中国・成都でおこなわれたワールドユニバーシティゲームズ(ユニバ)。早大からは、稲毛碧(スポ4=東京学館新潟)、菖蒲敦司(スポ4=山口・西京)、西裕大(教4=埼玉・栄東)、井上直紀(スポ2=群馬・高崎)の4人が出場。男子200メートルでは西裕が銀メダルを獲得し、稲毛とともにW入賞。男子3000メートル障害に出場した菖蒲も銅メダルに輝くなど、エンジが世界で躍動した。
早大から出場の短距離陣。左から、稲毛、井上、西裕
まず行われた男子100メートルには井上が出場した。優勝をはたした関東学生対校選手権(関カレ)後の故障から再起を期した今大会。予選で10秒66と、次のフェーズに駒を進めることはできず、悔しい結果となった。しかし、世界の舞台で戦うことを目標としている井上にとって、国際大会でのこの経験は大きな財産になったに違いない。続く男子200メートルには稲毛と西裕が出場。それぞれ危なげなく予選を通過すると、準決勝では、ともに圧巻の走りを見せた。1組に登場した西裕は、会心のレースだった。大前祐介監督(平17人卒=東京・本郷)と今季初めから目標としてきた、『前半からしっかりと(前に)行き、レースを支配すること』ができたという。最後は流しながらも、驚いたという20秒43のタイムでフィニッシュ。松本朗氏(令4スポ卒)と三浦励央奈氏(令5スポ卒)が樹立した、かねてからの目標タイム(20秒57)を越し、全体のトップタイムで決勝進出を決めた。三浦氏は、昨年ユニバ代表に選出されながらも、大会延期により出場が叶わず。そんな先輩の悔しさも晴らす、最高の恩返しだった。いっぽうの稲毛は、3組に登場。ユニバ代表に選出されながらも出場がかなわなかった前回大会の悔しさを晴らすべく挑んだ今大会。日本選手権後に追加招集の知らせを受け、コンディショニングの難しい中ではあったが、予選、準決勝ともに自己記録を更新した。準決勝のレースでは、後半に追い上げを見せると、早大歴代6位のタイムを樹立し、決勝進出を決めた。決勝では、登場の際には『W』ポーズも見せるなど、笑顔も見られた2選手。準決勝で記録したタイムから、注目選手としてアナウンスされていた西裕だったが、その反動でコーナーの局面において足が攣る(つる)アクシデントに見舞われる。その後、ホームストレートで執念の追い上げを見せたが、トップには届かず「1位の背中は近いようで遠かったです」(西裕)。それでも、大会前に目標としていた『表彰台にのること』を上回る銀メダルを獲得。表彰台では目に涙も浮かべ、喜びをあらわにした。
200メートル決勝の翌日からは、4×100メートルのレースが開幕。予選では、早大から3人の選手が出場した。予選のオーダーは1走から井上、稲毛、中村彰太(東洋大)、西裕。早大勢にとって慣れないアンダーハンドパスでのバトンワークとなったが、「感覚は悪くなかった」(西裕)。1走の井上が3位で稲毛にバトンを渡すと、その後もスムーズなバトンパスを見せたチームジャパン。4走の西裕が隣を走るタイに競り勝ち、2着でフィニッシュ。翌日行われる決勝に駒を進めた。決勝では、4連覇を見据え、1走を宮崎匠(中大)に変更し挑んだ。好スタートを切った宮崎からバトンを受け取った稲毛だったが、ここから優勝候補の地元・中国や南アフリカ、インレーンを走るポーランド等の猛烈な追い上げにあう。4走の西裕も、6チームで競り合うなかで懸命の追い上げを見せたが、5着でフィニッシュ。レースではミスのないバトンパスを見せ、予選から0・07秒タイムも縮めたものの、表彰台に届かず世界の強さを感じる結果に終わった。
関東学生対校選手権(関カレ)の決勝で、力強いガッツポーズをしフィニッシュする菖蒲
