました。それこそ駅伝につながることだと思ってますし、駅伝シーズンに向けてやトラックで勝ち切るためにもそういったタフさを身につけて、自分の強みにしていけたらと思います。

――個人としては3月と9月にも海外レースを経験されました。2つのレースを振り返っていかがでしたか

 3月に行った香港と9月に行ったプラハは両極端といいますか、プラハでは大きなマラソン大会というか賞金のかかったレースということもあって、いろんな世界のエリートランナーが来たり、それ以外に市民ランナーでもかなりの盛り上がりがありました。一方の香港では、まだ陸上が少し発展途上なところがあって、あまりレベルが上がっていない中で選手の貪欲さというのが日本に比べて独特なものだったと感じています。そういった独特な雰囲気の中でのレース前の過ごし方とかは日本では経験できないものなので、そういうのを肌で感じれて良かったです。

――9月の妙高合宿ではどのようなところを意識されましたか

 8月に行われた1回目の妙高合宿では、海外遠征の直前ということや夏期集中講座が入っていて、あまり走りに集中できていなかったです。そういった部分も含めて、出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)まであまり時間がない中、一度自分の走りを見つめ直すことを意識しました。普段でしたら自分が集団を引っ張って、きついところで僕が上げてやるぞという感じでやってきましたが、1回そこは忘れて。自分がしっかりと練習して走り込むことを最優先にしました。いつもよりシンプルにただ自分が強くなるために走ることを意識していました。その分、石塚(陽士、教3=東京・早実)や山口の二人や、菖蒲さんなど他の先輩の方々がチームをうまく引っ張って、練習や合宿の雰囲気を盛り上げてくれたので、僕もそうですしチーム全体としてもすごくプラスになったのかなと思ってます。

――駅伝シーズンに入り、出雲では1区を任されました

 9月の合宿からつくり直して、どちらかといえばコンディションは上がり始めている途上の段階でした。調子は右肩上がりの状態で悪くはなかったので、失敗はしないかなという風に思っていました。一番意識をしていたのは篠原(倖太朗、駒大)だったのですが、そこでもやはり一枚上手で残り3キロくらいで離されてしまったということで、いい意味でも悪い意味でも自分の現状が見えた試合でした。チームとしても、総合力の勝負になった時に他の上位チームと比べて足りなかったですし、大きな失敗というよりかは、いろんな区間での足りなかった部分が少しずつ重なってできた6位だと思っているので、個人としてもチームとしても課題の見えたレースだったと思います。

――全日本大学駅伝対校選手権(全日本)では2年連続の7区でした

 (前回とは)レースやタスキを受け取った展開も違ったので、昨年よりもうまくいかなかったというのが正直なところです。昨年は10秒くらい先に東洋大の梅崎(蓮)が走っていて、うまく吸収できてそこから二人で並走したというかなりおいしく、ありがたい展開だったので相乗効果でペースを上げて自身につながる走りができました。今回は前と70秒くらい開いていて、ずっと単独走でなおかつ後ろからは留学生がいつ来るか分からないという状況で、正直昨年よりも、精神的に余裕がない中でのスタートでした。少し引いてしまった部分もありますし、コンディションが良くない中でも区間上位で押し切らないといけなかったのですが、そこまでできなかったと思ってます。一応前との差を詰めて持ってこれましたが、創価大に追いつかれる前に渡したかったですし、できることならもう少し前で渡して(8区の)伊福(陽太、政経3=京都・洛南)を楽にさせたかったという気持ちはあるので、他校のエースと比べてそう走力や単独走での底力が足りなかったです。/p>

――二つの駅伝を通して良かった点はありますか

 昨年から駅伝でもかなり安定してきたかなというところは自身につながっています。高校から大学1年生くらいにかけて駅伝への苦手意識がありましたが、ここまでの駅伝で払拭できました。あとは箱根に向けて自信につながる練習をどれだけ積めるかかなと思っていて、過去2戦はチームとして思ったような結果ではありませんでしたが、やはり箱根に向けてポジティブに考えてやっていきたいです。

――全日本のシード落ちからどのような意識で練習をされましたか

 駅伝への危機感というには今までで一番に上がっていると思います。監督が相楽さん(相楽豊前駅伝監督、平15人卒=福島・安積)から花田さん(花田勝彦駅伝監督、平6人卒=滋賀・彦根東)に代わってから、割とトントン拍子でうまくいっていた中で、一回足踏みというか停滞してしまっているタイミングだと思います。ここで一回花田さんも、僕たち自身も何ができて何ができていないのかを確認する必要があったので、不幸中の幸いではないですけどいいタイミングだったのかなと思います。その中で各学年の意識の差だったりとか、選手と選手以外の意識の差だったりといったものに関してチーム内でも学年内でも話し合うことができました。それを機にチームがまた固まったというか、雰囲気が強いチームに戻ってきたのかなと。

流れを変えられる走り

石塚とともに取材に応じる伊藤大志(写真右)

――11月には次期駅伝主将への就任が発表されました。主将に決まった経緯を教えていただけますか

 特にエピソードや話し合いがあったわけではなく、そろそろ主将を決めないといけないけどどうするって話になって。前々から雰囲気的にも大志でいいんじゃないって感じで(笑)、他の学年の選手も異論とかなかったのですんなり決まりました。