男子3000メートル障害には、駅伝主将の菖蒲が登場。予選では、決勝進出条件から逆算して、しっかりと自分のペースを守り切りフィニッシュ。決勝では戦前の予想どおりスローペースの展開に。ラスト勝負を見据え「ラスト1キロまでにスパートできる位置にいること」を意識していた菖蒲は、スタートから集団の前方に位置し、好機をうかがう。レースが進むにつれ人数も絞られた先頭集団のなかで、ラスト2周ごろでのスパート合戦にも反応すると、勝負はラスト1周に。このときの順位は6位。そこから、「(ラスト1周は)死に物狂いで動かした」(菖蒲)。ラスト200メートル手前で4位にポジションをあげると、さらにギアチェンジ。そこから、2〜4位に位置していた菖蒲の3人で熾烈(しれつ)なスパート合戦になる。最後の障害を超えたあともスパートをかけあう、心揺さぶる競り合いのなかフィニッシュ。8分40秒84のタイムで、見事32年ぶりの銅メダルに輝いた。昨年は、代表に選ばれながらも新型コロナウイルス感染症の影響で大会が開催されなかった悔しさを味わった菖蒲。念願の大舞台、優勝が見える場面もありながら届かなかった悔しさを感じたものの、目標としていた表彰台では銅メダルを首からかけ、晴れやかな笑顔を見せた。
2年延期となり、ようやく開催されたユニバ。日の丸を胸に戦い、大学スポーツの晴れ舞台で感じた充実感と悔しさ、そして日本では感じることのできない経験は、選手たちをより強くする。
(記事 戸祭華子)
結果
▽男子
▽100メートル
予選(8-2+8)
井上直紀(スポ2=群馬・高崎) 10秒66(ー1・2)(7組4着)
▽200メートル
予選(8-2+8)
稲毛碧(スポ4=東京学館新潟) 20秒84(+1・1)(5組2着) 準決勝進出
西裕大(教4=埼玉・栄東) 20秒85(ー0・1)(7組3着) 準決勝進出
準決勝(3-2+2)
西裕 20秒43(+0・9)(1組1着) 自己新 決勝進出
稲毛 20秒64(+1・1)(3組3着) 自己新 決勝進出
決勝
西裕 20秒46(+0・5)(2着)
稲毛 21秒10(+0・5)(8着)
▽男子4×100メートルリレー
予選(3-2+2)
日本
井上
-
稲毛
-中村-
西裕
38秒98(1組2着) 決勝進出
決勝
日本 宮崎匠(中大)-
稲毛
-中村-
西裕
38秒92(5着)
▽3000メートル障害
予選(2-7)
菖蒲敦司(スポ4=山口・西京) 9分04秒54(1組4着) 決勝進出
決勝
菖蒲 8分40秒84(3着)
コメント
西裕大(教4=埼玉・栄東)
――銀メダル獲得おめでとうございます。率直に結果についてどのように感じていますか
初めての世界大会でメダルを獲得できましたが、個人でもリレーでも勝ちきれなかったので嬉しさと悔しさが半々くらいです。それでも、今回の大会は人生で出た大会の中で1番楽しい大会でした。この大会は一生忘れないと思います。
――まず、個人種目についてお聞きします。今大会の調子はいかがでしたか
200メートルの予選の日(3日目)はあまり調子が良くなかったのですが、準決勝、決勝の日(4日目)は過去最高に調子が良かったです。5日目は疲労や身体の痛みはありましたが、身体はそれなりに動いていました。6日目は、あまりよくなかったです。午後にはどうにか落ち着いたのですが、自分の体調管理不足でチームに迷惑をかけてしまい、非常に情けないです。
――準決勝では最後流していたように見えました。準決勝の走りを振り返って
準決勝は過去最高のレースだったと思います。後半流した中でも20秒43というタイムには驚きました。大前監督と今年の初めから目標としてきた、『前半からしっかりと行き、レースを支配する』ことができたと思います。
――予選から修正したことは何かありましたか
予選では1レーンだったこともありますが、前半に余計な力を使ってしまい、結果的に後半も伸びていませんでした。そのため、準決では前半でしっかりと出力を出しながらも、力まず走ることを意識していました。
――タイムは、松本氏と三浦氏を上回ることになりました
本当にお世話になった先輩方なので、記録を抜くという形で恩返しができて嬉しいです。また、ユニバーシティゲームスは三浦さんが昨年選出されながらもコロナウイルスによる延期で出場が叶わなかった大会です。そのため、三浦さんの想いも背負って走っていたので、この大会で20秒43というタイムが出せて良かったです。
――決勝についてお聞きします。カーブを抜けるところで、3番くらいに見えたのですが、走りの感覚としてはいかがでしたか
1歩目に右のふくらはぎ、3歩目に左のふくらはぎ、コーナートップで右の内転筋を攣って(つって)いたので、走りとしてはボロボロでした。身体の調子は良かったので後半でどうにか2位になれましたが、1位の背中は近いようで遠かったです。