――主将になるに当たって覚悟は決められましたか

 一番は背筋が伸びますね。110代目となるとこれまで109年間の歴史が紡がれてきた中での駅伝主将ということでプレッシャーもありますが、自信と誇りに変えてプラスに捉えていきたいです。やはり駅伝主将になったからには、姿勢でも走りでもいろんなところでチームの表に立っていかなければいけないと思うので、そこは駅伝主将だからこうするというよりかは、自分自身のやるべきことをもう一度やり通すという言行一致といったものが大事だと思っているので、そこを肝に命じていきたいです。

――花田駅伝監督からは何か言葉をかけられましたか

 頑張っていこうみたいな感じで。まだ菖蒲さんのチームなので今はそっちに集中して。その中で少しずつ来年のチームに何ができるかを考えながらやっていきたいので、そこは花田さんと話し合いというよりかは意思疎通を図っていいチームをつくっていけたらと思います。

――共にチームの主力である石塚選手、山口選手はどのように意識されていますか

 山口はこの前の上尾ハーフで大幅に自己ベストを更新して、チームで一番流れに乗っている選手です。この流れのままいってほしいと思う反面、昨年も箱根(東京箱根間往復大学駅伝)の予選会や本戦で少し体調が優れなかったところで、詰めが甘い面もあるので、ノリに乗る反面少し冷静になって、自分の力を出すことに集中してほしいなと同じチームのライバルとして、先輩として頑張れよ(笑)と思っています。石塚は同期として3年間一緒にやってきて、同じような練習をやってきた仲だったのでそこまで心配することもなく、逆に頑張れよという感じもなく、まあぼちぼち一緒に頑張ろうな(笑)みたいな感じです。

――他大学の同学年はどのように意識されていますか

 特に意識しているのは、駒澤大学の篠原選手とか國學院大学の平林(清澄)選手です。平林は高校の頃からずっと仲が良くて、会えば一緒に話して一緒に走る仲だったので自ずと意識はしてます。2年連続で全日本の同じ区間を走って、自分の成長を感じている反面、平林との差といったものは明確にあるので、そこを確実に縮めていきたいですし仲のいい友達である以上にライバルだなと思っていて、絶対に負けられないです。走る区間は同じになるか違うかはまだ分からないですが、どの区間になっても劣らない走りといったものはしたいです。篠原は出雲で同じ区間を走ったのもそうですが、何か一緒に走るタイミングが多い選手で、毎回少し負けて正直悔しいですし、(10000メートルで)27分30秒台を出して差が開いてしまったなと感じています。追いついていないのが現状で、やはり同期には絶対に負けたくないので確実に勝ちたいとは思っています。

――箱根前の集中練習のこなし具合はいかがでしょうか

 全体的に悪くないですし、多分花田さんもかなり手応えを感じていると思います。僕自身もチェコ遠征が終わってから継続して、満足のいく練習は詰めています。練習できていない不安というのはまずないです。あとはこれにプラスαでどれだけ自信がつけられるかというフェーズだと思うので、そこは自分のコンディションの見極めをしながら箱根駅伝に向けて合わせていければなと思います。

――箱根では過去2年5区での出走が続いていますが、今回も意識はされていますか

 まあ例年と同じようにあまり意識はないですね(笑)。今回も5区と言われたら、5区に行く準備をしますし、それ以外の区間と言われたら、分かりました平地ですねと動くので。5区にこだわったりとか逆に平地にこだわったりとかはなく自分にできることを確実にこなして、どの区間でもチームに貢献できる走りができたらいいかなと思います。例年と違って、それ以上にチームの結果にこだわりつつ、自分の結果にもこだわっていきたいです。どの区間になっても周りのライバルや先輩の選手に負けない走りを絶対にしたいなと思います。

――主力としてどのようは走りが求められますか

 一番はゲームチェンジャーのようなチームの流れを変えられる走りができたらというか、しなければいけないです。全日本も少しずつ流れが悪くなっていった中で、昨年の井川(龍人、令5スポ卒=現旭化成)さんのようにチームの流れを変えられる選手がいなくてチームの結果も良くなかったかなと思っています。なのでどこの区間に入ってもチームの流れが良ければそのままジャンプアップできるような走りをしたいですし、流れが悪ければ、そこでテコを入れるようなインパクトのある走りが求められると思いますし、僕自身としてもそこの走りにフォーカスしたいです。

――具体的な区間順位の目標はありますか

 どこの区間でも区間3番以内ではいきたいです。

――最後に箱根に向けて意気込みをお願いします

 過去2戦出雲、全日本ではチームとしてあまりいい結果ではなかったので、その結果を踏まえてチーム一丸となって、もう一度立て直して期待に応えられるような走りをしたいです。僕自信も、周りのライバルに負けないようなインパクトのある走りができればなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 廣野一眞)

◆伊藤大志(いとう・たいし)

2003(平15)年2月2日生まれ。172センチ。長野・佐久長聖高出身。スポーツ科学部3年。先日アウトレットのお店に行った際、長屋匡起選手(スポ1=長野・佐久長聖)と遭遇したという伊藤大志選手。近々お出かけをするという長屋選手にお似合いの服を選んでコーディネートしてあげたそうです!