――レース全体の走りを振り返って
2本目で攣って(つって)しまうという、自分の弱さが出たと思います。余裕を持って準決勝で20秒4で走っていた南アフリカの選手(準決勝で)20秒4で走り、身体がガタガタになってしまった自分との差が決勝での差だったと思います。
――最後に、リレーについてお聞きします。チームとしての目標と、どれくらい達成できそうな感覚がありましたか
まず、チームとしての目標は4連覇でした。前回大会まで3連覇をしており、自分たちが絶対に途絶えさせてはいけないと思っていました。南アフリカや中国など、強い選手がそろっている国は多かったですが、自分たちがベストな走りをできれば、4連覇できると話していました。
――バトンの感覚としてはいかがでしたか
普段やらないアンダーハンドパスだったのですが、感覚は悪くなかったです。3走の中村(彰太、東洋大)がバトンも上手く、後半まで追うことができるのでバトンが渡らないという心配はあまりしていませんでした。
――予選のバトンパスで、出るタイミングいつもより遅めに見えたのですが、何か心がけたことはありましたか
アンダーハンドパスのため、普段よりは出るタイミングが遅めでした。また、予選ということもあり安全バトンを意識していました。
――予選の走りを振り返って
予選は南アフリカが明らかに前におり、横にいたタイに確実に勝てる走りをしました。南アフリカの4走の選手は9秒91のベストを持っている選手なのですが、リレーでは競り合ったら勝てそうだなと考えていました。
――決勝を振り返って
決勝はどの区間も勝負バトンをしようと話をしてレースに挑みました。バトンでは大きなミスはなく、純粋に力負けをしたという印象です。4走ならば抜かなければならない差だったのにもかかわらず、勝ち切ることができなかった自分が不甲斐なく、情けないです。
菖蒲敦司(スポ4=山口・西京)
――目標にしていた舞台が終わった今の率直な感想を聞かせてください
とても楽しい舞台でした。レースに関しては悔しさ半分、嬉しさ半分です。自分の実力を出し切った上で負けたので悔いは無いです。
――予選では、途中から余裕を持って走っているように見えました。レースプランは
もともと8人中7人が決勝にいけるという状況で、スタートするとすぐ7人になりました。走りきれば決勝だったので疲労を残さないように自分のペースで走りました。
――予選から決勝まで中1日空きましたが、決勝に向けてどのような調整をしたか
予選の時間が遅かったので次の日は昼までしっかり寝てました。練習は軽くジョグをして決勝はラスト勝負になると思っていたので強めに流しを入れました。その他はチームメイトと楽しく緊張をほぐしながら過ごしていました。
――決勝のレースプランは
調子がよければ引っ張ってラスト勝負にさせないようにしたかったのですが、教育実習やベルギー遠征で調子が上がりきらないことはわかっていたので、ラスト勝負になるだろうと思っていました。ラスト1キロまでにスパートできる位置にいることを心がけてました。
――その中で、実際のレースを振り返っていかがですか
予想通りスローペースになり、いつ仕掛けられてもいいように前に位置しました。ラスト1キロからペースが上がり、ラスト1周は死にものぐるいで動かしました。優勝もいけるのではないかと思う時もありましたが、障害が合わず置いてかれてしまいました。でも、海外選手とバチバチのラスト勝負が出来たのは楽しかったです。
――銅メダルという結果について
先程も書きましたが、悔しさ半分嬉しさ半分といった感じです。金メダルが欲しかったですが、最低の目標だった表彰台にのぼることができて安心しています。
――海外のレース特有の難しさはありましたか
海外選手は体も大きく、ハードルも飛び越えて飛ぶのでレース中少し怖かったです。足も沢山当たり転けるのではないかという心配もありました。終わった後も足が当たったとかなり文句を言われ、日本では中々ない経験が出来ました。
――最後に、今回の経験を今後にどうつなげていきたいですか
今回の経験から来年のオリンピックに出たいと思いがより強くなりました。必ず立てるように頑張りますので、今後とも引き続き応援よろしくお願い致します。